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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


□ 満たされる器 □



【 opening 】

 最初、事件の関連性があるとは思われていなかった。

 一人の人間が突如倒れ、死亡した。
 それはごく普通の急死扱いで、大きな新聞記事にもならなかったが、小さくは扱われてはいた。
 毎週、同じ様な記事がつづけば関連性に気付く筈なのだが、突然死は稀な事ではない昨今だ。
 その記事の類似性に気付いたのはソフィア・ヴァレリーだった。
「こういうのって、碇さん向きだよねぇ……」
 自分から解決する気も、適切な機関に情報提供をする気の全くないソフィアは、ネタになるかもと、アトラス編集部へと向かった。
 まともに相手をしてくれそうなのはアトラス編集部くらいしか無いというのもあったが。
 編集部に顔を出した時、ちょうど新聞を読んでいた碇・麗香にその事を伝えると、
「オカルトの匂いがするわ」
と、直感的な勘が働いたのか、麗香は直ぐに情報を集めさせ始めた。
「俺はそういうのの担当じゃ無いので協力はしないですよ?」
「三下君は……、あぁ、別の件で使いっ走りに出してるんだったわ」
 麗香は数瞬の間考えると、ソフィアを見上げて言った。
 三下君が居ないとは、珍しい事もあるものだとソフィアは内心呟く。
「興信所の方には依頼の連絡をしておくから、資料持って行って貰えるかしら」
「三下君の代わりですか。いいですよ、その代わり情報集まるまでの間、お菓子頂きますよ?」
「いいわよ、それくらい。後はよろしくね」

****

毎週、月曜日の00:00時間に死亡している。
性別、年齢に区別は無い。
今は第四週目に入っている。
00:00に死亡した人数は、第一週、5人。第二週、4人。第三週、4人。第四週、3人。合計16人。

****

「と、いうわけです」
「何が、というわけです、だ」
 厄介な依頼を持ってきたソフィアに草間武彦は不機嫌そうな顔を向けた。
「俺は碇編集長に頼まれただけですから、頑張ってくださいね」
 ソフィアはにこにこと笑顔を草間に向けると、資料を差し出した。



【 1+日常に潜む 】

+1a+

 シュライン・エマは春めいた風に黒髪を靡かせながら、草間興信所の扉を開けた。
 桜餅の入ったビニール袋を手にして、草間武彦に少し上に掲げて見せる。
「武彦さん、桜餅買って来たのよ。一緒に食べましょ」
「お、桜餅か。塩味が甘過ぎなくていいんだよな」
 草間は口に銜えていた煙草を危ういバランスを保って山になっている吸い殻の上へと、更に乗せる。
 その慣れた仕草にシュラインは半ば感心しながら、肩を竦めた。
「ホント、よく崩れないわね、その吸い殻の山。気になるから、この吸い殻入れに入れてって言ってるのに」
「山になり始めたら、そこまで持っていく時に崩れるだろう? そうなると掃除しないといけないじゃないか」
(お茶の用意をする前にまずは吸い殻を片づけないと、せっかくの春風を呼び込むのに風に飛ばされちゃうわ)
 給湯室という名が一番しっくり来る台所へ引っ込むと、直ぐに大きめの蓋付きのスチール缶の取っ手を持ち戻ってきた。
 勘亭流のフォントで『吸いがら入れ』と赤文字で書かれた缶だ。
「はい、武彦さん。此処に入れて」
 ぱかっと蓋を取り、缶の中に入れるように言う。
「おう、入れるは入れるが、もう少しそのままで待機だ」
「了解」
 シュラインの口からくすりと笑みが思わず零れる。
 そろーっとそろーっと、オフィス机の上をすべらせて進め、山を崩さないようにと普段の大雑把な行動からは考えられない慎重さで、ようやく草間はスチール缶へと吸い殻を投入した。

 暫くの間二人で桜餅を堪能した後、草間が書類をテーブルの上に置いた。
「どうしたの武彦さん? お仕事?」
「まぁ、そんな所だ」
 カチリとライターの火をつけ、紫煙を燻らせる。
 どんな内容かしらとシュラインは書類を手にして読み進めた。

