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<東京怪談・PCゲームノベル>


超能力心霊部 ファースト・コンタクト



 ふらふらと歩くらんは、ある建物を見上げた。
 二階建てのファーストフード店。
 視線は二階の窓際。
(ふしぎなかんじ)
 らんは……ただ、導かれるように店に入って行った。



 二階にあがり、窓際を見遣る。そこには三人が座っていた。
 なにかを全員が真剣に見ている。テーブルの中央に身を乗り出して。
「ただの犬じゃん」
「だから、なぜ犬なんですか」
「うーん……」
「だってどう見ても犬じゃん」
「それはわかりました。そうではなく、なぜ怪奇写真ばかり撮る薬師寺さんが普通の写真を撮ったのかと悩んでいるんじゃないですか!」
「ひどいよ……ボクだってたまには普通の写真を撮るってば。でもこれは覚えがないけどね」
「じゃあ変な犬」
「どこが変なんです? 言ってみなさい!」
「うわっ、ちょ、二人とも落ち着いてよっ!」
「どーしろってんだよ。普通の写真でも変な写真でも結局奈々子はそうやって疑問になるんだろ〜?」
「これが普通の写真という確証があるなら文句はありません!」
「だから……あの、その、二人とも、ねえ、ちょ……」
 やれやれと嘆息したのは三人組唯一の少年だ。
 なんだかとても騒がしい三人である。
 らんは鼻をひくつかせた。
(懐かしいにおい……)
 とことこと歩いて三人に近づく。らんの接近に彼らは全く気づいていないようだった。
「……見せて」
「わあっ!」
 らんの声に少年は驚いて持っていたものを落とす。
 いつの間にかテーブルの横に立っているらんに彼らはきょとんとした。
「こ、子供?」
 長髪の少女は隣に座る娘に首を傾げている。
「どこから来たんだろ……でも親らしい人は見当たらないけど」
 少年が辺りを見回す。
「どこから来たんですか? おかあさんかおとうさんは一緒ではないんです?」
 優しく言う長髪の少女に、らんは黙ったままだ。どう反応すればいいのか考えているようにも見える。
 ボブカットの少女はハッとしたような顔をした。
「まさかと思うけど、あんた、上にキョーダイとかいる?」
「いない……」
 ぶんぶんと首を振るらんに彼女はほーっと安堵する。
「よかったー。なら違うな」
「? 朱理、心当たりがあるんですか?」
「えー? 眼が色違いの知り合いがいるんだよ。それだけ」
「! その人の親戚とかでは?」
「ないない。そりゃないよ」
 朱理と呼ばれた少女はひらひらと手を振った。
 少年がらんに声をかける。
「ぼく一人で来たの?」
「……らん……だよ」
 三人が顔を見合わせて「らん?」と声を合わせた。
「あたい朱理」
「私は奈々子です」
「ボクは正太郎」
 なぜか全員がらんと同じように自己紹介をする。どうやらこの三人は人がいいらしい。
 らんは落ちていた写真を拾い上げてじっと見つめた。
「兄ちゃん……なにか拾ってきたね……はやく返しにいったほうが……」
「もっとシャキっと喋れっ!」
 突然朱理がバン! と強くテーブルを叩く。奈々子と正太郎が驚いていた。
「こんな小さな子に無理言わないでくださいよ、朱理」
「なに言ってんだよ。見た目小学一年生だろ? もっと喋れないと変だって。それに、子供の頃からこんな変チクリンな喋り方してたら将来が不安だよ」
「ご、ごめんね。びっくりしたでしょ?」
 心配そうにうかがう正太郎に、驚いて硬直していたらんはゆっくり頷く。
「だってのろのろ喋られるとイライラするんだも〜ん」
 朱理は頬杖をついてそっぽを向いた。奈々子が嘆息する。
「え〜っと、なにか言いかけてましたけど? どうぞ?」
「…………」
 黙ってぷるぷる震えているらんに、「あれ?」と正太郎が首を傾げた。
(こわ……い……)
