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<東京怪談・PCゲームノベル>


特攻姫〜お手伝い致しましょう〜

 葛織紫鶴(くずおり・しづる)は名門退魔一族葛織家の次代当主である。
 ただし、葛織家の退魔法は少々変わっていた。当主が『魔寄せ』の剣舞を舞い、寄ってきた『魔』たちを退魔の力を持つ者たちが滅する、というものだったのだ。
 紫鶴は、生まれつき『魔寄せ』の力が強すぎた。
 そのために、気づいた頃には別荘の敷地内に、ひとりの世話役と数人のメイドたちだけとともに閉じ込められ、育てられてきた。

 ある日――
 紫鶴は世話役の如月竜矢(きさらぎ・りゅうし)に言った。「人の役に立ちたい」と。
 竜矢は微笑んだ。そして、ひとつの提案をした――

     **********

「剣舞で寄ってきた魔で退魔の訓練を、か……」
 蒼雪蛍華(そうせつ・けいか)は竜矢から話を聞き、肩をすくめた。
「それにしてもまたこの家に来ることになるとはな。まああの娘子も嫌いではないがの」
 見つめる先に、瞳をきらきらさせて剣舞の準備をしている紫鶴の姿がある。
 左目が青、右目が緑のフェアリーアイズ。赤と白の入り混じった不思議な長い髪が、楽しげに弾んでいる。
「あなたも退魔の仕事をなさっていると聞きましたので。お願いします」
 竜矢が蛍華に頭をさげた。
 蛍華は、輝く長い銀髪を後ろに払った。
「別に構わんが……酒は出るのだろうな?」
 銀色の瞳が細く輝く。竜矢が微笑した。
「もちろん」
「よし」
 蛍華は紫鶴のところに歩み寄った。そして、
「仔細は竜矢に聞いたわ。夜に思い切り舞うがよい」
「夜!?」
 紫鶴が驚いたように蛍華を凝視する。「よ、よいのか? 危ない……ぞ?」
 ――紫鶴の剣舞は月に影響される。そのため、月がよく見える夜のほうが、魔寄せの力が強いのだ。
 蛍華は胸を張った。
「この蛍華をなめるのではないわ」

 蒼雪という仙人が自分のために作った戦闘用の道具、それが蛍華だ。刀の姿が本来だが、自分自身で刀を生み出し戦うこともできる。
「生半可な敵では面白みがない」
 蛍華はそう言って、不敵に笑った。

     **********

 夜。
 今宵は満月に近い。紫鶴が空を見上げ、こうこうと照る月の姿に心配そうな顔になる。
 当然のごとく、満月に近ければ近いほど、紫鶴の力は増す。
 ――寄ってくる魔も、強くなる。もしくは、量が大量になる――

「小娘が。へたな心配をするでないわ」

 蛍華の凛とした声が、夜闇をピンと震わせる。
 紫鶴は振り向いた。そしてそこに堂々と立っている蛍華を見て、
 力強くうなずいた。

 竜矢が念のため待機する庭で――
 竜矢の張った結界の中で。
 紫鶴が剣舞を始める姿勢を取る。片膝を地につき、両手に生み出した精神力の剣を下向きにクロスさせ。
 すっと目を閉じる――

 しゃん

 紫鶴の手首の鈴が鳴った。

 しゃん
 しゃん
 しゃん

 ――そう言えばこの娘の剣舞を見るのは二度目か。そんなことを蛍華は思う。

 きん

 二本の剣を打ち鳴らし、立ち上がってくるりと回転する。

 しゃん
 しゃん

 ――ざわり
 蛍華の肌を、何かの気配が撫でていった。

 しゃんしゃんしゃん

 激しくなる舞に、強くなる気配。大量の、それは大量の――
(来るか……!?)
 蛍華は自分の冷気を強固に固め、氷の剣を生み出した。
 しかし空気の動きを感じ、まずその剣を地面に突き刺す。そして同じ氷具生成で弓を作り出した。
 矢をつがえ、上空に放つ――

 キェェェェ!!

