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<東京怪談・PCゲームノベル>


神の剣 最終章 2 再会

 織田義明は、一人で大学からの帰りしなに、ある魔力を感じた。
「この感じは……三滝!?」
 急いで彼はそれを探そうとするが、その必要はなかった。
 魔力を発している存在がすでに目の前にいる。現れたのだ。
「おまえが……
「やっとあえた。なぜか僕が持っている知識には君がいるから」
「三滝……」
 身構える義明だが、相手は親しい友達に話しかけるように言う。
「僕は三滝という名前じゃないよ?」
「あれの……無意識憑依か……現象化を手に入れた訳か」
 歯を食いしばる義明。
「そうなるのかな? まあ、それは些末ごと。話をしたい。力の使い方を」
「え?」
 彼から発した、その言葉の意味に、義明は目を丸くした。


 つまり、目の前の存在は、何かを知りたいようなのだ。


 三滝の力を手に入れたのだが、使い方がわからないのか?
 それとももっと深い意味があるのか? 
「何が望みなんだ? 俺の魂か?」
「君が言う三滝とやらの知識は単純に情報。その中に君の力を奪い、『 』になる方法は残っている。しかし、初対面からする僕からすればそれは効率的じゃないからね」
 と、にこやかに笑うのだ。

 今の義明の心はもろい。影斬が稼働して相手を斬る可能性もある。
「いまは、考えさせてくれ」
「ま、いいよ。でも時間がないんじゃない?」
 と、笑う相手。
 相手はそのまま消えてしまった。

 立ちつくす義明は、
「……やっかいな時に……」
『なぜ、斬らなかった? 封にて現象ごと倒せたはずだ』
「だまれ!? 俺は……おまえ……」
 影斬と言い争う。
 しかし、心労で義明はその場で倒れてしまった……。

 その直後に、あなたは倒れた彼を見つけるのであった。




《常花の館》
 常花の館。
 植物がざわめいている。橘穂乃香は不安でいっぱいだった。
「植物が、……何かいやな予感が……どうしましょう」
 今にも泣きそうな顔をする。
「狼……狼いるの?」
 この館の一番大きな植物である、菩薩樹の上にいつも居そうな友達を呼ぶ。たまに妙な存在が住み着いているのだが、一応指定席として昼寝をする人物が居る。
「どうした、穂乃香?」
 ひょっこり枝の間から顔を出す人物。彼が黒崎狼だ。
「たいへんなの……。義明さんが、なにか……大変なことに……」
「……なにかあったのか?」
「わからない。でも……怖いの」
「わかった、穂乃香はここに居ろ」
 穂乃香の肩に手で触れる狼。穂乃香の肩は震えていた。
「穂乃香もいきます!」
 彼女も何があるかわからないが、その場に行く決意をしている。
「ったく……」
 頭を掻いて、穂乃香の手を握り常花の館を後にした。
「俺が居ない間、何があったんだ?」
 狼はつぶやいた。
 
 二人は学校の近くで義明を見つけるが、誰かと話をしている。
「あの方は誰なんでしょう?」
 穂乃香が遠くから見ていると、なにやら恐ろしい感覚に襲われ、その場でふるえ出す。
「穂乃香はそこで待ってろ……様子がおかしい」
 と、狼が近くの木まで飛び乗り、身を潜める。
「何やってんだ、 義明は?」
 木の上から様子を見る狼は、その一部始終を見ていた。
「色々狙われているからなぁ。あいつ……ん?」
 人影が去ると、義明はそのまま倒れ込む。
「お、おいおい!」
 狼は急いで、飛び降りて駆け寄る。
 そこで、袋が落ちる音に、駆けてくる草履の音。
「よ、義明君!」
 女性の声だった。