「これって、解決じゃなくて原因解明でいいのよ………ね? だって、碇さんからの依頼になる訳だから」
「そうだな。ただ、碇の場合はあわよくば調査途中に上手く一挙解決してくれれば一挙両得だと思ってそうだけどな」
 計算高い碇の事だ、それは勿論あるだろう。
「この人数って減っている様に見えるけれど、どうなのかしらね……、流石に待って犠牲者が出るのを待つ訳にはいかないし……。まずは死亡場所に、病院、年齢かしら、他には月齢とかも関係あるかもしれないから調べましょ」
「ん……? 引き受けるのか、シュライン」
「そうよ、だって資料まであるし、気になってたのよね。ここのところ新聞に載ってたし。同じ原因で毎週同じ曜日に載るんだもの、何か謎がありそうじゃない。ソフィアさんからっていうのももちろんだけれど。碇さんに持って行く位だもの、なにかありそうなのは明かよね」
「好奇心猫をも殺す、にならなけりゃいいだが。くれぐれも危険な状況になる前に連絡しろよ。碇の奴、危険じゃない依頼って滅多に持って来ないからな」
「あー……そうかも。まぁ、引き受けちゃったからにはやるわ」
(今更、危険そうだからと手は引けないものね)
 そういってシュラインは興信所を後にした。


+1b+

 学校の校門前で二人は立ち止まり、友人は黒髪の綺麗な少女を見上げる。
「たまにはメルちょうだいね。理緒ってば、休日は忙しくてメルちょうだいっていっても全然くれないんだから」
「うん、時間が空いたらメルするよ」
 さらりと風に黒髪を靡かせ、微かに口元に笑みを浮かべて幾分小さい友人をみる。
「じゃ……じゃぁ、ひとまずは月曜ね」
 微かに頬をピンク色に染めて、それを隠すように慌てて手を振って理緒とは反対方向へ帰って行った。
 友人と別れた桜月・理緒(おうつき・りお)は帰りに、インターネットカフェに足を運ぶ。
 不可思議な現象や公になっていない事件、勿論新聞を賑わす事件も違った切り口で書き込まれている事もあって、度々覗いていた。
 ゴーストネットOFF管理人である瀬名・雫に会うのが一番の目的かもしれない。
 色々な怪奇情報を検証して、手伝って貰う雫とは依頼料は発生しないが、依頼人と調査員という立場が近いだろう。
 ひょんな事から手に入れた怪異転送プログラムのお陰で、日常的にそういった出来事に遭遇する様になったからだ。
 嬉しいのか嬉しくないのかは、既にそんな単純な好き嫌いの位置ではない。
 身に付いた物は活用しなければいけないと思う。
(私は異能を持たない人達に比べて、対処法があるのだからね)
「雫さん、何か気になる投稿ある?」
 敢えて面白そうな投稿とは言わない。
 たぶんにして真実が多いというのもあるが、助けを求める真剣な物も数多くある為に、気軽にいうのはどうかと思うからだ。
 少し生真面目すぎるかもしれないと思う時もあるが、そういった事件に対処する事が多くなって、真摯に対峙していたいと思うようになった。
「あ、理緒! グッドたいみーんぐっ! あるよー、投稿。といっても麗香ちゃんから言われて気になりだした奴だけれど」
「アトラス編集部の碇編集長さん?」
「うん、そう」
 投稿を読み進めていくと、理緒は呟く。
「ふむ、決まった曜日と時間に人が死んでいる様に見えるって事かな。月曜日の深夜0時に。詳しくは調べてみないといけないけれど、調べてみる価値はあるかな」
「理緒、調べてくれる?」
「構わないよ。決まった曜日に人が死ぬんじゃ、誰かが原因突き止めないと、ずっとつづくかも知れないからね」
(早く調べないと、今日は金曜日……)
「じゃ、麗香ちゃんが武彦ちゃんに原因の解明をお願いしてるから、よろしくね!」
「草間さんの所に行く前に、ネットで情報収集をしてから向かおうか」
 他にも図書館というのもあるよねと内心回るところを思い浮かべて。



