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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


最期の言葉


 最期の言葉が思い出せなくて。
 助けてくれないかな?


 最初にこの夢を見たときは、ただの夢だと思った。ただの夢、というのは変かもしれない。夢に出てきた親友のことを心の中でまだ引きずっているのだと思った。
 けれども、阿佐人 悠輔は同じ夢をそれからずっとみる。
 だんだんとその周期は短くなり、今では毎日のように。
 三年前に住んでいた街で死んだ、親友の姿を。
 助けを、自分に求めている。
「行かなきゃ、ならないよな……」
 くしゃりと落ちてきた前髪をかきあげ、少しばかり表情を硬くする。
 思い出す事は多く、今でも色褪せることなく自分の中にある。
 親友の最期の言葉を、悠輔はしっかりと覚えている。
 その言葉は、自分だけに関係あるわけではない。
 ファイリア、広瀬 ファイリアにも関係あることだ。
 無関係のままでいられるわけがない。





 朝、顔をあわせた二人はおはようといつものように挨拶をしあった。
 だけれどもどこかぎこちない。
 その違和感は悠輔もファイリアもわかっている。
 二人とも何か言いたいが言い出せない。そんな雰囲気だった。
 朝食をとるスピードもゆっくりとしている。
 何故だか気まずい。
 けれどもずっとそのままでいるわけにはいかなくて、先に口を開いたのは悠輔の方だった。
「なぁ、ファイ……ちょっと行くところあるんだけど……来るか?」
「それってどこ? 今日はファイ、その……」
「嫌ならいいんだ。あの街に……行こうと思ってただけだから、一人でもいい」
「え、お兄ちゃんも? ファイも、ファイリアも今日行こうと思ってたの!」
 驚いたような、でも嬉しそうな表情をファイリアは浮かべ、そしてちょっとばかり前のめりの姿勢になりつつ言う。
 悠輔はそうか、と少し笑みを浮かべファイリアを見る。
 ファイリアも行こうと思っていた、と言うのを聞いてこれは偶然じゃないのかもしれないと悠輔は思った。もしかして、ファイリアも自分と同じような夢を見ていたのではないかと思う。
「ファイも夢を、もしかしてみた……のか?」
「夢? えっと……お兄ちゃんも?」
 ぱちくり、と瞳を瞬きファイリアは問い返す。悠輔は無言で頷いた。
「じゃあ……さっさとこれ食って、行くか」
「うん!」
 悠輔の言葉に笑顔でファイリアは返し、そして止まっていた朝食を食べる手を動かし始めた。
 ごちそうさまでした、とファイリアはちゃんと言い、そして行こうと笑う。
 悠輔はああ、と頷いて立ち上がった。
 そして二人が向かうのは三年前、出会ったあの街。
 思い出が色々と詰まった、場所だ。





