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<東京怪談・PCゲームノベル>


ココロを変えるクスリ【母親の×愛情】



 【ねぇ、貴方との関係は姉妹のような、友人のような・・・】

 【そんな関係だったよね・・・・・・】



☆★☆はじまり☆★☆


 夢幻館へと続く真っ白な道を歩きながら、月宮 奏は今日も美しく咲く花々に心を奪われていた。
 パンジーにスミレに・・・カスミソウなんかもあったりして・・・。
 風が吹く度に儚く揺れる花を見詰めながら、奏は両開きの扉を押し開けた。
 一番最初に飛び込んで来るのは、階上へと繋がる階段と真っ赤な絨毯。
 右を向けばホールへと続く扉があり、左は奥へと続く廊下が・・・ふと、見かけない顔を目にして奏は止まった。
 扉から隠れるようにして佇む1人の少女。
 可憐と言って良い容姿に、ニコニコと可愛らしい笑顔を浮かべている。
 「初めまして。」
 ニコリンと、キラキラのオーラを発しながら挨拶をする少女に、奏は頭を下げた。
 ここの住人だろうか?それにしても、一度も会った事が無い・・・。
 まぁ、訊く所によると夢幻館住人の大半は忙しい日々を過ごしており、滅多に館にいない人もいるらしいが・・・。
 「私、紅咲 閏(こうさき・うるう)って言います。お姉さんは・・・」
 「月宮 奏・・・」
 「そーですかぁ♪」
 ニヤリンと、瞳の奥が妖しく光る・・・・・・・。
 一見するともなと同じ属性にいそうな閏だったが、どうもその瞳の輝きがもなとは違う気がする。
 どういえば良いのか分からないが、純粋なのだが残酷と言うか・・・。
 「あのですねぇ、私・・・今日は奏さんにお願いがあるんです。」
 「お願い・・・?」
 「実はですね・・・じゃーん☆」
 そう言って、閏が背後から小さなカプセルを取り出して奏の目の前に差し出した。
 なんのクスリだろうか・・・?
 「これはですね、ちょーっと素敵な事が起きちゃう不思議なクスリなんです。」
 「・・・不思議な事??」
 「はいvそれは飲んでのお楽しみなんですが・・・それで、奏さんにちょこっと飲んでほしいんですよぉ。」
 と、言われても、ほいほいとそんな怪しいクスリを飲む勇者はいないだろう。
 けれど・・・こうも満面の笑みで差し出されては、断るに断れないと言うのが人の心理だ。
 視たところ、怪しいクスリと言うわけでもない。・・・無論、クスリ自体は怪しい雰囲気を発しているが・・・。
 閏も、悪い雰囲気はしない。
 奏はしばらく考えた後で、閏からクスリを受け取った。
 ササっと閏が水の入ったペットボトルを差し出し、そのあまりの用意の良さに一抹の不安が心の隅を掠めるが・・・あまり考えないようにして、奏はカプセルを口の中に放り入れ、それを水で流し込んだ。
 ゴクリと、喉を通過する固形物の感触に思わず視線を下げる。
 ・・・なんだ・・・何も起こらない・・・
 そう思った瞬間だった。
 急に心臓が早鐘を打つ。
 ドクドクと、耳の直ぐ前で聞こえてくる音は・・・大きい・・・!!
 心臓がはちきれそうになる・・・
 ―――痛い・・・
 奏は思わず左胸を押さえた。
 あまりの痛みに、苦しさに、視界が霞む・・・・・・・。
 痛い・・・苦しい・・・息が出来ない・・・!!
 声を発する事も叶わないまま、奏の体はその場に膝を折った。そして、ドサリと赤絨毯の上に倒れ込む。
 荒い息を繰り返し―――でも、ふと思う。
 これは・・・“痛い”と言う感覚ではないのではないかと。
 そう、言うなれば・・・胸がキュンと締め付けられているかのような・・・。
 「大丈夫ですよ、どうせすぐに切れますから。それに・・・悪いようにはしませんから。」
 クスっと、悪戯な笑みを浮かべながら閏が奏に語りかける。
 すでにぐったりと閉じられた瞳は閏のそんな表情を映し出す事は無く、また・・・閏の言葉ですらも、奏の耳には届いていなかった・・・。


★☆★始まる、関係★☆★


 「んで?飲ませてみちゃいましたーと?」
 「そー☆」
 「そーじゃねぇーだろーがよーっ!!おまっ・・・どんな関係になるかも分からねぇで、よく・・・」
 「大丈夫です☆奏さんは強いです!」
 「そう言う問題じゃねぇぇぇっ!!!」
 「もー!冬弥、五月蝿いんですよ。静かにしててくださいっ!でないと、お2人が起きて・・・」


