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<東京怪談・PCゲームノベル>


CallingU 「腕・うで」



 天城凰華は仕事の依頼を受け、廃鉱へと向かっていた。
 肝試しに行った高校生が二人、そのまま帰ってこないらしい。
 捜索の依頼だ。
 その高校生が向かった廃鉱には嫌な噂がある。
 だからこそ、凰華に依頼がきたのだが……。
 廃鉱の入口を見遣り、凰華は一旦足を止める。
 まるで巨人が大きな口を開けているようだ。
 夜だけあって、廃鉱の入口は底なしの暗闇のようにみえる。入ったら二度と出て来れないような……そんな、気持ち悪さを感じるのだ。
 この廃鉱は昔、崩れたことがあった。そのために、生き埋めになった者も少なくないという……。
 複数の霊の存在を感じ、凰華は廃鉱へ向けて歩き出した。
 こんな月のない夜はとても……とても、人々は不安になることだろう――――。



 廃鉱の中は暗く、深い。
 凰華は懐中電灯を持って奥へと進む。
 足跡があった。
 足跡は二組。奥へと続くそれは慌てた様子もない。走っている足跡はこんなものではないからだ。
 廃鉱は意外に広い。
 近隣の者も立ち入らないのは有名な心霊スポットだからだろう。
 心霊のテレビ番組では度々見かける場所だ。
 面白半分でこんなところに来るのは間違っている。霊は侵入され、騒がしくされるのを嫌うからだ。
(おかしい……霊はいるが、隠れている?)
 怯えているような気配が凰華に伝わっていた。
 ここに来る前に凰華はこの場所のことを一通り調べたのだ。
 廃鉱に入ってこなければここの霊たちは人々に危害を加えない。
 だが、霊がいるというだけでやはり人々は畏怖するものだ。神隠しにあう、などという嫌な噂がこの辺りに根付いていた。
 凰華の足音が微妙に響いている。
 圧迫されるような気持ちになるが、それは錯覚だと気づいていた。
 ずっと奥に進めばさらに強くそう感じるだろう。
 無言で奥へと進んでいく凰華は懐中電灯がちかちかと、淡く点滅するのに気づく。周囲を照らす唯一の明かりがゆらめいた。
 電球が緩いわけではないだろう。さっきまできちんと光っていたのだし。
 何かが居るのは明白。
 それでも凰華は奥へと向かう。
 すでに入口は見えない。
(こんなに奥までよく来たな……)
 まあ霊感のない人間はなんとも感じないのだから当然だろうが。
 それでもこの場所はかなりの霊がいるから多少は感じるはず。
 足もとを照らすと、まだ足跡は続いていた。焦っている様子は足跡からはうかがえない。時々じゃれあっているのか、足跡が妙になっている箇所はいくつかあった。
 その時の様子がなんとなく浮かぶ。
 怖いんじゃないのかとか相手をからかいつつ、それを否定しつつ、二人は奥に進んだのだろう。
 他愛無い……高校生の興味本位な行動。
 それがどんなことを引き起こすか、わかっていなかったのだろう。この時は。
 帰ってこなくなって二日。
 最初に帰ってこなかった時は高校生の親がここに調べに来たようだが、どうしても入ることができなかったのである。
 日の高い日中は全てを拒絶する、いわゆる結界。
 それで凰華へと依頼をしてきたのだ。
 凰華が夜を選んでここに来たのも、そういう事情からだ。
 夜に潜むモノがここには居る。
 それがなんなのかは、今はまだわからない。
(無事でいるといいが……)
 危険な相手だと、高校生の命が危ない。
 最悪……二人とも死んでいる可能性もある。

 凰華はただひたすら奥を目指した。
 所々、歩き難くなる箇所はあったが、それでも奥へと進んだ。
 相変わらず霊はなりを潜めていた。
 霊とは違うなにかの気配が強くこちらに届く。
(……最近住み着いたのだろうか。ありえないことではないな)
 道は広くなっている。徐々に。
 分かれ道に出くわして懐中電灯でそれぞれを照らした。
 右のほうはかなり深い……。ねっとりとした空気を感じた。
(こちらかな)
 左のほうは多数の霊を感じる。凰華の存在に気づいても、騒ぎもしない。放っておいてもいいだろう。
 右を選んでさらに進む。
 またさらに道が広くなる。
 唐突に、行き止まりになった。
 どうやら崩れてしまった道のようだ。
 だがこちらから気配を感じる。
 微妙に広くなった空間を、懐中電灯であちこち照らしてみた。電球は弱々しい光りで辺りを凰華に見せる。
「……あれはなんだ」
 そちらに近づき、凰華はそっと覗き込んだ。
 穴がある。
 人が一人入れるくらいの、ぎりぎりの大きさの穴があった。マンホールサイズだ。
 下へ崩れたのだろうか、ここも。
 懐中電灯では深くなる暗闇しか見ることはできない。
 凰華はじっと見つめて、それから手頃な石を拾って穴に投げ入れた。
 深さはどれくらいだ?
 石がすぐに「コン」と小さな音を響かせる。それほど深くはないようだ。
「降りてみるか」
 凰華は穴に近づき、そこに飛び込む。
 思った通り、すぐに着地した。
 すぐさま懐中電灯で地面を照らす。何かの痕跡だ。
(……落ちた?)
 足跡だけではない。どうやら高校生たちはこの穴から落ちたようだ。
 いや、おそらく落ちたのは一人だけ。もう一人は自ら降りたに違いない。
 天井を照らす。
 身長より少し上。手を伸ばせば余裕で届く。
 これならすぐに帰れたはずだ。それなのに……。
 凰華は足跡が変わったのに気づいて眉をひそめた。
 走っている。
 急につま先が強く残っているものに変わっていることから、逃げた、と推測された。
 では、何から?
 凰華は振り向く。
 道は前後に、どちらもかなり続いているようにみえた。
(あちらから何かが来たか…………)
 高校生の足跡だけではなく、何かを引きずったような痕跡もある。
 足跡を追って凰華は奥へと進んだ。

