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不幸の葉書
まだ夜も明けて間もない朝の事。草間興信所の中では、ポストから持ってきた大量のちらしや郵便物を、煙草を咥えながら目を通す草間武彦がいる。ちらしはいつもどおりバーゲンやセール、求人広告、物件情報など。そして郵便物は感謝の手紙や依頼の手紙など、もちろん“その手”に関してのものばかりである。
「まったくご丁寧に怪奇探偵様とか書いてくれやがって。」
思わず不満を漏らすと、コーヒーを淹れて持ってきた草間零が「また依頼ですか?」と訊ねてきた。ため息で返事をし、咥えた煙草を置いてコーヒーに口をつける。そんないつもと変わらない朝の日課だが、今日はいつもとは違った郵便物が届けられていた。
武彦に代わって郵便物に目を通していた零が「うわぁ。」という声を漏らしたのが始まりだった。
「どうした?」
「お兄さん、なんか変な葉書が紛れてますよ。」
そういって零が差し出した葉書には、丁寧な文字で「草間武彦様」と書かれているだけで送り先どころか、宛先は何も書かれてなかった。そして裏には、これもまた丁寧な文字でこう書かれていた。
不幸をあなたに送ります
花と鳥と風にご注意を
月を繋げれば功名の兆し
「なんだこりゃ?」
「ね?不気味ですよね。」
「まぁ、小学生レベルの悪戯だろう。」
そう言ってゴミ箱に葉書を放り投げて、再び煙草を咥えようとした時だった。武彦の「冷てぇ!」という声が響き、それとほぼ同時にガシャン!という大きな音が部屋の中に鳴り響いた。
「お兄さん!」
「ちっくしょう、花瓶いきなり倒れやがった……あー!俺のマルボロがびしょびしょじゃねぇか!」
「あぁ、折角の綺麗な花が……。」
武彦は机の上でびしょびしょになったマルボロを、零は床に落ちてしまった花を、それぞれ残念な顔をして手にとった。
「まさか……さっきの葉書のせい?」
「冗談じゃねぇ。さっきの葉書は――あ!!」
そう叫んだ時、どこから紛れ込んだのか小さな雀がゴミ箱の中からその葉書を咥え、今にも窓から外へ羽ばたこうとしていた。
「逃がすか!」
武彦は手元にあった“もの”を確認せずに雀に向かって投げつけた。投げた“もの”は見事雀に当たるのだが、それと同時に零の怒鳴り声が部屋に鳴り響く。
「お兄さん!灰皿なんて投げないでください!」
よく見れば投げた“もの”とは灰皿で、事務所の中には吸殻と灰が舞っている。そして、それもまた間髪いれず、今度は外からふく風が葉書を窓から外へ運び出してしまった。
「あ、花と鳥と風に注意って……。」
「くそ!零は部屋の掃除をしててくれ!」
零にそう言い残して部屋を飛び出した武彦は、風に舞う葉書を追いかけるのだった。
■
バタン!と扉の閉まる音が部屋の中に響き、さっきまで慌しかった部屋の中は静かになった。しかし、散々とした部屋の中を見て「はぁ。」と思わず零はため息をついた。
「あらあら、大丈夫かしら?」
「あ、シュラインさん。おはようございます。」
「おはよう、零ちゃん。」
その散々な場所へ1人の女性――シュライン・エマが現れた。彼女は翻訳家と幽霊作家でありがながら草間興信所にてボランティアと言えるほど事務整理や家事手伝いに通っている。シュラインは、先ほど武彦に灰皿を当てられた雀をそっと手に乗せた。
「打ち所が悪くなければいいけど……」
「シュラインさん……」
「えーっとね……武彦さんがこの子に灰皿を当てたあたりから見てたわ。あまりにも武彦さんが慌ててたから、声をかけるタイミングを失っちゃったの。」
「え、えぇ……」
「で、零ちゃん。何があったか話してくれる?」
雀の傷の具合を見るシュラインに、問われた零は手紙の内容とそして起こった出来事――花瓶の事、雀の事、そして風に運び出された事を詳しく話した。
「月を繋げれば、か……よし、これで大丈夫だわ。」
話を聞きながら、雀の手当てを終えたシュラインは「しばらくここで休んでなさい。」と雀にいってそっとソファーの上に寝かせた。その呟きにぐしゃぐしゃになってしまった机を掃除し始めた零は心配そうな顔をする。
「やっぱそれが分からないとと、お兄さんに不幸は付きまとうって事でしょうか?」
「えぇ、それが分かって解決するならいいのだけど……どちらにしろ、それが不幸から脱出するヒントだと思うわ。」