 らんの目に映っているのは一番奥に座る朱理だ。
 こんなにはっきりと怒られたのは初めてかもしれなかった。
 ちらちらと朱理をうかがいつつ、何度も先ほどの続きを言おうとするがうまく言葉にならない。
「朱理! 朱理のせいで怖がってますよ、この子!」
「知らないよ。こんなにノロノロ喋られてみなよ。誰だってイラっとすんだろ?」
「子供相手になにを言ってるんですか」
「甘やかすことがいいこととは限らないだろ!」
 珍しく朱理が奈々子に食ってかかった。
 呆れる正太郎がはあー、と大きく溜息を吐き出す。
「ボクになら続きが言える?」
 らんは正太郎をじっと見つめてこくんと頷いた。
「迎えに来るから……」
「なにが?」
「…………」
 らんは何かに気づいたように正太郎の手を握って引っ張る。
「もう、来た…………探してるから」
「えっ? なになに? どういうこと?」
 らんに引っ張られるままに正太郎が席を立つ。
 階段を降りていき、店の外に出るとらんはくるりと振り向いて細い路地のほうを見た。
 物凄い怒気を感じる。
 陰になっている場所から爛々と怒りに燃える瞳を向けてくるのは……狗だ。
「え……」
 正太郎は青ざめる。
 狗は今にも正太郎に襲いかからんばかりだ。小さく、低く唸り声をあげている。
 らんは正太郎を庇うように立った。
「兄ちゃん……小さい狗……連れてきた……」
「は?」
 がたがたと震えている正太郎はらんを見遣る。
 まるでここだけが別空間のような気さえしていた。正太郎には。
 だっておかしいじゃないかと正太郎は涙目になる。
(なんであんなでっかいイヌがこんな路地にいるんだ……それに、なんで誰も気づかないの?)
 ふふふ、と妙な笑いが唇から洩れた。
 らんは威嚇するように狗に向けて吠える。だがその声は周囲の者には聞き取れなかったようだ。
 人間の耳には聞こえない音、ということである。だが狗には聞こえるものだ。
 狗の目的はわかっている。
 正太郎が無意識に拾ってきた子狗を取り戻すこと。
 あれは親なのだ。
 子供を連れ去った敵を殺しに、そして子供を取り戻しに来たのである。
 闇の中で目だけが輝き、余計に不気味に見えた。
 それもそうだろう。人外の魔物なのだから。
 らんは、なぜ正太郎が子狗を拾ってきたのかわかりはしない。そもそも正太郎にはそのことに気づいてすらいないのだ。
 狗の発する殺気にらんは身構える。
 と、どさ、と背後で音がした。
「あ」
 正太郎にとってはらんのその声が遠くに聞こえる。
 それもそうだ。正太郎は完全に気を失って道路に転がっている。
 気絶した正太郎からぼう、と何かが抜け出てきた。
 それは小さな狗だ。正太郎の頬を軽く舐める。勿論、そんなことで正太郎は目覚めたりしないが。
「帰れる……」
 らんの声に小さな狗は顔をあげ、そのまま大きい狗のほうへ駆け出した。
 狗の姿はまるで幻のようにふわっと消えてしまう。
 去ったのだ。
 安堵するらんの背後から声が聞こえた。
「やだ! 薬師寺さんたらこんなところでなにしてるんですか?」
「なにって……見りゃわかんじゃん。気絶してんだって」
 小さく震えてらんは振り向く。その視界に朱理が入る。
 どうやららんと正太郎が突然出て行ったので心配してこの二人も店を出てきたらしい。
「ま〜た怪奇現象でも起こったかね。おーい、起きてよ正太郎」
「あ、らんくん、大丈夫ですか? なにがあったんです?」
 らんのほうへ近寄ってきたのは奈々子である。らんには朱理は怖い人として完全にインプットされてしまっていた。
「だ……大丈夫」
「薬師寺さんが気絶してますけど……」
「あれは……狗が来て……それで……」
 もごもごと言うらんはハッとして顔をあげた。
 いつの間にか、屈んでこちらをうかがう奈々子の後ろに朱理が立っている。
 らんが青ざめた。
