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不死鳥を追え! 2
------<オープニング>--------------------------------------
――謎の鳥は富士山に向かっていった。
と、三下は原稿を書いている。
――あの鳥は特定の人にしか見えなかったようだ。どうしてなのだろう?
――その真相を突き止めるべく、我々編集部は総力を挙げて火の鳥を探しに行くのだ!
「て、いったって、僕じゃ無理ですよぉ!」
と、大泣きする三下忠雄。
「泣き言を言ってるんじゃない!」
碇麗香が怒鳴った。
「あんたしか見えない、ならあんたが追うのが普通じゃない? 三下君」
「う、うぅでもぉ……こ、こわいですよう!」
「つべこべ言わない! さっさと動く! 働く!」
「はぁあああい!」
謎の火の鳥の足取りを追うべく……三下は登山の格好になっていた。
鳥は山に向かった。しかし富士山だ。かなり危険だろう。
麓で聞き込みし、各地を調べて、山に登るか樹海に潜るかもしれないからだ。
《1》
「不思議なのは、三下君だけじゃないことよね?」
草稿を書いている三下の後ろでシュライン・エマが考えている。
「三下さん、それ主語が3つもありますよ」
「え? ほ、ほんとうですかぁ?」
中学生ぐらいの年頃の女の子に文章をつっこまれる。三下。
女の子はアリス・ルシファール。その隣にいる無口な女性は、只の実物か立体映像のプログラム“アンジェラ”。一応アリスの姉として皆は認識している訳で正体は誰も知らない、念のため。
「あやかし荘にずっと住み続けていたから、冷涼区が上がって波長があった、っていうわけでも無いみたい。彼らと共通点があるか調べてみる必要があるわね」
「ですね。シュラインさん。私がそれを致します」
と、アリスは編集部の回線を使わせてもらい、ゴーストネットの掲示板を調べる。
シュラインはというと、
「山に向かっていったけど、色々向かうことになるだろうから準備はしなくちゃね。麗香さん、装備関係は大丈夫?」
「ええ、それはこっちで出すわ。樹海でも溶岩の中でもそいつを放り込んででも真実を突き止めて」
碇麗香は、三下を指さし答えた。
「そ、そんなぁ! 編集長! ひ、ひどいですぅ」
|Д゚) 運命
いつの間にか居る、例のアレにもすっぱり言われる三下。
草稿や行動計画をたて、冬登山道具を準備した。しかし、さあ出発するぞと言うときに。
「三下君、行かないと始まらないわよ?」
ビルのロビーにある大きな柱にしがみついて離れない編集者約一名。それをため息混じりで言う、シュラインさん。
「こわいです〜! ぼ、僕は死にたくありませえん!」
「大丈夫だから。登るかもしれないけどまだそうと決まった訳じゃないし」
「ええ、私やアンジェラ姉さんがサポートしますから」
アリスにも言われる。
「そんな子としていると、減棒どころか……」
「それはいやですぅ!」
やれやれである。
かわうそ?に見送られて3人は、一路富士山に向かうのであった。
電車の中。
「掲示板のコピーですけど、やはり何かしら共通点が有るみたいですね」
アリスがプリントを配る。
「見た人もいればガセネタと言っている人がいるわね、対立して居るみたい」
ゴーストネットではその話題で持ちきりになっている。そろそろ、瀬名雫も動くのだろうか? そうなると少し助かるか、余計厄介ごとになるかのどちらかだ。できるなら今回は三下主体で行くべき所、雫には見えない方が良いのかもしれない。
「おそらくですが……」
「共通点は……」
シュラインとアリスは同時に三下をみると、ため息をついた。
「え? にゃ、にゃんへふは?」
彼はプリント見ながら焼きそばパンを食べていた。
「シュラインさんなら、ご存じの通り、三下さんはかなりの不幸な方で、見えた人は……程度に関係なく、今年は不幸かついていないことがあったとかではと思うのですが」
アリスが自分の推理を言う。
「そうねえ……あり得るかもねぇ」
