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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


ねこねこパニック!
●オープニング【0】
 目覚めると、猫になっていた。
 ……正確に言えば猫耳・猫手・猫尻尾状態に。
 おまけに大きさまで猫サイズ。
 何故それが分かったかというと、視界が完全に変わって天井が高くなっていたのと、目の前に猫耳・猫手・猫尻尾状態の瀬名雫と同じく草間零の姿があったからだ。
「大変だにゃ!」
 開口一番、雫が言った。ちょっと待て、語尾まで猫化してるぞ?
「あたしたち猫になっちゃったにゃ!」
 いや、それは見れば分かるのだが。
「ここ、2階建ての一戸建てのようですにゃん」
 ああ、零まで語尾が猫化してる……。
「でも、どうすれば元に戻れるのか分からないですにゃん」
 小首を傾げる零。とりあえず、何故こうなったかを考えてみることにする。そこから何か手がかりが見付かるかもしれないし。
「そうにゃ、猫といえばにゃ……」
 と、雫があることを思い出した。
 昨日草間興信所にノートパソコン持って遊びに行った時、1人で留守番していた零と一緒に猫写真のサイトを見たということを。
 雫がそのことを口にすると、その場に居た皆が昨日同じ経験をしていたことが判明した。ゴーストネットの掲示板に掲載されていたURLから……。
「あれが原因だったのかにゃ?」
 思案する雫。ともあれ、この現状をどうにかして打破しなければならないだろう。
 そんな一同の姿を、天井の隅にある防犯カメラが捉えていた――。

●集められた猫たち【1】
「零ちゃん。ここには何人居るみゃ?」
 猫耳シュライン・エマが零に尋ねる。先程の口振りからすると、一通り家の中を回ってきたように思えたからだ。
「6人ですにゃん。あっ……6匹ですかにゃん?」
 『匹』って言うな、零よ。
「そう、6人なのみゃ?」
 ぐるり周囲を見回すシュライン。零や雫の他、猫耳海原みあおや猫耳斎藤智恵子、そして猫耳ササキビ・クミノの姿があった。クミノのみ何故か部屋の端の方に居て、防犯カメラを何度となく見ていたが。
「見事に皆猫耳みゃ……猫耳に縁があるみゃ」
 と言って、ふうと小さな溜息を吐くシュライン。その理由を知る者はきっと少ないはずだ。
「にゃ〜っ、しまった〜っ!!」
 突然みあおが大声を上げた。皆の視線がたちまちみあおに集中する。
「これじゃあ、記念写真が撮れにゃ〜いっ!」
 記念写真かよっ!
 悠長なこと言ってる場合でもない気がするが、みあおにとっては大事なことであるらしい。
(ぜひともこの原因を究明して、デジカメを用意した状態で猫々な写真を撮らにゃいとっ!)
 そんなことを心に誓うみあお。だが口には出さない。口に出すと警戒されて面白くないじゃないか。まあ……それはそれで面白そうな気も若干しなくもない。
「……でもどうしてこんな所に居るのでしょうかみゃん……」
 困った表情を浮かべ、智恵子がゆっくりと部屋の中を見回した。普段であれば何てことない当たり前の風景なのだが、縮尺が変わるとこんなに世界が変わるものかと智恵子は感じていた。何しろ目の前に、巨大こたつがあるのだから。
「とっ、とにゃかく、この家を探検して、原因にゃり、人にゃりを探して、状況を把握しにゃいと!」
 ぐっとこぶしを握り締め、調査開始の宣言をするみあお。ところが、そんなみあおのそばをとことこ通り過ぎて、智恵子が巨大こたつの中へ潜り込んでしまったのである。
「にゃにしてるにゃ!? 探検するにゃ!」
 みあおが驚き、智恵子の方を振り返った。こたつからひょっこり顔を出している猫耳おさげ眼鏡っ娘の図、きっと一部の者たちにはシャッターチャンスなのではなかろうか。
「……写真撮れないにゃ〜っ!!」
 じたばたじたばたじたばた、地団駄を踏むみあお。ああ、こんな所に居ましたか、一部の人。
「ど、どうしてだか分からないのですけど、ふらふらと吸い寄せられるのですみゃん……」
 相変わらず困った表情の智恵子。けれども次第に、目がとろんとしてくる。
「……ぬくぬくですみゃん……」
 ばたんきゅう。智恵子はたちまち眠りに落ちてしまった!
「こ、これは罠みゃ……皆気を付けてみゃ」
 とか言いながら、シュラインももそもそとこたつへ潜り込んでしまう。
「ダメにゃ! 誘惑に負けちゃうにゃ!!」
 頭では分かっているのに、雫の身体もこたつの中へ。
「あっ! 雫さん、頑張るですにゃん!」
 零も雫を引っ張り出そうと試みたが……こたつの中へ入ってそのまんま。
「にゃ〜っ、こたつは猫が丸くなる大好物にゃ〜っ!」
 叫ぶみあお、まさしくその通り。こたつの中へふらふら入ってしまうのは、猫としての本能的なものなのである!
「おやすみにゃ〜……」
 もそもそ、こてん、ぐー。自分で言った通り、こたつで丸くなって眠るみあおであった。
「……こんなことで時間を費やしている場合ではにゃいんにゃが」
 唯一最後までこたつの誘惑に抵抗していたクミノ。やがてそのクミノも陥落してしまい、仲良くこたつの中へ潜り込むことになってしまったのであった。