 やがて小さな音を耳にした。
(なんだ……?)
 子守唄?
 凰華は気配を消したままその音を頼りに歩く。
 ぴた、と凰華は足を止めた。それから慎重に、ゆっくりと歩を進める。
 道は大きな広間に繋がっていた。見つからないように凰華は壁に身を寄せ、うかがう。
 広間には二人の少年の姿がある。あれが今回捜索を依頼された二人だ。
 彼らは青ざめてただ互いの無事を祈り、震えていた。やつれているようにも見える。
 そんな彼らが恐怖の瞳を向けている先は――――。
(タマゴ……?)
 ダチョウの卵くらいの大きさの、緑色の殻のタマゴがずらりと並んでいた。
 周囲には喰い散らかしたあと……人の骨だけではなく、動物のものも多数ある。
 そういえば、子守唄がいつの間にか止んでいる。
 凰華はコートの下に隠し持っていた剣の柄に手をかけた。
 気づいた時は遅い。
 凰華は背後から攻撃されてしまい、腕に傷が走った。
 慌てて距離をとるために凰華は広い場所へ逃げる。
 女がいる。笑っている女の身体は蛇だ。上半身だけ人間の女の姿だった。
「おまえも子供たちの餌になりなさい」
 薄く笑う女に凰華は剣を構える。
 りん、と小さな鈴の音がしたと同時に女の後ろから遠逆日無子が突然現れた。
「なに!?」
 驚く女が振り向く。
 日無子は敵だけを見つめていた。無表情で。
(注意が遠逆に逸れている……!)
 チャンスだ。
 凰華は剣を突き出す。
 凰華の剣を避ける女の背後から、日無子が漆黒の薙刀を振るった。
 同時の攻撃に女は慌てふためく。
 日無子の攻撃をぎりぎりで避け、女は安堵した表情を一瞬浮かべた。
 甘い。
 凰華がすでに距離を詰めていたのだ。
 剣を振るう!
 女がのけぞった。
 だが、その刃は避けられない!
 女の喉下を刃が切り裂く。
 女は激痛に顔をしかめ、そして後退した。
 すぐさま日無子が背後から女の頭を刎ね飛ばす。
 薙刀ではない。刀だ。いつの間に武器を変えたのか凰華は気づかなかった。
 転がった女の首を見遣って凰華は、完全に絶命したことを確認する。
「もう大丈夫だ」
 震えている高校生たちに声をかける凰華。
 彼らは凰華に対して礼を言うわけでもなく、ただ異形を見るような目をしていた。
 いや、戦う凰華も彼らにとっては異質な存在なのだろう。
 礼を言われるのを期待していたわけではない。
 凰華は二人の安否を確かめると、日無子のほうを振り向いた。
 こんなところで彼女に会えるとは思わなかった。二ヶ月ぶりだろうか……?
 日無子は転がっている女の首を静かに見下ろし、いつの間にか持っていた巻物を広げた。
 広げた途端、女が綺麗に消え失せる。まるで手品だ。
 巻物を閉じた日無子は凰華の視線に気づき、そちらを向く。
「遠逆……」
「…………えーっと……天城、さんだっけ……?」
 興味のないような言い方をする日無子は冷たい表情のままだ。いつもは笑顔なのに。
 どうしたんだろうかと思う凰華を無視し、日無子はスタスタとこの場から去るべく歩き出した。
「遠逆、仕事で来たのか?」
 そう尋ねると、日無子が凰華のほうを振り向く。いつもの笑顔だ。
「さあね」
「…………」
 これ以上声をかけるのを躊躇わせる言葉。
 日無子は相変わらず凰華に興味がないようだ。
 それは、まあそうかもしれない。
 凰華は日無子に対して何も言っていない。何も行動していない。
 どんな人間だって友人になるためにはそれなりに動かなければならないのに……。
 凰華は日無子に対してどうしたいのか、よくわかっていなかった。
 自分に寄って来ない人に……どう言えばいい?
 他力本願なのだろうか。自分は。
「助かった。遠逆が来てくれて」
「あっそう」
 凰華の言葉などどうでもいいようだ。
 日無子は思い出したように並ぶタマゴを見遣り、持っていた武器を巨大なシャモジに変形させる。それを思い切り振り上げた。
 グシャ! と、振り下ろしてタマゴを潰していく。
 全てのタマゴを問答無用で潰し、彼女は何度も確認してから頷いた。そして呆然としている凰華のほうを見る。
「じゃあね」
 ひらひらと手を振ると日無子は今度こそ振り向かずにそこから歩き出した。やがて彼女は鈴の音をさせて忽然と姿を消す。 
 残された凰華は嘆息し、高校生たちを見遣った。
「では帰るか」



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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PC
【4634/天城・凰華(あまぎ・おうか)/女/20/科学者・退魔・魔術師】

NPC
【遠逆・日無子(とおさか・ひなこ)/女/17/退魔士】

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■         ライター通信          ■
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 ご参加ありがとうございます、天城様。ライターのともやいずみです。
 ただ一緒に戦うだけでは日無子との仲は進展はしません。なので……いまだ進展はほとんどない状態となっております……。
 少しでも楽しんで読んでいただければ幸いです。

 今回は本当にありがとうございました。書かせていただき、大感謝です。