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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


■雛の泣く声■

「んー、歩く雛人形ねえ」
 草間武彦は、些か乱暴に新聞紙をデスクの上に投げ出した。
 目の下にはくまが出来、彼が睡眠不足であることを物語っていた。
 実は数日前、彼のもとにトラックの運転手が何人かまとまって依頼をしに来たのである。
『夜中に限って道路に人影が前を横切るんです。で、慌ててハンドルを切ってブレーキを踏むと泣き声が聞こえてくるんですわ。今に実際事故が起きます。なんとかしてください』
 内容は、こういうものだったのだが、本当に事故になり、昨日の朝からテレビでも新聞でも報道しっぱなしなのだ。
 武彦も思いつく限りの情報網から手がかりをと手を尽くしたが、これといったものも掴めない。
 なにしろ、事故にあって重体になったその運転手のトラックの後輪に、雛人形が挟まれていて、それが事故のもとではないかということと、意識が混濁しながらも運転手が喋ったことが「雛人形が歩いてた」なのだから、もっぱら怪奇事件として取り上げられていた。
「友達の学校でも、噂になってるみたいです」
 零が、朝ごはんを作りながら武彦に言う。
「歩く雛人形を見ると、事故に遭うって」
「ふうん」
 気のない返事をしてから、ん?と思う。
 聞いたところ、人影は小さな女の子程度のもの。雛人形ならばもっと小さなはずだ。
 一体どういうことなのだ?
「……力を借りるか」
 武彦は自分ひとりではお手上げだと判断し、顔見知りの者達に連絡を取り始めた。



■天の涙■

 あそぼう
 ずっとずうっと・このぼくたちのてんごくで
 ぼくはずっといっしょだから
 しぬんじゃないよ
 しぬんじゃ・ない・よ───



 聴覚が一般人より発達しているシュライン・エマは、興信所の扉が開くより先にこちらから開けてあげた。
「お帰りなさい」
 にっこり出迎えられた彼女の大事な恋人であり婚約者でもある興信所の主、草間武彦もそれに驚きはしない。
「ああ……ただいま」
 だが、その微笑みはいつもより疲れて見えた。
 連日の調査で疲れていたところへ、仲間達が来てくれてホッとしたこともあるのだろう。
「おかえりなさい、……草間さん……! えぇっと……調査のほう、どう……だった?」
 シュラインが作っておいたお茶菓子と共にお茶をお盆に乗せて運んできながら、九竜啓(くりゅう あきら)が尋ねる。最初は「歩く雛人形」に対して多少恐がってはいたが、「泣き声が何なのかはわからない……けど、哀しいままは……イヤだから……力になってあげたい……なぁ」と落ち着いたのだった。
「零の言う友達って子とその学校の子達や関連者に聞き込みしてきたけど、そっちのほうは単に噂だけみたいだ」
「そうですか」
 兄の上着をとってあげながら、零は安堵のため息をつく。
「シュラインや羽角達のほうは?」
 逆に尋ねられ、シュラインは「うぅん」と難しい顔をした。
「今のところ私は気にかかった点を重視して調査したけれど、ネット上にも噂はないし、いつも『人影』が現れていたのは特定位置だというところからそこで事故にあった少女とかいないか新聞等で確認もしたけれど、手がかりはないわ。ただ、まだ気にかかることはあるからそれはこれから、だけれど」
「あ、羽角クンも初瀬クンも加藤サンも、まだ帰ってこない……けど、だいぶ経つからそろそろ帰ってくる……んじゃないか……なぁ」
 啓の言葉に、武彦はソファに身を深く沈めて頷く。
「少し寝たほうがいいと思いますよ? 大事な時に頭が働かないと色々と影響を及ぼしますし」
 武彦のパソコンを許可を得て借りていたセレスティ・カーニンガムが、作業の手を止めずに微笑む。
 彼もまた、シュラインのように以前事故があったのではと探していたが、そうではないと分かったため今は別の方向から調査していた。
(雛人形や人形というのは近くに置いておけば、代わりになって守ってくれると聞きますし……そう思ったんですが、ね)
 もしかしたら「会いたい人」がいるのでは、と思うのだ。雛人形はその少女の物で、時期的にも雛人形は節句の一ヶ月位前から飾るという。「少女」の血縁関係のある人物───母親や父親───が雛人形に少女の事をこめて思っているのを、未だに成仏できていないのかもと思い、今はそちらの線で調べていた。もっとも最終手段的なことも考えてはいたのだが。
 パソコンのモニターにシュライン、啓と共に目を走らせている間に零が食事の準備をしたり武彦が仮眠をとったりしている間に、羽角悠宇(はすみ ゆう)と初瀬日和(はつせ ひより)、加藤忍(かとう しのぶ)が戻ってきた。
 三人ともそれぞれに別の思惑で動いていたのだが、最終的に「同じ家」に辿り着いていた。
 その報告は、セレスティがようやく探し当てた記事をプリントアウトしたあとに、シュラインが武彦を優しく起こし、零の作った昼食を食べながら行われた。

