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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


彼女の指輪

「……それで、依頼ってのは?」
 草間 武彦はタバコを取り出してクライアントを見た。
 クライアントの外見は20代半ばと言うところか。
 細い輪郭、疲れた瞳、頼りない四肢。
 くたびれたような男性だった。
「これを……」
 男性は胸ポケットから一つ、指輪を取り出す。
 武彦は指輪を受け取り、マジマジと見つめた。
「見たところ普通の指輪みたいだが……」
 宝石等はついておらず、安物でありそうだが、特徴と言えばそれぐらいだ。
 クライアントは目を伏せて話し始める。
「それは父の形見なのです。父がある女性にあげるために作った指輪」
「形見って、アンタの年恰好で親父さんを亡くしたのか?」
「はい。私の父は死刑囚で、つい先日、刑が執行されました」
「死刑囚?」
 武彦はタバコをくわえて火をつけた。
(だんだん雲行きが怪しくなってきたぞ……?)
「相手の女性は数十年前に死にました」
 やっぱり、とため息と共に煙を吐き出して武彦は額を押さえた。
「父はある廃駅でその女性と出会い、恋に落ちました」
「霊と恋か。ロマンチックだな」
 武彦の冷やかしにも負けずクライアントは話を続ける。
「そしてある日、私の父はとある高僧を惨殺し、その血をその指輪に大量に染み込ませました」
「……なるほど、これは呪物か……」
 武彦は持っていた指輪をさりげなく机の上に置いた。
「父は高僧の血を大量に含ませた呪物は肉体と等価になると信じておりました。そしてその指輪を使ってその女性の魂を黄泉返そうとしていました」
「そりゃまた、夢のような話だこと……」
「私もそう思います。ですが父は本気でした。ですから父の想いを無駄にしないためにも、この指輪をその女性に届けたいのです」
 クライアントの熱がこもった言葉を、武彦は冷たくサラリと受け流した。
「そういうことは別のところに頼みな。ウチはオカルト、怪奇事は一切請け負わないことにしてるんだ」
「どうかお願いします! 頼るところは最早貴方のところしかないのです!!」
「……おい、零。お客さんのお帰りだぞ」
 お茶を出しに来た零に武彦が言った。
 だが、零はお茶をテーブルに置き、そしてクライアントの対面、武彦の隣に座った。
「その女性、何処の廃駅に居るんですか?」
「おい! 何勝手に……!!」
「その呪物、置いていかれても迷惑ですから。頑張ってください。兄さん」
「しかも他人任せかよ!?」
 零は笑顔で返事をする。
「これほどの呪物ですから、道中で良からぬ輩に襲われるかもしれませんから、気をつけてくださいね」
「わかってるんなら俺に任せるなよ!?」

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「ちわーっす」
 ガチャリ、と事務所のドアが開き、少年が入ってくる。
 事務所の中では先程よりも人数が増えていた。
「おやおや、草間さん。美人さんを三人もはべらせちゃって!」
「うるさい、ガキ。別にはべらせてるわけじゃない」
 入って来た少年、草摩・色(そうま・しき)の冷やかしに、武彦は苛立って返した。
「ちょっと武彦さん! いきなりそれはないんじゃない?」
「良いんだよ、知らない中でもなし」
 武彦のはべらせている(仮)美女の一人、シュライン・エマがいさめるが、武彦には効果なしのようだ。
「全く、なんだってこんな怪奇事件を取り扱わなきゃならないんだ」
「あら、やる気だから私達を呼んだのではないんですか?」
 もう一人の美人、綾和泉・汐耶(あやいずみ・せきや)にも言われ、武彦は言葉を詰まらせる。
「とにかく、お前らを呼んだのはこの指輪をどうするか相談するためだ。ヤバイ代物らしいからな」
「俺に任せときな☆」
 色が親指を立ててハキハキと応える。が、それに応えた武彦の顔は呆れたような表情だった。
「お前は呼んでなかったんだけどな」
「おいおい、草間さん。手伝ってやるって言ってるんだから、そこは甘んじておきなよ」
「っち、ややこしいことになってきたぜ……」
 額を押さえる武彦の横で、美人二人が口を開いた。
「まずはこの指輪をどうにかしないといけないわね」
「そうですね。私の能力でいくらか封印も可能ですが、呪が強すぎて完全に封印は出来ないようです」
 汐耶が指輪の封印を始めるが、どうにも抑えきれないようだ。
 それを見てシュラインが一つ思いつく。
「零ちゃん。冷蔵庫にお神酒があったでしょ? それとタッパーを持ってきてくれるかしら?」
「はい。わかりました」
 シュラインに言われて零はトテトテと歩いて冷蔵庫に向かった。
「あ、それと……」
 シュラインは零を小声で引き止める。
「あの依頼人に憑き物とか無い?」
「……異常な反応は見られませんね」
「……そう。ありがと」
 それだけ確認して再び席に戻る。
「うわ! 何それ! 凄まじくヤベエじゃん!!」
 不意に色が声を上げて、周りの人間をビクつかせた。
「何? どうしたの?」
「あ、いや、みんな良く触れるな、と思ってさ……」
 顔を引きつらせて一歩引く色を見て、武彦がタバコに火をつけながら言う。
「おう、かなりヤバいモンらしいから、お前は帰って良いぞ」
「バカ言うなよ。一度手伝うっつったんだから最後までやるって」
 小さな舌打ちが聞こえた気がしたがとりあえず全員スルーした。

