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<東京怪談・PCゲームノベル>


Destroy Them All

「いよいよ、退っ引きならない状態になってきやがったぜ」
 ふらりと草間興信所に現れたその男の顔を見て、武彦は思わず息をのんだ。
 男の名は鷺沼譲次(さぎぬま・じょうじ)。IO2日本支部の「A」対策班、通称「フキダマリ部隊」の班長である。

 その彼が現れたということは、IO2がらみの依頼か、「A」がらみの依頼か、あるいはその両方か。
 いずれにせよ、彼が持ち込む依頼は、全て一筋縄ではいかないようなものばかりだった。

「で、一体何があったんだ?」
 武彦がそう尋ねると、鷺沼はソファにどっかりと腰を下ろし、真剣な表情で話し始めた。

「牧瀬の甘言に乗った一部の幹部どもが、アメリカ本部から『新型兵器』とやらを輸入してきやがってな。
 ジーンキャリアやパワードナイトの技術を応用したクローンベースのサイボーグによる特殊部隊だ。
 一切の意志や感情を持たず、ただ目的の遂行のみに邁進する。連中の好きそうな手駒だよ」

 高い戦闘能力を持ちながら一切の自我を持たぬ、文字通りの「駒」。
 上層部に、そしてアメリカ本部に権力を集中させたい彼らからすれば、まさに理想的な兵隊だろう。

「近々、そいつらの実戦テストを兼ねて、つい先日見つけた『虚無の境界』のアジトにクローン部隊だけで殴り込みをかける予定らしい」

 実戦テスト、というには、ずいぶん強気の作戦である。
 アジトへの攻撃が失敗すれば、そこにいた「虚無の境界」のメンバーは再び姿をくらましてしまう。
 その危険性を考慮した上でゴーサインが出ているとすれば、絶対にそうならないという自信があるものと考えてほぼ間違いない。

「『虚無の境界』の連中は叩かなきゃいけねぇが、クローンどもに手柄を立てさせるのはまずい。
 これでますます牧瀬の野郎がでかい顔をするようになれば、アメリカ本部式の管理社会はもう目の前だ」

 そこまで言って、鷺沼は一度大きく息をつき――。

 やがて、声を落として、しかしはっきりとこう言った。
「っつーわけで、だ。
 戦闘に干渉し、あくまで共倒れとなったように見せかけて、双方とも殲滅してくれ」

 実戦テストを兼ねての戦闘であれば、当然本部の「目」はあると思った方がいい。
 それをかいくぐり、あるいはその「目」もろともクローン部隊を殲滅するのは、決して簡単なことではない。
 その上、下手をすれば、IO2日本支部を丸ごと敵に回す恐れもある。

「今回も例によって例のごとく俺の独断だ。
 危険に見合った報酬は出す、と言いたいところだが、正直それすら約束できねぇ。
 だが……ここで止めねぇと、事態は確実にまずい方へまずい方へと向かう。
 今が一番のチャンスなんだ。そのことは、わかってほしい」

 確かに、今回のテストでクローンの能力が認められ、大量のクローン部隊が配備されるようになれば、自然とIO2日本支部の実権は牧瀬たち親アメリカ本部派に掌握されていくだろう。

「命に代えても守りたいものがある。守りたい未来がある。
 そういうヤツだけ来てくれればいい」

 それだけ言うと、鷺沼は少し悲しげに笑って席を立った。

「いつもいつもすまねぇと思ってる。けど……俺じゃダメなんだよ。俺だけじゃ、な」

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 数日後、再び草間興信所に姿を現した鷺沼は、武彦の呼んできた「助っ人」――榊船亜真知(さかきぶね・あまち)の姿を見て、唖然とした表情を浮かべた。
「このお嬢ちゃんだけ……か?」
 今回の依頼内容はかなりの危険を伴うものであり、彼が「それなり以上に戦力になる助っ人を、十分な頭数」揃えてくれることを期待していたことは想像に難くない。
 ところが、実際に彼の目の前に現れたのは、少なくとも端から見る限りはとりたててかわったところのない――もちろん、決して強そうな印象など受けない――高校生くらいの少女が、それもたった一人だけである。
 彼が「悪い冗談なのではないか」と疑ったとしても、一体誰がそれを責めることができるだろう。

 けれども、これは決して冗談などではない。
「ああ。うちの切り札だ」
 武彦が真剣な顔でそう告げると、鷺沼は少しの間武彦と亜真知を見比べ、やがて小さく笑った。
「アンタがそう言うなら、アンタの言葉と、このお嬢ちゃんの力を信じるとしよう」