うららかな春も感じさせる、珍しくあたたかな休日だった。



「人形ってのは人の姿をなぞってるから、人の魂やなんかが入り込みやすいものなのかもしれない。雛人形に入り込んだのは、雛祭りをできずになくなった子供……女の子の魂とか、じゃないのかって思ったんだ」
 まず報告するのは、ご飯を綺麗に食べ終えた悠宇である。
「例えば病気だったその子が、元気になって友達と一緒に雛祭りをしようって約束を果たせずに亡くなって、その約束のために人形の中に入り込んでこの世に留まっている、とかって事かも。それも、気づいてほしくてその友達の家の人形に入り込んでるとか。
 で、車にひかれた人形……どこの家のものだったんだろう?って考えて、事故現場の近隣に、雛人形が一体だけなくなった家とかないかどうか足で探してみた」
「私は、事故を起こしたトラックの車輪に挟まっていたという雛人形を調べてみました。草間さんの言ったとおりに、紹介してもらっていた警察の方に連絡したら内緒で教えてくれましたから、それができました。ありがとうございます」
 ついで、悠宇とはツーカーである日和が悠宇の視線を受けて、まずそうやって可憐に武彦に頭を下げた。「続けてくれ」と煙草に火をつける武彦に、頷く。
「大量生産品でも顔の部分など通常の人形以上に手がかかっているものです、作り手さんがどなたかわかるかもしれませんし、そこからこの雛人形の持ち主と、そのいきさつに近づけるかもしれませんから、と……手間はかかりましたが、一軒のお家に辿り着きました。そこで悠宇とばったり会ったんです」
「悠宇くんの言う『雛人形が欠けているお宅があれば───』というのは、私の推測とも合致したのよね」
 シュラインの確認に、悠宇はうなずいた。
「まさかホントに日和の探してる雛人形の家と同じ場所に辿り着くとは思わなかったからびっくりしたよ。その場所ってのはトラックがよく通る、わりと広い道路の脇にある家で───ちょっと複雑な事情のある家らしくてさ、親戚の男の子をずっと前から引き取っててその子が行方不明になってて、実の娘である女の子のほうはその時から寝たきりで病院にいるんだって」
 ああなんだかややこしくなってきた、と武彦はまだ眠たそうにぼそりと呟く。無理はない、とセレスティはプリントアウトされたものを眺めながら苦笑する。
「でも……そこで調査は終了です。そこのご両親も、それ以上は話してくれませんでした。病院の名前は聞くことはできたんですが……。雛人形は特別ふるいものじゃなくて、女の子が生まれた時に買ったもの、10年前のものみたいです。ごくありふれた、大量生産されている会社のものでした」
 哀しそうに、ふっと目を伏せる日和。
 そんな日和に、そっと手を触れる啓。日和は知らずとも、啓には人の心を癒す能力があった。それを使ったことを、日和ははたして気付いただろうか───幾分心が落ち着いたことを啓の励ましのためととったのだろう、彼女は啓に向けて「ありがとうございます」と微笑んだ。啓も、そっと微笑して再び席に着く。自分の能力で人の心が少しでも楽になるのなら───小さく呟いた声をシュラインが聞き取ったが、今は何も言わずにおいた。
「私は実際に雛人形に会えるように問題の道をトラックをで走ってみました。けれど、何も起こりませんでしたね……昨夜と先ほどと、念のため二度、別の時間帯に行ってみたのですが。
 しかし、トラック運転手だけ見えるとは、誰かトラック運転手が雛人形の持ち主、女の子を跳ねたのではとも思いましたが……どうやら違うようですね」
 最後に忍が考え込むように足を組み腕を組んで思いを馳せる。
(雛人形はその敵を? 守りきれなかった‘罪”を償うために? 母の祈り、雛人形の使命……───)
 そのさざなみのように馳せていた思いをゆるやかに断ったのは、セレスティの言葉だった。
「行方不明になった男の子の記事ならここに。一ヶ月ほど前のものですね、更に絞って調べてみましたら、この事件───人影が現れるとトラックの運転手さん達が仰っている特定位置と合致しました。最後の目撃者の方が、『陽炎のような空間に溶け込むように消えた』と当時仰っていたそうです。男の子の名前は、谷木光流(やぎ みつる)、女の子と同様10歳だったそうです」
 ぱさ、とプリントアウトしたものをセレスティがテーブルの上に置くと、次々に武彦達の手に渡って流れてゆく。
「セレスさんと探していた時に見つけたもう一つの記事も気になったわ。その男の子は『まなをいじめないで』と呟き、泣いていたそうよ。その『陽炎のような空間』へも、まるで死にに行くような瞳で、だったって記事には書いてあるわ」
 シュラインが補足する。
 女の子の名前も判明していた。
 稲見愛(いなみ まな)。
 市民病院の一室で、時折うなされながら眠り続けているという。