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「準備している間に、訊いておきたいことがあるのですが」
 シュラインが依頼人に向き直って言う。
「はい。なんでしょう」
「色々と掻い摘んでの説明しか伺っていませんので、出来るだけ詳しく、貴方と貴方のお父様と、その女性について聞かせてください」
 依頼人は頷いて、少し俯いた。
「私の名前は山田 太郎。父は慎太郎といいます。霊の女性の名前は知りません」
「……山田 慎太郎、不法侵入、殺人などの罪で先日極刑に処された人間ですね」
 太郎の父の情報を汐耶が補足する。
「良くお知りで」
「新聞にも載りましたしね」
 シュラインも然も無げに応える。
「確か写真もあったはずね。零ちゃん」
「はい。探してきます」
「悪いわね」
 零は神酒とタッパーを机に置き、部屋を出て行った。
「で、慎太郎さんとその女性は本当にデキてたの?」
「はい。そうだったみたいですよ」
 色の問いに太郎は頷いて答えた。
「母は私を産んですぐに死にまして、その後すぐに父は霊の女性と出会ったそうです。元々地縛霊だったようでその廃駅に強い執着があったらしく、そこから離れられないようでした。それ故、父は足繁く廃駅に通い、女性と会っていたようでした」
「何でそんな事わかるのさ?」
「父が夜になってから頻繁に外出するので、おかしいと思って一度父の跡をつけたんですよ。そうしたらあの廃駅に」
 なるほど、と色は頷いた。
「その女性霊が持っていた強い執着というのはなんだったんですか?」
「想い人が居たそうで、その人を待っていたらしいのです。でも父と会った時にはその想い人の名も顔も忘れていたようです」
「そうですか……」
 シュラインは答えを聞いて少し考え込む。
 汐耶も同じようで思案するように指輪を見た。
「そうなると、その指輪も、考えていた慎太郎さんの招魂も必要なさそうですね」
「そうかもしれないわね」
 汐耶の呟きに、シュラインも頷く。
「どういうことさ?」
「慎太郎さんとその女性の恋愛関係は微妙だった、ということよ。もしかしたら片思いだったのかもしれないわ」
「ど、どういうことですか!?」
 太郎が声を荒げて聞き返す。
 シュラインは持ってきたノートパソコンの電源を入れる。
「偶々覗いてみた雫ちゃんのHPなんだけど、こんな書き込みがあるのよね」
 瀬名 雫のサイト『ゴーストネットOFF』のページが開かれたノートパソコンの画面を見せる。
「廃駅にいる女性の霊が指輪を探していて、廃駅を訪れた人はほとんど不幸な目に遭っているって言う噂よ」
「そ、それって……」
「ええ、十中八九、その女性と同一人物でしょうね」
 それを見て汐耶も納得したように頷く。
「やはり、ですね。慎太郎さんは障りを受けていたのでしょう」
「障り?」
「その女性は想い人を待っていたのですが、現れたのは別の男性、慎太郎さん。ですが女性霊は慎太郎さんと恋に落ちてしまった。若しくは慎太郎さんが片思いをしてしまった。そして足繁く廃駅に通っていた慎太郎さんはその女性の霊的な影響を受け続けたのです。もしかするとその女性霊が故意に慎太郎さんに影響を与え続けるために恋人を演じたのかもしれません」
「で、その影響が悪い方に転んで、慎太郎さんは僧侶を殺害、呪物を作ってしまった、と」
「感情をやられて、まともな思考が出来なかったってことか?」
「もし恋愛関係が成立していたとしても、想う気持ちが慎太郎さんに向いて妙な影響を及ぼしたことも考えられるわ。地縛霊になるほど強い想いだったみたいだしね」
「そ……そんな……!!」
 言葉を失う太郎。奥歯を強く噛み、手を震えるほど強く握っていた。
「でも、まぁ、可能性の話よ。もしかしたら本当に両想いで、妙な影響も及ぼさず、本当は別の霊が悪さをしているのかもしれないし」
 シュラインのフォローも太郎の耳には届いていないようだった。
 少し雰囲気が重くなって来た所に、零が帰ってくる。
「見つかりました。コレが写真の切抜きです」
 小さな新聞紙を取り出し、シュラインに渡す。
「確かに見覚えのある顔ね」
 シュラインは写真を手帳にはさみ、武彦の判断を無言で仰いだ。
「まぁ、前情報は十分揃ったんだろ。だったら後はアレコレ考えるより、行動だろ」
「そうそう。まずは話し合いでしょ」
 男性陣の軽い対応に、女性陣は小さくため息をついた。

