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<東京怪談・PCゲームノベル>


All seasons 【 追いかけっこ☆パラダイス 】



◇ 夢幻館 ◇


 なんとなく・・・そう、なんとなく・・・ふらふらと町をさ迷い歩いていた。
 気づけば周りは知らない風景で、気づけば現在位置把握不可能な状況で―――まぁ、いっか。いつかは着くよね。
 いたって呑気な様子で、比嘉耶 棗はのんびりと町を散策していた。
 ・・・散策と言うか、徘徊と言うか・・・見知らぬ光景は、なんとなく棗の好奇心をくすぐる。
 知らないお家、知らない空気、知らない―――ふっと、目の前に大きなお屋敷が見えた。
 どこか不思議な雰囲気の屋敷の方へと歩を進め、大きく開け放たれた門から中を覗き込む。
 真っ白な道の先には両開きの大きな扉。道の両脇には色取り取りの花が咲き乱れ、良い香りを発している。
 どれもこれも、季節を違えて咲く花ばかり。
 まさか冬に大輪のヒマワリを見る事になろうとは・・・。
 棗はまるで何かに導かれるかのように、ふらふらと門から中へと入って行った。
 ヒマワリの黄色が過ぎればチューリップの赤、それが過ぎればコスモスが淡い色で咲いている。
 なんだか、とても不思議な空間だった。
 花の香りはむせ返るように強いが・・・それでも、どこか心地良い香りだった。
 全ての香りが混じっているにも拘らず、決して不快な香りにはならない。
 ふらり ―――――――― 棗は両開きの扉の前まで来ていた。
 豪華な装飾が施された扉は、一目で分かるほどに高そうだ。
 どうしようか・・・ボンヤリと考えていると、突然背後からタッタと言う足音が聞こえ、振り向く前に棗に何かが飛びついて来た。
 「お客さん〜〜〜???」
 驚いて振り向く先、茶色と言うよりはピンク色に近い髪をした小さな少女。
 背は棗よりも15cm以上違う・・・と言う事は、厚底ブーツを脱いでもまだ棗の方が高い。
 小学生くらいだろうか??
 少女が顔を上げ、にっこりと・・・可愛らしい笑顔を浮かべる。
 「あたしねぇ、片桐 もな(かたぎり・もな)って言うのぉ〜!貴方は??お客さん??」
 頭の高い位置で結ばれたツインテールが、少女が何か言葉を紡ぐ度にゆらゆらと揺れる。
 「えっと・・・お客さんって言うのかな?」
 「んー・・・誰かに用があるならお客さん?」
 小首を傾げながら、元々大きな瞳を更に大きくして語尾に疑問符をつける。
 「誰かに用があって来たんじゃなく・・・なんだろう。・・・なんとなく・・・」
 「うん。そっかぁ。それじゃぁお客さんだ☆」
 棗の話を聞いていたのかと尋ねたくなるほどにあっさりとそう言って、もなが微笑んだ。
 「あ、そうだ。私は比嘉耶 棗って言います。」
 「うんうん、棗ちゃんねぇ〜♪あたしの事は、もなって呼んでねぇ☆」
 そう言ってから、もながやっと棗の身体を放す。
 「あたしね、今丁度暇だったのぉ。棗ちゃんは暇ぁ??」
 「うん、暇・・・かな?道に迷っちゃって・・・。」
 「あ、あたしも良くやるっ!それで、いつの間にか寝ちゃってるんだよね!」
 「・・・寝はしないんだけど・・・。」
 道に迷っているのに堂々と知らない場所で寝る勇気は、残念ながら棗にはない。
 勿論、棗以外の者にもないだろう。・・・なんだか特殊な少女だ。
 「それじゃぁさ、一緒に遊ぼうよっ!あ・・・ここね、夢幻館(むげんかん)って言うの!色んな人が住んでるんだけど・・・今はあたし以外にはいない・・・かな?んー・・・よくわかんないけど・・・。」
 「こんなに大きいもんね。」
 「そうそう!すーーーっごいいっぱい扉があってね、全部の扉を知ってるのはここの支配人の奏都ちゃんだけなのっ!」
 「・・・そんなに沢山部屋があるの?」
 「うん!学校とか、ライブハウスとか、色々あるよぉ☆」
 ・・・・・・なんだか今、途方もなくおかしな単語を聞いた気がしたが・・・。
 学校・・・?なんで館の中に学校なんて・・・??
 「とりあえず、中に入って遊ぼう〜!」
 もながそう言って両開きの扉を押し開けた。
 開く扉の先、敷かれた絨毯の色があまりにも赤くて・・・棗は思わず目を瞑った。