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「さっそくですが、いくつか鷺沼様にお願いしたいことがあります。
 問題のクローンと、『虚無の境界』のアジトの情報を提供していただきたいのですが」
 自己紹介を終えた後、亜真知は鷺沼にこう頼んでみた。

 一応「A」対策班の班長という役職にある鷺沼だが、彼の部隊は「フキダマリ部隊」と噂される扱いの悪さで、その上鷺沼が反体制派の筆頭であることは恐らくIO2内部でもよく知られていることだろう。
 だとすれば、鷺沼を通じて得られる情報などたかが知れているが、それでもないよりはマシだ。
 亜真知ももともとその程度の期待しかかけてはいなかったが、実際に鷺沼の手元にあった情報は、彼女の予想よりは多少マシなものだった。

「まずクローンの方だが、正直なところまだ俺にもわからないことが多い。
 とりあえず、俺の権限でアクセスできる情報はこれくらいだ」
 そう言って彼が取り出したのは、クローンの外観図だった。
 二メートルを優に超える巨体に、全身を覆う耐魔装甲。
 背には大きな翼とブースターのような物があり、右腕には剣のような物が、そして左腕には大型霊子ビームキャノンや複数の重火器が標準装備されている。
 また、各種オプション装備を取りつけられるスロットも複数搭載されており、元は全く同じでありながら、必要に応じて「索敵担当」「突撃担当」「支援砲撃担当」などを自由に切り替えられ得るらしい。
 唯一難点を挙げるならば、いかに偽装したところで普通の人間の中にまぎれるのは難しい、ということだが、従来のブラスナイトやシルバールークのような使い方を前提にしているのだとすればそれは特に問題になり得ない。
 まさに、切り札と呼ぶに相応しい兵器のようである。

 亜真知が感心していると、鷺沼が再び口を開いた。
「次に敵のアジトの方だが、どうやら敵の新兵器開発所か何からしい」
 さすがに、敵基地の詳細までは鷺沼でも掴みきれてはいないらしい。
「こちらがアジトの存在に気づいていることを、向こうはまだ知らないはずだ。
 現に、最近も物資か何かを運んでると思われる部隊が頻繁に出入りしてる」
 鬼が出るか蛇が出るか、と言うところだが……この作戦を絶対に成功させたいであろうIO2上層部が、そんな危険な賭けに出るとは思えない。
 恐らく、鷺沼には情報が回ってきていないだけで、上層部はもう少し詳しい情報を握っているのだろう。

「あとは……問題のアジトの場所か。
 そこそこ大規模な施設だけに、ちゃんと人里離れた場所に作ってある。
 あまり派手にやるのはまずいが、多少ならドンパチやってもそうそうバレないだろう」
 これは、こちらにとってはかなり有利な材料になる。
 ある程度のスペースがあれば、結界を多少広めに展開しても、無関係な人間を巻き込む危険は少なくて済むだろう。

「と、まあこんなもんだが。
 どうだ、少しでも役に立ったか?」
 苦笑する鷺沼に、亜真知は一度頷いてみせた。
「ええ。これだけわかれば、なんとかできそうです」

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 そして、作戦当日。

 亜真知は、単身作戦区域に乗り込んでいた。
 鷺沼の戦闘能力では手助けどころか足手まといになる可能性が高いので、彼には後方に残ってもらっている。

 亜真知が待ち受けていることも知らず、IO2のクローン部隊がエリア内に進入してくる。
 それを確認して、亜真知は手の中にある星杖「イグドラシル」を起動させた。
『System "Yggdrasill", ready』

 もともと亜真知はとてつもない力を持っているが、その力をある一定の限界を超えて行使することは、この世界に「歪み」をもたらす危険がある。
 そのため、普段はその力を最小限に抑えているのだが、今回のように話が大きくなってくると、さすがにそうも言っていられない。
 そこで、亜真知はこのイグドラシルを持ち出したのである。
 次元の異なる力の変換器兼増幅器としての機能を持つイグドラシルを介してならば、普段の限界よりもはるかに強い力を――といっても、それでもまだまだ全力ではないのだが――世界の「歪み」を心配することなく行使することができる。

