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<東京怪談ウェブゲーム 神聖都学園>


St.ValentineDay?

●ばれんたいん?
 バレンタインも翌日に迫った日の事である。
「ばれんたいん?なんですかそれ」
 神聖都学園の教室で佐伯・紗霧は級友に聞いた。
「え?バレンタインを知らないの?」
「う……うん」
 頷く紗霧を見て、その女性とはニヤリとほくそえむ。
「バレンタインっていうのはねぇ……」
 そう言って彼女は紗霧に耳打ちをした。

 そして放課後、下校をするために門に向かう紗霧を教室の窓から眺めつつ呟いた。
 「ま、ちゃんと今度間違いを教えたって伝えれば良いよね。まさかあんな事本当にするとは思えないし……」
 だが彼女は紗霧が疑うと言う事を殆どしないと言う事を失念していたのだった……。

「バレンタイン……親しい人の前でチョコレートを全部食べちゃうイベントなんて変なの……」
 帰宅の途につくために歩きながら紗霧は呟いた。
 彼女が間違いに気がつくのは一体いつの事になるのだろうか?

●神聖都学園にて
 バレンタインを直前に控え、どこかそわそわした雰囲気の神聖都学園の下駄箱。
 佐伯・紗霧(さえき・さぎり)が靴を履き替えていると後ろから唐突に声が掛かる。
 そこには短髪で快活そうな雰囲気を持った少年結城・二三矢(ゆうき・ふみや)の姿があった。
「紗霧さんも今帰り?」
「え、ええ、二三矢さんも……ですか?」
「うん……。今日は昨日文月堂から探していた本が見つかったっていう電話があったんで帰りに寄っていこうと思ってるんだけど、一緒に行ってもいいかな?」
「ええ、私は全然かまわないですよ」
 笑顔で二三矢の提案を了承する紗霧。
 靴を履き替えると既にもう外履きに履き替えていた二三矢に目で合図を送る。
「それじゃ行こうか」
 二三矢は内心少し喜びながら紗霧の事を促す。
「うんっ」
 紗霧は笑顔で二三矢の言葉に頷くと歩き出した二三矢のあとを追った。

 丁度それと同じ頃、少し大きめの学ランをだぶつかせて着ている少年、不城・鋼(ふじょう・はがね)は考え事をしながら下校中の道を歩いていた。
「今年も大変な時期がまたやってきっちゃったな……」
 また近くに迫ったバレンタインの事を考えると鋼は憂鬱な気持ちになるのだった。
 少し俯き加減で歩いていた鋼が交差点の角を曲がろうとしたそのときであった、反対側の角からやってきた一組の少女とぶつかってしまう。
 その場に倒れこんだ鋼はぶつかってきた少女の事を見る。
 鋼とぶつかったのは神聖都学園の制服に身を包んだ銀髪の少女であった。
「だ、大丈夫か?」
 あわてて鋼は少女の事を起こそうと立ち上がり手を伸ばす。
 そしてそのときであった、鋼の後ろから叫び声が聞こえてきたのは。
「いたーーっ!?あそこよー!?」
「こっちねー?わかったー!?」
 その叫び声とも取れなくもない歓声を聞いて、鋼はしまったという顔になる。
 そして倒れていた少女、紗霧の事をそのままお姫様抱っこの形で抱き上げ、そばにいた少年、二三矢に声をかける。
「おいお前、逃げるぞ」
 言うが早いか鋼はそのまま紗霧の事を抱いたまま走り始めた。
「おいっ!?お前紗霧さんは関係ないだろ!?」
 二三矢は鋼にそう叫び小さくため息をひとつつくと、二人の後を追って走り出した。

