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<東京怪談・PCゲームノベル>


超能力心霊部 サード・コレクション



 鼻歌をうたい、ファーストフード店の二階にあがる。
 いつもと同じように窓際の席でくつろぐ三人組に成瀬冬馬は会いにきたのだ。
「あ、いたいた〜」
 ひらひらと手を振って近づく冬馬は、にこにこと笑顔でいる。
「あ、成瀬さんだ」
「こんにちは」
「はいこんにちわ」
 二人の少女に返事をした冬馬はやたらと嬉しそうだ。
(ほんとに二人とも華があるというか……かわいいよなあ)
 ふふふ。
 そんな冬馬は「あれ?」と気づいた。
 なんだか足りない?
「奈々子ちゃんと……朱理ちゃんしかいないの? まあいいや、一緒にお茶でもしない?」
 その通り。
 三人組の唯一の男性……薬師寺正太郎の姿がない。
 そそくさといつも正太郎がいる席へ腰掛けて、冬馬は二人を見遣る。
 奈々子はいつ見ても目の保養になる女の子だ。
(相変わらず奈々子ちゃんは美人だなぁ〜)
 冬馬と目があうと、奈々子はにこっと微笑する。心臓を鷲掴みにするような笑みだ。
 やはりこの間助けたことの効果が大きかったようである。
(かんわい〜)
 いつもこうならいいのに。
 ヘラヘラしている冬馬を、朱理が呆れた目で見ていた。その視線にハッとして慌てて話題をふる。
「でも珍しいね、正太郎君がいないのって。家の用事?」
「もう帰ったよ、あいつ。なんか気色悪い写真が気になってたみたいだけど」
 写真、という単語を聞いて「……え?」と冬馬が動きを止める。
 この三人は大抵いつも写真絡みで……なにかトラブルが起きるのだ。
(いや、まあボクが出会ったのも写真絡みなんだけどさあ)
「気色悪いって……どんな写真?」
 とりあえず聞くだけ聞いておこう。
「んーとね、正太郎が自画像描いてる写真」
「? 気色悪くないじゃない」
「それが……なんだか少し不気味な顔で描いていて……」
 奈々子も気になるようで目を伏せて言った。
(なるほどね……今回も悪い予感がするなあ)
 呑気な朱理はいいとしても、悪い方向に考え易い奈々子を心配させるわけにはいかない。
(まあ奈々子ちゃんはそういう生真面目なところが魅力ではあるんだけどね〜)
 冬馬はにこっと笑った。
「そんなに気になるなら正太郎君を追ってみようよ。無事に家まで帰ってれば、取り越し苦労だって」