そう考えられるなと納得してしまうシュライン。それが濃厚でありそうだ。
「が……んがぐぐ。じゃあ、ぼ、ぼくがな、なにかすれば……」
「それも調べないと行けないのよ。三下君頑張って」
シュラインは三下の肩をぽんと叩く。
「は、はい……」
おどおどする三下。
「まずは富士山麓近辺の人に聞き込みしましょう」
「はい」
電車は走る。
《2》
「やっぱりきれいねぇ」
冬の富士山周辺は、山は見事な冬景色と、春を感じさせる大地の境目にあり、それがいっそう景色を鮮やかにきれいと思わせる。都会の喧噪、汚れた空気、様々な足かせから解き放たれる思いもあるのだが、
「自然のすばらしさに浸るのは、取材の後々、と」
今回は違うのだ。
「三下さん、頑張ってくださいね♪」
アリスが、応援する。
アリスはプログラムを動かして、アンジェラが三下の肩を軽く叩く仕草をさせる。
「は、はい、がんばります……」
とぼとぼ歩いていくところだが、どんどんしっかりとした足取りになる三下。やはり、編集者としてのプライドがそうさせているのであろう。
二人は彼の取材を見守る。もちろん二人も他の人に聞き込みをする。
やはり、怖がっていることもあるが、徐々に、徐々にだが火の鳥の行方が分かってきた。
1時間の聞き込みを終えた後、喫茶店で、
「やはり、アリスちゃんの言った通りみたいね」
「はい、何か関係があるのかもしれません」
「うう、僕だけじゃ無かった。うれしいなぁ」
考え込む二人と、単純に同じように火の鳥が見える人がいるという事で喜ぶ三下。何かベクトルが違う。
「しかし今は見かけないですね」
「富士山の中かしら?」
手に入れた情報をまとめると大体3つ。
1.富士山の方に向かった。鳥だから樹海など関係はないし、しかし途中で忽然と消える
2.程度はどうであれ、何かしら不幸や、元から運がない人が目撃者
3.伝承を調べるも、それらしい事を知る人はいない
「伝承から富士山とその鳥の話を調べてみましょう」
それから、山に登るか樹海にはいるかを選択しなくてはならない、と、シュラインは言う。
それについては三下もアリスも同意する。
近くの図書館を借りて、調べモノをすると結局日が暮れてしまった。幸い、宿などの経費もアトラス持ちなので(おそらく三下の給料から差し引かれる可能性が高いだろうが)、ちょっと贅沢な宿に泊まることにした。
「不死鳥伝説は見あたりませんね……」
「どういう事かしら? 謎よね」
「謎さ加減ではかわうそ?さんとおもうんですけどぉ……」
「三下君、彼は特別だから」
「……」
と、調べてみても大きな収穫はなかったのである。地元民族としての知識では。しかし、二通りの意味合いを持っているらしい。それは、死と再生を持ち、何かが新しく生まれることの前兆か、それとも死神に取り憑かれ、その見た者は死に至るという話だ。
三下にすればそれは後者を考えてしまうだろう。
「こわいですぅ! 僕は死にたくなぁい!」
泣きべそ編集者。
「まだ、そうと決まったわけではないから。ね? 三下君……」
彼を落ち着かせるのに苦労するシュライン達。
気を取り直すため、地元の名物料理に舌鼓を打ち、風呂で疲れを癒すことにした。
きれいな夜空に、アリスは言う。
「これだけ綺麗な夜空だと、三下さんにはまた鳥が見えるでしょうね」
「そうよね。またとないチャンスを逃さなきゃ良いけど」
ゆっくり浸かる二人に対して、隣の男湯では
相変わらず例の男の悲鳴が聞こえていた。
「……見えちゃったみたいですね……」
急いで行くのも何なので、落ち着いてから、彼に話を聞くことに使用と苦笑するシュラインとアリスであった。
当然、三下は温泉で水死体のごとく気絶している訳であり、看病に時間がかかるという結果になるが。
《3》
三下が言うには、鳥は彼をどこかに導いていると言う話である。
「たしか、樹海の方に飛んでいったんですぅ」
三下は、まだ自分ぐらいしか見えないことが怖いらしい。なにゆえ自分か彼に(運か宿命が)似た人にだけなのか理解できないらしい。