「この一帯に結界を展開します」
『Barrier of camouflage』
 亜真知の言葉に、イグドラシルが澄んだ女性の声で応える。
 それと同時に、付近の一帯を「偽装化結界」が覆った。
 これによって、外部からこの内側の正確な情報を得ることはほとんど不可能になり、かわりに亜真知が設定した偽の情報が送られる、という仕組みである。
 もちろん、今回は味方の目まで欺いても仕方がないので、後方で待機している鷺沼には影響が及ばないようにあらかじめ対策を施している。

「これで後顧の憂いは断てたはず……行きましょう」
『Yes, master』

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 IO2の戦力は、予想された通り、クローン兵十八体だけだった。
 そのクローンも、亜真知が各種センサー等に干渉して敵味方を誤認識させたことにより、さっそくつぶし合いを始めている。
 自我を持たない彼らは、つい先ほどまで仲間だった相手でも、一度敵と認識すればためらうことなく引き金を引く。
 戦場では本来プラスとなるはずのその特徴が、彼らの全滅を早めたと言っていいだろう。

 そこまでは、亜真知の思惑通りだったのだが。
 問題は、むしろ「虚無の境界」の側だった。

「……これは?」
 アジトと思しき場所からぞろぞろと出てきた奇怪な霊鬼兵の集団に、亜真知は首をかしげた。
 ここで開発された新型の霊鬼兵……にしては、どれもこれもわけのわからない姿形をしており、とてもではないが実用に耐えるものとは思われない。
 亜真知がそのことを不審に思っていると、彼女からの映像を受け取った鷺沼が小さくため息をついた。
『新型っつーか、試作型……のなかでも、失敗作ばかりみたいだな』
「ということは、すでにこのアジトは……」
『放棄されたと見て間違いなさそうだ。
 おそらく、IO2内部の誰かが敵さんに情報を流したんだろうぜ』
 彼は呆れたようにそう言うと、精一杯の空元気でこう続けた。
『いい方に考えりゃ、俺以外にも牧瀬を止めようとしてくれたヤツがいたってことだ。
 さすがにこんな手を使うのは褒められたことじゃねぇが、なりふり構ってられる場合でもねぇしな』
 もちろん、そんなはずがないことは、当の彼自身が一番よくわかっている。
『……が、さすがにそこまでのヤツはいないだろう。
 それよりは、本物のスパイが紛れ込んでる方がまだあり得るってもんだ』

 彼の話によれば、現在IO2の上層部と現場、親アメリカ本部派と反アメリカ本部派の間の溝は相当深まっているらしい。
 そんな状態であれば、「虚無の境界」がスパイを数人潜り込ませることなど、さして難しいことではないだろう。

 ともあれ、そんな内情はどうでもいい。
 さしあたって問題となるのは、この事態にどう対処するか、である。
「さすがに、これと相討ちは無理がありますね」
 いかにクローンを無能と見せかけるにしても、さすがに物には限度というものがある。
 ここまでワケのわからない相手と相討ちでは、納得しない人間は少なくないだろう。

 が、鷺沼は少し考えた後でこんな答えを返してきた。
『いや、どうせ偽装化結界は展開済みなんだろ?
 だったら、敵は予定通りそこそこのがいたことにすりゃあいい。
 その反応いかんで内通者の正体も割り出せるかもしれねぇし、一石二鳥だ』
 なるほど、確かにそういう手もある。
 実際に内通者が割り出せるかどうかはわからないが、まあ、それは鷺沼の仕事であって、亜真知の関知するところではない。
 そう結論づけて、亜真知は霊鬼兵の排除に移り……それが、八割方完了した頃だった。

『Warning!』
 不意に、イグドラシルが声を上げた。
 放棄されたはずの基地の中に、何かがいる。
 試作型霊鬼兵どころか、クローン部隊をも上回る力を持つ、何かが。
「……来る!?」
 霊鬼兵の残りを片づけ、亜真知がアジトの正面に降り立ったのと、アジトの扉が開いたのは、ほとんど同時だった。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 アジトから出てきたのは、一人の金髪の男だった。
「はてさて……相手は悪趣味な化け物部隊と聞いていましたが?」
 悪趣味な化け物というのは、恐らくIO2のクローン部隊のことだろう。
 だとすれば、この男はクローン部隊を迎撃するためにここに残っていた、ということになる。
 そして、この気配――これに似た気配を持つ相手と、亜真知はかつて何度か遭遇したことがあった。
「あなたは、『虚無の境界』……では、なさそうですね」
 亜真知の問いかけに、男は不気味な薄笑いを浮かべる。
「時折『虚無の境界』に力を貸してはいますが、ね」