◆ 追いかけっこ ◆


 両開きの扉を入れば直ぐ目の前に階上へと続く階段が見え、右手にはホールへと続く扉。左手は奥へと伸びる廊下が続いている。その廊下の両側には、まったく同じ扉が等間隔に並んでおり、あまりにも無表情なその空間はやけに恐ろしかった。
 「レッツたぁ〜んけぇ〜ん☆」
 間延びした声でもながそう言って、棗の腕をグイグイ引っ張る。
 2階へと続く階段を上がり―――そこに並んでいたのは扉扉扉扉・・・・・・・
 まったく同じ扉がずらりと左右に並んでいる。
 「すごっ・・・」
 「ねーっ!全然使ってない部屋ばっかりなんだよぉ〜。」
 「そうだろうね。」
 棗はコクンと1つだけ頷き・・・あぁと、声を上げた。
 そう言えば“良いもの”を持っていたんだっけ。
 ごそごそとバッグの中を探り、中から取り出したのは小さな袋に入ったチョコだった。
 様々な形をしたチョコを掴み、もなに声をかける。
 「あげる。」
 「・・・ふえ?チョコぉ??」
 「そう。・・・嫌い?」
 「んーん!あたし、甘いものは大好きなのぉ☆だからねぇ、チョコも、大好きなのぉっ♪」
 幸せそうな顔でもながニッコリと微笑む。
 ・・・そんなに幸せそうな顔をされると、なんだか嬉しい・・・。
 流石チョコ。
 棗はそう思うと、袋から1つだけ取り出して口の中に放り込んだ。
 甘い・・・チョコ独特の味。
 ふわりと広がるそれは、心地良い幸せを運んで来てくれる。
 「美味しいねぇ〜☆」
 「うん。」
 それじゃぁいこっかぁ〜!ともなが言い、棗もその後に続く。
 歩いたり走ったりするもなに付き合いながら、キョロキョロと不思議な館の中に視線を向ける。
 もなは“本当に”夢幻館探検がしたかったらしく、その行き先は知れない。
 ただめちゃくちゃに廊下を進み、階段を上り、偶に扉の中に入ったりもした。
 扉は時に部屋の中に繋がり、時に見知らぬ街中に繋がり、時に夢幻館の廊下を横切る形で繋がっていた。
 全ての扉にはなんの繋がりもなく、真っ白な部屋に繋がる扉の隣の扉は夢幻館のホールへと繋がっていたりもした。
 「ここの扉はね、明確にどこに繋がってるって言うのはあんまりないの。」
 「そうなの?」
 「うん!幾つかの扉は、ちゃんと繋がってるんだけど・・・他の大部分の扉は“繋がってない”の。」
 悪戯っぽい笑顔でそう言って、もながツインテールをブンとスイングさせた。
 「何処と何処とを繋ぐ扉なんじゃなくて・・・“繋がるために扉が必要だった”ってだけなの。」
 なんだか難しい―――
 空間と空間を繋ぐための扉。それは、ただ1つの空間を仕切るだけの存在。
 けれど、この館にある扉は違う。
 空間と空間があって、それは別々の存在で・・・それを繋ぎ合わせる為に、扉が必要だった。
 だからこそ、この館にある大部分の扉は明確に“繋がっていない”のだ。
 扉を開ければ公園だったり、図書館だったり―――今日はある扉は学校に繋がっていたかも知れない。けれど、明日になればその扉がどこに繋がっているのかは分からない。もしかしたら、まだ学校に繋がっているのかも知れないし、全然別の場所に繋がっているのかも知れない。夢幻館にある扉の存在目的は“仕切り”ではなく“接続”なのだから・・・・・。
 既に自分達のいる場所の分からなくなってしまった2人は、手当たり次第に扉を開けてはグチャグチャに館の中を進んでいた。
 いったい何階階段を上がったのだろうか・・・?そして、何階階段を下りたのだろうか・・・?
 廊下を右に曲がり、左に曲がり、上に行って下に行って―――もしかして、このまま館の中で遭難してしまうのではないだろうか。
 棗の脳裏にそんな一抹の不安が過ぎるが、チラリと見る隣ではいたって上機嫌なもなが、よくわけのわからない歌を歌いながらスキップ交じりで歩いている。
 どうやらそんな心配をしているのは棗だけのようだ。
 例えもなに「大丈夫かな?」と訊いたところで「なんとかなるよぉ〜♪」と返されるのがオチだろう。
