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<東京怪談・PCゲームノベル>


CallingU 「腕・うで」



 うーんと物部真言は考えていた。
 どうも遠逆日無子は普通とは違う。
 あの年頃の娘にしてはかなりしっかりしているのだ。
(まあ、それだけ育ってきた環境がものを言っているだろうが……)
 もしかしたら、自分よりもしっかりしているかもしれない。考えられないことではなかった。
 それでも不安を感じてしまうのは……。
(遠逆が、いつも戦いの中に身を置いているから……なんだろうな)
 本人がそう望んで、そして選んだ道なら真言が口出ししてもムダだろう。
 それに。
(たまにしか会わないやつに根掘り葉掘り訊かれてもいい気分はしないだろうしな)
 きっと嫌そうな顔をするに違いない。日無子のそんな顔が易々と想像できる。
(わからないのは……普通の生活を望まないってことなんだが)
 行き交う人々を眺めて真言は歩く。
 異能を持っている者は普通の人であることを願うことがある。
 もしも能力を持っていなければ、と。
 平凡という枠から外れてしまえば、どうあってもその感情は避けられないと思っていた。
 だが彼女にはソレがない。
 真逆の生活なのだ。
 異能のほうが当たり前で、普通の生活が……非日常。
(まあ、手を貸そうにも、遠逆は誰かの助けを求めているわけじゃないし、馴れ合うつもりもない。
 俺に出番はないだろう。
 見守るしか)
 そもそも、本当にたまにしか会わない存在だ。
 なにができるわけでもない。
(なにかあった時に手を貸してやる、そんな感じでいいか)
 まあ……自己満足にすぎないわけだが。



 す、と日無子は剣指を作る。
「縛」
 ばち! と地面に火花が散った。
 ちょうどそこに真言が通りかかる。バイト帰りだったのだ。
「あ、遠逆」
 彼女はこちらを振り向いて「んー?」と目を細める。
「真言さん。おひさー」
 相変わらず軽いノリだ。
 せめて袴姿ではなく、短いスカートの制服姿でいれば納得できるとは思う。
 ああ、今時の子なのだ。と。
(まあしょうがないか。遠逆は袴姿なんだし)
 それがアンバランスなのだ。
「今日も仕事か?」
「まあ近いかな。最近虫が多いって聞くし、ちょっと罠の数を増やそうと思って」
「虫?」
「正確には、『蜂』かな」
 怪訝そうな顔をする真言は日無子の作業を観察する。
 彼女は地面にチョークで何か描いていた。
(本当によく働くな……)
 感心してしまう。
 ふと、日無子を見遣った。
 年の離れた妹がいればこんな感じかもしれない。
 そう考えてしまうとなぜかしっくりした。
(うーん……見た目は働きアリのような感じだが、遠逆の性格はキリギリスのほうだと思うんだがな……)
「なにを描いてるんだ?」
「蜂が寄ってくる幻を発生するの」
「蜂?」
「妖怪の一種なんだけどね」
 日無子は顔をあげて説明する。
「まあ蜂が『蜜』を集めてるわけよ」
「……まあ、普通の蜂もそうだな」
「そうそう。花の蜜ならいいんだけどねぇ、まあ妖怪なので。
 で、女王蜂に貢ぐんだな、これが」
 なんだか嫌な響きだった。女王蜂、なんて。
 日無子は再び顔を伏せ、地面に丁寧に描き込む。
 だいたいこんなところに落描きしていいのだろうか。
「貢ぐって……なにを?」
「まあ蜂の種類で色々あるよ。魂だったり、生命力だったり、寿命だったり、夢だったり、あとは人間そのものだったり」
「人間そのものって……蜂なのに?」
「頭からバリバリ食べるよ。見たことあるもん」
 真言は思わず青くなってしまう。そんなものを見た日には、食べ物は喉を通らないと思われた。
(なんともないのか、遠逆は……)
 平然とした顔をしている日無子に、参ってしまう。
「すごいな……それは」
「チューチュー血を吸い取ったあとにバリバリとね。あれは凄い光景だったなあ」
「…………」
 吐き気がしてきた。
「そ、そうか……」
「今回は魂だね。まあ無難なところだからそれほど凶暴じゃないと思う」
「魂で、無難、なのか」
 どういう基準なんだろうかそれは。
「人間そのものをさらってたら目立つからね。こんな都会じゃありえない。
 魂なら、死んですぐのも回収できるから手っ取り早いんじゃないかなあとは思う」
「死んですぐ……?」
 いわゆる幽霊みたいなものだろうか。
 そう考えるとわりとバケモノの世界もよくできている。
 そういえば近くに病院があったのを真言は思い出した。
「病院が、近くにあるな」
 ぼそっと呟くと日無子がパッと顔をあげる。
「当たりー! そうなの。病院の近くに一個巣があってね、でも巣を焼き払うにはまず中にいるのを全部追い出さないといけないんだ〜」
 ふと思って真言は空を見上げる。
 夜空に雲があるが、怪しげなものは飛んでいない。
「……その蜂、目に見えるのか?」
「そだね。変なのわかる人は見えると思うよ」
「…………」
 ちらちらと空をうかがうが、蜂は飛んでいない。どれくらいの大きさなのだろうかと真言は考えていた。
「けっこうな数を退治したんだけど、まだいるからねー」
「そうなのか……」
 空を見上げたまま返事をする真言。
 日無子は描き終えたらしく、立ち上がる。
「よし、できた」
「終わったのか?」
「ここはね。あとは……ちょっとむこうの様子を見てこようかな。何匹か捕まえてたらいいんだけど」