 武彦達は、零を留守番においてその夜、再度検証するために「例の場所」にやってきた。
 シュラインは事前に、啓や悠宇、日和と共にかなりの時間を駆使して両親を説得し、未だ飾られていた「その家」のひな壇から牛車を借りてきていた。
 どこかの情報網を探ってきた忍が一番最後に到着した。彼はこんなことを言った。
「私の情報網で探ってみたところ、こんな話が聞けましたよ」
 それは、光流と愛が「あるときから同じ夢を見るようになり、現実と取り違えるほどに夢を語り合っていた」という。
「あるときとは、いつですか?」
 ステッキに心持ち体重を預けながら、セレスティの視線が走る。
「どうも、その愛という子は学校で虐めを受けていたようです。その頃から光流という少年に打ち明けるようになり、その頃から……という感じのようですね。もっとも、それを知った学校の『いじめっ子』達からは更に虐められるようになったそうで、身体にも傷が絶えなかったようです」
「ひどい話、ですね……」
 忍の情報を聞いて、日和が胸を痛めた。その背中を無意識に撫でてやりながら、悠宇は怒鳴りたくなる衝動をなんとか押さえ込んだ。子供とはいえ、悠宇はそんなことをする人間が大嫌いだ。虐めをするくらいなら堂々とスポーツででも卑怯じゃない手で、と思うと自分の手が及ばないだけに悔しくてたまらなかった。
「あ……あれ、トラックじゃないかな?」
 注意深く道を見ていた啓が、向こうからやってくる一台の車のランプを指差す。確かにそのランプの形からすれば、トラックのようだった。
「「「「「「「あっ……!」」」」」」」
 そしてそのトラックが近づいてくると同時に、武彦達は声をあげた。
 ゆらゆらと空間から溶け出してくるように、女の子の人影が道を横切ったのだ。
「やめろ、愛ちゃん! 君がこんなことをしたら光流くんは哀しむばかりだぞ!」
 叫んだのは、武彦。今までの情報から推測した、それに賭けての言葉だった。
 はたして女の子の人影はびくりと立ち止まり、トラックは通り過ぎて───、

