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<東京怪談・PCゲームノベル>


超能力心霊部 サード・コレクション



 それは突然だった。
 写真を見つめて歩いていた薬師寺正太郎を、秋築玲奈はちょうど見かけたのだ。
(正太郎君だ。なんか難しい顔して歩いてるなあ)
 何か悩み事だろうか? それともあの二人にまた何か言われたとか?
 いつも気弱で、霊とか怖いことが大嫌いな正太郎。彼の気持ちもわからないでもない。
(確かに……怖いことってあまり向き合いたくないというか)
 そう思っていると玲奈はビク、と反応した。
(な、なに……この強い気配…………)
 寒気が走る。
 正太郎が顔をあげた。
 そこに、いつの間にか大きな古い屋敷がある。
 玲奈はどっと冷汗をかいた。
(いつ現れたの、あの屋敷――――!)
 危険だ。なにかとてつもなく危険を感じる!
 屋敷を呆然と見上げる正太郎は玲奈と同じように危険を感じたのか、逃げようとした。
 だがその足が引っ張られていく。
「正太郎君!」
「!? 秋築さん!?」
 現れた玲奈に驚く正太郎。
「正太郎君を見かけて、それ……」
 それで、と言うつもりだった。
 玲奈は正太郎の腕を掴み、足を踏ん張った。
「あ、秋築さん……こ、これ、ど、どういう……」
「わからないけど……ああっ、正太郎君もっと足に力入れて……!」
 一人の腕力では止められない!
 二人はあっという間に屋敷に引っ張り込まれてしまう。
 バタン、と無情な音を響かせてドアが閉まった。
 引き込まれた力が強かったため、玲奈は床の上に投げ出されたような形になっている。
「いたた……。正太郎君?」
 彼の無事を確かめようとして起き上がった玲奈は、正太郎の姿がないことに驚いた。
「え? し、正太郎君てば……どこに行ったの?」
 呼んでも返事が返ってこない。
 薄暗い部屋の中を見回してみるが、やはりどこにも姿はなかった。
 よろめきながら立ち上がって目を凝らす。
 壁一面に絵が飾ってあった。どれも肖像画で、風景画などは見当たらない。
「なんなのかな……ここって」
 入ってきたドアに近寄ってノブを回すものの、まったく動かなかった。
 力を入れて押したり引いたりするが微動だにしない。
 諦めて窓があるほうへ近づく。カーテンを手で払い、窓を押してみた。やはりここも開かない。
(どうなってるのかな……)
 不審に思いながら玲奈は落ちている白いものに気づいた。
「これ……正太郎君が見てた写真だよね」
 拾い上げて見る。
 不気味な笑みを浮かべて自画像を描く正太郎が写っていた。
(なんだろう……正太郎君て、こんな表情はしないと思うんだけど……)
 とにかく正太郎を探さなければならない。
 不気味な屋敷に閉じ込められていることで、玲奈は軽く震えた。
(外とは連絡はつくのかな……)
 鞄を探り、携帯電話を取り出す。圏外にはなっていない。
(やるだけやってみよう)
 朱理は携帯電話を持っていない。持っているのは奈々子だ。
 電話が無事に通じますように!
 そう願いをかけながら電話のコール音を聞く。
<はい>
 相手が出た。
「! 奈々子ちゃん!?」
<? 秋築さんですか?>
「うん。あのね」
<は……>
 突然声が遠くなる。
 玲奈は焦って携帯を強く握った。
「奈々子ちゃん!?」
<……きさ……>
「奈々子ちゃん!」
 ぶつん、と妙な音がする。電話が完全に途切れたと思って玲奈はひどく落胆した。見れば表示は圏外だ。
 携帯の通話を切り、玲奈は部屋の中を見回す。
「絵……」
 なんだかどの絵も不気味に思えた。
 肖像画の不気味なところは「見られているような気がする」ことだ。
 どの絵も動くことはないのに、そんな気がしてしまう。
 びっしりと壁を占める絵から視線を逸らし、玲奈は歩き出した。
 階段がある。