●家捜しという名の探索【3】
 ぺし、ぺし、ぺし、ぺし、ぺし。
 こたつの中で丸くなって眠っていた一同は、頭への衝撃で目を覚ました。見れば何故かハリセンを手にしたクミノが立っている。
「いつまでも眠っている場合ではにゃい」
 クミノが手にしたハリセンで、他の5人を起こしてくれたようだ。他の5人はもそもそと名残惜しそうにこたつの中から這い出た。
「……これでしばらくこたつは大丈夫ですにゃん」
 零がぽつりつぶやく。こたつ分は今たっぷり吸収したのだ、それが切れるまでは動けるはずである。
 一同は手分けして家の中の探索を始めた。玄関・台所・子供部屋・寝室……などなど、行ける範囲の部屋を回ってみたのである。
 もちろん窓や玄関から外へ出られないかと試みてもみた。ところが、窓を開けて何も見えない外へ顔を出すと、開けている窓の外から自分の顔が出てくるという、非常に不可思議な光景が出来てしまったのである。完全に空間がねじ曲がっていたのだ。
「どこからも出られないようですみゃん……」
 がっくりと肩を落としたのは智恵子だ。外に出られて、パソコンのある所にでも辿り着ければ、件のサイトを調べることによって何か元に戻る手がかりが得られると思っていたのだが……出られないのでは、そうはいかない。
「あのサイトの猫写真、ここで撮ったんじゃないみたいみゃ。覚えてる限り、背景や構図が一致しないみゃ」
 これはシュラインの言葉。注意して調べてみたが、どうも違うようなのだ。
「ね、零ちゃん、怨霊使用出来そうみゃ?」
 シュラインが零に怨霊の使用を促してみる。試みる零だったが、出来上がった物は……何故か1足の猫スリッパだった。
「シュラインさん、どうしましょうにゃん?」
 困ってしまった零。猫スリッパでどうしろと、という話である。
「だが、これではっきりしたことがあるのではにゃいか」
 と言ったのはクミノである。可能性の1つが、家を探索してみたことによってはっきりしたのだ。
「これはある種の『夢』だろうにゃ」
 きっぱりと言い切るクミノ。それに真っ先に同意したのは何故か猫天使と化していたみあおだった。
「うんうん、共通の猫な夢と考えた方が妥当かにゃ〜。天井裏とか壁の隙間とか調べたけど、何もなかったしにゃ〜」
 ふよふよと背中の天使の翼で飛んでみるみあお。どうあろうが、ここに居る限りはベースは猫であるらしい。
「夢なら気配がまるでないのも理解出来るみゃ。猫の爪跡すらないみゃ」
 少し思案してから納得するシュライン。この状況を言い換えれば、誰も居ない所にぽんと一同が放り込まれた感じである訳だ。けれども『夢』かそれに類する空間であれば、それも説明が出来る。元々は存在しなかった空間であるのだから。
「夢は分かったにゃ。でも、どうすれば出られるにゃ?」
 雫が疑問の声を上げる。そうだ、どんな場所であるか分かっても、出られないことには話にならない。
 さて、どうしたものかと考え始める一同。これといった案も出てこず、時間だけが流れてゆく。その間に、シュラインは何気なく耳を澄ませてみた。
「…………?」
 突然驚きの表情を浮かべたシュラインは、ゆっくりと防犯カメラの方を振り向いた。驚きの表情が、徐々に確信の表情へと変わってゆく。
「ね、もう1度全部の部屋をじっくりと調べてみるみゃ?」
 シュラインはそう言って、皆を隣の部屋へ行くよう促した。
 とことこと移動を開始する一同。誰も居なくなったこたつのある部屋を、防犯カメラはずっと捉えていた……。