 人の顔に牙を持った、翼のある獣が――たとえるならガーゴイルだろうか――氷の矢に貫かれる。
 蛍華は次々と矢を生み出し、連射した。
 数十匹といたガーゴイルが空中で数を減らしていく。
 しかし、残りが着実に蛍華へと降りてくる――

 やがて剣の射程距離内に入り込んできたとき、蛍華は弓を捨て地面から剣を引き抜いた。そして引き抜きざまに下から振り上げて一撃――数匹のガーゴイルの翼を切り払う。
 どさりどさりと地に落ちる翼を失った獣。
 上からは、まだまだ大量に翼を持った獣。
 鋭い牙を持ち、鋭い爪を持ち、しかし――
「ふん。雑魚めが」
 蛍華は舞うように剣を閃かせた。次から次へと消えていくガーゴイルたち。
 氷の剣が蒼銀色の光を放ちながら雑魚を両断していく。右へ、左へ。氷の刃はそのきらめきによって、ますます鋭さを増して見えた。
「紫鶴! 物足りぬ、もっと強いものを呼ばぬか――!」
 あらかたのガーゴイルを消し去り、蛍華は叫ぶ。
 応えるように紫鶴が剣を強く上空へと振り仰いだ。
 紫鶴自身は結界の中にいるというのに。剣舞の力は結界を突きぬけ、『魔』の心にでも響いているのか――

「………っ!?」

 目の前の空間がねじまがった。
 蛍華は弓に持ち替え警戒した。
 ねじまがった空間から現れたのは、巨大な悪魔――
 ワニのように緑で硬そうなごつごつの皮膚を持ち、その手に三つまたの矛を持っている。背中についているのは黒い翼――
 びゅおっ
 空気を裂く音がして、矛が蛍華に向かって突き出されてきた。
「!!」
 蛍華はぎりぎりでよけた。圧力だけで、頬に傷がついたのが分かった。
「く……よくも」
 剣――ではリーチが短い。矛に対抗するには――
 蛍華はその手に、氷の槍を生み出した。細く――鋭く。
 矛の連撃をひらりひらりとよけながら、槍を繰り出す。
 悪魔の皮膚は硬かった。傷さえつけられない。
(弱い部分は――)
 どんな生き物でも弱いと相場が決まっているのは?
 ――腹か、間接か。付け根……
 悪魔が咆哮をあげた。
 と、大量の幽霊のような雑魚がその場に発生した。
「……まったく、厄介だの」
 悪魔一匹なら槍のみで戦う方法もあっただろうに――
 幽霊のような雑魚は、音波を利用して蛍華の肌に傷をつけていく。
 蛍華の美しい銀色の髪が血に塗れた。跳ねた血が、視界を横切っていく。
「……ふん!」
 蛍華は槍を天に突き上げた。
「――氷牙螺旋陣!」
 強烈な冷気が地面を走り、悪魔と雑魚を囲むように地に円を描いていく。
 そして次の瞬間には、

 ビシィイッ

 円の中のすべてのものが凍りついた。
 その隙に蛍華は手に持つものを剣に替え、すべての凍りついたモンスターを砕いていく。
 中央ではあの悪魔さえも――

 バリンッ

 凍りついた悪魔を砕くことは、何でもないことだった。

 しゃらん……
 紫鶴の剣がやわらかく弧を描く。
 遠くから、
 何かの足音が、
 地面を――否、空間を揺らすように、

 馬のいななきが聞こえた。
 ざしゅううぅ
 真っ黒な馬が蛍華の前で足を止める。その上にまたがるは真っ黒な鎧の騎士。
 手に、大刀を持って。

 馬がいななく。

 蛍華の額に汗が伝う。
 たった一体。けれどこいつは、格が違う……

 大刀が振り下ろされた。蛍華を狙うでもなく、無造作に。
 その衝撃だけで、地面が大幅にえぐれた。
「………っ」
 馬が首を低くする。――まるでこれからこちらにつっこんでこようかとするように――
「―――!」
 馬のひづめが地面をえぐった。土を飛ばし、蛍華へと一直線に。
 蛍華は馬の足を狙って剣を振りかざした。
 しかし、
 黒騎士の大刀がその蛍華を狙って横薙ぎに、
「………っ!」
 蛍華の剣と大刀が衝突する。
 氷の剣は簡単に砕け散り、そして蛍華の体に大きな衝撃が残った。
「……ァ……っ」
 銀の髪がざらりと切り払われる。腕に、体に、足に、重いもので殴られたような感覚。
 倒れこみそうになったそのとき、大刀が再び自分に向かって振り下ろされようとしているのが見えた。
 体勢を整えるには時間が足りない。蛍華はわざと地面に倒れ、転がって大刀をよけた。
 追ってくるように大刀の衝撃――
 気づくと目の前に馬のひづめ。
 馬が足を高くあげる。踏みつけられそうになって、蛍華はもう一度地面を転がりよけた。
 転がりながら手の中に剣を生み出し、地面に突き立てて体を持ち上げる。
 今度は目の前に大刀があった。
 蛍華はとっさに、剣を盾へと作り変えた。