 そんな声を遠くに聞きながら、奏はふわりと目を開けた。
 霞む視界をなんとかクリアにし・・・ふっと、起き上がってみればそこはソファーの上だった。
 どうやら眠ってしまっていたらしい。
 起き上がった奏を見て、冬弥が走って来る。
 「おい・・・大丈夫か・・・??」
 「気がつきましたか?」
 閏がにっこりと微笑んでそう言い―――奏はそれに軽く頷いた後で、キョロキョロと辺りを見渡した。
 いない・・・
 どこに行ってしまったのだろうか・・・・・??

 ―――― 私の・・・ ―――

 「ママ・・・!」
 ホールの扉が開き、そんな声とともに一目散に奏の所に走って来たのは片桐 もなだった。
 ツインテールをブンとスイングさせ、ソファーに座る奏に抱きつく。
 ギュっと、腕を回し・・・
 「もなちゃん。どこに行ってたの??」
 優しい声色でそう言うと、奏はもなの頭をふわりと撫ぜた。
 「・・・ママ・・・」
 「もなちゃん・・・」
 冬弥と閏が顔を見合わせて微妙な表情をし、しばらくしてから閏が小刻みに肩を震わせ、冬弥が困ったように頭を掻く。
 「起きたら・・・知らない場所にいたの。」
 「知らない場所?」
 「真っ白なカーテンがかかってて・・・大きいベッドに寝てた・・・。」
 怖かったのだろうか。
 大きな瞳には涙が段々と溜まって行き、今にも零れ落ちそうだ。
 「えっと・・・もな・・・っと・・・む・・・娘さんが、眠ってしまったので、ベッドに・・・」
 「寝かしてくれたんですか?」
 ふわりと、奏では滅多にしないような微笑を見せ、肩にかかった髪をそっと背に払った。
 「有難う御座います。」
 「や、別に・・・俺は何も・・・。」
 どう応対したら良いのか分からないと言った様子で冬弥がそう言い、閏に目で必死に訴えるが・・・残念ながら閏にそんな気の利いた感情は備わっていない。
 そんな捨て犬みたいな目で見ないでくれます?とでも言うかのような、いたってクールな視線を返すだけで、なんの助け舟も出そうとしない様はある意味では男らしかった。
 「もなちゃん、お兄さんにお礼を言って?」
 「んっと・・・お兄ちゃん、有難う。」
 にっこり―――あまりにも子供っぽい笑顔に、冬弥の表情が硬直する。
 「う・・・あ・・・あぁ・・・。き・・・気にするな・・・。」
 噛み噛みでそう言って、ポンとぎこちなくもなの頭を撫ぜる。
 なんだかブリキの玩具のようだ。
 「それにしても、私達はどうしてここに・・・??」
 奏はそう言うと、キョロキョロと視線を宙に彷徨わせた。
 ココはいったい何処なのだろうか・・・?勿論、怪しい場所でないのは十分承知だった。
 目の前に佇む男女からは嫌な雰囲気はしないし・・・それどころか、きっと良い人達なのだろう。そんな気がする。
 「ここは夢幻館と言って、簡単に言ってしまえばホテルと喫茶店が混じったような場所なんです。」
 閏がそう言って、にっこりと微笑んだ。
 嘘だっ!!と叫びたいのを我慢して、冬弥もコクコクと大きく首を縦に振る。
 「月宮様は、本日ご宿泊の予定ですが・・・。先ほど娘様と外を歩いているうちに倒れられて・・・日射病にでもかかってしまったのでしょうか。」
 冬なのに日射病!?と、叫びたいのを、なんとか堪える。
 「娘様は途中まで看病なさっていたのですが、眠ってしまわれたので僭越ながらお運びさせて頂きました。お母様も、ベッドに移そうかと言っていた矢先にお目覚めになりまして・・・お体のお具合は大丈夫でしょうか?」
 よくもまぁ、ペラペラとそんな嘘が出てくるものだ。
 「そうなんですか・・・宿泊の・・・」
 「えぇ。」
 にっこりと閏は微笑むと、冬弥にお茶の用意をして来るようにと小さく告げた。
 紅茶とお菓子を直ぐにと言われ、冬弥がキッチンの方へと歩いて行き―――
 「あたし、甘いの好きぃっ!」
 「そうなんですか?それでは、腕によりをかけて作らなくてはなりませんね。」
 元気良くそう言ったもなの頭を閏が撫ぜ、厨房の方を見てきますので、どうぞお寛ぎくださいとだけ告げるとキッチンの方へと入って行ってしまった。
 その後姿を見詰めながら、奏は思わず小首を捻っていた。
 “夢幻館”“宿泊”“日射病”
 なんだか繋がらないその言葉達と、どこかぼやける記憶・・・。
 どうしてだろう・・・何かを忘れている気がする。けれど、いったい何を・・・??
 「ママ!鳥さんがいるよぉっ!」
 ソファーの上に膝をつき、窓の外を眺めていたもなが奏の服の裾をクイクイと引っ張る。
 小さな指が指し示す先、大空を飛ぶ鳥―――――
 戯れるように、クルクルと旋回しながら飛ぶ姿は美しく・・・奏はもなと一緒にその光景に見とれた。
 親子の鳥なのだろうか?
 小さい方の鳥が、大きな鳥にまとわりつくように戯れ―――しばらくしてから、フレームの外へと消えた。
 「鳥さん、可愛かったね。」
 「うん!可愛かったねぇ〜!!」
 もながそう言って、甘えるように奏の腕にしがみ付く。ギュっと握る小さな手は可愛らしくて・・・。
 そう・・・可愛い、愛しい娘・・・。
 かけがえの無い、何よりも大切な・・・大好きな、小さな娘・・・。
 そっと頭を撫ぜる。
 高い位置に結ばれたツインテール。可愛らしいリボンが解けそうになっており、奏は優しくリボンを直してあげた。
 「あの、宜しければお茶のご用意が出来ましたが・・・」
 控えめにそう言って閏が入って来、テーブルの上に真っ白なポットをそっと置いた。
 右手に乗せられたお盆の上には、ポットと同じ真っ白なティーカップが2つ乗っており、甘く芳醇な香りはとても心地の良いものだった。
 奥から冬弥が大皿に乗ったクッキーを片手に入って来て、ポットの前に置くと再び奥に引っ込んだ。
 「あっ!!クッキー!」
 パタパタと走るもな・・・危ないと言おうとする前に、その小さな体が前のめりに倒れこむ。
 べシャっと音を立ててその場にうつぶせに倒れ込み・・・奏は慌てて立ち上がるともなを抱き起こした。
 「大丈夫!?」
 「ふえぇぇ〜〜〜っ!!!いたぁぁいっ・・・!!」
 見れば膝が赤くなっていたが、出血はしていないようだった。
 他にはどこか怪我をしていないかと見るが、どうやら大丈夫なようだ。
 ポロポロと大粒の涙が流れる顔を見詰め、ほっと安堵したのも束の間、奏は厳しい口調で言った。
 「走ったら駄目でしょ!?」
 「ひっく・・・ご・・・・ごめんなさいっ・・・。」
 「お家の中で走ったら危ないって、前に言ったでしょう?」
 コクンと頷き、頬を流れる涙を一生懸命拭う。
 そんな愛らしい娘を胸に抱き、奏は閏の方に顔を向けた。
 「お怪我はありませんでしたか?」
 「あ、大丈夫ですよ。それよりも娘さんは大丈夫でしたか?」
 なんでしたら救急箱を持って来ましょうかと言う閏に、ただの打ち身程度で出血もないから大丈夫だと告げ、丁寧にお礼を言う。
 もなが泣き止むのを待った後で、テーブルに着き・・・クッキーを食べ始める頃には、もなにも笑顔が戻っていた。