 なんとなく・・・この“もな”と言う少女の性格はわかって来ていた。
 棗が持参したチョコを食べつつ歩き・・・もし遭難したら、食料ってチョコだけだなと思ったり・・・。
 チョコを持って来て良かったと心底思ってきた頃、ふと目の前に人の姿があった。
 廊下の端の方、1つの扉の前で佇む青年。
 身長は高く、端正な顔立ちは綺麗だ。一見すると女性に見えない事もない。
 「あ、魅琴ちゃんだぁ〜!!」
 もながそう叫んで、パタパタと青年の方へと走り寄る。
 酷く深刻そうな顔をしながら振り返った青年の表情が、途端に崩れる。
 「お前っ・・・なんでこんな所にいるんだよっ!」
 走って来たもなを抱き上げると、盛大な溜息をつく。
 「んっとねぇ、探検してたぁ。」
 「探検って・・・随分命がけじゃねぇか・・・。」
 はぁぁぁっと、肺に溜まった空気を全て出し切ってしまうかと思うほどの勢いで、頭を抱えながら溜息をつき・・・ふと、その視線が棗をとらえた。
 「・・・・・・・友達か?」
 「うん!あのね、比嘉耶 棗ちゃんって言うのぉ☆それで、こっちが神崎 魅琴(かんざき・みこと)ちゃん♪」
 もながそう言って、棗に魅琴を紹介する。
 「初めまして。」
 ペコンと頭を下げると、魅琴がその頭を柔らかく撫ぜ―――ニィっと、口の端を上げた。
 「おぉ、可愛いじゃねぇ・・・」
 「あのね、棗ちゃん。魅琴ちゃんはこんな綺麗な顔してるけど、可愛い子とか綺麗な子とか大好きな変態さんだから、近づいて来られたら全速力で逃げてね?その際、正当防衛として鳩尾に蹴りを入れる事とロケランで吹っ飛ばす事は法律で認められてるから。」
 魅琴の言葉を遮って、もながそう言い・・・魅琴が天井を仰いだ。
 「うおぉぉいっ!!最後のは過剰防衛だっ!っつーか、なんで法律で認められてんだよ!俺はそんなにメジャーな存在なのか!?」
 「メジャーなんじゃなく、要注意人物としてマークされてるだけだよ。」
 サラリと言ったもなの後頭部をベシリと叩く。
 いったぁ〜い!!と、もなが涙目で訴えて、バタバタと魅琴の腕の中でもがく。
 落ちるだろ!と魅琴が怒鳴りながら、もなを床へと下ろし・・・もながバタバタと棗の背後に隠れた。
 「棗ちゃん!勝負よっ!」
 「・・・私と??」
 「ちっがぁーーーうっ!!あたしと棗ちゃんがチーム!んで、勝負!魅琴ちゃんっ!」
 「おぉぉぉいっ!!!チーム戦のわりに、俺に助っ人はいねぇじゃねぇかっ!」
 「魅琴ちゃんは1人チームっ!」
 「1人じゃチームっつわねぇーんだよっ!!」
 棗を挟んでの口喧嘩なだけに、挟まれた棗はたまったものではない。
 両サイドからの大音量の攻撃に、今にも視界が眩みそうだ・・・・・・・・。
 「とにかく、みんなで遊ぼう!ね??」
 もなが棗の腕をグイっと引っ張り、にっこりと幼い笑顔を向ける。
 なんだか断れない笑顔に、棗は思わず「そうだね」と言ってコクリと頷いていた。
 「魅琴ちゃんが鬼ねっ!」
 「・・・あのなぁ、急に鬼とか言うなっ!!節分じゃねぇんだから、鬼っつわれてもピンと来な・・・」
 「追いかけっこ☆」
 もなの言葉に、魅琴がニヤリと口の端を上げた。
 明らかに凶悪なその笑顔に、棗のみならずもなまでも顔色が変わり―――
 「へぇ。俺が鬼っつー事は、お前らを捕まえても良いわけだ。」
 ふぅーんと、いたって冷たい声を洩らす。
 「ヤバっ・・・」
 もなが焦りを含んだ声を発し・・・ガシっと棗の腕を掴んだ。
 「10数えるまで動いちゃ駄目っ!!棗ちゃん!早く逃げるよっ!!!!」
 もながタっと走り出し、棗もそれにつられて走り出す。
 「魅琴ちゃんは変態さんだから、捕まったら・・・」
 その先は、もなは言わないし棗だって聞きたくない。
 一直線に続く夢幻館の廊下を全速力で走る・・・「そう言えば、あの部屋に武器が隠してあったっけ・・・」と、もなが呟き―――追いかけっこに武器は必要だっただろうかと、棗はしばし考えを巡らせたが、残念ながら棗の思い出のアルバム内にはそんな凶暴な遊びをしたと言う1ページは含まれていない。