「あ〜れまぁ、なんだか楽しい事になってんじゃねぇの。」
二人が話しているとそこに飄々とした声が割って入る。二人が声のする方へ、顔を向ければドアの入り口に煙草を咥えた童顔の美青年――唐島・灰師が笑顔で「お二人さん、おはよう。」と手を上げていた。武彦をからかう事に命をかける灰師の出現に、シュラインは険しい顔をする。
「あんた、いつから……」
「さっきから。なんだか、武彦が慌てて走ってたからねぇ。気になって来てみたら、なんか面白そうじゃん?」
そう言って笑みを隠さない灰師は、不安な顔をする零の頭にポンと手を乗せて言う。
「月って事は、夜になれば悪夢って終わるんじゃん? 大丈夫だ、武彦がそんな不幸にへこたれねぇって。」
「灰師さん……」
「へへ、零ちゃんは笑顔で帰りを待てばいいって。」
灰師は零に微笑みかけてから、頭から手を離し咥えてた煙草を灰皿にこすりつけた。そして笑みを抑えられないまま「それじゃ、俺はそろそろ……」と言い部屋を出ようとした時、ポンと肩を叩かれる。
「あんた、まさか……」
振り向けば、恐ろしい形相でこちらを睨むシュラインの姿があった。武彦を想うシュラインだからこそ、彼女に下手な回答は危ない。
「はは、気のせいだ、気のせい……じゃ、またっ!」
灰師は背中に冷や汗を感じながらも、そう言って一目散に部屋を出て行った。
「……やっぱ私も行ったほうがいいわね。」
「シュラインさんは、あの暗号をどう思うんですか?」
やれやれと自身の荷物をまとめ始めたシュラインに、零はまだ不安を拭えぬ顔で聞いてきた。そんな零に頷いたシュラインは、淡々と自身の推理を語りだした。
「そうね……月を繋げれば"朋"という字になるわ。この字から、友達や仲間を指してるのかもしれない。それに葉書に書かれた名前の相手――つまり武彦さんにしか葉書の不幸は効果がなく、親しい人が葉書触ってる分には何も起きない――不幸から避けられると受け取れそうなの。だって、零ちゃんが葉書を触っている時は何も起こらなかったわけだしね。」
「あぁ、なるほど……」
「ちょっと解釈に自信がないけど、武彦さんの様子も心配だし……何より彼が絡んできたとなると、余計心配だわ……さて、準備完了。武彦さんの後を追いかけてくるわね、零ちゃん。」
「はい、気をつけてください。」
零に見送られたシュラインは、灰師よりも先に武彦を見つけなければと、まだ昼前の町を走り出した。
■
怪奇な現象がよく起こるこの町とはいえ、昼は行きかうたくさんの人々の喧騒が耐えない。そんな町の中で人の波が避ける一角があった。
「ぜぇーぜぇー……ちくしょう……」
花壇のようになっているその場所には、知る人ぞ知る怪奇探偵の草間 武彦の姿がある。だが、その姿は普段ビシっと決まっている格好とは違い、汚れや破れが目立ち至る所に生傷が絶えない。また、その近くを通れば花かゴミなのかなんなのか分からない異臭を放っていた。まさにホームレスともとれるような状況で、とぼとぼと町の中を歩いている。そして、その右手には例を葉書握り締めていた。
(本当にこれのせいなのか?参ったな……目立ちすぎだぞ。)
辺りは皆、好奇や嫌悪の目で武彦の事を見つめている。ハードボイルドを目指す武彦として、まったくもって耐え難い状況だった。そして喫煙家の彼だからこそ、朝一本だけしか煙草を吸っていないだけに、ますます苛立っていた。
(だめだ……ヤニが欲しい……)
我慢ができなくなった武彦は懐を探る。しかし、探しても探しても財布らしいものは見つからない。しかし、ズボンの後ろポケットを探ったところ500円玉だけが一つだけ入っていた。これは幸いだと思い500円玉を手の中で遊ばせながら、煙草の自動販売機を探している時だった。
「カア!」
「カアアアア!」
「な!?カラスゥ!?」
突如、二羽のカラスが武彦を目掛けて突進してきた。思わず声を裏返し手で迫ってきたカラスを払い除け様としていると、そこに陽気な声が響いた。
「あははははは!楽しい事してるなぁ!」
「げ!?」
行きかう人々の中に確かにその姿――今、武彦にとって最も会いたくはない類にはいるであろう、唐島・灰師の姿があった。カラスにしつこく付き纏われる武彦を、灰師は決して助けようとはしない。
「カラスってあれだ。光物に目がないっていうしねぇ〜。」