☆★☆終わる、関係☆★☆


 もしゃもしゃと夢中でクッキーを食べるもなの横顔を見詰めながら、奏は心の奥底に流れる温かな気持ちに身を委ねていた。
 可愛い・・・可愛い娘。愛しくて、大切で・・・。ずっと、見守っていけたらいいのに・・・。
 でも、きっと先に逝くのは自分だから―――。
 自分がいなくなった後、この子はどうやって育って行くのだろうか。
 そんな事を考えるだけ、虚しいのかも知れないけれど・・・それでも願ってしまうのだ。
 ずっと先、続く、未来の幸せを・・・。
 傍に在るだけ、たくさんの物を一緒に見て感じて、愛していることを伝えたい・・・大切な娘の貴女に。
 愛していると・・・幾ら言っても言い足りないくらい、愛している。
 もしも貴女が哀しい状況に置かれたとすれば、すぐに助けに行ってあげる。
 泣いていたのならば、どうして泣いているのかを訊いて、涙が止まるまで傍にいてあげる。
 でも・・・なるべく哀しい思いをしないように、ずっと・・・笑っていられるように・・・。
 「ママは食べないのぉ??」
 もながそう言って、可愛らしく小首を傾げる。
 頬についたクッキーのくずを取りながら「ママは良いから、もなちゃんが沢山食べなさい」と優しく告げる。
 少し不思議な表情をした後で、うん!と元気良く頷き・・・目の前の大皿からチョコチップクッキーを取ると頬張った。
 紅茶を1口飲む。
 甘い香りは、奏の心を穏やかにさせた―――――