 そしてそんな三人の様子を道端で見ている少年がいた。
 黒い短い髪とどこか人懐こい表情をした、鋼とも二三矢とも違う制服を着た少年は葉室・穂積(はむろ・ほづみ)
といった。
「やれやれ、なんか面白そうな事やってるな。ちょうど退屈していた所だし、俺も参加させてもらおうかな?」
 穂積はそう呟くと紗霧をお姫様抱っこして走っている鋼と、その二人を追いかけている二三矢の後を追って走り始めた。
 そして穂積は二三矢に追いつくと質問をした。
「おい、一体何をやってるんだ?っていうかなんであいつを追いかけているんだ?」
 ぶしつけな唐突な質問に、二三矢が走りながら息を切らしつつ答える。
「そんな事、俺のほうが聞きたいよ、前にいる奴が紗霧を抱き上げて走ってるからそれを追いかけてるだけだよ」」
 二三矢の口から帰ってきたのはそんな答えであった。
「それじゃ前を走ってるガクランの奴に聞けば良いんだな?」
「そうだけど……」
 二三矢がなぜか追いつけないと云うような事を言おうとしたが、穂積は二三矢の事を軽々と追い抜いて鋼へと近づいていっていた。
「な、なんだ?あいつ……?」
 頭からハテナマークを飛ばしてそうな雰囲気で二三矢は走りながら呟いた。
 鋼に追いついた穂積は先ほどの二三矢と同じように鋼にも質問をした。
「おい、一体何をやっているんだ?その女の子はなんなんだ?」
 鋼は穂積に質問されてようやく自分の状況を分析し始めた。
「いや、俺はちょっと今とある連中から追いかけられていて、この子はなんていうか成り行きでこうなってるだけだ」
「とある連中ってのはなんなんだ?」
 鋼の言葉にむくむくと穂積の好奇心が首をもたげてきた。
「ま、まぁ。ここまでくればもう大丈夫だろう……」
 そういって鋼はとあるデパートの前にある駐車場で走るのをやめた。
 そしてその鋼に付き合うように穂積も歩を止める。
「な、なぁ何に追われていたんだ?教えてくれよ」
 人懐っこい顔で鋼に穂積が聞いていると、二三矢が少し遅れて追いついてくる。
「は……はぁはぁ……さ、紗霧さんを返せいきなり走り出しやがって……。ちゃんと事情を説明してもらうからな」
 息を切らしながら怒った表情で二三矢が鋼に問いかける。
 二三矢に言われてようやく鋼は紗霧の事をお姫様抱っこで抱き上げてるのに気がつく。
「や、やぁ、これは悪かった、今降ろすよ」
 そう言って鋼は紗霧の事をゆっくりと地面に降ろす。
 降ろされた紗霧はいそいそと二三矢の後ろに隠れる。
「わ、私の事を浚おうとしたんですか?」
 いきなりとんちんかんな事を二三矢の背中に隠れるようにして紗霧に言われた鋼は困ったように笑みを浮かべる。
「事情を説明する前にまず自己紹介させてもらうよ、俺は不城・鋼」
「俺は穂積、葉室・穂積」
 二人の事をどこか警戒し紗霧の事をかばうようにして二三矢も二人が名乗るのを聞いて自分の事を説明する。
「結城・二三矢、神聖都学園の生徒だ。後ろにいるのは同じ学校の紗霧さんだ」
「佐伯・紗霧……です」
 どこかびくびくとした声で二三矢の背中越しに小さくお辞儀をする紗霧であった。
 自己紹介が終わると鋼が頭を書きながら小さく頭を下げる。
「まぁ、二人には悪かったと思う。ちょっと俺のファンクラブみたいのがバレンタイン絡みで追いかけてきてるのがわかったんで、急いで逃げる必要があったんだよ。でもって女の子と一緒にいたってのが判ると何が起こるか判らなかったんで一緒に逃げてもらって訳なんだよ」
 簡単に鋼は事情を説明する。
「ファンクラブって鋼って芸能人かなんかか?」
 不思議そう穂積が鋼に質問をする。
「いや、そうじゃないが、前にちょっと色々あったせいで、そんなのが出来ちゃったんだよ」
 苦笑しながら、鋼は穂積に説明する
「まぁ、大体は理由はわかった、だったらもっと早くに説明してくれればよかっただろ?」
「まぁ、そうも行かなかったっていうか逃げるのに必死でそこまで思いつかなかったよ、悪い悪い」
 そう言って頭を下げる鋼を見て二三矢も紗霧もこれ以上文句を云う事が出来ずに苦笑するしかなかった。