「灰師、てめぇ……少しは助けて……あああ!」
ふと持っていた500円玉と葉書が手からこぼれた。そして間髪入れずに二匹のカラスはそれぞれ500円玉と葉書を咥えると、そのまま逃げていった。
「ちくしょうううう!!」
それでもめげずに逃げるカラスを武彦は追いかける。
「あーらら……あれは相当キテるねぇ……けけ、ほんと面白そう〜!」
その姿を見て、笑いが止まらない灰師は意気揚々と武彦を追いかけていった。
■
「あぁ、金木犀に突っ込んでたね。ずっと上を見てたもの。前が見えなかったんじゃないの?」
「そ、そうですかぁ……」
「確か、その後、あっちの方向へ行ったはずだよ。」
「あ、はい。ありがとうございます。」
一方、まだ武彦を見つけられていないシュラインは、行き交う人々から武彦の目撃情報を聞きながら町の中を走っていた。
聞いてきた情報によれば、葉書を見上げながら薔薇の花束を持った人に突っ込んだり。葉書が地面に落ちて拾おうとしたら、ビルから落ちてしまった鳥かごが頭を直撃したり。強風で再び舞い上がれた葉書を取ろうとしたら、近くを通った人の日傘が風に煽られ服に引っかかって服が破れてしまったり。他にも聞くだけで悲惨な出来事をたくさん聞いてきた。
(まさに、花と鳥と風に注意ね……本当、大丈夫かしら、武彦さん。)
シュラインはしばらく歩いた所で、再び情報を取ろうと近くの駄菓子屋の中へ入った。昔からあるのだろうか。風情を感じさせるその店の奥で老婆にこにこと座っている。
「おや、いらっしゃい。」
「すいません、人探しをしているのですが……」
「あらあら、どんな人かな?」
「こういう人です。」
そう言いながらシュラインはバックの中から武彦の写真を取り出し見せると、老婆は「ふむ。」と頷いた。
「そうねぇ、さっき子供たちとぶつかって……あれはから揚げかしら? 弁償しろってもめていたわよ。」
「そ、そうですか……で、その後はどうなりましたか?」
「あー、そうねぇ……そこのお菓子でも買ってくれれば、思い出せるかもねぇ。」
老婆は冗談なのか本気なのか笑顔でそう言う。シュラインは一瞬戸惑うも、背に腹はかえられないのか、お菓子を手にとろうとしたその時だった。
「いや、それは今度でいいよ。ほら、あそこ。」
「え――?」
老婆がシュラインの行動を止めて、店の外を指した。シュラインはその指さされた方向へ顔を振り向かせると、そこにはカラスを追いかける武彦の姿があった。
「武彦さん!」
「じゃあ、またいらしてね。」
「あ、ありがとうございます!」
老婆に礼を告げるとシュラインは店の外へ出た。そして、武彦を目で追おうとすると、その後ろには笑いながらその後を追う灰師の姿が見える。
(お、遅かった……)
シュラインは落胆とするが、こうしてはいられないと冷静に判断をし走り出した。
■
「カアアア!」
「待て、コラァ!」
「カア!」
「あはははは!」
行き交う人々の中を、二羽のカラスとそれを怒鳴りながら追う武彦、そしてそれを笑いながらついていく灰師の姿がある。そして一同がそこそこ大きい公園の中へ入ると、そこには1人の女性が立っていた。
「シュ、シュライン!?」
「カア!」
「うげ!?」
一同、シュラインの登場にそれぞれ異なった反応を見せる。そして、公園にて先回りをしていたシュラインはそっと深呼吸してから口を小さく開けた。
(いい子だから、悪戯はそこまでよ……)
シュラインはその脅威の声帯能力を駆使し、人には聞こえない音でカラスの行動を抑制するよう指示を出す。その音がカラスに届いたのか、カラスは葉書と500円玉を落として、どこかへ飛び発っていった。
「た、助かった。」
「あー……終わっちゃった。」
飛んでいくカラスを見て、武彦は安堵の表情を、灰師は残念がった表情をそれぞれ見せた。そこへ、カラスが落としていった葉書と500円玉を拾ったシュラインが寄ってきた。
「武彦さん!だ……大丈夫?」
その悲惨すぎる武彦の姿に、シュラインは言葉を戸惑わせる。そして、後ろから煙草に火をつけながら灰師も武彦に近づいてくる。シュラインはキッと灰師を睨んだ。
「あんた……武彦さんに何かしたんじゃないでしょうね?」
「いや、何もしてねぇって。なぁ?」
「まぁ……確かに何もしてないな……」
灰師が同意を求めると、武彦は渋々それを了承し、よろよろと立ち上がる。そんな武彦を案じてシュラインはそっと手を差し伸べ、武彦の体を支えた。
