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<東京怪談・PCゲームノベル>


CallingU 「腕・うで」



 憑物封印。
 黒崎狼はそのことについて考えていた。
 そもそも憑物封印をなぜ欠月がおこなっているのか。
(まさかと思うけど……欠月までどうこうしようってんじゃないだろうな)
 代々『四』のつく数字の当主が犠牲になるという憑物封印。
 だがそうすれば、欠月はまったく当てはまらない。
 なにせ狼は四十四代目を継いだ少女を知っているのだから。
 彼女がこの東京で憑物封印をおこなっていたのを、見ているのだから。
 欠月は次の当主になっても四十五代目。四はつかない。
 それに欠月のあの性格からしてみても、まったく当主に向いていないし……本人もなりたいとは思わないだろう。
(あ〜、わかんねぇ〜)
 頭を抱えてしまう狼である。店番をしつつ考えていたらますますわからなくなった。
(欠月に訊いても教えてくれるわけないだろうし……万が一にでも四十四代目の話とか出たら……)
 狼は真っ青になる。
「へぇ〜……そうなんだ」
 なんて……とんでもなく綺麗な笑顔で言うかもしれない。……めちゃくちゃこわい。
(ひえぇぇ、こ、こえぇ……)
 でも、だ。
 あの欠月が、もしも……あの時のようになったら。
(……想像できないなぁ)
 ぼんやり思う。
 今の遠逆の主に、実は憑物封印はおまえを儀式の供物にすることだったんだー、と言われても。
「冗談やめてくださいよ、ハハハ」
 と、アメリカンな笑いをしそうだ。
 すんごくしそう。
(や、やりそうだ。あいつが黙って言うこときくなんてこと、想像すらできねぇし)
 そこが大きな違いだ。欠月は『彼女』と違ってなんというか……ずる賢い。
 すんなり言うことをきくような性格ではないのだから。
(確かにな。その代わりに記憶を戻してやるとか言われても、記憶に執着してないから取引材料にはならないし……)
 前の彼女は呪われていたし、元々が四十四代目になる予定だった。
(でも…………欠月があんな目にあうの、嫌だな……)
 きっとないと、信じたい。



 ついついまたも、来てしまう。
 なにか怪異があればそこに欠月がいるのではと思って。
(いいように利用されるのがオチだと思うが…………ほんとに俺ってお人好しというか……)
 欠月がいれば「バカだね」とサラっと言いそうだ。
 工事現場の、建設中のビルの屋上を見上げた。
 そこに欠月がいるのは、ここからでもわかる。
(あいつぅ……まぁたあんなとこで……)
 ぎょっとしてしまった。
 欠月は手に持っている漆黒の刀をぶんぶんと振り回し、足場を確認するために軽やかにジャンプして歩いているではないか!
(ぎゃあああああああ! こえええええ! あいつなにやってんだ!)
 地上でその様子を見ていた狼は恐怖に青くなって震えた。
 ちょっと足を踏み外せば地上までまっさかさま……下手をすれば途中のものにぶつかってしまうこともあるというのに。
 とん、と着地した欠月はまったく苦にもせずににこにこ笑っている。
(……あいつが四十四代目みたいにいかないってのは、ほんと、心底思うな…………)
 あんな高い場所であんな楽しそうににこにこするとか……ありえないだろ。
 黒い翼を持つ狼としては、空中戦は大丈夫だし……万が一欠月が落ちても助けにいける。
 どきどきしていた狼は、欠月が構えたのに気づいた。
 刀ではなく、弓に武器が変わっている。
(弓……?)
 欠月の髪が強風でなびく。
 鳥だ!
(けっこうデカい……! 烏か、あれ……?)
 目を見開く狼の目の前で、現れた烏を欠月が容赦なく矢で射る。
 その破壊力は凄まじい。
 烏が甲高い鳴き声をあげて欠月との距離をとった。
 だがどれだけ間合いをとろうとムダだろう。
(欠月の武器……弓じゃ、射程距離内だな、あれは)
 狼の読み通り、欠月は矢を番えては数本を一気に放つ! その速度は普通の弓と比べるのも馬鹿らしい。
 ばたばたと暴れる烏が欠月を攻撃するものの、欠月はひらりと跳んで避けた。
 狼としては気が気ではない。
 見事に着地する欠月だったが、見ているほうとしては心臓がもたない。
 地上と同じような動きをする欠月を……狼は凄いと思うしかなかった。



 退治を終えて降りてきた欠月を、狼は出迎える。
「よ、よお」
「観客としての感想は?」
「……すげぇ」
 イラっとしながらも、素直に述べた。
「ところで……どうしてこんなところにいるの?」
 きょとんとして欠月が首を傾げる。
「今さらかよ! し、仕方ねーだろ! おまえが心配になったんだから!」
「…………」
 ぽかーんとする欠月は怪訝そうにした。
「ボクって心配されるような……そういうイメージなの?」
「いや、そう訊かれるとそういうイメージはないんだが……。
 ほ、ほら……おまえがどう思ってるか知らないけど……俺は……俺にとっては……も、もう友達、だし……」
「…………」
 無言の欠月が一瞬、不愉快そうな表情を浮かべる。ぎくっとする狼。
「か、欠月……?」
「それってさぁ、ボクが頼りないとでもいうわけ〜?」
 軽い声で、元の表情に戻って言う。
「そんなわけないって! おまえって強いし……」
「そうそう。素直でよろしい」