《追うモノ》
 御柳紅麗はこの世界での勉強に余り興味はない。便宜上学生ではいるがさぼり続けている。もっとも、吸血神との戦いにより一度死亡したが“還魂”するため(つまり人間で言う蘇生だ)、数ヶ月以上学校に行かなかったため、在学することが危ぶまれている。さらに身近な人の反応が怖くなったこともある。故に彼にとってつまらない勉学にいそしんで何とか遅れを取り戻す日々。
「ふぅ、やっと終わった」
 珍しく頭を使ったことが彼にはかなり苦痛だったようだ。
 紅麗は魂を狩る実行部隊であるため、こっち側の勉学は肌が合わないのだ。もっとも、今の学校の勉強もどこで役に立つかどうかわからないので、何ともいえないのだが。
「さて、義明の所に向かうか……」
 と、思ったのは良いのだが、先日のことが思い浮かぶ。
 義明に刀を向けたこと。それによって人を泣かせたことを。
「っち、何考えてるんだ俺は……」
 頭を振る紅麗。
「どうした、紅麗。調子悪いのか?」
 と、男の声がした。
「よ…… なんだ、蓮也か」
「なんだ、とはなんだ」
 いつも、柄がファンシーな傘を持つ御影蓮也だ。彼はため息をつく。
「リハビリの調子は?」
「ああ、かなり良い。しかし、結構疲れた。こんなことに頭使うのは滅多にない」
 他愛のない会話をしながら、二人は長谷神社に向かうことにする。
「あら、蓮也様。と紅麗様」
「撫子さん。こんにちは」
 通り道で、天薙撫子に遭った。彼女はいつもの着物姿にスーパーの買い物袋を持っている。紅麗と撫子は出会ったことで、先日のことが気まずいのか黙ってしまう。
「今から道場に向かおうと思っていたところです。撫子さんは?」
 蓮也が訊くと、
「義明君の様子を。アパートに向かおうと思いまして」
 と、彼女は答えた。
「ですよね」
 うんうんと頷く蓮也。
「な、何ですかその含み笑いは!」
 真っ赤になって照れてしまう撫子。
 皆、義明のことが心配であるが、普段通りにする暗黙の了解があるのだ。それは彼がその場に居なくても、である。
「たぶん、義明君は神聖都の校門前にいると思います」
 と、3人で向かうとなにやら気配を感じた。
「これは、この波長は!? 忘れもしない!」
「三滝尚恭!」
 駆ける3人。
 途中で、少女がふるえて蹲っている。
「大丈夫かい? 君?」
 蓮也が、立ち止まる。
「あの、あの……こわいです……。よ、よしあき、さんがあ、あぶない……」
 ふるえる少女。
「ここは、危ない……先に! 紅麗、撫子さん!」
「え、ああ」
 紅麗は何か引っかかっていたが、蓮也の言うとおりに先に進んだ。
「はい!」
 撫子も駆けていく。
「紅麗、さん?」
 おびえながら、少女は言う。まるで知っている人のように紅麗の名前を言うのだった。
「え? あいつを知ってるの?」
 目を丸くした蓮也であった。
「わたくし、橘穂乃香といいます……」
 ふらふらと、彼女も二人の方に向かおうとする。
「まって! 今行ってはだめだ! 何が起こるか」
 と、先の方に居る義明が倒れるところを見る、撫子と紅麗は、さらに走った。
 義明と話していた人影は去り、義明が倒れたことで、その場にあった三滝の残滓は消えた。
「義明君! 義明君!」
 撫子は彼を抱きかかえて叫ぶ。
 紅麗はそれを確認してから、走って三滝の気配を持つ人物に走っていった。ちょうど同時に、木の上から少年が飛び降りて紅麗を追った。後ろの方から、穂乃香と蓮也が追いついてくる。
「何があったんだ? いったい……」
「義明さん……」
 穂乃香が泣きそうになりながら、義明を見る。彼女のバックに入っている植物も元気がなさそうだ。
 撫子は急いで携帯を取り……どこかに電話した。
「加登脇先生……先生ですか? 天薙撫子です! 義明君が!」
[え? 倒れたの? 彼をこっちに運んで]
「は、はいわかりました。井ヶ田総合病院に……」
 蓮也が携帯に電話をする。病院の名前を撫子が言ったとき、救急車を呼んだようだ。
「しばらくこの場で安静にして……」
 10分ぐらいで救急車が着く。
 その間にも義明は目覚めない。撫子と穂乃香は義明の名前を呼び続けるが、反応がないのだ。
「井ヶ田総合病院に!」
 担架に運ばれる義明。
 撫子と蓮也、穂乃香も救急車に乗り、病院に向かった。
 

 紅麗と狼は人影を追う。
「このままけりをつけてやる」
 紅麗は死神化しようと思ったのだが、人がいるのでそのままで向かう。
 人影はこちらに気づいていない感じであった。
「三滝――!」
 2メートルほど近づいたとき、人影は振り向いた。
 その容姿は中性的で、美しかったと記憶しているどっちに取られても違和感がない。それ故なのか、その奥に驚異を感じることはたやすかった。相手は指を紅麗に向けて……。
「障壁圏」
 と言っただけで。紅麗は吹っ飛んだ。
「な!?」
 何が起こったか、紅麗にはわからなかった。
 魔術の発動が早かったのだ。
「紅麗!」
 狼が追いついた。
「大丈夫か!?」
「あ? ああ……大丈夫だ。奴は?」
 あたりを見渡すが、人影はなかった。
「くそ逃げられた!?」
 地面を殴りつける紅麗。
「焦りすぎだ。いくら過去に三滝と戦っていたとしても、無茶だ」
 狼が止めた。紅麗はそのまま立ち上がり……、
「俺はあいつをしとめなきゃならねぇ……」
 と、聞かないようだ。
「まて、相手はどう出てくるか全く予想がつかない! 落ち着けよ!」
「……そうだな。残滓を後でたどろう……」
 何とか落ち着いたようだ。
「で、あんただれだ?」
 しかし今の紅麗に狼はわからない。
「はぁ!?」
 今度は狼が怒り始める番だった。


