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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


草間即席無料相談会

「俺は久し振りに暇だ。よって、何でも相談を聞いてやろうと思う」

 久しく訪れた平穏な日、或いは仕事がなく手持ち無沙汰な日、或いは気紛れ。そう遜色しても全く違わない日。草間武彦の言葉に零は手にしていた年代物のルービックキューブを弄るのを止め、
「特に相談したいこともないです」
 再び手元の遊戯に夢中になる。
 これも一種の暇潰しなんだろうな、と思ってはいるものの、武彦の気紛れによって腹の内を曝すのも笑顔一つの拒否で済むなら安いものだ。悩みはある。だからと言って、暇潰しの材料にされるのも困り者だ。
 最近の不可解且つ厄介な依頼と事件に比べれば、それは大したことでもないのは事実。でも暇過ぎる、というのも問題だ。
「なら折角ですし、今日は無料相談会にしたらどうです? そうすれば、少しは人も来ますし、暇も潰せると思いますし」
「名案だ。よし、零。宣伝してこい」
 ……前言撤回。暇に越したことはない。
 零は渋々と初期状態になりかけの遊具をソファの端に置き、近くにあったチラシの裏にマジックで<本日無料相談会〜お気軽にどうぞ〜>と書く。興信所の入り口にテープで貼り、良しと小さく頷く。
 この程度なら暇さ加減が変わることも然してないだろう。
 知り合いでも構わないが、このノリに付き合ってくれるオトナが来ればいいな、と。零は自分のお人好しさを少しだけ呪って、部屋の中に戻っていった。
 数分の厠の後に所長席に戻ると、正面には零と真向かいに見知った人間が腰掛けていた。
「先生、始めまして」
 いやいや、あなたは先生と呼ぶような人間でも、始めましての仲でもないだろう。武彦が口を開こうとして、依頼主はどこか胡散臭い笑みを向ける。
「実は相談があって、是非是非大先生様にお答え願いたく参上した次第でね」
「どうでもいいが、その口調は何とかならないのか?」
「どうでもいいなら、どっちでもいいんじゃねえ?」
「……はい」
 それにしても、どうしてまともな一件も依頼は来ないのだろうか。そう思って零に視線をやるも、
「原因は全てお兄さんにあるんですよ」
 との思考内の声が伝わってきそうで、明確な答えが来る前にと口を開くに専念する。
「で、依頼主のお名前をどうぞ。と、あとで言うのが面倒なので依頼内容も的確かつ迅速に言って、早々にご帰還願います」
「んー、かなり冷たい言いようだけど、まあ、いっか。名前は平松勇吏。ご存知の通り、て言うのも何だけどな」
「平松っちゃん、な。はい、次」
 平松っちゃんとの呼び様に軽い衝撃を受けながらも、勇吏は続けようと口を開く。
「俺の相談は簡潔にして、簡単」
 にっと笑うその顔に、武彦の腹は痛みを感じる錯覚を覚える。
「知り合いの探偵の話なんだけどな、これでも俺は日銭のために依頼を色々なところから受けて回っているんだが、その知り合いの探偵の報酬がしょぼいんだよ。これが、マジで」
「……探偵」
「知り合いの、な。特に誰とは言わねえよ」
「……面目ない」
「ん、ああ、別に先生が肩落とすことでもねえんだけどな。で、その探偵なんだが、仕事内容が体張る内容な割に、医療費の補助も何もねえんだぜ。闇の方でやってもらうと、そりゃ当然保険なんて利かねえしな」
「……も、申し訳ない」
「だから、んなこと言うなって。先生とは関係ないつってんだよ」
「その探偵の特徴ってどんな感じなんです? 平松さん」
 それまで静かにしていた零の言葉に、勇吏の目がきらりと光る。
「よくぞ聞いてくれました。一言で言って、変わった奴だな。俺が言うのもなんだけど」
 武彦にとっては、その内容には凡そ予想がつく。本音としてはすぐさま適当な依頼を作って逃げ出したいところだが、零と野郎を二人きりにさせておくのも気分が悪い。知り合いの女性でも呼ぶ手もあるがそれまでに話は進み、呼んだ女性も乗り気になって話に加わるに決まっている。
 死んだ魚の目で二人を見て、深い溜息をつく。
「探偵の特徴はな、眼鏡と煙草だな。しかもいっつも煙草吸ってやがるんだ」
「武彦さんもそうですよね。本当、煙草吸うのは控えて下さいって言ってるんですけど」
「本当、お互い最悪だな。事務所は雑居ビルの一角にあるらしいんだが、金がないのか妹さんを小間使いにしているって話だ」
「妹さんを、ですか? 何だか、可哀想ですね」
 その妹さんは明らかにあなたですよ、と言いかけて、自分は一般的に見られて彼女を小間使いにしか扱っていないのかと申し訳なさが先に立つ。
「<怪奇の類お断り>がモットーらしいんだが、これは嘘だな。俺に言わせると」
「……で、その探偵さんを俺はどうするればいいんだ? そいつを殺せとかシメロといっても、無理な話ってのはお前が一番分かってるだろ?」
「それは、まあ。……って旦那、じゃなくて先生は今、俺が話している探偵が誰かって分かってるんだ」
「おうよ。だから言いたいことがあればはっきり言え」
 してやったりとの顔をした勇吏は、
「今月分の給金、くれ」
 白い手が無情にも武彦に向けて広げられ、
「それが無理なら、その探偵に文句言っておいてくれ」
「……ああ、そうしておくよ」
 結局は自分に文句を言いたいだけなのか、と。一通りに第三者的視点の自分を省みてから、武彦は力なく息を吐ききり、机に突っ伏した。
 勇吏の帰宅後に零がしきりに<探偵さん>が誰かと問うていたが、それすらにふざけ半分でも答える気にはならなかった。





【END】

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【4483/平松勇吏/男性/22歳/哲学専攻大学生】

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■         ライター通信          ■
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お久し振りです、千秋志庵と申します。
依頼、有難うございます。

相談会なのか、ただの厭味なのか判断に迷う部分がありますが、いかがでしたでしょうか。
暇潰しなのか、暇潰されなのかも同様に迷ってしまいますが。
このような展開となりましたが、相手がどうであれやり込められることには変わりがなさそうにも思います。
少しは見せ場を書きたいと思う反面、私としてはへたれな部分を書くのがとても愉しいのもまた事実です。
兎にも角にも、少しでも愉しんでいただけたら幸いです。

それでは、またどこかで会えることを祈りつつ。

千秋志庵 拝