 お茶をし終わり、ソファーで寛いでいると・・・もなが眠たそうに目を擦り始めた。
 目を擦っては、目を瞑りそうになり・・・カクンと首が前に倒れ、驚いて目を覚ます。
 「もなちゃん眠いの?」
 「んー・・・だいじょうぶぅ・・・」
 その声は半分眠ったような声で、とても大丈夫そうには聞こえない。
 まぁ、駄目そうになれば自分で言うだろう。
 それまでは待つことにした。
 窓の外を流れる雲の形はバラバラで、時折右から左に飛び退る鳥の大きさはまちまちだ。
 「ねぇ・・・ママぁ・・・」
 「どうしたの?」
 突然呼びかけられ、奏は窓の外から視線を娘へと移した。
 相変わらずトロンとした眠そうな瞳で、少し恥らったような素振りを見せた後でポツリと小さく
 「膝枕・・・してぇ・・・?」
 と呟いた。
 その様子があまりにも可愛らしくて―――――猫可愛がりしたい気持ちを抑えると、奏はソファーに深く座り込んだ。
 「おいで」と言って優しく招くと、もなが嬉しそうにコロンと膝の上に頭を乗せる。
 膝の上を流れる髪を優しく撫ぜながら・・・奏は何処の言葉とはも分からない不思議な歌を子守唄に小さな声で歌い出した。
 英語ではない響き・・・まして、日本語でもない。
 繊細で美しいメロディーは、奏の声に乗って心地良く響く。
 もながトロンとした瞳をそっと瞑り―――――


     パチン


 と、その瞬間・・・奏の中で何かが弾けた。
 今まで奏の心をギュっと縛っていた何かが無くなり、はっと我に返る。
 思い出す・・・閏から渡されたあのクスリの事―――
 「あー・・・あたし、奏ちゃんと親子になっちゃってたんだぁっ!」
 いつの間にか起き上がっていたもながそう叫び、恐る恐ると言った様子で奏の顔を覗き込む。
 ・・・正直、自分が母親とは複雑な心境だった。
 もしあの思いを母の愛と言うのなら・・・私の母は自分に何を思っていたのだろう。
 ―――もう、訊く事は出来ない事だけれど・・・。
 「奏ちゃん・・・??」
 不安そうな瞳を覗かせるもなに、奏はふっと心に浮かんだ疑問を問いかけた。
 「もなさん・・・どうだった・・・?」
 「ふえ??奏ちゃんがお母さんで・・・って事ぉ??」
 「そう・・・。」
 「んっとぉ・・・」
 もながそう言って、考え込むように視線を宙に彷徨わせた後で、上目遣いでそっと囁いた。
 「嬉しかった・・・よぉ・・・。また・・・甘えたいって、思った・・・。あの唄も、また・・・聞きたい。」
 しどろもどろになりながらそう言って・・・


  あぁ、そうだ・・・。あの唄は昔・・・・・・・・


 「・・・そうだね、可愛い娘の為なら・・・。」
 奏はそう言うと、小さく微笑んだ。
 もなのパァっと輝いた嬉しそうな顔を見詰めながら―――




 【今の2人の関係は・・・】



 【 ――― 姉妹のような、母娘の様な、確かに温かに思い遣る関係 ――― 】 




          ≪END≫


 
 ◇★◇★◇★  登場人物  ★◇★◇★◇

 【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】


  4767/月宮 奏/女性/14歳/中学生:退魔師


  NPC/片桐 もな/女性/16歳/現実世界の案内人兼ガンナー

 
 ◆☆◆☆◆☆  ライター通信  ☆◆☆◆☆◆

 この度は『ココロを変えるクスリ』にご参加いただきましてまことに有難う御座いました。
 そして、いつもいつもお世話になっております。(ペコリ)
 もなと親子関係に・・・なんだかとてもしっくりと来る構図でした(苦笑)
 確かもなの方が年上のはずなのに・・・と思いつつ、お母さんの奏様に甘えるもなと言う図はまったく違和感がなく・・・。
 ふわりとした、柔らかな雰囲気を描けていればと思います。


  それでは、またどこかでお逢いいたしました時はよろしくお願いいたします。