(サイコメトリーで正太郎君の帰った順路を探すしかないかな)
 そう思う冬馬はむっつり黙り込んでいる奈々子に気づいた。
「どうしたの? 大丈夫だって。無事だったらみんなでアイスでも食べよう?」
「……あの写真、薬師寺さんはあんな顔はしないと思うんです」
「?」
「いつも逃げ腰で臆病者の薬師寺さんが……あんな不敵な顔……」
 ひどい言われようである。
(正太郎君は色んな意味で不憫だなあ……)
「正太郎ん家って、たしかこっちだよー」
 おーいと呼ぶ朱理の声に、冬馬は反応した。
「朱理ちゃんは正太郎君の家を知ってるの?」
「え? まあね」
「そうなんだ。じゃあ心強いね。案内してくれる?」
「いいけど……」
 朱理は不思議そうに視線をさ迷わせる。
「? 朱理ちゃん、どうかしたの?」
「んー……いや、なんか…………正太郎の声が……」
 ぼんやりと呟く朱理が何かに吸い寄せられるようにふらふらと歩き出した。
 その危なっかしい足取りに冬馬は朱理を追いかける。
「朱理ちゃん、どうした……」
 の、と続けようとした時だ。
 霧がいつの間にか三人を包んでいることに気づく。
 これほど濃い霧など、一体いつの間に……?
「な、成瀬さん、これは……?」
「よくわかんないけど……」
 戸惑う冬馬は朱理の姿が見えないことに慌てた。
「朱理ちゃーん!」
 声をあげてみるが反応はない。冬馬と奈々子は連れたって朱理が向かった方向へと進んだ。
 やがて目の前に屋敷が見えた。大きく古い屋敷の前には朱理が立っている。
「朱理!」
「朱理ちゃん、探したよ」
 安堵する二人を見もせずに朱理は顔を強張らせていた。
「……なんかいる。ここ」
「ここ?」
 冬馬は屋敷を見上げる。まるで人の気配がしない。
 気になって扉に近づく冬馬。
「待って! 薬師寺さんの鞄じゃないですか、これ!」
 落ちている鞄に気づいた奈々子の声に、冬馬はそれが確信に変わる。
 正太郎はこの屋敷に居るのだ。
 扉を手で軽く押すと、簡単に開いた。
「あの〜、すみません……」
 そっと中をうかがうが、真っ暗だ。
 奥のドアが開く音がし、足音がこちらに近づいて来る。
「ああ、お客さまか」
 シルクハットの紳士で、冬馬は苦笑した。
(め、めちゃくちゃ怪しい〜……なんで今時こんな格好してるのかな、この人)
「あの〜、表に知り合いの鞄が落ちてまして……もしかして中にお邪魔しているかなと」
「残念ながらここには私しかいないのだが」
 愛想よく微笑む男に冬馬は「さてどうするか」と考える。
 正太郎が中にいるのは間違いないようだ。
「成瀬さん……やるってんならあたい、やるよ」
「も〜、朱理ちゃんは力ずくなんだから……。でも、キミの直感は正しそうだ」
 朱理が全く警戒を解かない。彼女の勘が鋭いことは冬馬もよく知っている。ほとんど本能で動くような朱理のことだ。おそらくは……。
(正太郎君は囚われている……)
「あ、すごい絵の数ですね〜」
 話題を逸らして冬馬は中にそっと入る。部屋のありとあらゆる箇所に額縁に飾られた肖像画が飾られているのだ。
 よほどの金持ちなのかと思わせるその絵の数。
「素晴らしいですね〜。なんだか絵が生き生きしてますね」
「ほお。よくおわかりになりますな」
 男が冬馬に関心を示す。
「あ。あそこにあるのはあなたの自画像ですね?」
 男そっくりに描かれた絵を発見した冬馬はそちらに歩いていく。
 朱理の袖を掴んでいる奈々子は、朱理に連れられて屋敷内に入ってきた。男の関心は冬馬に向いているので朱理はさっさと奥へと進む。
「どれも名画じゃないですか。どの画家の作品なんですか?」
「ふふっ。だろう? どれも素晴らしい出来なのだ。実はこれは私が描いているのだよ」
「ええ! ご自分で!?」
 それは驚いた。見かけからして、絵を描くような人物には見えなかったのだ。
「すごいですね……。よければお名前をお訊きしても?」
「いやいや、名乗るほどの者ではないのだ。
 私は気に入った者の肖像画を集めるのが趣味でね」
 くっくっくっ、と喉を鳴らす男に冬馬は冷汗が吹き出る。
(朱理ちゃん……早く……!)
 男は笑いながら冬馬に視線を遣った。
「そうそう……今もね、新しい絵を手に入れたところなのだよ」
「新しい絵……?」
「君はあまり『美味しそう』じゃないね」
 なにを言っているんだこの人は。
 冬馬はそっと、近くの絵に触れた。
 びくっとして冬馬は硬直する。
 自身の能力が発動し、絵から『読み取って』しまったのだ。
(こいつ……霊力の高い人間の絵を描き、姿と霊力を奪ってきたのか……!?)
 ではもしや……正太郎は。
 冬馬の真後ろに突然奈々子が現れた。彼女の特殊能力であるテレポーテーションだ。
「奈々子ちゃん!?」
「うまく目的場所まで出られた……! 朱理が火をつけます、早くここから脱出を!」
 奈々子の手の中のものを見て、男の顔色が変わる。
「……娘、それをどこで……? 返すのだ」
「なにが『返す』ですか! あなたこそ薬師寺さんを返しなさい!」
 奈々子が持っている絵は、正太郎の肖像画だ。
 男はばりばりと己の顔を掻き毟った。
「返せぇ〜……! 大事な絵を返せえええ!」
 皮膚が破れ、その下から新しい顔がうかがう。
 驚く冬馬と奈々子は男と距離をとるように離れていく。
 男の新しい顔は正太郎のものだったのだ。
 はがれた皮膚の下からのぞく正太郎の顔に奈々子は真っ青になる。
「あの写真…………そういう意味だったんですか!」
「え? なに?」
 写真を見ていない冬馬はわけがわからない。だが冬馬の読み通り、この男は正太郎の霊力と姿を奪うつもりだったのだ!
「娘ええええ! 絵を返すのだ! 描きかけの絵なのだぞおおおおおッッ!」
 怒りの声をあげる男は今にも襲い掛かってきそうである。
 だがぴくんと反応して男は振り向いた。
「……焦げ臭い…………?」
「当たりだ、変態!」
 奥から燃え盛る絵を持って朱理が歩いて来る。
「趣味の悪いことしやがって……! ほら、こっちもだ!」
 フッ! と朱理が壁に向けて息を吹きかけた。吐息から炎が発生し、壁に飾られた絵に火が着く。
 半分燃えた絵を床に叩きつけ、朱理は冬馬に言う。
「早くこっから出て! 成瀬さん、奈々子を頼むよ!」
「ああ。任せて、朱理ちゃん。
 奈々子ちゃん、こっちへ」
 奈々子の手を掴んで入口のドアに向けて冬馬は走る。
「おぉおのれぇぇえええ! 逃がすものかああぁぁああぁ!」
 ドアがバタン! と勢いよく閉じた。
 朱理がさらに四方八方に向けて炎の息を吹き付ける。
「おまえの相手はあたいだ!」
「娘ええええ! たいした霊力もないくせによくもぉ! おまえは頭から喰ってやるうううう!」
「やかましいっ!
 成瀬さん早く!」
 朱理の言葉に頷くものの、ドアは開かない。
 ノブを強く引っ張るが、がたがた揺れるだけでびくともしないのだ。
「開かない。ダメだ……!」
「……こうなったらやれるだけやってみます!」
 奈々子が冬馬の手を強く握る。冬馬は彼女が能力を発動させるつもりだと瞬時に気づいた。