●怪しきは【4】
 しばらくして、こたつのある部屋に智恵子1人だけ戻ってきた。がっくりと肩を落とし、とぼとぼと1人だけで。
「……うみゃん……」
 そして防犯カメラに背を向けて、智恵子はしくしくと泣き始めた。そんな智恵子の姿を、防犯カメラはただ捉えている。
「喰らうにゃ〜っ!!」
 と、突然みあおの声がしたかと思うと、大量の粉が防犯カメラに向かってぶちまけられた。台所にあった塩にこしょうに、小麦粉などを混ぜ合わせた物である。その粉によって、防犯カメラの視界が遮られてしまう。
「零ちゃん、GOにゃっ!」
 雫が叫んだ次の瞬間、猫スリッパを握り締めた零が家具の上から大きく飛んだ――防犯カメラに向かって。
「にゃんっ!!」
 スパーンと零の猫スリッパが防犯カメラに叩き込まれた。たちまち落下する防犯カメラ。落下地点で待ち受けていたのは……クミノである。
「……よく化けたものにゃ」
 クミノは一言そうつぶやくと、手にしたハリセンで防犯カメラに一撃を与えた。
「みあおもやるにゃ〜っ!」
「あたしもにゃ!!」
 げしげしげしげし、みあおと雫も防犯カメラを叩いたり蹴ったりし始める。いわゆるたこ殴り状態だ。
「ん、もういいみゃ」
 シュラインが泣き続けている智恵子に声をかけた。すると智恵子はゆっくり振り向いてこう言った。
「うみゃん……とても悲しいお話でしたみゃん……涙が止まらないのですみゃん……」
 しくしくしく、未だ涙は止まらない智恵子。実はこの部屋に戻る前に、皆から悲しい話をあれこれと聞かされたからである。
 そうすることになったのは、皆で部屋を出てゆく前にシュラインがあることに気付いたからだった。それは防犯カメラの音。音がしていることに、ではない。していないことに気付いたからだ。
 ひょっとしたらこの防犯カメラが何か関係しているのではないかと思ったシュラインは、隣の部屋へ移動してから皆に考えを話したのであった。
 そして作戦を練った結果、智恵子が囮となって防犯カメラの注意を引き付けている間に、攻撃をするということが決まったのだ。智恵子に悲しい話を聞かせたのは、演技ではなく本当の涙を流させるためだった。涙もろい所のある智恵子にとっては、非常に適任であった。
 しばらくしてクミノたちが離れると、そこにはぼろぼろになって見る影もない防犯カメラの姿があった。次の瞬間、防犯カメラがまばゆい光を放ったかと思えば――目の前の光景は、自分のよく見覚えのある物に変わっていた。自分の部屋の天井がそこにあった。
 ゆっくりと上体を起こし部屋を見回してみるが、確かに自分の部屋である。ほっとして何事かつぶやこうとしたのだが……。
「にゃん」
 自分の口から出た言葉にびっくり仰天。そのまままた、横になって眠ることにしたのだった。
 翌朝目覚めてすぐに言葉を発してみたが、今度は普通に言葉が出て一安心。あれが夢だったのか何だったのか正確にはよく分からないが、1つだけ確実に言えることがあった。
 件の猫写真サイト、ゴーストネットの掲示板には書き込みが消えており、ブラウザの履歴を辿って訪れてみてもサーバが見当たらなくなっていたのである。一同の心に謎を残したまま。

【ねこねこパニック! 了】


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 整理番号 / PC名(読み) 
                   / 性別 / 年齢 / 職業 】
【 0086 / シュライン・エマ(しゅらいん・えま)
     / 女 / 26 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員 】
【 1166 / ササキビ・クミノ(ささきび・くみの)
   / 女 / 13 / 殺し屋じゃない、殺し屋では断じてない。 】
【 1415 / 海原・みあお(うなばら・みあお)
                   / 女 / 6? / 小学生 】
【 4567 / 斎藤・智恵子(さいとう・ちえこ)
                   / 女 / 16 / 高校生 】


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■         ライター通信          ■
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・『東京怪談ウェブゲーム』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・なお、本依頼の文章は(オープニングを除き)全4場面で構成されています。他の参加者の方の文章に目を通す機会がありましたら、本依頼の全体像がより見えてくるかもしれません。
・今回の参加者一覧は整理番号順で固定しています。
・時折ちょっとどこか風変わりなお話を書きたくなる高原ですが、そんなお話の1つをお届けいたします。お約束もありの猫々空間でしたが、いかがでしたでしょうか?
・結局あれが何だったのかよく分からなかったかと思いますが、たまにはそういうこともありますよね。この世界、得体の知れない物はまだまだいくらでもあるのですから……。
・シュライン・エマさん、102度目のご参加ありがとうございます。機械音に着目したのはさすがだと思いました。気付いてないと、もっと時間がかかっていたかと思います。
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。きちんと目を通させていただき、今後の参考といたしますので。
・それでは、また別の依頼でお会いできることを願って。