 「5・・・・・6・・・・・・」
 魅琴の声がかすかに聞こえてくる。
 もしも魅琴が走って来たならば・・・いくらそれなりに距離があるとは言え、簡単に捕まってしまうだろう。
 なにせ2人とは身長が全然違う。足の長さ・・・つまり、1歩の距離は2人よりもはるかにある。
 「9・・・・・10・・・・・!!」
 10まで聞く事無く、もなと棗は廊下を右に折れた。
 とりあえず、2番目の扉に入り―――そこは見知らぬ廊下へと繋がっていた。
 「そう!この先の扉を入れば武器があるから、それで敵をやっつけられる!」
 もながそう叫び、廊下の突き当たりにある扉を開けた。
 倉庫のような、陰鬱な空気の漂うそこには・・・ショーケースに並べられた、マシンガン、ハンドガン、火炎放射器、などなど。
 どこの武器庫だと、声を大にして叫びたくなるようなその空間に・・・棗はちょっぴりときめいた。
 「凄い・・・!」
 「でしょ?まぁ、これはほーーーんの一部なんだけどね。まぁ、いーや。棗ちゃん、はい。ハンドガンと手榴弾。」
 コロンと手渡されたのは、丁度棗の掌サイズのハンドガン1丁と、小さな手榴弾5個だ。
 もなは何を装備するのだろうと見詰めていると・・・壁に立てかけられたやけに大きなガラス扉をパリンと割った。
 そこから取り出すのは・・・もし、棗の記憶違いでなければロケットランチャーだ。
 そんな大きいものをもなが持てるはずないと思った瞬間、もながひょいとそれを肩に担いだ。
 小さな身体に不釣合いなほどに大きな武器―――。
 「さぁっ!敵を迎え撃とうっ!!」
 ・・・いつから追いかけっこが戦争ゲームに発展したのかと、この小さな少女の胸倉を捕まえて前後にシェイクしながら訊きたい・・・のは魅琴だけで、棗は正直段々面白くなって来ていた。
 武器を持っての追いかけっこ・・・そう、棗は“思っていなかった”のだ。
 この武器が――――――
 ダンっ!と、豪快な音を立てて扉が開き、そこには仁王立ちをした魅琴の姿があった。
 その瞳はすでに『見ぃつけたぁ』とでも言うかのように輝いており、勝ち誇ったかのようなオーラは自信に溢れている。
 「おぉい、クソチビ。これで俺の・・・・・・・・」
 「応戦用意っ!!撃てっ!!」
 もなの声で、棗が安全装置を外し、引き金を引いた。
 ・・・パァンと・・・乾いた音が響き、鼻につくのは火薬の臭い。
 見れば魅琴のすぐ真横の柱に丸い穴が開いており・・・・・・・・
 「え!?これ、実弾なの?!」
 「玩具でどうするのっ!」
 どうするもこうするも、これは銃刀法違反ではないのだろうか・・・!?
 てっきりエアガンか何かかと思っていた棗は、突然飛び出た実弾に思わず面食らってしまった。
 と言うか、魅琴に当たらなくて良かったと切に思う。
 ・・・流石に殺人は駄目だ。殺人は・・・。
 「それにしても魅琴ちゃん・・・流石悪運が強いねっ・・・!こうなれば、あたしも必殺☆」
 カションと、ロケランを魅琴の方に向ける。
 それを見て、魅琴が慌てて廊下の方へと走って行き―――棗は反射的に耳を押さえた。
 爆音と、凄まじい衝撃・・・目の前にあった扉は跡形もなく消し去られていた。
 「も・・・もな・・・ちゃん・・・??」
 「なぁに驚いたような顔してるのっ!大丈夫☆魅琴ちゃんは死なないから♪」
 どこにそんな確証があるのだろうか!?
 例え魅琴がサイボーグだとしても、ロケランで吹っ飛ばされれば流石に駄目だろう。
 「や、でも・・・」
 「ここは特殊だから、大丈夫なの。魅琴ちゃんも、死なないったら死なない☆」
 にっこりと、力強い瞳で言われると・・・不思議となんだかそんなような気がしてくる。
 死なないのなら、少しくらいはじけても大丈夫・・・かな?
 棗はそう思うと、すちゃっとハンドガンを構えた。
 逃走した魅琴の後を追うべく、もなと共に駆け出し―――――
 いつの間にか、鬼が交代していた事は言うまでもない。


