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<東京怪談・PCゲームノベル>


Sweet or Spicy St. Valentine's Day ?



◇ 始まり ◇


 貼られた張り紙が風に靡く。
 ちゃんと貼っていなかったのだろうか、四隅のセロテープは剥がれかけており・・・桐生 暁は、かなり低い位置に貼られたそれを、再度綺麗に貼り直してあげた。
 この高さ、そして・・・この可愛らしい丸い文字。
 誰が書いたのか、暁は一目見ただけで分かった。
 勿論・・・今日夢幻館に行くのは、張り紙を見たからではない。携帯に電話があったからだ。
 「夢幻館でチョコ作りをするらしいんだが・・・暁、来ねぇか?」
 ニヤリと電話口で相手が笑んでいるのが、何故だか暁には分かった。
 「そうだね、暇だし・・・行こうかな。」
 そう言ってソファーから身を起し、身支度を整えて来た次第である。
 ・・・電話の相手は神崎 魅琴。
 何かを企んでいるらしい口調だったが・・・まぁ、おおよその事は分かっていた。
 夢と現実、現実と夢、そして・・・現実と現実が交錯する館。
 そこから発せられる雰囲気は、今日も穏やかで・・・泣きたくなるほどに懐かしくて・・・。
 大きな門から真っ直ぐに続く真っ白な道。その脇で揺れる花々は、今日も季節を違えている。
 リンドウにカスミソウ、ヒマワリにチューリップ、シクラメンにスミレ・・・・・・・・
 ふわり、薔薇の香りが漂う。
 道の純白さが目に焼きついてしまったのか、本来ならば真っ赤に染まっているはずの薔薇は、暁の瞳には淡いピンク色に映った。
 両開きの扉をゆっくりと押し開ける。
 蝶番は今日は鳴かない。
 音も無く開いた扉の先、目に飛び込んで来るのは階上へと続く階段。
 右を見ればホールへと続く扉が1つあり、左を見れば奥へと伸びる廊下が見える。
 廊下に並ぶ扉は、今日も微塵も変わる事無くズラリと並んでいる・・・・・。
 視線を落とせば血を吸ったかのように真っ赤に色づく絨毯。
 暁はしばしその赤に目を奪われた後で、右の扉を押し開けた。
 「・・・あれ?・・・暁・・・?」
 扉が開いた先には、不思議そうな顔をした梶原 冬弥が立っていた。
 「冬弥ちゃん、お久しぶり。」
 「久しぶりっつーか、どうしたんだよ、お前。もなの張り紙見て来たのか?」
 「あー、違う違う!俺様が呼んだんだっつの!」
 そう言って、キッチンの方から魅琴が大またで近づいてくる・・・と、背後から小さなモノが飛び出してきて、魅琴の背中に強烈なキックを喰らわせると腰に手を当てた。
 「んもーっ!どうしてそんなに俺様思考なの!?ってか、様ってなに!?ふざけてんの!?」
 「もなちゃん・・・」
 頭の高い位置で結われたツインテールをブンとスイングさせて、片桐 もなが顔を上げる。
 「暁ちゃん!来てたのぉ〜??」
 「うん、今ね。」
 タタっと走って来て、ギュっと暁の腰に抱きつく。
 そして、キラキラと輝く顔を上げ・・・
 「チョコ作りに来てくれたのぉ??」
 その言葉にそうだと頷こうとした時、キッチンから沖坂 奏都がゆっくりと姿を現した。
 「あぁ、暁。来てたんですか?」
 「奏都さんっ・・・!」
 パァっと、一瞬にして幼い顔になってしまうのは致し方のない事。その笑顔に、奏都が柔らかな微笑を返して「お帰りなさい」とそっと囁いてくれる。
 「ただいま・・・」
 何だかその言葉がくすぐったくて、嬉しくって・・・暁は顔を下げた・・・と、顔を上げていたもなとバッチリ目が合ってしまう。もなが嬉しそうな笑顔で、声に出さないまでも口の動きだけで「良かったね」と言ったのが、どうしてだか凄く印象的だった。
 「んで?モチ、暁は冬弥をご指名だよな?」
 「ご指名・・・って?」
 「菓子作りだよ、菓子作り。このちんちくりんのために・・・」
 そう言ってもなを指差す魅琴。もながその指をガブリと噛み――――
 「いぃぃぃってぇぇぇぇぇぇっ!!!!!!」
 「人を指差しちゃいけないって、習わなかったのぉ〜!?」
 腰に手を当てて、プンプンと怒るもな。
 それを見てしばらく笑った後で、暁はふっと冬弥の顔を見上げた。
 「頼んでもいー?」
 「俺で宜しいんですかー??」
 間延びした声でそう言って、ダルそうに髪を掻き上げる。
 それに・・・・・
 「俺は、冬弥ちゃんが良いんだよ。」
 そう答えたのは魅琴だった。そして、すかさずもなが後頭部をスパーンと殴る。
 「デリカシーが無いの!魅琴ちゃんにはっ!!!」
 「や、もなちゃん・・・大丈夫だから、ね??」
 クスクス笑いながらそう言って、暁は冬弥の服の裾をクイっと引っ張った。
 「俺は、冬弥が良いんだよ。」
 「・・・てめぇ。ちゃんが無くなっただけで、魅琴の台詞と大して変わってねぇじゃねぇか・・・!」
 盛大な溜息をつくと、冬弥が暁の頭を数度撫ぜた。
 「んじゃ、とっとと作るぞ。」
 「うん!」
 キッチンへと入って行く冬弥の後を、暁が走って追いかける。
 2人の後姿を見詰めながら、残された住人達は顔を見合わせて微笑んだ。