+1c+

 櫻・紫桜(さくら・しおう)は学校での部活動を終えて、草間興信所へと向かっていた。
 夕刻に近い時間、春本番とは言えない時期空はまだ薄暗く、やはり冬はまだ明け切っていないのだと思わせる。
 部活動は参加する方ではなく、既に段持ちである紫桜は学生ではあるが、監督する側だ。
 数多くある部活動でも古武道部員は部員が少なく、やっと部として成り立つ最少人数だが、それだけに古武道が本当に好きだからと活動している人間ばかり。
 部としての規模に拘らない紫桜は、真剣に取り組む部員達に頼まれ指導を引き受けた。
 流石に毎日という訳ではなかったが。
 清廉さを感じさせる今では珍しい詰め襟の学生制服は、紫桜本人の真っ直ぐさを際だたせる役目を果たしている。
 人が多く行き交う交差点で、紫桜は何処からか風に運ばれてきた花びらをグレイの手袋で包まれた手で捕まえた。
(桜と思ったら、これは白梅ですね)
 何処から飛んできたのだろうと視線を周囲へと向けると、樹が一本ぽつんとあった。
 樹が植わっている所は何とか土の地面が見えているようだが、その他はアスファルトで固められていた。
 公園の入り口にあり、白梅はまるで目印の様だ。
 信号が青に変わり、進行上にある白梅の樹の方向へと足を向ける。
 白梅は桜と同じ薔薇科の樹で、名前に桜、旧字体で櫻の名を持つ紫桜にとって、親近感のある樹だ。
 随分と花びらは散って、地面に白い雪を降らせていた。
 昔は数多く万葉集に読まれていたりして、好まれる樹なのだが、今では桜の方が人気だ。
 儚く散るその潔さに美しさを感じるのだろう。
 梅は梅で白梅なら梅の実が出来て、目で楽しんで舌で味わう事ができて良いと思うのだが。
「うん……?」
 少し離れた所にある公園のトイレ側に花束が添えられて居たのに気付いたからだ。
(此処で不幸事があったみたいですね……)
 紫桜はその花束に神妙な気持ちになりながら、その場に漂う雰囲気を不審に思った。
「亡くなってから間がなければ、しばらく留まって居る事もありますから、多分それだとは思うのですが……。今度また通りがかった時に変化がなければ対処しましょう」
 霊が居るからと、問答無用に消滅させてしまう意志は紫桜には無かった。
 霊といえど、人間のように思考するものだと思っているからだ。
「この辺りの出来事は草間さんに聞いた方が詳しそうですね」
 そう思った紫桜は公園を出ると、興信所へと向かった。