 あの三年前から変わったようで、変わっていない街は静かに二人を迎える。
 静静と、そして気高くひっそりと、何者の侵入も許さないようなイメージを受ける。
 崩れた建物などもそのままの姿である。
 苦しく辛い思い出も、楽しく暖かな思い出もこの街にはある。
 悠輔とファイリアは、久し振りに訪れた街の中を歩く。
 人の気配はしないが、どこもかしこも懐かしい。
 ひっそりと静かな街には二人の足音と、話し声しか響かない。
「あそこでファイリアは迷子になって」
「そうだな、俺たちは必死に探した」
 苦笑しながら悠輔はファイリアの指差した方を見る。
 その場所は、昔は大きなデパート。普通滅多に用は無いような場所だ。
 けれどもあの三年前では色々と、悪いと思いながらも物を調達するのに役立った。そんなデパートの中、ファイリアは初めて見るものに夢中でいつの間にかはぐれてしまっていた。
「ものすごく、焦ったな……手分けして探して見つけてみたら……」
「ファイはあひるさんに一目惚れだったんだもん!」
「あれは、風呂に浮かべて遊ぶゴム製の……だったか」
「うん、黄色くてかわいかったです!」
 にこーっと満面の笑みでファイリアは答える。嬉しそうに言われて悠輔は何も言えない。
 そしてデパート前を通り過ぎて、次に通りかかったのは駅前。
 よくここで、何も無いあの平穏な日常の中で、友達とよく集まっていたなと悠輔は思い出す。
「おにいちゃんは、ここが好きなの?」
 ふと、いつの間にか悠輔は立ち止まっていたらしい。ファイリアが振り向いて問う。
 少し小首をかしげてファイリアは不思議そうな顔をする。悠輔はすぐに、なんでもない、と言って歩み始めた。
 平穏だった日々の中の思い出も、この街の中にはたくさんある。あの時は、なんとも感じなかったことだが失った今ではその存在は大きい。
「ファイはお兄ちゃんたちに出会えて良かったです」
「そっか」
 悠輔は笑みを漏らし、そしてファイリアの頭を撫ぜた。ファイリアはくすぐったそうな、でも嬉しそうな笑みで悠輔を見上げる。
「あ、ここ……ファイ、夢でみたですっ!」
「ここをか?」
 ファイリアが思い出したように声を上げる。二人は立ち止まり、そしてそのあたりを見回す。
 それは丁度、よく主婦が買い物に出るようなスーパーマーケット前。
 ここは悠輔にとってファイリアの力を目の当たりにした場所だった。
「ファイ、ちゃんと力は使わないようにしてます!」
「うん、偉いぞ。あいつ、ファイのことをものすごく心配して……」
「心配?」
 悠輔は苦笑しつつ、ファイリアを見る。ファイリアはどんな言葉が続くのかと、待っているようで。
「おっちょこちょいだからな。目が離せないって笑いながらここで言ってた」
「あう、おっちょこちょいは……なおらないです!」
 ちょっとばかり頬を膨らませてファイリアは拗ねる。だけれども本当のことなので否定が出来ない。
 そんな様子を悠輔は見守る。
 それからも、色々な思い出を二人で話しながら、街の中を進んでいく。
 悠輔にとってはこの壊れた街並みというのは、辛い記憶の方が多い。壊れる前の、いたって普通のどこにでもあるような世界が一転した三年前。思い出は平和な頃と、荒れた頃と、二つ悠輔の中にある。
 どちらも思い出して、その落差を感じる。
「……できることなら、もう一度戻ってみたいもんだな……みんながいた、あの頃に……」
 ぽつりと悠輔は呟き、それにファイリアはどう答えたらいいものかと困る。
 悠輔はファイリアに、ちょっと思ったことを言っただけだ、気にするなと笑いかけた。
 そして、ふと会話が途切れてしまう。
 話すことが尽きたのでなく、なんとなく話せない雰囲気。
 もうすぐ辿り着くのは、悠輔の親友が死んだ場所。
 悠輔は親友が死んだとき、その場にいた。
 そして彼の最後の言葉をしっかりと聞いている。
 こんな死にそうなときにまで、そんなことを言うのかと思った。
 悠輔の親友が亡くなった場所は学校だ。
 魔物に終われ逃げ込んだ先、悠輔やファイリア、他の仲間を逃がすために大丈夫だと笑いながら囮となるように走っていった。
 悠輔は安全な場所までファイリアたちを逃がし、そして戻ってきたときにはもう彼の息は細かった。
「学校、だな……」
「お兄ちゃん大丈夫?」
「何がだ?」
 ファイリアは悠輔を心配そうに見上げる。
 自分では気がついていないのか、悠輔の表情はとても硬い。
「辛そうです、いきたくないならファイだけ行ってくるです!」