(一階から調べるか、二階からか……)
 玲奈は小さく笑う。
(怪しいやつはだいたい『奥』か、『一番下』か、『一番上』ってところだけど)
 残念ながら地下はないので『上』と『奥』だ。
 玲奈は二階への階段をのぼる。
 二階も同じように壁にはびっしりと絵が飾ってあった。ドアも幾つか見える。中にはここと同じように壁に絵があるに違いない。
(気持ち悪いなあ……)
 いい趣味とはいえない。
 ほどほどならいいが、ここまでとなると……。
 奥を目指して歩く玲奈はごくりと唾を喉の奥に押しやる。
 一番奥のドアがあった。
(あそこにいなかったら……)
 いいや、望みは持つべきだろう。
 ドアノブに手をかけて、回す。
 重い音をさせてドアが開いた。
 玲奈はそっと手で少し強くドアを押す。
 部屋には入らず、開いた隙間から中を覗いた。
 すぐさま空間から弓を取り出して構える。
「動くな……!」
 部屋の中にいた人物は動きを止めて玲奈を見遣った。
 玲奈は目を見開く。
 居たのは正太郎だ。
 彼は絵を描いている。
(だれ……?)
 正太郎の姿をしていても、彼ではないことは明白だ。
(あの写真と同じ……)
 不気味に笑う正太郎に玲奈は矢の狙いを定めた。
「ここでなにをしてるの」
「キミこそ勝手に屋敷に入ってこないで欲しいな」
 薄く笑う正太郎。
「なぜ正太郎君の姿をしてるの……?」
「この姿がお気に召さないのかな。人間は細かいことを気にする。姿など、しょせんはただの見た目にすぎないというのに」
「見た目の話をしてるんじゃない。どうして、あなたが、正太郎君の、姿をしているのかと尋ねてるの」
 わざわざ強調させるように言葉を区切って喋る玲奈。
 彼は肩をすくめた。
「なぜキミがここに居るのかね……。この屋敷は特定の人間しか入ってこないように造ったのに」
「? どういうこと?」
「霊力の強い人間だけを招き入れるのだよ」
 くくくと笑う彼は筆を置いた。
「簡単なものだ。罠にかかる魚と同じ…………キミたち人間の知恵を借りて造った屋敷だからね」
「人間は魚とは違うよ」
「同じだ。我々にとっては。
 タベモノに過ぎない。
 身を食べる人間たちと違って、私は霊力を食べているだけだ」
 玲奈はちら、と絵のほうに視線を遣る。すぐに男に視線を戻した。
「正太郎君の霊力を食べたっていうの?」
「……食事の最中に無遠慮に入ってきたのはお嬢さんのほうだろう?」
 姿は正太郎。だが声は違う。中年男性のものだ。
(霊力を食べ、姿を奪う……。声を奪っていない…………奪って………………奪っている最中?)
 描きかけの絵。
 ピンときた。
(絵……。そうか。あの壁の絵はみんな……)
 みんな、タベラレタ、ひとたち。
 正太郎の絵は未完成だ。食事中とこの男は言っていた。
(じゃあ助けられるかもしれない……!)
 玲奈は部屋に踏み込んだ。
 床はカーペットが敷かれており、足音が吸収される。
 男は笑みを浮かべたまま玲奈を見つめた。玲奈の動きをじっくり目で追う。
 矢を男に向けたまま玲奈は近づいていった。だが警戒は怠らないようにする。
 相手が人外である以上、どんな攻撃をされるかわかったものではない。
「どうした? その矢で攻撃すれば、キミの心配しているショウタロウとやらもタダでは済まないと思うがね」
 ふふふと軽く笑うその様子が、玲奈をムッとさせるものだった。正太郎の顔でそういうことはしてほしくはない。
 臆病者でとにかく怖がりの彼だが、他人を傷つけるようなことは決してしない。
 まして、そんな表情など。
「あなたはこんなとこで延々とそんなことを繰り返しているの?」
「人間と同じだ。腹が減るから食べる。それだけだと思うがね」
「ずっとここで? 獲物がかかるのを待つ日々を?」
「人間とは時間感覚が違う。
 私は悪いことをしているかね?
 人間と同じではないか?
 おなかがすくから、食べているだけだ」