 ───ゆるやかに素早く手を伸ばした空間の歪みに、武彦達は吸い込まれた。



 ピィー……
 ピィーヒャララ……

 笛の音が泣く。
 まぶしいほどの真っ白い空間に、哀しくこだます。

(元は厄を流す行事だった雛人形。護るべき人を捜しているのか、抱えた厄を天上へもって行きたいのか。闇に響く泣き声悲しみを奪い取れるようにと動いてきましたが───こういうこと、でしたか)
 忍はそこに、小さな小さな黒い影を見下ろしながら思った。
「これ、この影の形は……五人囃子の笛の雛人形、ですね」
 日和が、そっと手を伸ばす。
 それでも笛の音はやまない。
 哀しいほどにまぶしい空間の中、これでもかと人の心に笛の音という形で哀しみの雨を降らせる。
「愛ちゃん、君は……前に自殺未遂をしたんだな」
 武彦が、目の前の女の子の影に向けて労わるように言う。
「あの場所で、自殺未遂をして光流くんに助けられた───違うのなら真実を教えてほしい」
 笛の音ばかりが響く中、女の子───愛の影は、そっと震えるようにうなずいた。
<こんなまなは、もうこの世にいらないって思ったの。しのうとしたの。ほんとうよ。でも、みつるくんがあとをおいかけてきてくれて、まなの好きな雛人形で毎日遊ぼう、いじめられた分だけぼくが遊んであげるからって。それで、夢の中でも『生きはじめた』の。みつるくんだけがいる、たのしいたのしい雛祭りの世界で>
 愛は告白した。
 全てを告白した。
 楽しい雛祭りの世界───けれど光流は聞いてしまった。愛が不治の病ということを。余命一年もないということを。だからこの家には一年中雛人形が飾られてあるのだと───。
 光流は自ら願掛けして、得意の横笛だけを持って自らの命と引き換えにするよう、雛人形に向けて毎晩祈り続けた。「願いはかない」、光流はこの、「夢の世界」だけにきて……愛は死ぬ代わりに永遠の命を得た。
<でもまなは、みつるくんにそんなことしてほしくなかったの。そうまでしていきたくなかったの。だから、こころをとじたの。ねむってるの>
「なんで、……」
 悠宇は、ぎゅっと隣にいる日和の手をつかんで歯軋りした。目は既に哀しみの液体をほろほろと流している。
「なんでそんな解決法しか思いつかなかったんだよ二人とも! 二人とも子供なんだからもっと楽に生きていいんだ! もっと二人で幸せな時間を探したって、解決法を相談したってよかったはずじゃないか! どっちかが犠牲になって成り立つ幸せなんてあるもんか……!」
「……悠宇……」
 子供だからそんな解決法を選んでしまった事実が哀しい。しゃくり上げるほどに悔しい。そんな悠宇の気持ちを汲み取って、日和は手を強く握り締める。日和の目にも、かすかな涙が浮かんでいた。
「物事を事前に防ぐことなら、時間をかけてでもかけなくても幾らでもあります───けれど、防げなければあとは出来る限りの事を。私達がして差し上げられる事をする、それだけです……光流くん、聞いているのでしょう?」
 まぶしさからなのか目を閉じていたセレスティの涼やかな声が笛の音に割って入る。
 ふ、と笛の音がやんだ。
「ここが貴方や愛さんが『会っていた』夢の世界なのですね」
 それは空間の「床」に少しだけ触れて分かった、彼の能力に基づいた確かな言葉。
「見えないんですね、聞こえないんですね───お互いに、お互いの言葉が。声が。その哀しい笛の音しか」
「それは……影だから、でしょうか」
 目のよい忍が、遠くに何か見えた気がしてそちらに気をとられつつも尋ねてみる。
「多分、そうね」
 やりきれない思いを抱えながら、シュラインは胸の中に哀しみの影を落とす。
 手に持っている牛車。なんとか説き伏せて借りてきた牛車。欠けてしまった雛人形、できればこれに乗せて家に帰らせてあげられたら、と思っていたが無理なのだろうか───。
「……あそこに、何か……ベッドが見えます。病室にあるような」
 はるかかなたを、忍は指さす。他の者には見えずとも、彼には見えた。目のよいことは、決していいことばかりではない。いいものばかりが見えるわけではない。けれどただ今は、二人を少しでも安らかにしてあげられるかもしれないきっかけを作ってくれた自分の目に、感謝した。
「シュラインさん、光流くんはどうも『ここ』から動けないようですので……それを試してみては如何でしょうか」
 セレスティの言葉に、シュラインはハッとして手の中に虚しく握られていた牛車を見下ろす。
 戸惑うように揺れていた笛の五人囃子の影に、そっと差し出す。
「乗って───愛ちゃんのことを思ってあんなことまでしたあなたなら、きっと乗れるはずよ」
 シュラインの優しい声におされるように、影はゆらゆらと牛車に乗る。
 武彦達は、忍の案内のもとそちらに進んだ。
 はたして辿り着いたそこには、病室に眠っている愛の本当の身体があった。
「ここにも、繋がっていたんですね……」
 なんて強い絆なのだろう。
 日和が、泣き出したい思いでつぶやく。
 そろそろと牛車を押してきたシュラインは、興信所でのことを思い出し、そっと啓に耳打ちした。啓は目を見開いたが、すぐにこくんと嬉しそうに頷き、とととっとベッドのすぐそばに駆け寄る。
「俺にも……できることが、あって……よかった……なぁ。……愛ちゃん……起きる時間、だよ……」
 そろそろと愛の頭を撫でる。もちろん、人の心を癒す能力を無意識に使いながら───。それは自覚がなくてもあっても、シュラインに言われたから。勇気を得たから。
『日和さんにしてあげたことを、愛ちゃんにもしてあげてくれないかしら?』
 その言葉に、おされたから。
 全員が固唾を呑んで見守る中、ゆっくりと───愛の影が、愛の身体へと吸い込まれてゆく。夢心地で瞳を開ける。
「……光流……?」
 牛車に乗っていたはずの影が、それと同時に男の子の身体に変化していくのを見て、目を真っ赤にして泣いていた悠宇が驚きの声を上げた。
 最期だからだろうか。
 これが最期の逢瀬だからだろうか。
 光流は微笑んで、まだまどろんでいるような愛の頭を撫でた。
<まな───ぼくはいつまでも、みまもっているから。どこにいてもそばにいるから。まもるから。それだけを、わすれないで───>

