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<東京怪談・PCゲームノベル>


魑魅魍魎の召喚者

 前略

 突然のメール、失礼致します。
 僕はとある街で情報屋を営んでいる、シン=フェインと申します。
 この度、貴方様にメールを送らせていただきましたのは、一つ、依頼したいことがあるからです。
 手違いで発生してしまいました魑魅魍魎を退治していただきたいのです。
 その空間は現在、我が使い魔によって封印していますが、恐らくそれも時間の問題だと思われます。
 空間内はどのようになっているかは僕自身にも予測がつかないことを、予め御了承下さい。
 ついでに、命の保障もしかねます。
 報酬は希望額をお支払いいたします。
 または、御代に見合うだけの情報を提供させていただきます。
 原因は一人の呪術使いの実力不足なのですが、下らないのでここで詳細に述べるのは控えさせていただきます。
 それでは、仕事を引き受けてくださる方は添付ファイルに記された場所迄お越し下さい。
 詳細はそこでお話致します。

 敬具

 (添付ファイル:地図詳細)



 メールを送り終え、幾人かの<仲間>を戦場へと送り出し、<依頼人>は不意に感じた気配に視線をやることなく言葉を発した。
「――驚きました。貴女がこちらに来るなんて。屋敷は空けていても、平気だったのですか?」
「ええ。お困りのようでしたから、お手伝いするのは人として当然のことでしょう? それに、奥様には既に了承はいただいていますから」
 それなら良かった、と。<依頼人>は簡易に礼を述べて、声の方へ体ごと向けた。メイド服の上に外套をまとった、黒い髪の女性だった。
 篠原美沙姫は、綺麗に微笑んだ。

「メールをいただきました者です。それで、わたくしは何をすれば宜しいでしょうか?」

 時間がないとの言葉を冒頭に上げ、簡易に以下の事項を説明する。
 一つ、魑魅魍魎は今現在精鋭部隊が退治しに行っており、その空間ごと隔離してあるので現在外側からの侵入は難しいのだということ。
 一つ、それでも完璧ということはなく、こちらの世界にも僅かではあるが漏れているのだということ。
「漏れている……というのは、魑魅魍魎がこちらの側にもやってきている、という解釈で宜しいでしょうか?」
 風の精霊の協力の下、『風の檻』を周囲に展開させながら美沙姫は訊ねた。万が一の時に備えて二重に結界を張って、魑魅魍魎が周辺地域へと被害を及ぼすのを防止しているのだろう。心遣いに感謝しながら、<依頼人>は答えた。
「はい。出来れば、そちらの退治をお願いしたいと思っています。ご覧の通り、僕は戦闘には不向き。と言って、女性を戦わせてしまうのも正直気が引けてしまうのですがね」
「あら、男女差別?」
「区別です。比較的、との話になってしまいますが、男の方が力も強く、頑丈に出来ていますからね。それくらいの責務でしたら果たしたい、とこれでも思っているのですよ」
「ふふ。そうでしたの。でも、向き不向き、というのもございますからね」
 これは手厳しい、と<依頼人>が言うのと同じくして、僅かに時空に亀裂が走る。口を開きかけるも、美沙姫の唇が先に言葉を紡ぎ始めた。
「風牙斬」
 詠唱一つ、言霊一つ。それだけで効果を発する高位な技に驚嘆の溜息が漏れる。時に言葉が自己暗示を含めるものが多い故に、一瞬で威力を発揮するもの程通常なら効果を期待出来たものではない。
「流石――噂に名高い侍女、ですね」
 無風であったはずの空気は一転、殺傷能力を持ち得る刃となる。周囲を切り裂き、血を撒き散らし、否、人ではないからそれはないのであろうが、四肢を痛みすら感じる間も与えられずに、外界へと現れたばかりの魑魅魍魎は霧散した。くん、と鼻を動かしてみるも、既に彼らの臭いは殆ど消えている。少々の傷では死なないのにも拘らず、或いは存在を風化させられた、とでも例えるのが正しいのだろうか。
 美沙姫は外野の声に気にした様子もなく、風で顔に掛かった髪の毛を払う。気配が消えたことを察してか、次に紡いだのは先程よりも少しだけ長い呪文だった。
 風が彼女の命令を聞くためか、止まる。
「大気に宿りし精霊達、風を纏いて我が元に集いたまえ。浄めの風を以て全ての悪しき存在を浄化せん」
 澱んだ風が、俄かに清浄なものへと変容する。微かにではあったが、感じていた臭いが完全に消え失せていた。
「……このような感じで、宜しいでしょうか?」
 美沙姫の問いに、<依頼人>は首肯する。
「助かりました。お陰で、こちらは問題なく進みそうです。あとは、結界の中にいる人達が元締めを退治していただけているか否か、という問題だけになりますが……。基本的に、それ以外の雑魚は数が多いだけで、然して強いと認識しなくても結構です」
「それはあくまでも、私達に取っては、という意味でしょう?」
「そうです。だから、此処で完璧に喰い止める必要があるんです」
「一つ、宜しいでしょうか?」
「構いませんよ。一つでなく、幾らでも」
「このようなことが起こった原因は、貴方にあると考えて宜しいでしょうか?」
「ええ、間違いはないです。でも、だからこそ被害者を出したくないのも、これもまた本音です」
「そう、ですか」
 そう言えば忘れてました、と今までの会話とは打って変わった明るい調子で<依頼人>は大仰に手をぽんと叩いた。
「報酬は何が宜しいですか? 我が情報網を持って、と言っても限りがありますが、何なりとお聞き致しますよ?」
 美沙姫は迷いもなく、首を横に振った。
「結構です。お気持ちだけで」
「それは……それはそれで僕は構わないんですが、本当に宜しいんですか?」
「ええ。元々、報酬というものが目当てではありませんでしたし」
 微笑する美沙姫に、<依頼人>は小さな声で礼を告げた。日本の仕来りに倣って軽く頭を下げてみせると、同じ動作で応じてくれた。
 結界内部の様子からして、事件に片が付くのも時間の問題だ。事後処理は自分の役目だと言わんばかりに腕を鳴らして、<依頼人>は最後のシメへと取り掛かった。
「それにしても、背中を護られるというのは何とも安心するものですね」
「それは光栄です」
 美沙姫の笑みに、軽い笑みを返す。
 一人では容易に諦めてしまうようなことも言い訳がましく頑張れるのは、悔しくも他人が見ているが故の見栄であったり背伸びであったりするのかもしれない。既に限界までは達していたが、何のことない調子で一つ息を整えて<依頼人>は言った。
「申し訳ないですが、もう少しだけ此処にいてはもらえませんか?」
 顔に驚いた色を僅かに見せたあと、美沙姫は何の気負いもない様子で一言だけ返した。

「それくらいなら、お安い御用です」





【END】

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【4607/篠原美沙姫/女性/22歳/宮小路家メイド長/『使い人』】

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■         ライター通信          ■
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お久し振りです、千秋志庵と申します。
依頼、有難うございます。

久々に引っ張ってきたシナリオです。
格好良い女性、戦う女性が大好きなので、毎回書き手として愉しみながら書かせていただいています。
進んで戦いに赴かなくても、前線に出る人をサポート、或いは何かを護るために動ける人が、とても素敵だと思います。
兎にも角にも、少しでも愉しんでいただけたら幸いです。

それでは、またどこかで会えることを祈りつつ。

千秋志庵 拝