 たたっと悠輔より先に数歩、前へでてファイリアはくるっと周り悠輔の方を見る。
 まっすぐ視線がかち合う。
「いや、行くよ。俺が行かなきゃだめだからな」
 悠輔はゆっくりと歩み出し、ファイリアに並ぶ。
 そして学校の構内、その変わり果てた中を歩く。
 すこし灰色じみた構内の壁は何事も無かったような感じだ。机などはぐちゃぐちゃになったまま、あの時のまま時間が止まっている。
 構内の瓦礫を超えながら、くぐりながら二人は進む。
 辿り着いた一室。
 教室の一つ、その扉の前で二人は立ち止まった。
 音楽室、ここをいつも最期に夢に見る。
 からりと扉を開けると埃が舞った。
 中へ入る、その一歩が重い。
 ファイリアと悠輔は壊れたピアノや机のあるその教室へと入る。窓側の壁は壊れ、陽光が差し込んでいた。その陽光にきらきらと埃が光る。
「ここで、あいつは死んだんだよな……」
「お兄ちゃんは最期の言葉、聞いたの?」
「ああ……」
 深く瞳を、悠輔は閉じた。
「ファイを守れ、絶対。約束だぞって……言ったんだ」
「ファイを?」
「ああ……ファイのことが、あいつ好きだったんだ。すごいかわいい、どうしようってファイの見えないところで嬉しそうに言ってたんだ」
 ぱち、とファイリアは数度まばたきし、そしてかぁーっと顔を赤くする。
 しゃがみ込んでわーっと照れているようで。
「そんな、今言われてもファイ困るー」
「あははは、そりゃ、そうだな……なぁ、俺ちゃんと約束守れてるだろうか……」
「ファイも、好きだったよ。それが恋とか、そうゆうのかはよく……よくわかんないけど」
 守れてるか、と悠輔は再度、心の中で親友に問う。
 その、彼の姿を思い出しながら。
 と、ふと頬を風が撫ぜる。
 その風が流れる方向を、二人は同時に振り向いた。
 白い陰のような、人の姿。
 はっとする、その姿は彼だ。
 ふっと、明確な顔や特徴があるわけではないのだけれども彼だとわかる。
 彼が、微笑んだ。
 そんな印象を二人は受け、それに驚きつつ、微笑み返した。
 彼の姿はさぁっと、そのまま流れるように消えた。
 その後には穏やかな、和やかな雰囲気を感じる。
「……あいつ、だったよな」
「うん、そうでした……」
 ファイリアと悠輔は顔を見合わせ、そして笑いあった。
 彼が、悠輔の親友は満足していた。思い残しが、なくなったのだろう。 
「ファイは、ファイたちはみんなに心配とかかけちゃ駄目なのです!」
「ん……だな」
「お兄ちゃん、帰りましょう!」
 ファイリアは立ち上がり、悠輔の傍に駆け寄る。
 自分達の日常に戻ろう、と笑い教室を出る。
 悠輔にとってこの街は故郷であり、終わりであり、始まりであり。
 失って、得て、一つの転機となった場所。
 ここであったことはこれからもずっと忘れることは無い。

 お前との約束はずっと守り続ける。

 傍らのファイリアをふと一瞬見、そして視線をまっすぐ、前に向かって戻す。
 親友との約束、それは悠輔にとってとても大事なものだ。
 これからもずっと違えることは無い。
 願うならば、もう一度親友と、皆との日々を夢の中でもみたい。
 それは後ろ向きにではなく前向きに日々を過ごしていくためのつかの間の休息であってもいい。



<END>



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号/PC名/性別/年齢/職業】

【5973/阿佐人・悠輔/男性/17歳/高校生】

【6029/広瀬・ファイリア/女性/17歳/家事手伝い(トラブルメーカー)】

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■         ライター通信          ■
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 阿佐人・悠輔さま

 はじめまして、ライターの志摩です。今回は最期の言葉、拾っていただきありがとうございました!
 ファイリアさまとご一緒、とのことで楽しく書かせていただきました!プレイングを頂き妄想フル回転にてお話を生ませていただきました。少しでも楽しんでいただけたなら嬉しく思います。親友さんとのお約束、という形をとらせていただきまして、きっとこれからもファイリアさまを見守っていかれることと思っております!
 それではまたおどこかでお会いできればうれしく思います!