◆ チョコ作り ◆


 「冬弥、冬弥〜っ!!」
 暁がそう言って、目の前にいる冬弥の背をポンポンと叩く。
 「新婚サンごっこ〜v」
 クルリと振り返って見詰める先、真っ白なフリフリエプロンを身に纏ってニコニコと微笑む暁の姿・・・。
 「ふりふりのエプロン、きしょい??」
 「ったりめーだろ!!きしょい以外に感想がねぇっ!」
 そう言って、疲れたように天井を見詰める冬弥。
 目を瞑り、小さく口の中で「勘弁しろよ・・・」と呟くが、残念ながらそんな小さな声では暁には届かない。
 「やっぱ男なら似合わないふりエプでGOだよな☆つーか、むしろ似合ったらキショくね?」
 「だぁぁぁっ!!!だぁら、さっきからきしょいっつってんだろ〜!?」
 怒鳴る冬弥を見ながら、暁が唇を尖らせた。
 「だっから〜いいのっ!・・・・・あれ・・・??でも、キショイっつったって事は・・・」
 似合ったらキショイのだから、キショイと言う事は・・・つまり、似合っている・・・と言う事になるのだろうか?
 カァァっと、赤くなる顔を隠すために、暁は冬弥に抱きついた。
 「な・・・っ・・・!!おまえ、もな属性か!?」
 どうやら冬弥の中では、すぐ抱きつく=もなと言う無言の式が成り立っているようだ。
 「いやん、冬弥のエッチーv」
 「あんなぁ・・・どう考えても、俺は被害者だろ!?つーか、そのエプロンとっとと脱げっ!」
 冬弥がそう言ってグイっと暁をはがす。
 「しょうがない、冬弥がそう言うなら・・・・・・」
 ぶーぶーと文句を言いながらエプロンを脱ぎ―――――
 「俺、なんでもするよ!」
 どーんとこーい!とでも言うかのように、エプロンを豪快に脱ぎ、更には上着も・・・
 「だぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!テメっ・・・なにすんだボケっ!!!」
 冬弥が慌てて暁の腕を取る。
 ゼーゼーと肩で荒い呼吸を繰り返し
 「あんなぁ、俺らは今からチョコ作んの!分かるか!?
 「分かってるって。」
 そんなに慌てなくても良いのに・・・。そう言う意味を込めて、暁は苦笑した。
 なんだか以前と同じような反応に、少しだけ・・・時が逆戻りしたかのような印象を受ける。
 苦笑する暁の顔を見詰めながら、冬弥が盛大な溜息を洩らし、鍋に生クリームを入れて軽く沸騰させてから火を止める。
 暁がその隣でチョコを細かく刻み、鍋に加え、木べらで混ぜながら溶かして行く―――
 真っ白な生クリームと、茶色いチョコレート。マーブル模様に混ざりながら、やがで淡い色へと染められて行く。
 「・・・綺麗・・・」
 思わず漏れた言葉に、冬弥が目を伏せる。
 「そうか?」
 「なんか、綺麗じゃない?」
 「・・・ただ、生クリームとチョコが混ざってるだけだろ?」
 素っ気無くそう言って、冬弥がその中にラム酒を加えた。
 甘い香りがキッチンの中に広がり、鬱陶しいくらいにボンヤリとした空気を醸し出す。
 「なんか、凄い・・・頭ボーっとするね。」
 「お前の場合はいつもボーっとしてるだろ?」
 「なっ・・・!失礼だなぁっ!俺だって・・・」
 「はいはい。」
 冬弥が素っ気無くそう言って、ドンと暁の背中を叩き・・・その弾みで、持っていたチョコがピシっと暁の指に跳ねた。
 「うわ!っぶないなー!ってか、チョコ勿体ナイ・・・。」
 ジっと指についたチョコを見詰めた後で、ペロっと舌で絡め取る。そのまま冬弥の顔を上目使いで見詰め――――にやりと、口の端を上げた。
 「・・・・・・・喧嘩売ってんのか?」
 「売ってないよ。」
 軽くそう言った暁の頭を、そっと撫ぜると・・・冬弥が溜息をついた。
 「固まってきたから、ココアをまぶすぞ。」
 「はぁい。」
 冬弥の言葉で、チョコを手で丸める。
 そして、ココアを全体にまぶし・・・・・・・・