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 タッパーを小脇に抱えた男を先頭に、妙な一団が駅から出てくる。
 勿論、武彦、シュライン、色、汐耶、そして零である。
「なんであのオッサンはついてこなかったんだよ」
 長い間電車に揺られて多少運動不足なサッカー少年、色は不満いっぱいに呟いた。
「あの父親が妙な障りを受けたんだから、息子も二の舞って事も考えられなくは無いわ」
「写真と見比べてもかなり似ていますし、ありえない話ではないですからね」
 そんな理由で太郎は事務所においてきた。
「しっかし、寂れたところだなぁ」
 ぼやいた武彦の視界全てに人気は無い。
 夕暮れを前にして、幾つか灯の点っている家はあるものの、ほとんどが売り土地や建売住宅である。
「ゴーストタウンってこんな感じなんだろうかね」
「近くの廃駅に幽霊が住んでるわけだから、あながちゴーストタウンって言う名前も間違ってないかもな」
「遠足に来たわけじゃないわよ。もっと気を引き締めなさい」
 シュラインに言われ、武彦も色も少し背筋を伸ばした。
「で、ここからどう行けばその駅に着くんだ?」
「太郎さんに書いてもらった地図によると町の反対側みたいね」
「向こうは人口も少なく、ここよりも寂れていますから、駅が廃棄されたのも頷けますね」
「反対側となると、結構歩くことになるな。よかったなサッカー少年。俄か運動不足も解消されるぞ。かけっこで行ってみたらどうだ」
「ガキ扱いかよ!?」

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「それにしても、零ちゃんが居てよかったわぁ」
 シュラインは長い道のりを見てしみじみそう言った。
「皆さんだけでは攻撃的な霊が現れた時にどうしようもありませんから」
「そうね。こっちはほとんどインテリ人間でパーティ組んでるわけだからね」
 翻訳家兼ゴーストライター兼事務員と司書とサッカー少年と探偵だけでは幽体に対応が出来ない。
 そんなわけで最初は武彦に任せようとしていた零もこの場についてきたのだ。
「相手が実体を持っていれば草間さんでも対処できるのでしょうが……全く、計画性の無さが窺えますね」
 汐耶が額を押さえてため息をつく。
「どうして私達が他人の色恋に決着をつけるためにこんな所まで来てるんでしょうね?」
「まぁまぁ、そんな事言って結構乗り気だったじゃない。事務所でも色々役立つ意見を言ってたし」
「……それは、一応引き受けた事は引き受けましたから。それに図書館の方にも無理を言って出張ってきたんですから」
「じゃあさ、パパッと終わらせて最後に武彦さんに何か美味しいものでも奢ってもらいましょ」
「……そうですね。そうしましょうか」
 そう言って笑いあう二人を見て、零も自然と笑みを零していた。