 腕組みして突っ立っている朱理は半眼でこちらを見下ろしていたのだ。
「なんだよ。途中でやめないで最後まで言えば?」
「またそういう言い方をして……。らんくんの何が気に入らないっていうんです?」
「べつに」
 冷たく言う朱理。
(嫌われてる……)
 らんは俯いておどおどしてしまう。
 嫌われる理由は彼女が口にしたのでわかっている。
(しゃ、しゃべ……る)
「狗を、兄ちゃんが……子狗を兄ちゃんが、連れて来てしまって……親が怒った」
 なるべく滑らかに喋ろうとするとどうしても言葉に詰まってしまった。
 朱理を怖がるために、彼女の機嫌をこれ以上損ねないようにとらんはなぜか必死になった。
 なんだか泣きたい気分だ。
「そんなに慌てて喋らなくても大丈夫ですから」
 奈々子が落ち着いてと言うが、そうもいかない。朱理はそれを許してくれないだろう。
「子狗は、帰ったからもう……大丈夫。でも兄ちゃん、倒れちゃった」
 一気にまくし立て、らんは朱理をうかがう。
 彼女はいまだに冷たい視線だ。
 らんは見かけと違ってとても傷つき易い。それは他人にどう思われているか気にしてしまうからだ。
「なんだ」
 ぽつんと彼女は言ってらんに近づき、ぽんとその頭に手を置いた。
「やればできるじゃん」
「…………?」
 なぜ彼女は微笑んでいるのだろう。
「ごめんな〜。でもそういう喋り方って癖になると困ると思ってさ。
 短気なやつは絶対イラつくし」
「……怒って……ない?」
「ないない。でもすぐ元に戻るんだね。参ったな。ちょっとは努力してみせてよ、あたいの前では」
 な?
 と明るく言う朱理にらんはいつの間にかこくりと首を縦に振っていた。
 朱理はらんの頭をぐりぐりと撫でる。彼女の性格どおりのサバサバした手つきだ。
「らんくんの口調に本当にイライラしていたわけではなかったんですね」
 ほっとする奈々子が立ち上がる。だが朱理はすぐに否定した。
「いや、イラっとしたよ?」
「…………え?」
「だってあたい……こういう喋りを……されると困る……じゃん」
「……真似なくてもいいんですが」
 こめかみを引きつらせる奈々子に気づかない様子で朱理は続ける。
「喋ってるほうは……いいかもしれないけど……聞いてるほうは……待つ時間が惜しい……っていうか……さ」
 ごっ!
 妙な鈍い音がした時は遅かった。
 朱理は正太郎と同じく地面に転がっている。その頭にコブを作って。
 らんは呆然として奈々子を見上げた。
 優しい人だと思ったが……どうやらその認識は改めたほうがよさそうである。
「さ、お姉さんと一緒に二階でハンバーガーでも食べましょう」
 らんの手を引っ張って奈々子は店に戻っていった。
 残された二人は、道行く人々に妙な視線を向けられていたとか――。



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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PC
【6177/―・らん(ー・らん)/男/5/魂の迷い仔】

NPC
【高見沢・朱理(たかみざわ・あかり)/女/16/高校生】
【一ノ瀬・奈々子(いちのせ・ななこ)/女/16/高校生】
【薬師寺・正太郎(やくしじ・しょうたろう)/男/16/高校生】

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■         ライター通信          ■
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 ご参加ありがとうございます、らん様。ライターのともやいずみです。
 三人組との初対面、いかがでしたでしょうか?

 今回はありがとうございました! 楽しんで読んでいただけたら嬉しいです!