◇ そして・・・ ◇


 チュドーン、ズガーン、パーン、ガラガラガラ・・・・
 夢幻館の中はそんな効果音でいっぱいだった。
 めちゃめちゃに壊された館の中、どう考えても戦争をしているとしか思えないような音。
 時折パラララと、マシンガンの音が響き・・・更にはロケットランチャーの爆音も響く。
 これは全て“追いかけっこ”と言う“遊び”をしているのであり、誰も戦争ごっこをしているわけではない。
 ・・・例えハタ目に見れば惨劇の1歩手前の状況であろうと・・・当人達にそんな気はさらさらない。
 「きゃはっ!魅琴ちゃん!!待てぇぇぇぇぇっ!!!」
 「バーローっ!!ロケラン向けられてノコノコ立ち止まるようなアホがどこにいる!」
 「魅琴さんは死なないから大丈夫。」
 「くぉら棗っ!!そのちんちくりんのクソチビに侵されやがって!!俺だって死ぬ時は・・・」
 ズガーンと、もなの持っていたロケランが火を噴く。
 魅琴が何とか右手に走り、それをやり過ごして・・・先ほどからこんな場面の繰り返しだった。
 基本的に反射神経と運動能力が凄まじい魅琴は、もなや棗が放った銃弾に当たる事はない。
 基本的な体力もあるためか、先ほどから軽口を叩きながら全力疾走するさまは、ある意味尊敬の域に達している。
 隣を走るもなも、息は微塵も乱れておらず、それどころか笑ったりしゃべったりを繰り返している。
 ・・・凄い・・・と、思う。
 段々と疲れてきた棗は、もはや走りながらしゃべるなんて出来るはずもなく、ただ一生懸命もな達の後に続いて走っていた。
 壁には無数の穴が開いており、綺麗に敷かれた赤絨毯の上には真っ白な壁の破片が落ちている。
 窓の方を見れば、ガラスが粉々に砕け散っており・・・
 まさに惨劇。まさに地獄絵図。
 それなのに、にこにこと微笑みながら爆走するもなは―――
 言いようによっては戦場の悪魔そのものだ・・・・・。
 息があがる・・・。魅琴やもなとは違い“人としての体力”を持っている棗には、そろそろ限界が見えて来ていた。
 もう、止まってしまおうか・・・そう思い始めた時だった。
 突然目の前を走っていた魅琴が急ブレーキをかけて立ち止まった。
 「か・・・奏都!?」
 魅琴の前、悠然と立ち尽くす1人の青年の姿。
 外見年齢は17,8ほどで、どこか穏やかな雰囲気を纏ったその青年は・・・にっこりと、世にも恐ろしい笑顔を魅琴に向けていた。
 「 こ れ は  何 の 騒 ぎ で  す ? 」
 「俺じゃなく、もなとなつ・・・」
 「魅琴ちゃんが追っかけてきたから、身の危険を感じて!」
 魅琴の言葉を遮って、もながそう言った。
 ・・・あながち間違ってもいない発言ではあるが・・・そもそも、最初に追いかけっこをしようと言い出したのはもなだ。
 どうやらもなは全責任を魅琴に押し付けてしまう気らしい。
 「 へ ぇ ・ ・ ・  」
 にっこりと、穏やかに微笑む青年。
 ―――凄く怒っているのが、全身から発せられる尋常ではないオーラでわかる。
 棗はとりあえず、事の成り行きを黙って見守る事にした。