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 ふと、シュラインと零が同時に足を止める。
「ん? どうした?」
 前を歩く武彦が気付き、一行は全員足を止める。
 場所は道程の半分を越えた辺り。
 日は完全に落ち、月は見えない。頼りない街頭の明かりが唯一の証明となっている。
「こんなところで立ち止まってたくねーなぁ」
 色が零すように、あまり長居したい場所ではない。
 薄気味悪い雰囲気が何処からともなく流れ込んでくる。
「……気をつけて、妙な音が……」
 シュラインが全員に注意を促す。
 それを聞いて各々辺りを警戒するように見回すが、何処にも怪しい影は無い。
「敵反応複数。4……5……6……7体まで捕捉。地下からです」
 零の言葉が終わるや否や、地面を舗装するコンクリートを割ってボコッと手が現れる。
「B級ホラーかよ……全く!」
 武彦が言うと同時に現れた手を蹴り飛ばす。
 すると手は脆くももげて、遠くまで飛ばされた。
「……ゾンビってヤツかしら?」
「近くにお墓もあるみたいですし、あながち間違いではないかと」
「数12で増加停止。第一波、屍鬼4体、来ます」
 零の言葉の後、地面から一斉にゾンビが4体姿を現す。
「うわぁ、気持ち悪!」
「構うことはないだろ。走れ、駅に向かうぞ! 相手は所詮ゾンビだ。鈍足に違いない!」
「最近のゾンビは全力疾走したりするそうよ?」
「その類じゃないことを祈ってろ!」
 武彦の言葉で全員駅に向かって走り出した。
「ホントにかけっこする羽目になるとはね!」
「よかったな、少年!」
「追いかけられて良いわけないだろ!?」
「喋りながら走ると、下噛むわよ!」
「それにスピードも落ちます。黙って走ったほうが効率が良いですよ」
 シュラインと汐耶に言われて言葉を詰まらせた武彦と色だった。

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 駅の手前でやっと気付く。
「……やっぱり、全力疾走する、ゾンビ、だった、みたいね!」
 シュラインが後ろを振り返って確認するが、距離がかなり縮まっている。
 こちらが全員息が上がってるのに対し、ゾンビが疲れを見せていないのはやはり死んでいるからなのだろうか。
「第4波、敵3体、来ます」
 ゾンビの数は12体まで増え、それが全力疾走でこちらに向かってきている。
「……くっそ! 何処の洋画だよ!?」
 武彦は悪態つきながらタッパーを近くに居た汐耶に渡す。
「お前らは駅に行け。俺達はここでアイツらを足止めする」
 そう言って武彦は色首根っこを掴んで足を止める。
「お、俺も!?」
「当たり前だ。相手が実体持ってるなら叩けるだろ」
「ゾンビに食われたらゾンビになっちゃうんだぜ!?」
「喰われなきゃ良いだろ。ほれ、サッカーボールも貸してやるから。これで援護しろ」
「何処から取り出したんだよ!?」
「そこの家から拝借した」
 武彦が指をさした先は明かりの灯っていない家。無人なのだろうか、早いうちから消灯する家なのだろうか、全く人の気配が感じられない。
「……まぁ、無人っぽいし盗みじゃないだろ」
「うう、わかったよ! やりゃ良いんだろ!?」
「零は二人を守れ。雫のサイトの書き込みによれば向こうにもやばそうな幽霊が居るみたいだからな」
「わかりました」
 そう言って女性3人は駅へと向かった。