《付き添うモノ》
「義明さん……」
 橘穂乃香は気を失っている義明の手を両手で握る。
 義明は井ヶ田病院の病室で寝かされているが、まだ意識は回復しない。

「かなり心因性が強いわね。倒したはずの三滝が突如現れたことと」
 加登脇が推測する。
「影斬の影響でしょうか?」
 天薙撫子が続けて言う。
 加登脇は頷いた。
「元々、彼は自分で考え込むタイプ。昔に比べ、だいぶ変わったけど」
「?」
 撫子が首をかしげる。
「あなたや友達のおかげ。昔の織田君はかなり心を閉ざしていたのよ」
 加登脇は微笑んだ。
「しかし、この状態が続くと自分が壊れちゃうわね……」
 真剣に考え込む加登脇。
 撫子はどうするか悩んだ。
 義明は今、ブレーカーが落ちた状態である。意識を遮断することで神格や影斬を抑え込んでいるのだ。それがよいのか分からない。無理に起こせば、ショックが残っている状態で逆に危険になるのだろう。しかし、影斬と義明の問題は義明自身の問題だ。他人が干渉して何かできるということはできない。助言は与えられても、彼はどう動けるか分からないのだ。
 撫子は救急車が来るまでに、龍晶眼を使い、過去視を行っていた。三滝の継承者らしい人物と何かを話している。しかし、戦闘をする様子はない。
「“力の使い方を知りたい”って? どういうことなのでしょう?」
 三滝の知識現象化に憑依されたとき、ほぼ全てを知っていることになる。しかし、その人物は三滝が行った使い方ではなく、別のことを神格保持者の義明に教えて欲しかったようだ。だが、なにゆえに? と思うわけだが、今の義明は影斬のことで精一杯なのだ。
 もし、相手が訪れることがあるなら、お引き取り願おうと心に決める撫子だが、今の自分も神格との戦いに悩まされ続けているのである。相手ができるか不安であった。

 穂乃香は病室で泣いている。
「いつも、いつも、皆を守って……戦って……傷ついて……。力を……。義明さんは心優しい人。穂乃香はいっぱい、いっぱい義明さんから優しさを頂きました。義明さん。穂乃香にも何かできることありますか?」
 まだ冷たい義明の手を握っている。
 穂乃香は義明にいろいろなことを教わった。大切な人を守るために戦うことや、力になろうとすることを。自分はいつも守られてばかりなので、せめて恩返しがしたい、と思っていた。しかし彼女自身でできることは限られている。今は彼のそばにいて、手を握り、温もりを伝えることぐらいしか思いつかなかった。
 少し、手が動く。そして、穂乃香の手を握り替えした。
「義明さん……良かった」
 穂乃香はほっとしたのであった。
 まだまだ十分なお礼はできていない。しかし、力になっているという時間が穂乃香に分かったのだ。

 撫子は、穂乃香が疲れて寝入るまで考えていた。穂乃香が

 御影蓮也は外にいる。義明が目覚めない状態では、今どうするべきなのかは分かっている。看病の方は撫子や穂乃香に任せ、猪突猛進な友人を止めるために病院を後にする。
「目覚めたら何か言ってやろう」
 と、一歩外に出たときに、タクシーが着いた。
「茜?」
 知らされて駆けつけてきたようだ。
「病室はどこ? 蓮也」
 茜はタクシーから降りるなり、蓮也に聞いた。
「605号だ。俺は紅麗の所に行く」
「ありがと!」
 走っていく茜。
 彼女の姿が病院の中に消えると、
「紅麗無茶してないか?」
 と、呟きながら、彼は走っていった。