 やはり、この男は誰かに似ている。
 外見や性格といった細かな要素ではなく――存在の本質的な何かが。

『……まずいな』
 通信機ごしに、鷺沼の慌てたような声が聞こえてくる。
『そいつは「アドヴァンスド」の「コーン」だ。
 正直かなり厄介な相手だ。危険だと思ったら無理せず下がってくれ』
 その言葉で、亜真知の疑問は氷解した。

 これまでに関わったいくつかの事件で、亜真知は「アドヴァンスド」と名乗る人物のうち三人に会っている。

 貪欲に知識を求める探求者「ヘリックス」。
 ただひたすらに強さを求める戦士「コラム」。
 そして、己の快楽のためだけに動く虚構の王「プリズム」。

 目の前の「コーン」も、彼らの仲間であるらしい。
 だが、彼には他の三人と決定的に違うところがあった。

 亜真知が以前に出会った三人は、皆善悪という価値観を超越していた。
 彼らは自らの目的のために悪を為すことを恐れなかったが、少なくとも邪悪ではなかったと言える。
 けれども、今目の前にいる男は、明らかに強い邪気を纏っていた。
「まあ、相手が誰であろうと、私は任された仕事をするだけです」
 その邪気が、殺気となって膨れあがる。
 彼が求めるものが何なのか、そこまではわからないが――その手段として彼が戦いを望むのであれば、応戦するより他に手はない。
 間違いなく、これまでの敵とは桁違いの実力を持つ相手だ。
 亜真知はもう一度気合を入れ直すと、静かにイグドラシルを構えることで戦いに応じる意志を示した。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

『Fire!』
 理力を光弾に変え、連続して撃ち出す。
 その一発一発が、先ほどのクローン程度なら軽く吹き飛ばせるだけの威力を持っている。
 それでも、コーンを倒すには至らなかった。
「……くっ!」
 ある程度のダメージを受けつつも、その右手に破壊の意志とエネルギーを凝集させ、コーンは必殺の一撃を放ってきた。
「これでっ!」
 これが直撃すれば、亜真知といえども無傷ではいられまい。
 しかし、「戦女神」とも呼ばれる戦闘モードに入っている今の亜真知には、それを防ぎ止められるだけの力が備わっていた。
『Shield』
 イグドラシルの先端から展開されたシールドが、コーンの一撃を受け流す。

「バカな! 直撃のはずだ!」
 呆然とするコーンに、亜真知はきっぱりとこう言いはなった。
「あなたに、わたくしは倒せません」

 それは、まぎれもない事実。
 だが、その事実を事実として受け止められるほど、今のコーンは冷静ではない。
「この私を……見下したようなセリフははかせんっ!」
 一瞬にして、彼の姿が悪鬼のような姿に転じる。
 それによって能力をさらに高めたコーンは、一瞬にして亜真知との間合いを詰め、先ほどの一撃よりもさらに強力なエネルギーを、自らの拳に込めて亜真知にぶつけてきた。

『Shield, Full power』
 亜真知のシールドと、コーンの拳がぶつかり合う。
 その二つの力が、激しくせめぎ合い……。





「……っ!」
 全身全霊の力を込めての一撃を防ぎ止められ、コーンが慌てて数歩後退する。
 その機を逃さず、亜真知は再び攻勢に転じた。
「イグドラシル」
『Eraser Cannon... ready』
 シールドを維持していた分の理力が、イグドラシルの先端で巨大な光球へと姿を変える。

 これなら――やれる。

『Fire!』
 その声とともに、光球は光の帯となり、コーンの身体を飲み込んだ。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 亜真知が異変に気づいたのは、その直後だった。

 目の前の、ちょうどコーンがいた辺りから、明らかに異様なエネルギーを感じる。
 まるで――無限のエネルギーが、今まさに暴走を開始しようとしているかのような。
「まさか!?」
 放っておけば、この世界……とまではいかずとも、この一帯は――それが関東一円ですむか、日本全体を飲み込むか、あるいはより広範囲に及ぶかはわからないが――ただでは済まないだろう。
 とはいえ、これを力ずくで抑えこむには、かなりの力を必要とする。
 いかにイグドラシルの支援があるとはいえ、それほどまでの力を行使すれば、ある程度の「歪み」が起きることは避けられない。