●デパート前
 三人がデパートの前でそんな会話をしているとデパートに入ろうとしていた二人の女性が声をかけてきた。
「あら、紗霧さんじゃないですか?こんなところでどうしたんですか?」
 そう言って声を掛けてきたのは和服にメガネを掛けたどこか落ち着いた雰囲気を持った女性の天薙・撫子(あまなぎ・なでしこ)であった。
「あ、撫子さんこんにちは。お久しぶりです」
 そう言って紗霧は撫子に頭を下げる。
「あ、俺も随分ご無沙汰してま……」
 二三矢もそう言って撫子に頭を下げようとしたところで、撫子の陰にいるもう一人の少女の姿に気がつき思わず硬直した。
「あ、やっぱり二三矢君だったんだ、お久しぶり、こんな所で会えるなんて奇遇だね。これってやっぱり運命?」
 笑顔で二三矢にそう話しかけた少女の名前は逢坂・雪菜(あいさか・ゆきな)と云う少女であった。
 ただいまは彼女の持つもうひとつ人格である刹那(せつな)が表に出ているようであった。
 そして笑顔で二三矢の所までやってこようとした刹那であったが、歩いてくる途中で二三矢の後ろで二三矢にすがっている紗霧の姿に気がつく。
「ふ、二三矢……、その女の子は何?」
「え?ああ、この子は紗霧さんといって……」
 二三矢の言葉を聞いているのかいないのか、刹那は紗霧に近寄る。
「あんた二三矢君のなんなのよ!?」
「え?な……何って……?」
 話が飲み込めないといった様子できょとんと聞き返す紗霧。
「何って……、あんたは一体二三矢君のなんなのか?って聞いてるの」
 今にも暴れだしそうな雰囲気の刹那に紗霧はどうして良いのかわからず、二三矢に助けを求めようと二三矢の事を見る。
 その様子を見て刹那は二三矢と紗霧の関係を自分の予想通りだと思った。

 ピッシャーンッ!?

 そして、思い切り刹那は二三矢の頬をひっぱたいた。
 そしてどこか震える声でこう言ったのだった。
「良いよ、もう二三矢君なんて知らないから!?もうこれでお別れねっ!?これからはただの……」
 そう言いながら刹那は走ってその場を去っていった、その刹那がいた場所には一包みの小箱が残されていた。
 最後の言葉は二三矢にしか聞こえなかった。
 そして走り去るその後姿はどこか泣いているようでもあった。
 そんな姿を見て撫子は思わず苦笑してしまう。
「二三矢君、なんだか嫌われちゃったみたいね」
「な、撫子さんそんな……からかわないでください……」
 肩を落とし悲しそうな表情で二三矢は刹那の去っていった方向を見つめた。

『これからはただの友達……か……』

 小箱を拾い上げた二三矢の心の中では刹那の言った最後の言葉が何回も繰り返されていたのであった。

「それで紗霧さんは今日はどうしたんですか?やっぱりここに来たって事は明日のためにチョコレートを買いに?」
 紗霧はその撫子の言葉にきょとんとする。
「……明日?」
 撫子のその言葉で、紗霧は学校の教室であったやり取りを思い出す。
「あ、明日って『ばれんたいんでぃ』って奴なんですよね?好きな人の前で美味しそうにチョコレートを食べて悔しがらせる日って聞きました」
「な、なんだってーっ!?」
 その紗霧の言葉に穂積が頭を抱えて叫ぶ。
「バ、バレンタインデーってそういう日だったのか?今まで俺はずっと勘違いしていたのか?」
 頭を抱えた穂積はそのまま急にどこかへ走り去って行った。
 そんな穂積の事を一同は呆然と見守るしか出来なかった。

