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<東京怪談・PCゲームノベル>


超能力心霊部 セカンド・ドリーマー



 らんは再びここに来ていた。
 二階への階段をあがる。
 ああ、やっぱりいた。
 らんは窓際に近づいて声をかける。
「……赤い髪の姉ちゃんはいないの?」
 びくぅ! と座っていた二人は反応した。心臓が飛び出しそうなほど驚いたのか、二人ともそれぞれの胸に手を置いている。
 突然声をかけるのはよくないことなのだろうか。そういえば前の時も驚いていた気がする。
「あ、ああ……らんくんですか」
 一ノ瀬奈々子は微妙に引きつったような顔をさせ、それから微笑した。
「また一人で来たのかい? 保護者が今回もいないの?」
 薬師寺正太郎が優しく声をかけてくる。
 二人とも、まるで隠し事をしているように胡散臭い笑顔だ。
「赤い髪の姉ちゃんは?」
 再度問うと、奈々子がはっきりと困ったような色を瞳に浮かべる。
 らんは首を傾げた。
「病気? ケガ?」
 そうでなければこの二人がこんな顔をするはずがないと、確信しての問いかけだ。
 奈々子は正太郎に目配せする。
「朱理さんは……ちょっと病気でね」
 苦笑しながらそう言う正太郎。嘘というのが見え見えである。
 らんはじっと彼を見つめた。
「また……しゃしん……なにか悪いもの…………写した?」
 ぎくっとしたように正太郎が硬直する。本当に嘘をつけない性格をしていると思った。
 彼は奈々子を見遣って困った声をあげる。
「奈々子さん……ど、どうしよう……」
「あなたって人は……」
「そんな目で見ないでよ。だってらんくんって、じーっと見るからさぁ」
「嘘……つかないで」
 らんの言葉に二人は静まり返った。
 やがて、奈々子が肩を落とす。
「わかりました。実はそこにいるだらしないお兄さんが、またも怪奇写真を撮ってしまったんです」
「だ、だらしないって……ひどい言い方しないでよ」
 正太郎の抗議の声に奈々子は反応せず、続けて言った。
「それは……どんな?」
「これです」
 す、とテーブルの上に出されたのは一枚の写真。
 眠る朱理と、その傍にいる童女の写真だ。
 らんは写真を手にとり、じっと見つめる。
 こちらを睨むような童女の目。威嚇するようなその視線。
(…………でも)
 らんは、別の感情をそこに見た。
「この写真を撮って……朱理は目を覚まさなくなったんです」
「……目を……? 眠った……まま?」
「ええ。ずっと眠っているんです。今も」
 寂しそうに微笑する奈々子を見つめる。
 こんなにも朱理は心配されているのだ。
(眠った……まま……)
 生き物は寝たままでは死んでしまう。それはらんにもわかっていた。
 このままではいけない、と。
 らんは奈々子のスカートの端を握ると、くいっと小さく引っ張った。奈々子が不思議そうにする。
「行こう……」
「? どこへですか?」
 くいくいとらんは引っ張った。
 正太郎は軽く苦笑する。
「心配なんだ、朱理さんのこと。まあ朱理さんはみんなに好かれるからね」
「単なる考えなしだと私は思いますけど」
「一番心配してるくせに」
 ぼそっと呟いた正太郎が、次の瞬間殴られてイスごと後ろに引っくり返った。
 拳を握りしめて奈々子はフフ、と薄く笑う。
「声が小さくてきちんと聞き取れませんでした。なんですか?」
「…………」
 青ざめてらんは奈々子を見上げた。やはり……優しいけどこの人は怖いひとのようだ。
(……朱理姉ちゃんだけ……じゃ、ないんだ……)
 殴られるの。
 容赦なく殴られた正太郎に視線を遣り、らんは嘆息する。
(正太郎兄ちゃん……白目むいてる)