「それならいいけど……本当に大丈夫?」
「あぁ、ありがとう。」
「とりあえず、そこのベンチで休みましょう。その傷は、いくらなんでも酷すぎるわ。」
「確かに、こんなに悲惨なのは稀だよなぁ。」
武彦はシュラインの肩を借りて、3人ベンチまで歩いた。
■
「――はい、これで良いかしら?」
「あぁ、本当にありがとう。」
「で、武彦さん。私が考えるこの暗号の解釈なんだけど――」
公園のベンチに座りながら、シュラインは携帯していた絆創膏や消毒液で、武彦の所々に見える傷を治療し、葉書に書かれた暗号の解釈を武彦に伝えた。そのシュラインの横では、灰師はその葉書をぐしゃぐしゃに折ってみたり、ばらばらに千切ったり、果てまた煙草の火を押し付けたりと色々と試している。だが、葉書はすぐ様元通りの綺麗な形へ戻っていった。
「へぇ〜、これすげぇな。やっぱこの意味不明な暗号解かない限りは、不幸は続きそうだねぇ、くくく……」
「ちょっと貸してみて。とりあえず、私が触ってみてどうなるか試してみるわ。」
笑う灰師から葉書をとったシュラインはバックから筆記用具を取り出した。
「月を繋げれば"朋"ねぇ……そんな単純で終わればいいな。」
シュラインの解釈をさり気なく聞いていたのか、灰師は笑みを絶やさずそう言った後「俺は残念だけどね、けけけ……」と付け足した。そして懐から煙草を取り出し火をつけると、シュラインを挟んで横から武彦がうらめしそうに覗き込んできた。
「ん、なんだよ?」
「あー……灰師、煙草を分けてくれないか?」
「あん?これで最後だぜ?」
「なんだ……って?」
「だから、これで最後だっていうの。運悪いねぇ〜、けけけ……」
愕然とする武彦に、灰師は笑いながら後ろに回ってフゥーっと煙を吹きかける。その行動に、苛立ちが限界まで来た武彦はゆっくり立ち上がった。
「てめぇ……」
「お、勘弁してくれよ。不幸をこっちにうつさないでくれ?」
「ふざけんな、コラ!!」
「や、やべ!」
公園の中で逃げ出した灰師を、武彦は追いかけだした。
そんな子供の鬼ごっこのような光景を他所に、シュラインは持っている筆記用具を使い、葉書の内容を書き換えようとしていた。だが、何度も修正液やボールペンで葉書に手を加えようとするものの、葉書には汚れ一つつける事ができない。
(どうやってもダメね……けど、今の所、災難と呼ばれるような事は起きていないし……けど、煙草を吸えないのも、吸ってる人には災難かもしれないわね……)
「ねぇ、武彦さ――きゃっ!!」
シュラインが席から立って、追いかけている武彦に声をかけようとしたその時だった。突如、公園の中で強い風が吹き荒れる。走り回っている灰師と武彦もそのあまりの強風に、立っているのが精一杯になる。そして、その風のせいで公園の砂や砂利が舞い上がり、それが容赦なく3人を叩きつく。
「きゃああ!」
「くそ……!!」
「いてぇ!なんだよ、これ!!」
強く吹く風は一向に止もうしない。そして、それに耐え切れなくなった灰師は右手を空にかざした。
「いい加減にしやがれ!」
灰師がそう叫ぶと、いつの間にか上空に出来た雨雲が、公園一体に雨を降らし始めた。雨降師――アメフラシと呼ばれる一族である灰師だからこそ、任意に雨を降らせる事ができる。そして降った雨は砂や砂利を湿らせて重くし、風で飛ばないようになり、風もまたほぼ同時におさまった。
「た、助かった?」
「はぁ……ちくしょう、俺にまで不幸なすりつけるんじゃねぇよ。」
「じゃあ、俺にまとわりつくな。」
「もう!仲がいいわね……ともあれ、私が触っていても不幸は起きるって事ね――あら?」
口喧嘩が絶えない二人に、シュラインはため息をつきながら呟いた。だが、ふと手元を見ると、葉書は雨に濡れぐしゃぐしゃになったまま、先ほどと違い元通りに綺麗になろうとせずにいる。
「綺麗にならない?」
「なんで、元に戻ろうとしないんだ?」
「――そうか! シュライン!」
困惑する二人と違い、何かに気づいた武彦はシュラインに叫んだ。
「すぐその葉書を、細かく千切ってくれ!!」
「え?――えぇ!!」
言われたまま、シュラインは葉書を細かく千切りだす。すると葉書は千切られた所より、淡い光の粒子となってどんどん消えていった。
「終わっ……た?」と、まだ困惑するシュライン。