《三滝継承者》
 三滝の継承者は、ぼうっとしている。
「なぜ僕にこういう力が備わったのか……。この力は僕の身体を蝕む。織田義明……彼とこの知識はいったい何があった? 」
 いきなり漠然な記憶と神秘知識をもったカレは、わずかに理解できる三滝の記憶を頼りに義明の元にむかったのだが、義明は話してくれそうになかった。教えを請い今の知識を有効利用はできるが、すでに彼はこの知識によって人をあやめている。義明と出会ったとき、義明の中にいる影斬がもたげていたのを知っている。あのときは問答無用に斬られるかと思った。
「殺めたことによる、僕の罪は消えないだろう。しかし、この力は……有って良い物かどうか……」
 知識を破壊するのは簡単だ。
 この知識には自我はない。漂う靄みたいなモノだ。
 問題は、自分が死んでも三滝現象化は離れてしまうだけ。有効利用か封印かのどちらかだ。三滝というのは往生際が悪いらしい。
「また、あえる。そのときに聞こう」


《喧嘩》
 狼は紅麗の腕を引っ張り、学校の裏に連れて行った。
「おまえなぁ 義明に剣を向ける。おまけに俺を覚えてないと? 全く親友でライバルとは聞いてあきれる」
 と、普段冷静なのに、かなり怒っている狼。
「?? おまえはさっきの奴の仲間か? 義明を知っているのか?!」
 全く覚えていない紅麗は狼の言っていることの半分も理解していない。
 ――勝手に死んで、都合良く記憶喪失たぁ……言い度胸だな。
 狼の奥底にはこういう感情がある。
「まて、おまえはいったいだれなん……っ!?」
 紅麗がしゃべり終える前に、狼の右フックが炸裂。
「俺たちを思い出させてやる! 思い出せぇ!」
 記憶を戻すために強いショックを与えるという療法が有ると言うが、彼の右はどちらかというともう一度命の灯火を消してしまいそうな強烈さを持っていた。
「こ、このやったな!?」
 紅麗はボディを決める。
 お互いがマウントポジションになって殴り合った。縺れ、転がり回り、殴り合いながらかれこれ数十分が過ぎようとしていた。
 かなり顔が腫れて美形が台無しになっている紅麗と狼。疲れ果て、息を切らして大の字に寝転がっている。
「ああ。思い出した。思い出した。大体のことは思い出した」
 息を切らしながら、紅麗が言う。
「どんなことだ?」
「穂乃香ちゃんのことが好きな。狼」
「その辺は記憶修正が必要だな」
 狼は動けないので寝っ転がったまま、指の骨をならす。
「ごめんなさい、ごめんなさい。言いません。皆知っているだろうけど、もう口にしません」
 狼が数回、他の質問をすると、回答する紅麗。記憶はほぼ確実に戻っているようだ。
 二人は笑った。
 いつの間にか、あきれてモノがいえない蓮也が立っていた。三滝とやり合った様子ではないのは分かっている。あえて、この状態に口にしてみると。
「何やってんだ?」
 ため息混じりに言うのであった。
「三滝の継承者を追ったんじゃなかったのか?」
 蓮也が訊くと、
「逃げられた」
 と、紅麗。
「こいつ、記憶がないって言うから戻してやった」
 と、狼。

 井ヶ田病院につれてこられた2名は、一応傷の手当を受けてから義明の元に向かったわけであるが、穂乃香はずっと、悲しい瞳で紅麗と狼を見ていたのだった。二人は居づらい気持ちになっているが、あえてなにも言わなかったようだ。


《目覚め》
 結局、丸一日義明は眠っていたようだ。
 朝6時、彼が目覚めると、その隣には天薙撫子が眠っている。穂乃香も茜もその場にいた。
「撫子。ありがとう。穂乃香、茜、ありがとう」
 義明は撫子の頭をなでた。

 撫子はずっと考えていた。夢の中で。
 今、自分も似たようなことが起こっていると言うこと。それは一つの試練。彼女もまた戦っている。
「わたくしは、わたくしの神格にどう向き合えばいいのでしょうか?」
『その答えは既にでているはずですよ。天を薙ぐ者』
「……え?」
 神格となる意志が撫子に語りかける。
『一歩踏み出すことが、恐怖ということがあります』
「なるほど、そのための疑似人格……。受け入れれば良いのですね、全てを……」
 その答えがはっきりしたとき、神格は笑ったような気がした。
 表裏一体ではない、魂自体が二つ以上有ることではない。人は変わることはできるが、本質は常に自分なのだ。受け入れることができる。それが人なのだ。それにより、より高みを目指すことができるのだ。
 では、なにゆえに、三滝の継承者は戦闘も起こさず義明にあったのだろう?