 たとえぼくのことをわすれても、
 そのことばだけはおぼえていて───

<みつるくん……? わすれないよ……。だってまな、みつるくんのこと、だいすきだもの……───>

 再び目を閉じる、愛。
 満足そうに微笑んだ光流は、いっそう輝き始めた空間の中、全員にぺこりとお辞儀をした。
 ただ一粒の涙を流して。
 護るべきものを護って、
 そうして光流の遺体は───後日、「消えた」と証言されていた近くの川底から発見された。
 驚くほどに、綺麗な身体のままで。
 安らかな顔の、ままで。



「こんにちは、紹んでくださってありがとうございます」
 雛あられを買ってきた日和が、悠宇と共に興信所の扉を開けて現れた。
「いらっしゃい、もう少しでできあがるから待っていてね」
 シュラインが、散らし寿司の仕上げをしながら微笑んで出迎える。
「これは、ここでいいのかな……?」
 啓は懸命に説明書を見ながらひな壇に飾り付けをしている。
「掃除も毎日していないから、こういう時にいっぺんにすることになるんです」
 興信所内を綺麗にしつつ、小言を言う忍に「はいはい」と苦笑しながら武彦。
「私も少しですが差し入れを持ってきました。甘酒ですが、お口に合わなければ紅茶のセットも持ってきましたので」
 セレスティがステッキをつきながら最後に現れる。
 光流と愛の件が終わった後、天へと昇っていった光流とこれからの愛への激励もこめて、自分たちだけでもこっそりと応援の宴会を開くことにしたのだ。
 武彦は大奮発で───それでも一番安い雛人形セットしか無理だったが───を買い、かなり遅い雛祭りをしようとみんなで集まっていた。
 散らし寿司が出来上がり、全員が席に着く。
 聞くところによれば、愛は現実世界で目を覚ました後、すっかり性格も明るくなって気丈になり、身体も完治して、虐められることもなくなったという。
「光流くんと愛ちゃんに乾杯」
 武彦が言い、次々にカップやお猪口を持った手が、高々と上げられたのだった。



 みつるくん、げんきにしていますか
 みつるくんはいつもまなの中にいます
 まながそう感じるから、それはたしかだとおもいます
 みつるくん、
 まなは・いきるから
 いきるから・ね───