 夜道を一緒に帰っている最中、狼は小さく嘆息した。
「あのさ、ちょっと訊いていいか?」
「いいよ。代価は?」
「おまえってケチだよな、ほんと!」
「ははは。冗談だよ。どうぞ?」
 むっ、としてしまう狼だったが、尋ねることにする。
「おまえ……帰ったらまさかと思うけど遠逆家の当主になるってこと、ないよな?」
「なんでそんなもんにならなきゃいけないんだよ」
 さらっと欠月は言い放つ。狼はホッと安堵した。
「な、ならいいんだ」
「そりゃ命令されたらちょっとは考えるかもだけど……ボクには向いてないよ」
 どうやら欠月本人にも向いていないという自覚はあるようだ。
「四十四代目は降りたから……どうなるんだ?」
「次は四十五代目だね。大変そうだし、ボクは絶対ならない」
 きっぱりと断言する。
 欠月がここまで言うのだから、間違いないだろう。
(やっぱり……次は四十五代目なのか。欠月は無関係そうだな)
 ならなぜ憑物封印をしているんだろう。
(欠月は仕事だと言っていた。腕がなければできないことだと…………)
「憑物封印を終えたら、どうするんだ?」
「どうする? そりゃ、通常の仕事に戻るだろうね」
「通常の仕事?」
「いつものように全国に派遣ってとこかな。東京に用事があればまた来るかもね」
 欠月にとっては今も、そしてこれからも、退魔士として過ごすことに変わりはないということだ。
「巻物は?」
「長に提出して終わりだよ」
 その巻物を使って、もしや上海にいる彼女を…………と、狼は嫌な想像をした。
 なにせ、四十四代目……生贄であったはずの少女は『まだ』生きているのだから。
(まさかな。きっと、関係ないさ……)
 最近こういうことばかり考えている。
「黒崎くんは、ほんとに憑物封印を気にするね。なんか気持ち悪いくらいに」
 呆れたように言う欠月に、狼は乾いた笑みを向けた。
 欠月に憑物封印のことを話したところでどうなるわけでもないだろう。
(欠月は間違いなく、そういう場面に出くわしたら拒絶する……!)
 信じるしかない。
 それに憑物封印で欠月が巻き込まれる可能性も、ないかもしれない。
「なんか栄養とか足りてないんじゃないの? なんとかゼリーとかあるじゃない、最近って。なんか体にいいっぽい宣伝してるやつ。ああいうの食べたらどう?」
 横で呑気なことを言う欠月に、狼はイライラし始める。
 ひとがこんなに真剣に悩んでいるのに、なぜ栄養の話なんだ!
「なんでおまえってそうなんだよ!」
「はぁ? なんなの突然」
「俺が色々考えてるのに!」
「それは黒崎くんの勝手でしょ?」
「そ、それはそうなんだけど……」
 ぐっと言葉に詰まる。
 そうなのだ。
 勝手に悩んでいるのは狼なのだから。
「黒崎くんてさぁ、考えすぎなんじゃないの? そのうちハゲちゃうよ?」
「ひとの頭を見ながら哀れな顔するな!」
「いや、絶対そうだよ。なに考えてるか知らないけど、どーせ自分のことじゃないんでしょ?」
 正解であった。
「そ、それは……」
「他人のことばっか考えててもどうしようもないとか思わないわけ? どーせ思い通りにいくわけないんだし、悩むだけムダだと思うけどなあ。
 そんなことより自分のこと心配したらどうなの?」
「じ、自分、のこと?」
「そうだよ。キミ、その怠惰な生活どうにかしなよ」
 ピシャーン、と雷が落ちたような衝撃を狼が受ける。
 そういえば前も怠惰な生活、と欠月は言っていたような……。
「だいたいキミ、高校生くらいでしょ?」
「じゅ、16だけど……」
「うわあ! 16だって! ピチピチの若者じゃないか!」
 オーバーな動きで嘆く欠月に狼は度肝を抜かれていた。
「あのさぁ、言っちゃなんだけど……若い頃ってのは青春をエンジョイしないと! 年をとると体も重くなって、軽やかに動かせないんだから!」
「……年寄りみたいなこと言うんだな……」
「若い頃ってのは他人に時間を割くためにあるわけじゃないと思うんだよね。どうせ年をとれば否応なく他人のことも考えなきゃならないんだし!」
「……オッサンみたいだ……」
「むしろ自分! むしろ俺! な勢いでいっておかないと大切な経験もできなくなっちゃう! そう、それこそまさに時代の波に乗り遅れるってやつだとお兄さんは思うわけだ!」
「…………」
 口を挟めない。
「確かに年をとっても青春ってのは経験できると思うよ。うんうん。
 でもね、十代の頃の瑞々しい体はそこにはないんだよ! 大変だー!」
「お、おい欠月……ちょっと落ち着けよ……」
「若い頃から他人のためにあくせくしてても、幸運てのはやってきてくれない……ああ、哀しい。
 黒崎くんみたいなのは、あれだ。典型的な感じでまず十円ハゲができ、そのうち髪の毛が風に乗って飛んでいくと思う」
「なに真面目な顔でとんでもねーこと言ってんだ! ひとの髪の毛をタンポポの綿毛みたいに言うなよ!」
「ごめん。じゃあ額から後ろに後退していく感じかな」
「おまえーっ!」
 絶叫をあげる狼の前で、欠月は愉快そうにハハハと笑い声をあげていた。



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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PC
【1614/黒崎・狼(くろさき・らん)/男/16/流浪の少年(『逸品堂』の居候)】

NPC
【遠逆・欠月(とおさか・かづき)/男/17/退魔士】

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■         ライター通信          ■
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 ご参加ありがとうございます、黒崎様。ライターのともやいずみです。
 苦労性な黒崎さんの髪を心配する欠月、いかがでしたでしょうか?
 少しでも楽しんで読んでいただければ幸いです。

 今回は本当にありがとうございました! 書かせていただき、大感謝です!