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<東京怪談・PCゲームノベル>


超能力心霊部 セカンド・ドリーマー



 崎咲里美は、あのファーストフード店の前に立っていた。
(また会えるかな、あの子たちに)
 それは期待――――。



 二階に行くと窓際の席に見知った顔がある。
(また会えた)
 嬉しさを噛み締めて里美は窓際に近づいていく。
「お久しぶり。この前はつき合わせてくれてありがとう」
「あ、崎咲さん」
 奈々子が顔をあげて微笑する。どこか疲れたような笑みだった。
「最後の最後で勝手なことしちゃったみたいになって……ごめんね? でも、真実は伝えるべきだと思って」
「崎咲さんの行動は正しいと思いますよ。力ずくで浄化させようとした私が悪いんです」
 苦笑する里美は、ふと気づく。
 なんだか違和感。
(あれ……?)
 そういえば一人足りない。
 あの元気な女の子が。
「……元気な……えっと、朱理ちゃんだよね? 彼女は今日はいないんだ?」
 なんだかバランスが悪いという感じを受けた。
 この三人は、三人揃ってこそというイメージが里美の中にはある。
 なにげない里美の言葉に笑って「補習なんですよ」などと答えるかと思ったが、奈々子は渋い顔をして沈黙した。
 向かい側に座っている正太郎も元気がない。
(…………なにかあったのかな)
 いや、何かあったはずだ。そうでなければこの二人の態度が説明できない。
「風邪……ってわけじゃなさそうだね。なにか、あったんでしょ……?」
 そっと尋ねると正太郎が奈々子をうかがった。だが奈々子は沈黙したままだ。
 彼は嘆息すると、一枚の写真を取り出して里美に説明する。
「この写真……ボクが撮ったんです」
「またなにか撮ったの?」
「う」
 正太郎は言葉に詰まった。
 里美は写真を受け取って見つめる。
 眠る朱理の横に童女の姿があった。
「この写真が……どうかしたの?」
「この写真を撮ったあと…………実は、朱理さんが目覚めなくなってしまったんです」
「目覚めない?」
 仰天する里美。
 奈々子は俯いたまま呟く。
「原因不明なんです。病気というわけでもないんですけど、突然眠ったままになってしまって……」
「それって……なにかに取り憑かれてるかもしれないってこと?」
「……それがよくわからないんです。私たちは霊能者というわけではないので」
「でも……可能性としてはあるよね。じゃあ、助けなきゃ!」
 きっと……きっとこの写真と関係している。そう里美は感じていた。



「この女の子……気になるなあ」
 里美は朱理の家に向かいながら写真を見つめる。
 眠る朱理のそばにいるこの少女。なぜカメラ目線なのか。
 こんな着物の女の子も珍しいと思う。
「案外、この女の子が原因かもしれないよね」
 正太郎が先頭を歩きながらそう言った。
「…………考えられないことはないですけど。朱理は変なものに好かれる体質ですし」
「確かにねぇ。すぐ妖怪とかくっつけてくるし……」
 なにか思い出しているのか正太郎が青くなってがたがたと震える。
(朱理ちゃんてそんな子なんだ……)
 聞いていた里美は「へえ」と感心した。
「それに変なものもよく拾ってきますよ」
「そうなんだ」
「ええ。警戒心がほとんどないんです、朱理って」
 困ったように言う奈々子。
 相当朱理に手をやいているという感じだ。
「あ、見えたよ。あそこだ」
 正太郎の指差す先には、マンションがある。