 はらり、と白梅の花びらが地面に落ちた。



【 2+埋没する悪意 】

+2abc+

 興信所近くの図書館へとやってきたシュラインは、此処四週間の新聞記事を洗うべく、数社分の新聞紙を閲覧し始めた。
(あら……、突然死と判断されて新聞に載っている記事を見る限り、みんな場所は近いのね)
 他紙に載っているのは大体同じ情報量だ。
 何処もそれ程、重要度が高いとは思わなかったのだろう。
 場所を持参した地図に赤ペンで日時も一緒に書き込む。
 近くに病院が無いかみてみるが、この辺りにあるのは一件だけのようだ。
 ということは、運び込まれている可能性が高いのはこの病院だろう。
 病院には青ペンで丸をつける。
 シュラインはふと思いついて、俯瞰的に地図をみてみた。
「………。」
 途中、気付いた点に思わず、
「あっ……!」
 慌てて口元を押さえて周囲を見渡して様子を見るシュライン。
 幸い平日で閉館時間も近づいていたせいもあり、人気は無かった。
 とはいえ、図書館では静かにするのがマナーなわけで、シュラインはその辺りのマナーは熟知していたので、申し訳なく思ったのだ。
(順番になぞると、星形になりそうだわ…、このままだと次は頂点の部分へと戻るのだと思うけれど…星形って何かあったかしら)
 赤ペンを手にして連想される形を思い浮かべていく。
(正五角形…、五芒星……魔術的な物? あぁ、でもこの形は数学的には黄金比って奴じゃなかったかしら)
 以前目にした数学の内容を思い出しつつ。
(自然界にも多くあって、花弁の数は安定的な力が働くからって聞いた事があるわね。建物だとピラミッドやパルテノン神殿。現代建築だとアメリカのペンタゴンね。犠牲者とはまだ確定しないけれど、仮定として突然死の人達が犠牲者だとすると、次の月曜0時がリミットだわ………)
 月曜になれば、その結果が判明するのだろうが、生憎と犠牲者が出るまで待っている程、結果主義でも無い。
 予測される犠牲は出来るだけ避けたいと思うもの。
 週によって人数が違うのは、正五角形の点近くにいる人間が犠牲になっているからだろう。
 形の効果範囲から外れて居た為に助かったのかも知れなかったが、犠牲者が少なかった週は単に運が良かったのか。
 結末がわかれば、0時に起こる現象を阻止して無い事も起こらない様にしたい。
 此処で調べられる事は大体済んだと判断するとシュラインは席を立った。
 地図などをショルダーバッグに入れ、図書館を出ようとした時、見知った顔を見つけ声をかける。
「こんにちは、理緒さん」
「ん?」
 立ち止まった理緒は振り返り、シュラインを見て、
「あ、シュラインさん」
「そろそろ閉館時間よ?」
 理緒は雫に会ってからネットで調べた後、図書館にも足を運んでから草間興信所へと向かおうとしていた。
「調べ物があったんだけれど」
「調べ物ってもしかして、依頼の件かしら?」
「多分、同じ物だと思うけれど。草間さんからまだ受けたわけじゃないんだけど。雫さんから碇さん経由で草間さんに依頼が行ってるって言うのは聞いてるよ」
「じゃ、私がさっき調べていた中に、理緒さんの調べようとしていた情報があると良いのだけれど」
「じゃ、興信所の方でお願いします」
「そうね、地図とかも広げないといけないし。他にも調査引き受けてくれた人が来ているかも知れないし」
 二人は肩を並べて、興信所へと向かった。


 興信所の扉を律儀にノックして、主の応答を聞いた後、扉を開けて顔を出したのは紫桜だった。
「こんにちは、草間さん」
「良いタイミングで来たな。お、それは何だ?」
 草間は紫桜が手にしているビニール袋を見て言う。
「これですか? 此処に来る途中、白梅を見たので団子が食べたくなって買ってきました。良かったらと思って。一緒にどうですか」
「頂く頂く。さっきもシュラインと桜餅食べたんだがな、この季節の和菓子は甘くないのが多くていいよな。あー、年中売ってるけど、まぁ、その辺は気分だ気分」
「それはありますね」
 草間の言い分に同意すると、紫桜は途中、気になった事を聞く事にする。
「草間さん、此処に来る途中にある白梅の見える公園で、最近何か事件でもありましたか? 供えてあった花束が気になったので」
「白梅の……綺麗だよな、あの樹。ちょうど見頃だったろう?」
「見頃ですか……? もう随分と散ってしまっていましたよ?」
「日曜ぐらいから咲き始めていたから、ちょうど今頃が見頃なんだが。おかしいな」
 どうにも紫桜と草間の意見が食い違っているらしい。
 紫桜は、見てきた白梅の見た公園のある所までの道順を口頭で説明する。
「それだぞ、俺が言ってるのは。今週は雨も降らなかったのにな……謎だな」
「何かあったのでしょうか」
 思案気味な表情で、紫桜は顎に手をやる。
「何か…、あぁ、そうだ。その公園で酔っぱらいが死んでたんだ。発見されたのは月曜の朝だったな」
「月曜……」
「ああ、特に他殺の形跡も無かったし、そう大きな事件として取り上げられなかったな。……月曜じゃないか?」
「月曜に何かあるのですか?」
「そうだ。ちょうど良い時に来たっていうのがそれで。どうだ、依頼引き受けてくれないか?」
「依頼ですか、内容にも寄りますけれど、構いませんよ。どの様な内容ですか? 詳しく教えて下さい」
 草間は紫桜にソフィアが持ってきた依頼について話し始めた。


