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<東京怪談ノベル(シングル)>


◆ 冷たい賭け ◆



◇ ◆



 ――― 1つの繋がりを切るかどうか・・・

     はっきり言ってどうでも良い


 だが、チラリと何かが横切る為




  ――――― 賭けに出る事を実行しようと思う ―――――



◆ ◇


  儚く揺れる月から零れる
    月下光に思いを馳せ

  古の薫りを感じながら
    ただ一人冷たい暗闇で

  冷たい温もりを感じながら
    伝う涙は色を変え

  零れ落ちる言葉からは
    感情が消える・・・・・


◇ ◆


 窓から差し込んでくる光は薄ボンヤリとしていて、隣で寝ている男の横顔をほんのりと淡く染めている。
 それを見詰めながら、三村 櫂渡は落ちてきた髪を掻き上げた。
 小さく息を吐き出す。
 それは、ある意味溜息とも取れる音を含んでおり・・・吐いた息が、光の筋の中で舞う小さな埃を揺らす。
 ( ・・・そりゃ、女の腕のが触り心地はいーけど )
 視線を窓の外へと移す。
 窓の外に見えるのは、青い空。
 雲なんて一つも無い・・・薄っぺらい、色紙みたいな色だった。
 そんな何の面白みも無い空から、再び隣にいる男に視線を向ける。
 目は閉じているものの、本当に寝ているのかどうかは分からない。
 ( 逞しい腕の方が気兼ねないのは楽でいい・・・ )
 ふっと、今度は自嘲気味に息を吐き出す。
 隣で目を瞑っている奴の鼻をつまむと、驚いたように目を開けた。
 どうやら、本当に眠っていたようだ。まぁ、そんな事は別にどうでも良いのだけれど・・・・・。
 ボウっとしながら起き上がる横顔を見詰めながら、ダセェと呟くと、直ぐにルセーと掠れた声が響いた。
 「俺、スポーツ推薦で一抜けたワケですが、お前どーなの。」
 そんな櫂渡の問いに、曖昧な返事を返す。
 別に・・・明確な返事を期待していたわけではない。
 如何してそんな事を訊くんだと言う顔をされて、櫂渡はそれに不思議な微笑を返した。
 相手がそれを見て、盛大な溜息をつく。お前ってそう言うヤツだよなとでも言うかのように・・・・・。
 「卒業したらサァ、お前の第二ボタンちょーだいよ。」
 何の気なしに呟いた一言に、相手が酷く驚いたような顔をする。
 滅多に見られない表情に、思わず心の中で苦笑する。
 ( んな甘い関係じゃなかったんだから、こんな発言するとは思いもしなかったのだろう )
 どうしたら良いものか、どう言ったら良いものか・・・心底困ったような顔をして、相手は視線を揺らしている。
 そんなに真剣に考え込まなくても良い様なものなのに。
 少し考えれば分かる事じゃないか。
 ・・・俺がそんな“可愛らしい感情”で言っているわけじゃないなんて事は・・・。
 黙り込んでしまった相手を見ながら、櫂渡はふっと思った。
 ( むしろ・・・皮肉だろうか?・・・全て、馬鹿げていて )
 小さく口の端を上げる。
 最初はそこだけだった笑いが、全身に広がる。
 小刻みに肩を震わせて、声を押し殺しながら笑う櫂渡を相手が不思議そうな顔で見詰めている。
 「くくっ、良い趣味してるだろ?俺的に久しぶりの改心の出来な良く出来たジョークだったと思うんだけど。」
 どう?と、首を傾げてみせる。
 苦々しい表情をする相手。
 その表情がたまらなく可笑しくて、再び湧き上がりそうになる笑いを必死に噛み殺す。
 「楽しければいいじゃん。」
 楽観的な発言を、いとも簡単に発する。
 楽しければいいのはお前だけなと、相手がいたって慎重な言葉を紡ぐ。
 普段なら、こんな慎重な言葉は言わない相手なだけに、櫂渡にはピンとくるものがあった。
 恐らく・・・何かを警戒している。
 相手も馬鹿ではない。櫂渡が何か考えがあってこう言っているのだろうと言う事を、分かっているのだろう。
 それならば、こちらから仕掛けるまでだ。
 「俺はメンドーじゃない人肌が欲しい。お前だって、他の奴が好きだけど、無理だからこうして俺といる。」
 驚いたような、怒ったような顔。
 何か間違った事言ってるか?と、不敵な笑みを見せる。
 「ほら、ギブ&テイクじゃないか。」
 馬鹿にしたような口調で、いたって軽く・・・それでも、相手を押さえつけるかのような言葉・・・。
 怒鳴る相手の声を聞きながら、櫂渡は詰まらなさそうに髪を弄った。
 左耳につけたピアスリングが指先に触れる。
 それ弄びながら、感情に任せて言葉を吐き続ける相手を見やる。
 口元にはほんの少し、笑みをたたえながら・・・瞳は、妖しく輝きながら―――
 「お前の言う事なんて聞く義理はないね。」
 切り捨てるかのような言葉に、相手が櫂渡の腕を乱暴に取った。
 細い腕は、力を込めれば簡単に折れてしまいそうなほどだったが・・・相手の腕を振り解く。
 細身の身体つきをしているが、力が弱いと言うわけではない。
 立ち上がり、相手の事を見下ろす。
 いや・・・“見下す”と言った方が近いのかも知れない。
 それほどまでに冷たい瞳で、櫂渡は一言言い捨てた。
 「文句あんなら追ってくれば?」
 挑発する。
 その言葉で、声で、視線で―――――
 歩き出した櫂渡の背後で、相手が走り出した気配を感じ・・・
 ( ハッ、いいぜ・・・その意気だ )
 掴まれた腕の感触を感じながら、櫂渡は小さく微笑んだ。
 ( ・・・掴まえるなら今のうちだぜ )
 妖艶で、冷たくて―――酷く残酷な微笑みは、見る者がいたならばきっと魅入られていただろう。



   ――― 最も、櫂渡のそんな笑みを見ていた者は、誰もいなかったけれど ―――



◆ ◇


  朧に滲む記憶の中で
    未だに色褪せる事の無い思い出

  瞳を閉じれば瞼に映る
    面影を探して・・・

  凍えるココロを温めて
    紡ぐ言葉は氷を纏い

  鋭く光る刃の先
    切り裂くのは―――


     誰の・・・ココロ・・・??


 





          ≪ END ≫