 朱理の暮らしているマンションまでらんは連れて来てもらった。
 朱理は叔母と二人暮らしらしい。
「様子はどうですか? あの……」
 朱理の叔母である女性は奈々子に向けて嘆息する。
「残念だけど起きてないの。ごめんなさいね」
「いえ……そんなこと。……目覚めなくて心配なのは……」
「気にしないで。あの子のことは信用してるの」
 にっこり微笑む様子が朱理にとても似ている。さすが親戚だ。
「ちょっと会社に行かなきゃいけないの。好きなだけ居ていいから」
 そう言うや、朱理の叔母はコートを着て鞄を持つ。そしてすぐさま出て行ってしまった。
 靴を脱いであがる正太郎はやれやれと溜息をつく。
「ほんとに朱理さんに似てるよね、あの人。無用心というかさ」
「とにかく朱理の様子を見にいきましょう」
 奈々子に手を引かれてらんは奥へと進む。
 朱理の部屋は和室だった。中に入ると物がほとんどない殺風景な部屋でらんはきょとんとする。
「なにも……ない」
「そうなんですよ。趣味が身体を動かすことと、食べることくらいですからね。部屋は寝るところ、らしいです」
 苦笑する奈々子は布団に横たわる朱理に視線を向けて落胆した表情を浮かべた。
 朱理はまだ眠ったままだ。
 穏やかな寝顔の朱理にらんは近づく。
 ぺちぺちと頬を叩くが朱理は気持ちよさそうにむにゃむにゃ呟いただけ。
「…………」
 沈黙が部屋を占める。
 正太郎がそっと奈々子を見遣った。予想通りというか、今の朱理の反応に奈々子はイラっとしたようだ。
「寝てる……ね」
 らんの呟きに正太郎は「うん」と頷いた。
 朱理はうなされていない。ただ普通に寝ているだけ。
 長い時間眠っているだけ。
「このまま眠り続けることになったら……入院、だよねやっぱり」
「……そ、そうですね。こういう場合は病気になるんでしょうか……昏睡病、とか?」
「植物人間と同じような扱いになるのかな……」
 こそこそと話し合う二人は想像したらしく、暗い表情になった。
 らんは朱理の顔をぺちぺちとまた叩く。
 写真に写っていた童女のことが気になる。あの写真通りだとすればあの童女はここに居るはずだ。
(一人ぼっちの、目)
 孤独の目。
(いる……ね)
 どこに、とははっきりわからない。だが居る。感じる。
 らんの横に座っている奈々子が口元を手で覆い、小さく欠伸をした。向かい側に座る正太郎もだ。
 二人は眠そうに瞼を擦った。
「奈々子姉ちゃん……?」
 不思議そうにするらんに、奈々子は必死に意識を保とうと笑いかけるが……。
 ぱた、と朱理の眠る布団に前のめりに倒れた。正太郎も同様である。
(誰かが……眠らせた……?)
 おそらくあの童女だ。
「なぜ眠らない?」
 静かな声が朱理の口から洩れた。そして朱理は瞼を開き、らんを見遣る。
「……朱理姉ちゃん……じゃない、ね」
「朱理は私が捕らえている」
「……一人は……寂しい、から?」
 朱理の身体を動かしている者は沈黙で返した。
 それは肯定にほかならない。
「一緒なら暖かい……。でも、返してあげよう?」
「返す? おかしなことを言う。朱理は自らの意志で私のところへ来たのだ」
 低く笑う朱理にらんは表情を歪ませる。
「朱理姉ちゃんは暖かい……から」
「まるで同情しているとでも言わんばかりだな」
 むくりと朱理が起き上がった。らんを見下ろす。
「姉ちゃんは……みんなに、やさしい」
「…………」
「だから……」
「それでもいいのだ。私に向けられた感情は確かに本物だった」
 朱理ははっきりと言い放った。
 返す気はないのだ。
「それで十分だ。一番必要としているのは私。だから朱理は私と共に在る」
「ちがう」
 それはちがう。
「奈々子姉ちゃんも……正太郎兄ちゃんも……俺も、みんな……朱理姉ちゃんいないと……さびしい」
 一番、だなんて。
 気持ちに一番なんてつけられない。
「みんな、さびしい気持ち……同じ」
「……そこまで言うのなら朱理に問いかけてみればいい」