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 ガラリ、と廃駅の錆付いた戸を開ける。
 そこにシュラインと汐耶と零が駆け込み、扉は再び閉まる。
「とりあえず、ここまで来たら、大丈夫……よね?」
「それは、どうでしょうね。こっちの方が、危険な、気も、しますが」
 息も切れ切れに言葉をひねり出すが、休んでいる暇は無い。
「とにかく、この指輪で女性の霊を浄霊して、ゾンビの方もどうにかしなくちゃね」
「霊体反応1。目の前です」
 零の言葉を聞いてシュラインも汐耶も身を硬くする。
 次の瞬間に目の前に現れたのは美しい女性の霊。
 間違いなく、この霊が件の女性霊。
「貴方、言葉は通じる?」
「……指輪を知りませんか?」
 通じているのかいないのか、微妙な返答だった。
 だが、とりあえず諦めずに話しかけてみるしかない。
「貴方、この男性に覚えはありますか?」
「……慎太郎さん」
 慎太郎の写真に反応する霊。どうやら言葉は通じているようだ。
「慎太郎さんを知っているのですか?」
「ええ、彼の息子さんから依頼を受けて、指輪をここまで届けに来ました」
 汐耶は持っていたタッパーを開けて中から指輪を取り出す。
「それ……その指輪です!」
 手を伸ばす女性の霊に、汐耶は指輪を渡そうとしたが……

 カラン

 と指輪は地面に落ちてしまう。
「……まぁ、それはそうでしょうね。相手は幽霊なわけだし、指輪を持つ事だって叶わない、か」
 シュラインの言うとおり、実体も大した力も持たない霊が物質を持つことは叶わない。
 女性の霊は悲しげに指輪を見て、目を伏せた。
「ありがとうございます。最後にその指輪を見れただけで十分です」
 霊は寂しげに笑って言った。
「慎太郎さんの息子さんから依頼を受けた、と仰ってましたが、慎太郎さんは……」
「先日、亡くなりました」
「……そうですか。だったら私も慎太郎さんの許に参ります。ご迷惑をお掛けしました……」
 女性霊はそう言って光に包まれ、そして霧散した。
「……本当にあの女性が雫さんのサイトに書かれていた霊だったのでしょうか?」
 汐耶がポツリと疑問を呟く。
「ちょっと疑わしいわね。もしかしたら偶然か、全く別件の話だったのかもしれないわね」
 そう言ってしばし感傷に浸っていたのだが、すぐに武彦と色がゾンビに襲われていることを思い出す。
「ゾンビが狙ってるのって、多分この指輪よね?」
「そうでしょうね。それが肉体と同価値と聞いて、これを使って生き返ろうとしてるのではないでしょうか?」
「だったら壊しちゃえば、目的を失ってまた静かに眠ってくれるかしら?」
「試してみましょうか」
 そう言って零はいつの間にか構えた刀を振り上げた。

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「……そうですか。霊は、あの女性は成仏しましたか」
 事務所に戻った一行は太郎に報告を済ませた。
「その際、指輪は破壊してしまったが……」
「はい。構いません。アレは人に害を成す呪物ですし、いつまでもおいておくわけには行きませんしね」
 太郎は一つ深呼吸して天井を仰ぐ。
「これで、父があの世であの女性と出会えていれば、私は何も言うことはありません。ありがとうございます」
「いや、まぁ、引き受けちまったからにはちゃんと解決するさ」
 武彦はタバコに火をつけながら応える。
「では、私はこれで。報酬は振り込んでおきます」
「ああ、お前も変なヤツに惚れるなよ。尻拭いに俺らを使うつもりならお断りだからな」
「ははは、肝に銘じておきますよ」

 こうして、草間興信所の指輪物語は幕を閉じた。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【0086 / シュライン・エマ (しゅらいん・えま) / 女性 / 26歳 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
【2675 / 草摩・色 (そうま・しき) / 男性 / 15歳 / 中学生】
【1449 / 綾和泉・汐耶 (あやいずみ・せきや) / 女性 / 23歳 / 都立図書館司書】

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■         ライター通信          ■
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 シュライン エマ様、シナリオにご参加いただきありがとうございます。『ハードボイルドの欠片も無い!』ピコかめです。(何
 草間指輪物語、お楽しみいただければ幸いです。

 女性三人寄ればなんたらといいますが、寧ろ冷静に事件を解決したように思えますね。
 寧ろ騒ぎっぱなしな男性陣に喝を入れていた気も。(ぉ
 何となく面倒見の良い感じのイメージを持ってしまったので、こんな文章に仕上がりましたが、どんなモンだったでしょうか。
 でわ、気が向いたら次回も是非。