「あー……残念……」と、消えていく葉書に落胆する灰師。
「これで、一件落着か……ふぅ。」と、安堵で緊張で解けたのかぐったりする武彦。
そんな3人の姿を、既に真っ赤に染まった夕日が照らしていた。
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なんとか落ち着いた後、時間が経ちすぎた事に気づいた3人は、まず興信所に報告をし、シュラインはスーパーにて夕飯の買出しを。灰師はシュラインに紹介された駄菓子屋で零のお土産を。それぞれ買い物を済まして、日はとっくに沈み街灯に照らされた薄暗い夜道を、ぼろぼろのままの武彦と買い物袋を持ったシュラインが並んで歩き、その後ろを駄菓子を詰めた袋を持った灰師がついて歩いている。
「でも、なんであの時だけは、汚したり千切ったりできたのかしら?」
「あぁ、それはな。シュラインの言ってた通り"朋"だからこそ出来たんだよ。とあるタイミングでのみな。」
「タイミング?」
「そんなの関係があったのか?」
そう訊ねるにシュラインと灰師に、武彦は説明を続ける。
「"月を繋げる"には二つの意味があったのさ。一つはシュラインの言う通り"朋"である事。そしてもう一つは、一定のループ起こる出来事の中のタイミングを指していたんだ。」
「あー!花と鳥と風……そして、月かっ!」
「"花鳥風月"……そういえば、武彦さんを追う時に聞いた出来事は全部、花関係、鳥関係、風関係と繋がっていったわね。」
「あぁ……だから、風関係の出来事があった後、灰師の雨で濡れた葉書を持っていたのがシュラインだったからこそ、あぁやって消滅する事ができたって事だ。」
武彦はそういい終えるとため息をつき、「やれやれ」とシュラインに買ってもらった煙草を咥えた。しかし、そんな安堵を壊すように灰師が呟いた。
「けど、葉書はなくなったからって、不幸が消えたわけじゃねーんじゃねぇの?」
その言葉にピクッと武彦は体を強張らせる。それをフォローするように、シュラインが間に入った。
「大丈夫よ、武彦さん。もう、そんな事言わないで欲しいわ……」
「けけ、冗談だよ、冗談。」
そう言う灰師の顔は、再び笑みに満ちている。だが、前を歩く武彦とシュラインは、それに気づかぬまま歩き続けていた。
(つまり次は、花関係って事だな……くくく……)
翌日の事。
灰師が持ってきた花束に、草間興信所は大騒ぎとなるが、それはまた別の話である。
fin
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号/PC名/性別/年齢/職業】
【0086/シュライン・エマ/女性/26歳/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
【4697/唐島・灰師/男性/29歳/暇人】
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■ ライター通信 ■
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初めまして、今回が初の受注で書かせていただきました。
喜一と書いて"きひと"と申します。
ご利用ありがとうございました。
お話の方はいかがでしたでしょうか?
楽しめましたら幸いです。
ご利用された二人は対となる行動故、自身物語の構成から書き終わるまで楽しく書かせていただきました。
唐島・灰師様
改めまして、初めまして。ご利用ありがとうございます。
"特に何かをする"というより"存在自体が不幸"と言った感じで書かせてもらいました。
最後の方にて不本意ながらも武彦を助けてしまいましたが、"雨降師"という魅力を使えて満足だったりします。
ともあれ、武彦をからかう事は楽しめたでしょうか?
どうしてもこのキャラの台詞や描写は、自分自身も思わず笑みをこぼしながらながら取り組めたの、とても楽しかったです。
武彦に厄介がられるその"唐島・灰師"を感じ取ってくだされば幸いです。
ご意見等ありましたら何なりとご指摘ください。
それでは、またの機会ありましたら、よろしくお願いします。
喜一でした。
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