 ギンッ

 到底受け止めきれず、蛍華の小さい体が吹き飛ぶ。
 しかし今度は地面に倒れたりはしなかった。空中で盾を再び剣に変え、地面に突き立ててその場に踏みとどまる。
 騎士との距離ができた。
 蛍華は剣を天へ突き上げた。
「氷牙螺旋陣!」
 冷気が地面を走り円を描く。
 確実に騎士を囲んだ。そう思ったが、
 ――凍りついたのは馬のみだった。
 騎士は――
 驚いたことに、凍った馬を自ら破壊した。
 黒騎士が地面に降り立つ。蛍華はぞくっと背筋に悪寒を覚えた。
 馬がいなくなってますます威圧感が増したような――
 無造作に。大刀が振り上げられる。
 よけるしかない――
(よけるなら――ヤツの背後!)
 蛍華は走った。まるで大刀に立ち向かうかのように。
 そして大刀が振り下ろされるその瞬間に騎士の横を通り過ぎた。
 騎士の背後。そこにいればたしかに吹き飛ばされることはなかったが――

 剣が庭をえぐる。クレーターのような穴がいくつもできていく。

(く……っ背後でさえ完全に衝撃を防ぎきれぬか……!)
 びりびりと肌が痛みを訴える。氷具生成で武器を作り、背後から攻撃しようにも腕が言うことを利かない。
 ゆっくりと黒騎士が振り向く気配がする。
 蛍華はいったん退いた。唯一――
(素早さならば、蛍華のほうが上!)
 剣圧の届く範囲は大体把握した。その外まで移動して。
 体の感覚が徐々に戻ってくる。騎士がこちらへ歩いてこようとするのを、じりじりとあとずさって距離を保ちながら、体が完全に回復するのを待つ。
 その間にも、庭に大量のクレーターができていく。
(この庭も……嫌いではない)
 紫鶴の顔が見えた。あの娘の大切な庭――
(ふん――このままですましてはおかぬ!)
 体の感覚が戻った。
 蛍華は刀を生成した。そして、後退するのをやめた。
 騎士がゆっくりと歩きながら、無造作に大刀を振り上げてくる――

 その瞬間に、
 蛍華は騎士の懐に飛び込んだ。

「氷牙七連斬!」
 体中の力が限界まで爆発的に高まった。蛍華の刀が神速のごとく七連斬を騎士の胴体に放つ。
 鎧。となれば斬る場所は決まっている。間接。首、腕の付け根、鎧の隙間――
 斬ると同時、冷気を騎士の体内に送り込み氷を発生させ、

 キン

 一瞬の凍るような音。そして、

 ――パキィン……!!

 騎士の体の内部から、氷を爆発させた。

 黒い鎧が弾ける。大刀が取り落とされた。
 粉々に砕けたのは鎧内部の『何か』だったのか――
 鎧がパーツに分かれ、地面にどさどさと落ちていく。
 そして、大刀とともにしゅうしゅうと煙を立て……