◇ Sweet or Spicy ? ◇


 出来上がったチョコを、冬弥が持って来た箱に入れる。
 ピンク色のリボンと青いリボン、そして薄い黄色のリボンをかけ、あまったものは真っ白なお皿の上に残しておく。
 「まずは、もな・・・かな。」
 「ホールで待機してるんじゃねぇ?」
 冬弥の言葉に、3つの箱を持ってホールへと向かう。
 ホールでは、グッタリと力なくソファーに腰を下ろしたもなと魅琴の姿があり・・・
 「あ、暁ちゃんっ!!!出来たのぉ〜?」
 そう言ってもながトテトテと走って来た。
 にっこりと微笑む顔は相変わらず子供っぽい無邪気さが溢れているが・・・どうしてだろう。ほんの少し、疲労の色が見える。
 「もな・・・ホラ、ご所望のチョコ。」
 そう言ってぶっきらぼうにチョコを差し出すと、もなが満面の笑みで暁に抱きついた。
 茶色と言うよりはピンク色に近い髪を撫ぜ、そっと小さな声で
 「我が儘ばっかり言ってちゃ駄目だぞ?」
 と言っておく。
 「うん!・・・我が儘、あんま・・・言わないようにするぅ。」
 キュっと、腰に回された腕はあまりにもか細かった。
 しばらく抱きついたままでいたもなだったが、ゆっくりと手を放し・・・暁は、もなを抱き上げた。
 軽いのは相変わらずで、今にも折れそうなほどに細い腰は繊細だ。
 「我が儘ばっかり言ってちゃ駄目だけど、我が儘・・・言わないのも寂しいからな?」
 「うん。」
 コクンと、素直に頷いたもなの頭を撫ぜると、酷く嬉しそうな顔をして暁の首に抱きついた。
 「有難う・・・んっと・・・あきちゃ・・・あき・・・おにーちゃ・・・」
 恥ずかしそうにそう呟いた後で、顔を真っ赤にして俯いた。
 その姿が、なんだか可愛らしくて・・・どうしてだろう・・・暁の心の中に“守ってあげなくては”と言う気持ちが芽生えてきた。
 しばらく俯いていたもなだったが、パっと顔を上げると、今度はしっかりと暁の目を見て言った。
 「暁お兄ちゃん、有難う・・・。もな、嬉しい・・・。」
 「どういたしまして。」
 ふわりと柔らかい笑顔を返すと、暁はもなを床に下ろした。
 「凄いですね、暁。」
 「奏都さん・・・」
 声をかけられて、振り向いた先には奏都が穏やかな表情をして立っていた。
 その瞬間、暁の顔が幼いものになる。先ほどもなに見せていた“兄”として表情はすっと消え、今度は“子供”としての表情になる。
 「・・・・・父さん・・・」
 思わず零れ出た言葉を、慌てて押し込め―――ふわり、奏都が暁の頭を撫ぜた。
 「そう呼んでくださるのでしたら、そう呼んでください。」
 「・・・うん、父さん・・・。」
 蕩ける様な笑顔を見せ、暁は黄色いリボンの掛かった箱を差し出した。
 「父さん、コレ・・・」
 「有難う御座います。」
 俺にもあったんですねと小さく囁いた後で、奏都がリボンを解いて箱を開けた。
 「上手に出来ましたね。」
 「・・・うん!ねぇ、父さん。一緒に食べよ??」
 そう言って、奏都の手から箱を取ると1つだけつまんで奏都の口元に持って行った。奏都が躊躇なくそれをパクリと口の中に入れ、ゆっくりと溶かす。
 「どう・・・?」
 「美味しいですね。・・・暁は食べてないんですか?」
 「うん、味見もしてなかったり・・・」
 それではと言って、奏都が暁の持っている箱の中からトリュフを一つ取り、暁の口の中にポイっと放り込んだ。
 「あ!本当だ・・・美味しいっ・・・!」
 チョコは甘くて美味しくて・・・それよりも、奏都にチョコを食べさせてもらったと言う事が、なんだか凄く嬉しくて・・・全身から発せられる“父さんラブオーラ”に、他の住人が苦笑する。
 しばらく奏都と甘い雰囲気を楽しんだ後で、今度は魅琴の前に立った。
 「フッ、魅琴。コレは愛の証だ☆」
 「愛の証?バーカ、友情の証・・・だろ?」
 そう言って、魅琴が箱を取り、暁の耳元で「さんきゅ、愛してるぜ?暁。モチ、親友としてな」と囁く。
 そして・・・ポンと、暁の背を冬弥の方へと押しやった。
 「おら!お前ら!キッチンをちゃんと片付けとけよっ!」
 「・・・なんでお前に命令されなきゃなんないんだ・・・」
 魅琴の言葉に、冬弥が頭を抱え込み―――
 「冬弥ちゃん・・・いーじゃん。片付けしよー?」
 「言われなくてもやるっての。」
 溜息混じりにそう言ってキッチンに入って行く冬弥の後を追う。
 その背を、住人達が温かい眼差しで見詰めていたのを・・・肌で、感じながら・・・。