「ただいま、武彦さん」
 シュラインが理緒と共に戻ってくると、そこに居た紫桜にも挨拶をする。
「こんにちは紫桜さん。紫桜さんも依頼を受けたの?」
「こんにちはシュラインさん。はい、よろしくお願いします」
 紫桜は後から入ってきた理緒にも挨拶をする。
「こんにちは、理緒さん」
「紫桜さん、依頼ご一緒よろしく」
「武彦さん、調査員はこれで全員ね?」
「ああ」
 紫桜は先ほど持ってきた団子の入った袋ををシュラインに渡すと、
「あら、此処の和菓子屋さん美味しいのよね。さっき武彦さんと桜餅食べたのよ」
「草間さんが言ってましたね、そういえば」
「一日に二回食べられるなんてラッキーだわ」
 用意して来るわね、とシュラインは言い残すと給湯室に引っ込む。
 その間、理緒はシュラインが出しておいた地図やメモを広げて見る。
 理緒と紫桜は地図を見て、互いに気付いた点に目を見開いた。
「おまたせ」
 お盆に団子と煎茶の入った湯飲みを乗せてシュラインが戻ってきた。
「頂きます」
「いただきまーす!」
「むぐ……」
 三人三様の返答にシュラインは嬉しそうに、くすりと笑みを零した。
 
 三人はシュラインが調べてきた内容を聞く為に耳を傾ける。
 紫桜は来る途中に見た白梅のある公園で見た光景が、依頼に関係のある物だと分かると考え込む。
(人だけではなく樹にも影響があるのでしょうか……それなら、白梅の花びらがかなり散っていたのも頷けます)
「この形なんだけど、五芒星で正解だよ。逆五芒星だと頂点が下になるし、日にちでみるのならちゃんと正五芒星になってるし」
「そうなの?」
 怪異転送プログラムのお陰で、大抵の術式や魔法陣なら一目でそれが何なのか瞬時に判断できる理緒は、それが後一回、月曜の0時で完成するものだと気付く。
「コレ、あと一回でエネルギーが充填されて満たされるけれど、何に注ごうとしているのかな。この術を完成させようとしている人は多分、魔術師じゃないよ。五芒星って、本当は護符や魔法円を浄めたりするのに使う物だし。エネルギーを満たす、という点では叶った形なんだけど、大規模すぎるからね」
「この地図を見る限り、最終地点は予測できますから、その場所に足を運んで確かめてみたいですね」
 紫桜はリミットまで待つ事もないでしょうと、確認する事を提案する。
 黙って犠牲者を増やさせる事も無いと考える紫桜は、先手をうって阻止するのが一番だと思う。
「エネルギーの流れをその場所に注ぐ事が目的なのかしら」
 その場所には一体何があるのか、少し怖いと思うシュラインだ。
「次の場所には何があるんだ?」
 シュラインの不安そうな声が気になったのだろう、草間が疑問に思い覗き込み、嫌そうな表情を浮かべた。
「何なの? 草間さん」
 理緒が草間に訊ねる。
「あー、墓場だ……それも外国人墓地の方」
「それって…」
「もし、その場所にエネルギーが注がれたら出来上がって来るのは西洋風にいうと、ゾンビって事?」
「だな」
「ゾンビですか。埋葬されている誰かを蘇らせる事が最終目的なのでしょうか」
「16人分のエネルギーだから綺麗に蘇るとは思うけれど、一時的な物なのにね」
「誰かを蘇らせる為に、16人の犠牲……やるせないわね」
 蘇らせたいのはその人に取って大切な人なのだろう。
 だが、だからといって犠牲を強いて、摂理を曲げてまで蘇らせるのは、それは望んだ大切な人本人なのだろうかと思う。
 愛される者に取って、此処まで愛されるのは本望なのだろうか。
 それは本人達でないと分からない事だが。
「0時前に墓場の入り口で張って、入ってくる人間が居たら確保で良いのでは無いでしょうか」
「五芒星はそれまで作動させたままで良いと思うし」
 現場でなら、魔法陣をどうにでも対処できると判断した理緒が請け負う事に。
「気になる事はそれまでに調べておいて、集まるのは現場にて集合でいいかしら」
「ええ」
「うん」
 二人が頷いたのを確認すると、シュラインは夕ご飯食べて行く?と聞いた。