 「こんなに館をめちゃめちゃにして・・・お客さんまで巻き込んで・・・」
 「俺のせいなのかっ!?」
 「 貴 方 の せ い で しょ う ? 」
 有無を言わせぬ笑みに、魅琴が「うっ」と小さく詰まる。
 すたすたと、魅琴をその場に残し、青年がこちらに歩み寄り・・・ふわりと、今度は純粋に柔らかい笑顔を棗に向ける。
 「初めまして、俺は沖坂 奏都(おきさか・かなと)と申します。この度は、随分とふざけた事に巻き込んでしまい、大変申し訳御座いませんでした。彼には、俺から よ く 言 っ て お き ま す の で 。」
 にっこり。 
 最後の笑みは黒い。
 既に諦めモードの魅琴が、その場にペシャリと座り込むのが視界の端に映る。
 「奏都ちゃんはね、ここの支配人さんで・・・あ、そうだ。この子は比嘉耶 棗ちゃんって言うのっ!あたしのお友達☆」
 「そうですか。棗さん・・・どこかお怪我は御座いませんか?」
 大丈夫だと言うように頭を振った後で、棗は魅琴の方にたっと走りよった。
 ペシャリと力なく座る魅琴の前にしゃがみ込み、ズイっと右手を差し出す。
 「あ?」
 疲れきった表情で魅琴が小首を傾げ・・・
 「五円チョコ、あげる。」
 「・・・なんで・・・」
 「ちょっと悪いかなって、思ったから・・・お詫びに。」
 詫びが5円かよっ!と、突っ込み、それでも・・・ふわりと柔らかい笑顔を棗に向ける。
 「さんきゅ。」
 そっとチョコを受け取り、棗の頭を優しく撫ぜ―――
 「あぁぁぁぁぁっ!!!!棗ちゃんがっ!!!!!」
 「 魅 琴 さ ん ?」
 「だぁぁぁっ!他意はねぇっ!!」
 そんな主張が奏都に受け入れられるはずもなく、ほどなく魅琴は首根っこを掴まれながらズルズルと奏都にどこかへと引きずられて行ってしまった。
 その背中を見送りながら、棗はそっと両掌を合わせた。



     ―――――― 合掌 ・・・・・・・・・





          ≪END≫


 
 ◇★◇★◇★  登場人物  ★◇★◇★◇

 【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】


  6001/比嘉耶 棗/女性/18歳/気まぐれ人形作製者


  NPC/片桐 もな/女性/16歳/現実世界の案内人兼ガンナー
  NPC/神崎 魅琴/男性/19歳/夢幻館の雇われボディーガード
  NPC/沖坂 奏都/男性/23歳/夢幻館の支配人

 
 ◆☆◆☆◆☆  ライター通信  ☆◆☆◆☆◆

 この度は『All seasons』にご参加いただきましてまことに有難う御座いました。
 そして、いつもいつもお世話になっております。(ペコリ)
 ロケランを持ったもなと追いかけっこ・・・そして最後は魅琴のせいにして・・・なんて素敵なっ!と、思いました☆
 きっとあの後、奏都にこっ酷く叱られた後で、館の中を元通りにしてくださいねと言われたのでしょう・・・。
 棗様ともなと魅琴・・・ある意味最強の3人だなぁと思いました(笑)


  それでは、またどこかでお逢いいたしました時はよろしくお願いいたします。