 朱理の叔母という人物と入れ違いにあがり、奈々子に案内されて朱理の部屋に向かう。
 朱理は和室を使っているらしい。中に入って、あまりに物がない部屋に里美は驚いた。
(なにもない……)
 部屋で本を読んだり、何か暇を潰したり……という雰囲気はない。
 まさしく、ただ寝るための部屋だ。
 敷かれた布団の上では朱理がすかー、と寝息をたてていた。
「…………」
 里美は無言で奈々子と正太郎を見る。
 その視線に、奈々子は頷いた。
「ええ……全然見えませんよね、これで起きないなんて」
 悪夢にうなされているならば取り憑かれていると思えるのだが……どう見ても普通に寝ているようにしか見えない。
「…………本当に、起きないんだよね?」
 里美の言葉にこくりと頷く奈々子。
 とりあえず里美は朱理の頭のすぐ横に座り、うかがった。
 呼吸は正常。安眠状態といえる。
「本当に……起きないの?」
 確かめる里美に奈々子が再度頷いた。里美の横に座って奈々子は朱理の寝顔をじっと見つめる。
 と、奈々子は朱理の頬を思いっきり抓った。
 朱理は痛みに「むぐぅ」と妙な声を洩らすがまったく目を覚まさない。
「ほら……起きないんです」
「す、すごい起こし方するね……」
 苦笑する里美はじっと朱理を見た。
 赤くなった頬にちょっと同情してしまう。かなり痛いに違いないのに。
「と、とりあえず……やれるだけのことはやってみるね」
 どうすればいいのかちょっと見当がつかないが、やれることはやりたい。
 里美は朱理に手をかざして治癒術をかけてみることにした。
 これで効くかどうかわからないが……。
 治ったのは奈々子が抓った頬のところだけだ。朱理は目覚める様子はない。
「やっぱり……ケガとか病気の類いじゃないみたい……」
 里美はふぅ、と小さく息を吐き出す。
「なんで起きないんだろう……朱理さん」
 反対側から朱理の顔を覗き込む正太郎。
 そ、と朱理の前髪を払うために手を伸ばした正太郎がビクッと反応した。
「う?」
 全員が正太郎の呟きに疑問符を浮かべる。
 途端、ぶわっと朱理の真上にあの写真の少女が現れたではないか!
「ええーっ!?」
 悲鳴をあげて正太郎がのけぞり、すかさず部屋の隅まで逃げた。
 唖然とする里美と奈々子。
「強力な霊力で外に引っ張られてしまうなど……!」
 童女は悔しそうに呟く。
「あ、あなたが朱理ちゃんに……?」
 やはり霊現象だったのだ。驚く里美を童女が睨みつける。
「そうだ。私がアカリを拘束していた夢魔だ」
「朱理ちゃんを……? お願いです、朱理ちゃんを解放して!」
「ならぬ」
 里美の言葉を一刀両断した夢魔は腕組みして空中で微笑した。
「この娘は心地よいのだ。わしの住処にする」
「冗談じゃないですよ! 朱理を住処にする!? ふざけないでくださいっ!」
 奈々子が立ち上がって夢魔に指を突きつける。驚く里美であった。
「自分勝手なことばかり! 朱理本人の許可もなくなに言ってるんですか!」
「ひぃぃ……奈々子さん、頭に血がのぼってケンカ売ってる……!」
 部屋の隅でぶるぶる震えている正太郎の呟きに、里美はハッとする。
 ここに居る者で、夢魔を撃退できるのは朱理だけだ。
(朱理ちゃんを『起こさないと』!)
 朱理の手を掴み、里美は必死に呼びかけた。
 今なら、夢魔の注意が奈々子に逸れている今ならきっと……!
(朱理ちゃん! みんな、心配してるよ? 心を強くもって! 早く……起きて!)
 下手をするとここに居る全員、どうなるかわからない。
 夢魔の力で全員眠ったままになることも十分考えられる。
「ぬし……わしに逆らうのか? よかろう……ならばぬしも夢の虜になるがいいわ……!」
「勝手なことばかり言わないでください! 自分の主張ばっかり!」
 夢魔と奈々子の言い合いを聞きながら里美は焦った。急いで朱理の意識を戻さねばならない。
 朱理の手から、遠いところから響く歌のようなものが聞こえた。
(歌……?)
 田舎の子供たちが外で遊ぶ時に思わず口ずさむような……そんな、妙な懐かしさをもった歌。
(朱理ちゃん?)
 なんだか、恐怖のようなものを里美は感じる。
 孤独を感じた。朱理から。
(……独りじゃないよ!)
 そう囁きかけた時だ。
 カッと朱理が瞼を開いた――――!
「朱理ちゃん!」
 里美の声に彼女はニヤっと笑ってみせる。
「っ! なぜ……なぜ目覚めた!?」
 驚愕する夢魔。
 朱理は起き上がり、肩をすくめた。
「うるさい友達が多いみたい。おとなしく眠らせてくれないらしいね」
「なに……を……!」
 顔を怒りに染める夢魔に向けて朱理が指先を向ける。
「やるってんなら、相手になるよ……!」
「…………よかろう。ぬしはわしの住処には合わぬようだ」
 舌打ちしそうな感じの夢魔は、ゆっくりと視線を正太郎に向けた。正太郎はびくっと反応してカサコソと畳の上を這い、朱理の背中に隠れる。
「………………なんとも不愉快! わしは帰る」
 きびすを返し、夢魔は壁をするっと通り抜けて出て行ってしまった。
 安堵したのは朱理を除く三人だ。
「あっさり引き下がってくれて、良かったね」
 苦笑する里美に、朱理は言う。
「悪いやつじゃないんだよ。うん」
「庇うんですか? 朱理はあの子のせいでずっと眠ったままだったんですよ! どれだけ私たちが心配したと……!」
 泣くのを堪えているような奈々子に、彼女は微笑した。
「悪かったってば。でも色々あるんだよ」
「あなたはどうしてそう……! もう知りません! 心配もしてあげませんからね!」
 頬を膨らませてそっぽを向く奈々子。
 朱理はそれを見て苦笑いすると、里美に視線を向けた。
「声、ちゃんと聞こえてたよ。ありがと」
「朱理ちゃん…………良かった。心配したんだから」
「うん……呼びかけてくれて、本当にありがとう」
 微笑む朱理が、そのまま冷めたような顔をする。
「ところでさ……あたいの背中に隠れてる正太郎……重いんだけどさぁ、まさかと思うけど気絶してない…………よね?」
 しーん……。
 里美はそっと朱理の背中の向こうを覗く。
 朱理の両肩に手をおいて隠れていた正太郎は、動く気配がない。
 里美は正太郎を軽く揺すってみた。まだ動かない。
 もっと強く揺すると朱理の肩から手が離れ、ゆっくりと横に倒れた。
 見れば正太郎はかたく瞼を閉じたまま気絶していたのだ。
「…………大当たり。気絶してるみたい」
「もー、どうしてこんなに怖がりなんだろー」
 呆れる朱理であった。
 その様子を見て、里美はついつい笑い声を洩らしてしまう。
「すごい顔して気絶してる……! わ、笑っちゃいけないとは思うんだけど……っ」
 もうだめ。我慢できない。
 里美はおなかを抱えて大笑いしたのであった。



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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PC
【2836/崎咲・里美(さきざき・さとみ)/女/19/敏腕新聞記者】

NPC
【高見沢・朱理(たかみざわ・あかり)/女/16/高校生】
【一ノ瀬・奈々子(いちのせ・ななこ)/女/16/高校生】
【薬師寺・正太郎(やくしじ・しょうたろう)/男/16/高校生】

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■         ライター通信          ■
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 ご参加ありがとうございます、崎咲様。ライターのともやいずみです。
 最後はほのぼの的な感じになってますが、いかがでしたでしょうか?

 今回はありがとうございました! 楽しんで読んでいただけたら嬉しいです。