 日無子について行った場所は病院の近くだ。
 病院など目と鼻の先である。
 人目につかない路地にも先ほどと同じものが地面にあった。日無子が作った『罠』というやつだろう。
 模様の上では白い網に絡まった蜂が三匹ほど浮き、「ブブブ」と鳴いている。
(でかい……)
 人間の赤ん坊くらいはあるんじゃないだろうか……。
 しかし虫というのは巨大化するとなんと不気味なのだろう。
「おお。三匹とはかなりの収穫」
 日無子はぱちぱちと拍手して、掌を地面に向けた。影が浮き上がり、弓の形になる。
 同じように黒い矢がぼう、と出現してそれをつがえた。
「この距離ならまず外さないな」
 そう呟いて日無子は矢を蜂に向けて射る。
 矢が当たると同時に蜂がどしゅ! と溶けて消えてしまった。
「呆気ないな。こんなものなのか?」
「そこなのよ。こいつら、弱いくせに数が多いの。おかげでほんとに全部やっつけるとなると時間かかるんだー」
「…………手伝おうか?」
 ここだろうか。自分が手を差し伸べるところというのは。
 まあ手伝えることがあるならと思った真言である。
 日無子は「んー?」と首を傾げた。
「なんで?」
「いや、なんでって言われても……一人じゃ大変そうだなと思っただけなんだが」
 融通のきかない妹がいればこうなのかもしれない。
 というか。
(遠逆は…………変なところで鈍いというか)
 いや違う。
(! そうか…………『どうでもいい』としか考えてないんじゃ……)
 興味のないことには一切注意を払わない……あれだ!
 動きの止まっている真言に日無子は不思議そうだ。
「? どうしたの、真言さん?」
「いや……ちょっと、」
「ふーん。なんかよくわかんないけど顔色悪いよ。あ、病院すぐそこだから行ってきたら?」
「大丈夫だ。
 それで、手伝えることはあるか? 仕事だから……手は出さないほうがいいだろうか」
「これは仕事じゃないの」
 さらっと日無子はそう言う。
「蜂がブンブン飛んでて邪魔で、やってるだけ」
「じゃあ俺が手伝ってもいいんだろうか?」
「…………暇なの?」
 物凄く不審そうに言われてしまうと、真言としても困ってしまうではないか。
「そうだな。今は暇だ」
「へー。こんなこと手伝いたいとか、変わってるのねほんとに」
 変な人ー。
 日無子はライターと地図を取り出すと真言に渡した。
 それを見下ろす真言。
「赤い丸印があるところが、罠のあるところ。蜂がいたらライターで燃やせばいいから」
「……燃やす? ライターで?」
 こんなものでそんなことができるのか……?
 日無子は両手を腰に当てて目を細めた。
「バカにしてるな〜。火ってのは、浄化とかにはうってつけなんだから。
 蜂は動けないからそれでパパっと燃やしちゃって」
「なるほど」
「あと、なんかお礼とか求めてもなにもあげられないよ。真言さんが勝手にやるって言い出したんだから」
「こんなことで何か要求するわけないだろ」
「ふーん。ま、その言葉を信じましょう」



 地図の赤丸はほとんど病院の近くだ。歩いても十分いける。
 一番近くの場所に来た真言は「う」と洩らした。
 先ほどと同じく白い網に捕まって浮いている蜂がいる。今度は一匹だ。
「本当にライターで大丈夫なのか……?」
 疑いつつ、ライターを近づけていく。
 威嚇する蜂にちょっとドキドキしてしまうが、どうやら動けないようだ。
 火をつけるとあっさりと燃え上がった。だがその光景は。
(…………けっこうムゴい……)
 日無子の攻撃のように一瞬で全てが崩れるならまだしも……燃え盛る火の中でジタバタする蜂を見るのは……。
 真言は次の場所へ向かうことにした。

 全部回り終えて、日無子と落ち合う。
「俺のほうは全部で三匹だった」
「そう。ありがとう」
 にっこり微笑みながらライターと地図を受け取った日無子は、地図を広げて何かを書き込んでいる。
「これで全部終わりか?」
「まさか〜。まあ今日はこれで終わりだけどね。
 退魔の仕事は地道なのだ!」
「……胸を張って言うことじゃないと思うんだが……」
「まあそうだろうね」
 あっさりと日無子は頷く。
 本当に彼女はいつもこんな地道なことをしているのだろうか。
 真言はそう思って、日無子の頭に手を伸ばす。
 と。
 日無子が気配に気づいたのかサッと真言と距離をとった。
「…………なに?」
「え。いや、おつかれって……」
 頭を撫でようとしていた自分に真言が一番驚く。
「おつかれ? ああ、うん。おつかれさま」
「……ああ」
 手をなんとなく引っ込める真言であった。
 今の日無子の反応からして……。
(絶対避けるな、あれは)
 撫でようとしてもすいっ、すいっ、と避けてしまいそうだ。
 想像して真言は吹き出しそうになったのであった。
(やりそうだ…………遠逆なら)



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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PC
【4441/物部・真言(ものべ・まこと)/男/24/フリーアルバイター】

NPC
【遠逆・日無子(とおさか・ひなこ)/女/17/退魔士】

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■         ライター通信          ■
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 ご参加ありがとうございます、物部様。ライターのともやいずみです。
 今回はほのぼのな感じになってますが、いかがでしたでしょうか?
 少しでも楽しんで読んでいただければ幸いです。

 今回は本当にありがとうございました! 書かせていただき、大感謝です!