【 3+そして暴かれる正体 】

+3abc+

 日曜の午後11時を半ば過ぎた頃、集合した4人は墓場への入り口がよく見える場所へと姿を潜ませる。
 皆が集まったのを確認すると、草間は姿を消した。
 入り口の他に、駐車場側から入る事の出来る狭い入り口があるらしく、そこを見張りに行ったのだ。
「墓参りをマメにしている人について、墓場を管理している人に聞いたわ」
「どんな人でした?」
「ウィリアム・ワグナーという人らしいわ。男性ね。埋葬されているのは彼の奥さんで、マーガレット。3ヶ月くらい前に亡くなったのね。事故らしかったけれど」
「この墓場の埋葬形式って、やっぱり西洋風?」
「大抵はそうね。宗教上の理由もあるから」
「その奥さんのお墓がある場所わかるかな? 多分その近くで行うだろうから、近辺にある墓石の影にでも潜んで居る事にする」
 そういって理緒は、場所を聞いた後、闇に姿を溶け込ませていった。

「そろそろね……」
 シュラインが腕時計で時刻を確認する。
「場が変化し始めます」
 墓場の方を絶えず注意しながら見ていた紫桜は、時刻が近づくにつれて変化していくのをいち早く気付いていた。
「現れたわ」
 人相を聞いていたシュラインはそれがウィリアムだと判別する。
「どうしますか」
「気付かれないように追いましょ。先に理緒さんがいるし、挟み撃ちできれば逃げ場はないでしょうから」
「そうですね、それじゃシュラインさんは俺の後ろをついてきて下さい。何かあった時の為に」
「ありがとう、そうさせて貰うわ」
 にこりとシュラインは微笑み、紫桜に礼を言う。
 二人はウィリアムから気付かれないように静かに追いかけた。

「後少しだ。さぁ、マーガレット戻っておいで。………5、4、3、2、1!」
 その後に起こるであろう現象を待望し、満面の笑みを浮かべたウィリアムは、何も起こらなかった事に疑問を持たなかった。
 多少の誤差は付き物だと、後から来る喜びを思えば誤差などは些少な事だと思ったからだ。
 だが、それが一分も過ぎれば、流石におかしいと気付く。
 何が起こったのか。
「成功してるはずなのだ。何処がおかしいと言うのか……」
 墓石を動かして確かめようとするウィリアムに声がかかる。
「無駄だから」
 理緒の声だ。
 ウィリアムは周囲を見渡し、警戒を強める。
 成就する寸前に術を解除した理緒は、墓を暴いても何もならないと思ったから声をかけた。
 潜んでいた所から姿を現すと、ウィリアムに近づく。
「私の邪魔をしたのはお前か!」
「邪魔? それはキミだと思うけれどね」
 逆上したウィリアムが理緒に襲いかかる。
 その動きを理緒は冷静にみて、ウィリアムを軸に術を定理し、空間にはり付け固定する。
「な、何だ!?」
「キミって、術者じゃないよね。誰に教えて貰ったの?」
「外せっ」
「聞いてるのにね……、今まで蓄積されたエネルギーはキミに返そう。死んじゃった人達には返しようがないからね」
 理緒が言葉にした途端、ウィリアムにエネルギーが注ぎ込まれる。
「ぐ……ぁっ」
「呪詛返しの代わり」
 名も知らない犠牲者とはいえ、未来もあったと思うから、せめて、と。
 後を追ってきたシュラインと紫桜はその光景を見ていたが、止める事はしなかった。
 突然死と判断されて処理されている以上は、事件として成立せず、呪術に含まれるものは事件として立件する事は難しいからだ。
 せめて、事件を起こした本人に罰をと思ったのは自己満足かも知れないが、それにより再び事件が起こるのを防ぐ事が出来るのなら、それも一つの解決だと判断した結果だ。