「正当化しても、ボクは許せない。正太郎君を返してもらう」
 じりじりと距離を詰める玲奈。
 果たして自分の攻撃が効くだろうか。不安になってしまう。
 だって。
(どうしてこいつはこんなに余裕なんだろう……?)
 本当に、攻撃すると正太郎が傷つくなどという仕組みでは?
(脅しでもなく?)
 だったら勝ち目はない。この男の余裕も説明がつく。
 どうすればいいかと思考を巡らせる玲奈。
 男を攻撃することはできない。では屋敷はどうだ? 屋敷に攻撃したとしても……ムダになりそうな気がする。
 そうだ。
(正太郎君はどこに居るんだろう……この男はまだ食事中だって言ってたもの。ということは、まだどこかに居るってことだ)
 ではどこに?
 男から視線を外さず、玲奈はハッとした。
 絵だ。
 刹那、玲奈は弦を引き、矢を放った!
 矢はにやにや笑う男ではなく絵に射られる。
 驚く男に向けて威嚇用にもう一本矢を放った。
 バランスを崩した男は転倒する。その間に玲奈は絵に続けて矢を放って破壊した。
 絵からしゅうしゅうと青白い煙があがり始める。
「ああっ! 絵が、絵がああああっ!」
 男が悲鳴のような声をあげて慌てて絵に駆け寄ろうとした。だがその顔がどろりと、溶けた。
 皮膚がごっそり落ちていく。
 その醜悪な光景に玲奈は思わず口元を片手で覆った。
「あああああああああっっ! 顔がっ、顔がああっ!」
 床を転げ回って痛みを訴える男。
 絵からは絶えず煙があがり、そして近くに半透明の正太郎の姿が現れた。まだ姿が完全に戻っていないようだ。
「秋築さ……」
 かすれた小さな声に玲奈は安堵する。だがすぐに彼の手をとって引っ張った。
「早くこの屋敷から出よう!」
「え……?」
 事態が呑み込めていないらしいが構ってはいられない。この男が苦しんでいる今がチャンスだ。
 玲奈は正太郎の手を掴んだまま走り出す。部屋を出た。
 すると周囲が歪んでいるのに気づく。
「屋敷が悲鳴をあげてるみたいだ……」
 ぼんやりとした表情のまま呟く正太郎。同意したいがその時間はない。
 男の悲鳴が聞こえるうちに!
 階段を降りて正面のドアに走った。
 ノブを強く回す。簡単に開いたので玲奈は外に飛び出した。
 急速に周囲が回転し、どさ、と二人は落ちる。
「や、やった……無事に逃げられた……」
 そこは元の場所で、屋敷はどこにもない。
 安心した玲奈は正太郎が完全に元に戻っていることに気づき、喜んだ。
「良かった!」
「あ、あの、ありがとう……秋築さんのおかげだよ」
 正太郎は照れ臭そうに微笑む。玲奈は拾った写真を彼に渡した。
「ほんとだよ。正太郎君、今度からは気をつけてね」
 一息ついてから、二人は揃って長い溜息を吐き出したのである。



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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PC
【4766/秋築・玲奈(あきつき・れな)/女/15/高校一年生】

NPC
【高見沢・朱理(たかみざわ・あかり)/女/16/高校生】
【一ノ瀬・奈々子(いちのせ・ななこ)/女/16/高校生】
【薬師寺・正太郎(やくしじ・しょうたろう)/男/16/高校生】

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■         ライター通信          ■
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 ご参加ありがとうございます、秋築様。ライターのともやいずみです。
 今回は正太郎がメインのお話でしたが、いかがでしたでしょうか?

 今回はありがとうございました! 楽しんで読んでいただけたら嬉しいです!