「仕方ないわね、あたし達もそっちに向かいましょう」
シュラインが立ち上がり、荷物をまとめる。
「へ?」
「言ってるじゃない。行かなきゃ話が始まらないのよ?」
「ですね。アンジェラ姉さんも助けてくれますから」
「え? あ、ま、待ってください! ぼ、ぼくこわいですぅ!」
と、三下を引きずるようにして樹海の方に向かっていったのだ。
どこかの番組でコンパスが狂うなどという話は嘘であるというわけだが、樹海は心理的に迷いやすいモノだろう。木々に阻まれ視界は制限される。そのため樹海に隠れ潜む“深み”に足を取られる。そして今までの遭難失踪の話が余計に樹海に入る人々を不安にさせる。自然や人自体が生んだ数々の罠に迷うのである。
「あ、あんな遠くにいます」
と、三下は指を指した。
樹海の障害である木々をすり抜け、鳥は見えるようだ。アンジェラのプログラム制御により帰りに迷うことない状況を作り、追っていく。
「燃えないんですね」
と、アリスは首をかしげる。
火の鳥というなら周りを着火させるだろう。しかしそれはない。
火の鳥は、3人がついてくることを確認してつかず離れず飛んでいく感じと三下は言った。
樹海からかなり開けた場所に3人はたどり着くと、そこには……ミニチュアの富士山があったのだ。ちょうど、淡路島にあるミニチュアパークの建物類のように。
「わああ」
「す、すごい」
感覚では、それが鳥の巣ということになるのだろう。高さはちょっとした公園の遊具。火口が鳥の巣といったところだ。そして、既に残っている二人にも火の鳥が肉眼で見える様になっている。
『……よく来ました。私は火の精霊界の魔獣』
テレパスの様である。
「初めまして、あの、ぼ、僕をしっているのですか?」
おどおどしながら三下は尋ねた。
『ええ、あなたや他に尋常ではない不幸は、同情するしかなく。私は、できる限り……私を追う者に何かしら幸運を渡そうとしていました。』
「なるほど、だから特定の人しか見られなかったのね」
「厄よけ、ということでしょうか?」
『日本的に言えばそうなるのでしょう。しかし私は単にそうすることをするわけではない』
鳥は頷く。
『あなた方に試練を与えます。この羽を持ってあの山に登ってください。私はそこでわずかながらの質問に答えましょう。』
と、数枚の羽を3人に渡した。
「結局山に登るのね。危険がいっぱいって感じだけど……」
と、呟くシュライン。
「ぼ、僕の不幸が改善されるのですかぁ?」
三下は鳥に訊いたが。
「あなたの勇気次第です。山頂にたどり着き私に会うことができれば分かりましょう」
鳥は飛んでいったのであった。
「今度は山、ですか」
アリスはアンジェラに草稿データを瞬間的に入力した。
「一度戻って、計画を立て直しましょ。試練と言うからには、かなりの覚悟が居るわ」
と、シュラインは言った。
それに反対する者は居なかった。
三下も、やっといつもある恐怖に少しだけ勝ち、
「富士山に登りましょう」
と、自分の明日を見るための希望を眺めていたのであった。
火の鳥は、富士山の周りを飛んでいる。その風景は幻想的であった。
4話に続く
■登場人物
【0086 シュライン・エマ 26 女 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
【6047 アリス・ルシファール 13 女 時空管理維持局特殊執務官/魔操の奏者】
■ライター通信
こんにちは、滝照です。新年が明けましたね。
「不死鳥を探せ! 2」に参加していただきありがとうございます。情報収集樹海探検でした。ちょっとだけ温泉で一休みは、まあ、かなり通り所と思ったので。全体的に如何でしたでしょうか?
3話から、本格的に鳥を探し、追いかける事になるでしょう。富士山に……。
では、又お会いしましょう。
滝照直樹拝
20060302
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