●St.ValentineDay?
 紗霧の言葉に一瞬あっけに取られた一同だったが、急にこみ上げてくる笑いをこらえる事が出来ずにどっと笑ってしまう。
「紗霧さん、それは違いますよ」
 鋼が紗霧にそう話しかける。
「紗霧さん、その事はどうして知ったのですか?」
 二三矢がそう紗霧に聞く」
「え?クラスの友達が私にそう教えて……くれたん……だけど…」
 皆が笑っている理由がわからずに紗霧はきょとんとしていた。
「紗霧さん、そのバレンタインについての知識は間違っていますよ」
「え?そ、そうなんですか?」
 諭すように話す撫子の事をきょとんと見つめる紗霧。
「ええ、本当のバレンタインって云うのはね……、大切な人達に感謝の意を示すためにお菓子を女の子があげる日なんですよ?」
「え?そうなの?私が聞いたのとぜんぜん違う……」
「それはきっとその友達がちょっとからかってみたんだと思うよ」
 鋼がそこまで言うと息を切らして先ほどまでどこかへ行っていた穂積が戻ってきた。
「はぁ……はぁ……バレンタインが……はぁはぁ……どういうものかアンケートとって……来たぜ……」
 穂積はそういうと走ってきて切らした呼吸を整える。
「バレンタインの事を調べてきたって?」
 紗霧が穂積に聞く。
「よく聞いてくれました、俺は町の女の子達にアンケートを取ってきたんですよ!?【バレンタインとはどういうものか!?】をね」
「ええ?そうなんですか?ぜひぜひ答えを教えてください」
 紗霧は穂積から目を輝かせて話を聞こうとする。
 そんな紗霧の様子を見て、穂積はコホンと小さく咳払いをして少し勿体つける。
「そんなに教えてほしい?仕方ないなぁ。それじゃ教えてあげよう」
「ありがとう」
 そんな穂積に紗霧はお礼を言って話を聞こうとする。
「バレンタインというのはね、アンケートの結果、二十人中二十人が皆同じ答えを返してきたのだが……」
「うんうん」
「ズバリ好きな男の子にチョコレートやお菓子をあげて告白する日なのだ!?」
「うんうん……ってこ、告白?」
 穂積の言葉に紗霧は衝撃を受ける。
「まぁ確かに告白をする日でもありますけど、大切な人に感謝を伝える日でもあると思いますよ」
 そこへすかさず撫子のフォローが入る。
「え、えっと、つまり……明日は大切な人にチョコレートを渡す日、って事なのかな?」
 しばらくたってようやく事態を飲み込めたらしい紗霧が皆の話した事を自分なりにまとめる。
「そうね、そういう日だと思うとわたくしは良いと思います」
 撫子の言葉にしばらく考え込む紗霧。
「それじゃ紗霧さんはまだ誰にもチョコレートを買ってないの?」
 撫子の言葉に紗霧はうなずく。
 そのうなずいた紗霧に二三矢は小さくショックを受ける。
 経緯を考えれば自然の事ではあるのだが、やはり目の前で事態が発覚するのとは違ったようだ。
 そんなわかりやすい二三矢の行動に一同は笑いをこらえる事ができなかった。

●エピローグ
「それじゃ、今日は一緒にこのままお買い物していきませんか?」
 撫子が紗霧にそう誘いをかける。
「いいんですか?」
 撫子のその誘いに嬉しそうに答える。
「そういう事なら俺もお付き合いしますよ、紗霧さんの初めてのバレンタインだし、ね」
 二三矢が二人に同行を願い出る。
「あ、でも二三矢さんは文月堂に用事があるって……」
「だからどうせ紗霧さんを送っていこうと思っていたんだし、ちょうど良いな、と思ってね」
 そう話を進めていたところに撫子から制止の声が上がる。
「今日は紗霧さんの初めてのバレンタインへの準備の日なんだから、女の子同士で、ね?」
 そう微笑みかけた撫子に、少し迷った末に紗霧は小さくうなずいた。
「そういう事なら俺はここら辺で退散しますね」
 鋼がそういうが早いか、その場から姿を消すのであった。
 穂積も少し考えた様子であったが、同じように声を上げる。
「それじゃ俺もこの辺で退散退散っと」
 そう言って鋼の元へと走っていく穂積であった。
「それじゃ仕方ないので俺はこれから文月堂に行ってきますね。隆美さんには紗霧さんは買い物で遅れるって伝えておきますよ」
 二三矢はそう行って二人にいうとその場を去っていった。
「それじゃ今日は女の子同士、買い物を楽しみましょうか?」
「はいっ」
 撫子のその言葉に紗霧は嬉しそうにうなずくのであった。

 その後紗霧が誰にチョコレートをあげたのかは……聞くだけ野暮という話。


Fin

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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≪PC≫
■ 葉室・穂積
整理番号:4188 性別:男 年齢:17
職業:高校生

■ 天薙・撫子
整理番号:0328 性別:女 年齢:18
職業:大学生(巫女):天位覚醒者

■ 不城・鋼
整理番号:2239 性別:男 年齢:17
職業:元総番(現在普通の高校生)

■ 結城・二三矢
整理番号:1247 性別:男 年齢:15
職業:神聖都学園高等部学生

≪NPC≫
■ 佐伯・紗霧
職業:高校生兼古本屋

■ 逢坂・刹那
職業:高校生

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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、もしくははじめましてライターの藤杜錬です。
 この度は神聖都学園依頼『St.ValentineDay?』にご参加くださりありがとうございます。
 バレンタインといいなら二月も終わり間近になってしまい申し訳ありませんでした。
 今回は全般的にコメディタッチとなりましたがいかがだったでしょうか?
 各キャラクターさんらしさを出せていれば、と思うのですが、如何だったでしょうか?
 楽しんでいただければ幸いです。

2006.02.27.
Written by Ren Fujimori