「あぁ、取り込まれていたエネルギーは人の物だけじゃなかったみたいですね」
 紫桜は元の場所へと戻っていく煌めく粒子を見て言う。
「樹々が元気なかったのはこのせいだったのですね」
 犠牲になった人達の分も、元気に生命力を取り戻して欲しいと思う。
「いきましょうか」
 シュラインが草間が戻ってきたのを見て言った。
「はい」
 紫桜は微かに目を伏せ、冥福を祈ると墓場を後にした。



【 ending 】

 後日。
「うわぁ〜ん! 皆さん、ありがとうございますぅぅぅっ……!」
 山盛りになった仕事を終えてアトラス編集部に戻ってきた三下・忠雄は早速、碇に仕事を命じられて草間興信所へと報告書を引き取りに来たのだった。
 もう少しで、こんな怖い目にあっていたのかと思うと、調査してくれた皆さんに感謝雨霰だからだ。
 報告書を受け取った途端、床の継ぎ目に躓き、転けた三下を見ながら、
「ま、運が良かったんじゃない、今回」
 調査途中に三下の泣き声が響き渡らないのも珍しかったけれどと、理緒は小さく呟く。
「ちゃんと碇に渡すんだぞ」
 何処か不安げに草間が三下に念を押す。
「編集部までついていった方がいいのでしょうか……」
 大丈夫ですか、と手を差しだし三下を立ち上がらせる。
「ありがとうございますぅぅ」
 目尻に涙をにじませて、紫桜に礼を言う。
 どうにも三下ひとりで帰すのは途中、トラブルに巻き込まれそうな気がして紫桜が申し出る。
「その方が良いかもしれん」
 草間が三下を見て溜息をついていると、興信所の扉を開けてやってきたのはソフィアだ。
「皆さんこんにちは。ご一緒に如何ですか、桜のムースなんですけど美味しいですよ? 味は保証しますから」
 報酬代わりなのかは分からないが、いつもより豪勢なスイーツを持参したソフィアに草間が言う。
「ちょうどシュラインがお茶の用意してるから渡してくれ」
「そうですか、じゃ、お手伝いしますよ」
 給湯室に引っ込んだソフィアが、お茶の入った盆を手にして戻ってくる。
「どうぞ」
 慣れた手つきで、皆に配っていく。
「ホント美味しそうね」
 戻ってきたシュラインが淡く広がるピンク色のムースを見てうっとりして言う。
「上品な味だね、甘いけれどくどくないし」
「桜の香りが口の中に広がって不思議な感じです」
「美味しいですぅぅ」
 それぞれ感想を述べて口に運んでいく。
 その様子を見ながら、
「お仕事お疲れ様です、ということで。又よろしくお願いします」
 ちゃっかり、自分の事も宣伝するソフィアに草間が言った。
「怪奇物は勘弁してくれ……」



End


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【受注順】
【0086/シュライン・エマ/女性/26歳/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
【5580/桜月・理緒/女性/17歳/怪異使い】
【5453/櫻・紫桜/男性/15歳/高校生】

【公式NPC】
【草間・武彦】
【碇・麗香】
【三下・忠雄】
【瀬名・雫】

【NPC】
【ソフィア・ヴァレリー/男性/23歳/記述者】
【ウィリアム・ワグナー/男性/35歳/英会話講師】
【マーガレット・ラグナー/女性/30歳/ウィリアムの妻】

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■         ライター通信          ■
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初めましてのPC様、再び再会できたPC様、こんばんは。
竜城英理と申します。

最初から犠牲者が沢山出ていたのですが、解決というより謎解きの感じでしたので、余り危険な事も無かったとは思うのですが、如何でしたでしょうか。
結末的には一寸ホラーになっているといいなと思いつつ。
文章は皆様共通になっています。
では、今回のノベルが何処かの場面ひとつでもお気に召す所があれば幸いです。
依頼や、シチュで又お会いできることを願っております。


>シュライン・エマさま
再びのご参加ありがとう御座いました。
草間さんと桜餅食べている時はどことなく、らしい感じになっていると良いなぁと思いつつ書かせて頂きました。
お気に召したら、幸いです。