 屋敷の外に出たはいいが、二人はうまく着地できずに地面の上を転がる。
「! 成功したみたいですね……ちょっと痛いですけど」
「奈々子ちゃ〜ん……コントロールはまずまずになってるけど……これはちょっとね」
 立ち上がった奈々子はバキ、と真っ二つに折れている絵を見て悲鳴をあげた。
「きゃあああ! え、絵が真っ二つに!」
「…………」
 さすがに冬馬は何も言えない。
 だがその時、屋敷のドアが乱暴に開く。中から朱理が飛び出してきた。
 屋敷からは煙があがっている。
「あ、朱理、え、絵が……」
 震える奈々子の手の中にある絵が消滅し、すぐ横に正太郎が出現した。彼はきょとんとした表情だ。
 急速に霧と共に屋敷が遠ざかっていき、気づけば全員なんの変哲も無い道に座り込んでいた。
「えっと……あの、みんなどうしたの……?」
 正太郎の呟きに、全員が疲れたように息を吐き出したのである――。



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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PC
【2711/成瀬・冬馬(なるせ・とうま)/男/19/大学生・臨時探偵】

NPC
【高見沢・朱理(たかみざわ・あかり)/女/16/高校生】
【一ノ瀬・奈々子(いちのせ・ななこ)/女/16/高校生】
【薬師寺・正太郎(やくしじ・しょうたろう)/男/16/高校生】

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■         ライター通信          ■
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 ご参加ありがとうございます、成瀬冬馬様。ライターのともやいずみです。
 これでフォースまで全て制覇となりました。いかがでしたでしょうか?

 今回はありがとうございました! 楽しんで読んでいただけたら嬉しいです!