 やがて、消滅した。

 紫鶴の剣舞が終わりの動作を取る。
「――蛍華殿!」
 終わるなり紫鶴は立ち上がり、結界を出て蛍華に駆け寄ってきた。
 蛍華は刀を地面に突き立ててそれにもたれかかり、ぐったりとしていた。
「蛍華殿! 大丈夫か――!」
 ――氷牙七連斬。使えばその直後は意識を保つので精一杯なほどに行動不能に陥る。
 しかし、
(ふん……心配などかけてたまるか)
「何て……顔をしておる、紫鶴」
 蛍華はゆっくり頭をもたげ、紫鶴の顔を見た。
 紫鶴は今にも泣きそうな顔をしていた。
「おぬしは能天気に笑っておればよい。下らん顔をするな」
「蛍華殿……」
 紫鶴がぐすっと鼻をすすりあげて、きゅっと表情を引き締める。
「わ、分かった。私は能天気に笑っている」
 だから――
「……もう、これ以上、無理、しなくても」
「ばか者が。能天気に笑っておれと言っておるだろうが」
 しゃべるのもだるい。
 けれど弱みを見せるのはもっと嫌なこと。
 まして紫鶴を泣かせるのは。
 蛍華は重い手を持ち上げて、げんこつでこつんと紫鶴の頭をこづいた。
「よいか。蛍華をこの程度で音をあげるような弱い者と一緒にするでないわ」
「蛍華殿……」
「まったく、言うことをきかんなおぬしも。早く笑わぬか」
 いつまでたっても紫鶴の表情がぷるぷると震えているから、蛍華は自分も気弱になってくる。
 ――早く笑ってくれ。そうでなくては、自分も気がたもてなくなる。
「じゃあこれでいかがですか」
 ふいに声が割り込んできた。
 竜矢だった。手に、ウイスキーを持っている。
「蛍華殿。これを飲んで酔っ払って気持ちよく寝ましょう。そうすればもれなくうちの姫の『寝てる人間には顔にいたずら書き』というモットーがついてきます」
「りゅりゅりゅ、竜矢……!」
「なに!? おぬしそんな不届きなモットーを持っておるのか……!」
 蛍華は紫鶴をにらみやった。「酔うほど酒をあおって眠るのはとても気持ちのよいことなのだぞ……! それを汚すとは、愚か者めがっ」
「だだだだって、竜矢が昔から私をほったらかしてよく寝ていたから腹いせにいたずら書きを……!」
「子供かおぬしは!」
 ――子供だ。紫鶴はまだ十三歳の子供だ。
 それを思い出して――蛍華は急におかしくなってきた。
「まったく。本当に……おぬしのような子供に心配されるのはしゃくだ。さっさと能天気に笑え」
「で、でも」
「でも、ではないわ! あー……仕方ない。では蛍華がそのウイスキーを飲んで気持ちよく眠ったら、顔に落書きすることを特別に許してやるわ。ただし書いていいのは『蛍華は強い』の一言に限る!」
 紫鶴が――
 ようやく、ぷっとふきだした。
「か、書いてもいいのか、蛍華殿……っ」
「ふん。特別じゃ、この能天気娘が」
 ――そうだ、能天気でいてくれ。
 でなければこちらが倒れてしまうから。
「よ、よしっ。蛍華殿の頬に『強い!』と一言書く……!」
「当然油性ペンですね」
 竜矢がちゃちゃを入れてきて、蛍華は青年をねめつけた。
「いいじゃないですか。俺なんか油性で『この男はヨウジョシュミです』と書かれたことがあるんですから」
「……幼女趣味……?」
 蛍華はじとっと竜矢を見る。竜矢は肩をすくめて、
「俺が本当にロリコンのわけがないでしょう。メイドが話しているのを聞いて、意味も分からず書いたんですよこの姫は」
「ふん。メイドがお前のことをそう呼んでおったからそう書いてやっただけだ。ところでヨウジョシュミとはなんだ?」
「………」
 蛍華はふきだした。
 体から力が抜けそうになって、慌てて竜矢の手のウイスキーをひったくり、コルク栓がすでにぬいてあったそれをあおる。
 体が熱くなる。――心地いい熱さだ。
 そう、心地いい熱さだ。
「よいか……いたずら書きは一言だけだぞ……」
 遠くなっていく意識の中で、蛍華はそう言い置いた。
 紫鶴の笑顔、それがたしかにそこにあるのを見ながら……


 ―Fin―


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【6036/蒼雪・蛍華/女性/200歳/仙具・何でも屋(怪奇事件系)】

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■         ライター通信          ■
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蒼雪蛍華様
こんにちは、笠城夢斗です。
今回もゲームノベルに参加していただきありがとうございます!お届けが遅くなりまして、申し訳ございません。
細かい敵の設定がありましたのでその通りにいたしましたが、いかがでしたでしょうか?
最後にいたずら書きがどうのと言っていますが、本当にいたずら書きはしないと思いますのでご安心くださいw
よろしければまたお会いできますよう……