 気づけばらんは別の場所にいた。
 そこは田舎だ。見渡せば周囲は山ばかり。
 そして細い道の上に誰かが立っている。
 赤いランドセルを背負った少女だ。らんと同じくらいの年の。
 その燃えるような赤い髪には見覚えがある。
「朱理姉ちゃん……?」
 らんの声に少女は振り向いた。その瞳はらんの見知ったものではない。
 深い深い、踏み込めない感情。
 恐ろしさすら感じるその闇の瞳。
「帰ろう?」
 そう、囁くように話し掛ける。
 らんを真っ直ぐ見ている幼い朱理は自嘲的に笑った。
「変な子。あたいになんか用?」
「……? 俺、を……忘れたの……?」
「あんたなんか知らない」
 拒絶を含んだ声にらんは大きなショックを受ける。
 なんだかよくわからないが涙が出そうになった。
「……? なんで泣きそうな顔してんの?」
「……俺……」
 うまく言葉にならない。
 このままではいけない。このままでは朱理は帰ってこない。
 だけど、否定されたらどうすればいいのからんにはわからないのだ。
「あんた、あたいが怖くないのか?」
 不思議そうに朱理が呟く。らんは頷いた。
「朱理姉ちゃん……だから」
「姉ちゃん? あたい、あんたとそう年は変わらないと思うけど」
「帰ろう」
 近づいて来た朱理の手を握り締める。だが朱理はすぐにその手を振り払った。
「なにすんだよ! 気持ち悪いやつだなあ」
 振り払われた手の小さな痛みにらんは悲しそうな表情をする。その頭に誰かが手を置いた。
「悪いね。うちの弟が面倒かけたかな?」
 この声は。
 らんは自分の横に立つ人物を見上げた。
 濃紺のセーラー服……赤い髪。朱理、だ。
 幼い朱理はきょとんとした。
「弟? おねえさんの?」
「そうそう。似てないけどね。かわいいっしょ?」
 ぐりぐりと撫でる手にらんは安堵する。
「あたいを迎えに来たみたいでね」
「そう。じゃあ一緒に帰ってあげてよ。なんか泣きそうになってるから」
「そうするよ」
 朱理ははっきりそう言った。帰る、と。
 見上げるらんに微笑む。
<……朱理はおまえたちを選んだようだ>
 らんの耳に童女の声が届いた。
(また……遊びにくればいいと思う。きっと……また遊んでくれる……それなら寂しく、ない)
<同情はいらん。私は皆で仲良くというのは嫌いだ>
 童女の声は遠ざかっていく。
 らんは小さく言った。
「ありがとう……」
「ん?」
 朱理は不思議そうにする。幼い朱理もだ。

 そしてハッと意識を取り戻すと、そこは朱理の部屋だった。
 向き合っている姿勢は先ほどと変わらない。童女に「朱理に問いかけろ」と言われたその瞬間と同じだ。
「朱理……姉ちゃん?」
「うん。おはよ」
 にっこり笑った朱理に、らんは嬉しそうに微笑した。



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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PC
【6177/―・らん(ー・らん)/男/5/魂の迷い仔】

NPC
【高見沢・朱理(たかみざわ・あかり)/女/16/高校生】
【一ノ瀬・奈々子(いちのせ・ななこ)/女/16/高校生】
【薬師寺・正太郎(やくしじ・しょうたろう)/男/16/高校生】

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■         ライター通信          ■
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 ご参加ありがとうございます、らん様。ライターのともやいずみです。
 今回は朱理のお話でした。いかがでしたでしょうか?

 今回はありがとうございました! 楽しんで読んでいただけたら嬉しいです!