「それでも――やるしかなさそうですね」
 どちらにせよ悪影響が出ることは免れ得ないのであれば、より影響が少なく済む方法を選ぶ。
 亜真知はその「混沌」を抑えこむべく、イグドラシルを構えた。

 と。
 不意に、亜真知の目の前で、空間が「折りたたまれた」――奇妙な表現であるが、立体であるはずの「空間」が、あたかも平面上のもののように折りたたまれた、としか言いようがない。
 そのことに驚く間もなく、その「混沌」の存在した空間は、二つが四つ、四つが八つと折りたたまれ、ついには小さなサイコロのようになってしまった。
 そのサイコロを、白いスーツの少年が手に取り、そっとポケットにしまい込む。
「全く、これだから小物は困るね。
 自分からケンカを売ったあげく、返り討ちにあって力を暴走させかかるなんて」
 苦笑しながら軽く肩をすくめたその少年こそ、「プリズム」に間違いなかった。
 彼の行動パターンからして、コーンの援護に来た、という可能性は低いが、ゼロではない。
 念のために亜真知が身構えると、プリズムは困ったように笑った。
「ボクはキミと戦うつもりはないし、彼の計画もボクの知ったことじゃない。
 ボクはただ出来の悪い身内を回収に来ただけだよ」

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 それから数日後。

「クローン部隊があっさり全滅したことは、上にとっちゃ少なからぬダメージになったらしい。
 原因を探ろうにもクローンの残骸すら見あたらないんじゃどうしようもないっつーことで、この話は立ち消えになりそうだ。
 ま、忘れた頃にまた蒸し返してくる腹づもりだろうが、当分はないだろう」
 鷺沼の報告によると、少なくとも上層部の思惑を打ち砕くという点においては、作戦は十分な成果を上げたらしい。
「内通者の方は、残念ながら見つけられなかった。
 当分の間は、こっちの動きが読まれてるものと考えて動くしかなさそうだ。
 下手に裏をかこうモンなら、どうして俺が内通者の存在に気づいてるのか、ってことになっちまうしな」
 こちらの方は、相手が一枚上手だったと言うべきだろう。
 鷺沼は揺さぶりをかけてみたようだが、こちらも表沙汰にできない事情があるせいか、犯人を絞り込むまではいかなかったようだ。
 それ自体は残念なことではあるが、まあ、これはそこまで急を要することでもない。
 あとは、IO2内部でどうにかして解決してもらうべきだろう。

 そんなことよりも、亜真知には一つ気になっていることがあった。
『ボクはキミと戦うつもりはないし、彼の計画もボクの知ったことじゃない』
 プリズムが、何気なく口にしたその言葉。
「彼の計画」ということは……プリズムは、恐らくこの一連の騒動の黒幕を知っている。
 そして、それは彼の仲間、つまり「アドヴァンスド」の一人である可能性が高いだろう。
 だとしたら、彼らの性格を考える限り、このまま黙って引き下がるとは思えない。

 それを知ってか知らずか、鷺沼の方はなぜか妙にご機嫌だった。
「……にしても驚いたな。
 まさかあのコーンのヤツをああもあっさりと撃退するなんて」
「言っただろう。うちの切り札だと」
 感心したように言う鷺沼に、武彦が満足そうに頷く。
 どうやら彼にとっては、亜真知と知り合えたことの方が何よりの収穫であるらしい。
「いや、最初は疑って本当に悪かった。
 相手を見た目で判断しちゃダメだって、頭では理解してたはずなんだけどな」

 彼が、この一連の騒動の真相についてどこまで気づいていて、どう対処することができるのか。
 気にならないと言えば嘘になるが、これ以上気にしても仕方のないことかもしれない。
 特に、「アドヴァンスド」が絡んでいるのだとすれば、下手に刺激するのは得策ではなさそうだ。

 この先事態がどう進んでいくか、今はただ見守るしかないだろう。
 彼女が介入するのは、事態が急を要するようになってからでも決して遅くはないのだから。

 そう、例えば、今回のように。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

 1593 / 榊船・亜真知 / 女性 / 999 / 超高位次元知的生命体・・・神さま!?

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■         ライター通信          ■
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 撓場秀武です。
 この度は私のゲームノベルにご参加下さいましてありがとうございました。

 クローンだけでは明らかに敵が弱そうでしたので、急遽敵側に少しは相手になりそうなのを加えてみましたが、いかがでしたでしょうか?

 もし何かありましたら、ご遠慮なくお知らせいただけると幸いです。