 「あーでも・・・無事に終わって良かったな。」
 「俺、一応料理できるからね?」
 「知ってるっつーの。」
 チョコを綺麗に洗い流し、真っ白な布巾で水滴を拭って行く。
 そして・・・全て元あった場所に戻し・・・。
 「そう言えば、冬弥にチョコあげてないね。」
 「・・・あんなぁ、一緒に作ったんだから、別に・・・」
 「ハイ、あーん。」
 にっこりと微笑んで、暁はお皿の上に乗ったトリュフを1つ、冬弥の方へと差し出した。
 「やめろよ、馬鹿・・・」
 「あーん。」
 直ぐ隣に立つと、冬弥は結構大きい。見上げるような形で手を冬弥の口元に持って行き―――パクリと、自分の口の中に放り込んだ。
 「・・・あんなぁ・・・」
 「はは、ゴメンってば。」
 怒りのオーラを出す冬弥に軽い笑顔を浮かべると、暁はトリュフを唇の上に乗せた。
 冬弥の服の裾を引いてこちらに意識を向けさせ、顔を上げる。
 「お前・・・喧嘩売ってるのか?やめろよ・・・」
 プイっと視線をそらす冬弥。けれど・・・暁がしっかりと服の裾を掴んでいるので、何処にも行けない・・・。
 「放せよ。・・・放せっ・・・!」
 それでも放さない暁に向かって、冬弥がクイっと口の端を上げ、今まで見た事もないような男らしい表情で微笑んだ。
 思わずドキっとしてしまうほどに、強く冷たい笑顔は、思わず惹きつけられる・・・。
 「・・・言っとくけど、お前から仕掛けてきたんだからな?」
 グイっと暁の肩を掴み―――
 「ぜってー後悔すんなよ?」
 そう言って・・・・・・・・



  チョコは甘い味?


  冬弥を突き飛ばす?




― ‐ ― ‐ ― Sweet or Spicy St. Valentine's Day ? ― ‐ ― ‐ ―



             ≪END≫


 
 ◇★◇★◇★  登場人物  ★◇★◇★◇

 【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】


  4782/桐生 暁/男性/17歳/学生アルバイト・トランスメンバー・劇団員


  NPC/梶原 冬弥/男性/19歳/夢の世界の案内人兼ボディーガード
  NPC/片桐 もな/女性/16歳/現実世界の案内人兼ガンナー
  NPC/神崎 魅琴/男性/19歳/夢幻館の雇われボディーガード
  NPC/沖坂 奏都/男性/23歳/夢幻館の支配人

 
 ◆☆◆☆◆☆  ライター通信  ☆◆☆◆☆◆

 この度は『Sweet or Spicy St. Valentine's Day ?』にご参加いただきましてまことに有難う御座いました。
 そして、いつもいつもお世話になっております。(ペコリ)
 最後は選択性です。Sweetなバレンタインならば前者を、Spicyなバレンタインなら後者を(苦笑)
 冬弥とは恋人同士、魅琴とは親友、もなとは兄妹、奏都とは親子・・・!暁様が夢幻館色に・・・(笑)
 魅琴は暁様と冬弥の事を応援しておりますので、冬弥を挑発する時以外は暁様に絡まなかったりします。
 バレンタインからかなり経ってしまいましたが・・・。
 恋人同士1歩手前くらいまで近づいた暁様と冬弥の雰囲気を上手く表現できていればと思います☆


  それでは、またどこかでお逢いいたしました時はよろしくお願いいたします。