 蓮也と狼、記憶の戻った紅麗が病室にやってきた。
 義明の周りには撫子と茜が付き添っていた。
「大丈夫か? 義明」
 蓮也と狼が言う。
「ああ、迷惑かけた。みんな」
 暗い顔をする義明だが、
「余り思い詰めるな。運がなかっただけだ」
 狼が言った。
 蓮也があのとき何があったのか分からなかったが、義明方三滝の継承者に出会ったと言うことを詳しく教えてもらった。
「何のために来たんだろう?」
 蓮也は腕を組んで考える。
「『使い方を教えてくれ』といっても、俺には三滝の秘術なんて余り分からないし。威圧的な魔力発散はしていたけど、戦うつもりはなかったようだ」
 真剣に考える義明。
「顔など覚えているのでしょうか?」
 撫子が聞く。
「男性か女性かも分からない雰囲気の人だ」
 義明は答えた。
「今度皆で言った方が良いかもしれないな。その方が義明も安心できる。いきなり消すことは反対だ」
 蓮也は言う。
「影斬はすぐに消せと思ったみたいだ。囁きかけてきた」
「力は力だからなぁ」
 頭を掻く蓮也。
「わたくしは、今の状態の義明君を三滝に会わせるなんて反対です」
 撫子が蓮也をにらんだ。
「撫子さん……」
 むう、と唸る蓮也。
「使い方を教えてくれと言うなら、平和的に解決はできると思う。三滝の知識は常人では扱えないだろうし。何とかして霧散化防止なども考えなくては先に進めない」
 蓮也が言った。
 確かにそうである。
 避けてばかりではなにもできないのだ。
「今は体力を取り戻すことが優先だけどさ」
 ひとまず、義明の心身状態優先と言うことになった。


 一方で、穂乃香はまだ悲しそうな顔で紅麗と狼を見ている。
 ――喧嘩はいけません……の。
 その視線に耐えきれない二人は、
「穂乃香ごめん」
「穂乃香ちゃんごめん」
 と、二人は同時に謝った。
「そ、それと、よ、義明……」
「なに、紅麗?」
「あんとき、剣を突きつけて……わるかった。撫子さんも茜も皆悪かった」
 と、そっぽを向いて紅麗が謝った。
 ほかに記憶が喪失していたことを謝っているのだろう。
「記憶戻ったようだし」
 狼が言う。
「仲直りはよいことですの♪ でも喧嘩はだめですの」
 穂乃香はにこやかに笑うのだった。


 三滝の件は横に置き、義明の今の状態が心配になる。順序立てて考えなくてはならない。
「影斬との関係などはこればかり分からない。俺の中にいる獣と同じ感覚かもしれないが」
 狼が言う。
「おまえの過去はどうであれ、今なら乗り越えられるはずだ。義明」
「狼」
「そうだな。それと義明。忘れていることはないか?」
 蓮也が割り込んだ。
「どういうことだ?」
「義明、おまえの選んだ道は何だった? 俺が言えるのはそれだけだ。あとは、三滝の力にせよ、おまえの影斬にせよ、力は力でしかない」
 と、蓮也は言う。
 彼はあえて、義明にきつく言った。
 保護だけが支えではないのだ。自分で気づかせることも友人の力である。


 しばらくして義明は退院する。
「ご迷惑おかけしました」
「気をつけてね」
 加登脇が見送ってくれた。
 茜は、穂乃香が可愛いので抱きしめている。

 皆がバスで帰っていくときに、義明が言った。
「あさって、三滝の知識を得たあの人物に会いに行く。彼か彼女か分からないけど、彼に会って何かが分かるかもしれない」
 と。
 それに頷く者驚く者それぞれだが、やることは決まっていた。
 義明を助けること、支えることは変わりないのだ。


3話に続く

■登場人物
【0328 天薙・撫子 18 女 大学生・巫女・天位覚醒者】
【0405 橘・穂乃香 10 女 「常花の館」の主】
【1614 黒崎・狼 16 男 流浪の少年(『逸品堂』の居候)】
【1703 御柳・紅麗 16 男 不良高校生&死神【護魂十三隊十席】】
【2276 御影・蓮也 18 男 大学生 概念操者】

■ライター通信
 滝照直樹です。
『神の剣 最終章 2 再会』に参加してくださりありがとうございます。
 皆様の行動が上手いこと分担されていまして、さらにいろいろな心情などがあり、とても楽しく書かせて頂きました。本当にありがとうございます。いろいろな気持ちが入り乱れるなかで、
 さらに3話は急展開になるかと思います。
 義明は三滝の継承者とどう向き合うのか? そして影斬との決着は? という決着です。
 ひょっとすると意外な人との決着もあるかもしれません。

 では、またお会いしましょう♪
 滝照直樹拝
 20060219