《完》
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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
0086/シュライン・エマ (しゅらいん・えま)/女性/26歳/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員
5201/九竜・啓 (くりゅう・あきら)/男性/17歳/高校生&陰陽師
5745/加藤・忍 (かとう・しのぶ)/男性/25歳/泥棒
1883/セレスティ・カーニンガム (せれすてぃ・かーにんがむ)/男性/725歳/財閥総帥・占い師・水霊使い
3525/羽角・悠宇 (はすみ・ゆう)/男性/16歳/高校生
3524/初瀬・日和 (はつせ・ひより)/女性/16歳/高校生
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■         ライター通信          ■
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こんにちは、東圭真喜愛(とうこ まきと)です。
今回、ライターとしてこの物語を書かせていただきました。また、ゆっくりと自分のペースで(皆様に御迷惑のかからない程度に)活動をしていこうと思いますので、長い目で見てやってくださると嬉しいです。また、仕事状況や近況等たまにBBS等に書いたりしていますので、OMC用のHPがこちらからリンクされてもいますので、お暇がありましたら一度覗いてやってくださいねv大したものがあるわけでもないのですが;(笑)

さて今回ですが、まずは遅延してしまったことをお詫びします。事情があったとはいえ、本当に申し訳ありません。
「雛の泣く声」、皆様のお心にも届くといいのですが……。
今回も皆様のプレイングを総合して考えたうえで筋書きを考え、このような物語が出来上がりました。
特別無理矢理個別にする部分もないと判断したので、皆様文章を統一してあります。
それでは、コメントを手短に書かせていただきますね。

■シュライン・エマ様:いつもご参加、有り難うございますv いつもながらの綿密な調査、そして牛車での案、とても助かりました。おかげで光流が愛に「会う」ことができて、物語も少しは希望を感じさせるものにできたのでは、と思っています。
■九竜・啓様:お久しぶりのご参加、有り難うございますv 啓さんには今回、能力面といいますか「癒し」の部分で多く動いて頂きました。愛を起こすことができたのも、啓さんの能力というきっかけがあってのことですので、感謝しております。
■加藤・忍様:いつもご参加、有り難うございますv プレイングの言葉に、まず惹かれてしまいました。影で活躍し、所々に思いを馳せる忍さんというのが私の中で定着しつつあるのかな、と最近思います。夜目がきく、ということできっと見たくないものもいつも見ておられるのかな、と思いましたが今回は如何でしたでしょうか。
■セレスティ・カーニンガム様:いつもご参加、有り難うございますv 亡くなった人物、という着眼点で「あ、もう読まれておられるかも」と思いましたが、こんな形になりました。実際あの空間で「読むこと」が出来る方がいらっしゃらなければもっと悲劇に終わりそうでしたので、感謝しております。
■羽角・悠宇様:いつもご参加、有り難うございますv 今回は調査や行動が主体というよりは、心で動いて頂きました。悠宇さんならこんな事態、しかも「取り返しのつかない」事態では泣くだろうと判断してのことですが、実際はもっと違うかもしれません。その時には今後の参考のためにもご連絡頂ければと思います。
■初瀬・日和様:いつもご参加、有り難うございますv 悠宇さん同様、今回は主に心で動いて頂きました。音楽関係に携わっている日和さんに、笛の音は一番堪えたことと思います。ですがこんな時はきっと悠宇さんを支えるほうだろうな、または一緒に泣くほうだろうなと思いましてこんな形をとらせて頂きました。

「夢」と「命」、そして「愛情」はわたしの全ての作品のテーマと言っても過言ではありません。今回はその全てを入れ込むことが出来て、本当にライター冥利に尽きます。本当にありがとうございます。今回は言わずもがなと言いますか、「命の大切さ」、「想いの強さ」を一番皆様に感じ取って頂きたくて書いたと思います。もっとも、自分が痛感したことが元になっているのは事実ですが、本当には二人とも救う方法もあったのではないかな、と少し思い返しています。

なにはともあれ、少しでも楽しんでいただけたなら幸いです。
これからも魂を込めて頑張って書いていきたいと思いますので、どうぞよろしくお願い致します<(_ _)>

それでは☆
2006/03/28 Makito Touko