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<東京怪談・PCゲームノベル>


月下の暗殺者



 とあるビルの屋上で、闇夜に白い影。ふわりと、緩やかに。
 先ほど向けられた切っ先を交わして柔らかに飛ぶ。跳ぶというよりも、舞うと言った方がいいかもしれない。
 夜空には三日月。柔らかな光が二人を照らす。
 二人の出会いは殺伐と、でも軽やかに、柔らかく。
 真っ白な装い、怪盗Featheryとして今はある黒羽 陽月は先ほど交わした刀を自分に向ける青年を見る。
 歳は自分と同じか少し上、ばさばさと無造作に流す金の髪、右目を隠すように巻かれたド派手な布が目立つ。細められた瞳は銀。
「怪盗……Feathery、だな? すばしっこそうだ」
「そうだけど……アンタは?」
「お前を殺しにきた何でも屋」
 ふぅん、と陽月は瞳を細め、興味があるような無いような、そんなそぶりを見せる。
「アンタどこまで知ってんの?」
「あ?」
「俺の事、どこまで知ってんのってコト」
 髪をかきあげながら陽月は問う。これはとても重大なことだ。
 正体を知られているのかいないのか、Featheryが黒羽 陽月であることを、この目の前の青年は知っているのか、どうか。
 睨みをきかせて答えろ、と静かに脅すような視線。
 けれどもそれをものともしない視線を返される。
「やー、色んなトコからやっかみ受けてるけど、誰に依頼受けてきた? 俺の知ってる奴?」
「そうゆうのは、言わねーのが鉄則ってもんだ」
「ま、そうだな。さって、どーしよっかな」
「俺に大人しく殺されるか、抗って殺されるか」
 二択だ、と言って笑う彼に陽月はどっちも同じ結果じゃないかと吐き捨てるように笑う。
「仕方ないなー、でも俺、そんな暇じゃないんだけど。それにまだ一個目の問い、答えてないよな、アンタ」
「んー……ああ、どこまで知ってるかってやつか。お前がFeatherでケイって名前で情報収集するって事しか知らねーよ、それ以外知る必要ねーし」
 その言葉、嘘は言って無さそうだと陽月は感じる。裏の世界の住人のくせに。、アッすぐと隠し事も無く真っ当に、純粋に力だけでねじ伏せようとするような印象だけ受ける。
 自分がFeatheryで、ケイという別名も持つことはバレているらしい。けれども黒羽 陽月だということはバレてはいないようだった。ケイが怪盗であることがバレるということはともかく、陽月が怪盗であることがバレるのはまずい。
 そんなことになったら、黒羽 陽月を抹消しなくてはならなくなる。陽月である日常は、壊したくない。
 一歩踏み込みまっすぐに己に向かってくる切っ先を陽月はするりとかわす。
 二人すれ違った時、視線と視線が会う。
 ざっと踏みとどまる足音が響く。それは陽月のものではなく敵対する彼のたてた音。
「どうしよっか、どうしたらいいかな」
 すっとどこからか、特殊加工のトランプを持ち出し、陽月はそれを掌の上で遊ばせる。それは陽月にとって武器でもある。
 たとえ自分の命が狙われても、相手を殺しはしない。この受け継いだFeatheryの名前を汚すことだけは絶対したくないのだ。
 目の前の相手にできるのは脅し半分のからかいくらいだ。
「なー、アンタの名前は? 教えてくんない?」
「俺? 俺は空と海って書いてウツミ。名前はレキハ」
「空海、レキハね……覚えとくよ」
 その言葉を合図に二人は間を詰める。前進しつつも陽月はレキハの力を受け流し利用する。怪盗の、その体を現す名のごとく羽のように軽い動きは直線的な攻撃をすべてものともせずふわりと交わしていく。そして時たま、手にしていたトランプを投げては牽制。特殊加工されたそれをレキハは刀で切ることなく、叩き落す。素振り無く投げられるそれに、だんだんとレキハは慣れてきたのかぱしっと一枚、指で受け止める。
「……お前、最初よりキレがねー」
「んなことないって」
 にこりと笑って陽月は言う。だけれどもそれは軽い嘘。
 じわりと、精神力で堪えていた痛みが広がる感覚。これはそろそろまずい。
 白い服に朱が広がる。それは右脇腹のあたりだ。
「あ、お前怪我してんじゃん。ってかそれ俺がやったのじゃねーし。仕事失敗してきた帰り、か」
「あーもうバレバレ、最悪。アンタに構う暇ないっつったじゃん。つか失敗はしてないんだけど、まードジったコトにはかわりない、か」
 陽月はわざとらしく溜息をつき、半眼でレキハを見る。手にしたトランプを音をたてながら、レキハに見せつけるかのごとくばらばらとくる。
「……ふー。なんか、めんどくなってきた、ちょっと息抜き。暫しの間、夢の世界へ一名様ご案内ー」
 何をするのか、とちょっとばかりぽかん、として状況が飲み込めていないレキハに、にっと陽月は笑いかけ、そのプロなみのマジックを披露する。
 鮮やかに宙を舞うトランプ、全てが違う模様であったのに、一瞬で全て同じスペードのエースにしてしまったり、どこからともなく花をだしたり。
 その様子をレキハはただただ見る。
 陽月はトランプを全て夜闇に投げる。それはそのまま降ることなく、淡い桃色の花弁となってはらはらと降る。
「種も仕掛けもありません。俺の今日のとっとき」
 人差し指を唇の前に一本たて、イタズラするような笑顔を浮かべる陽月。
 そしてその次の瞬間には、レキハのすぐ傍に間を縮める。
 口づけするかしないかの、至近距離。
 触れそうで触れない間隔。
「これ、口止め料。俺の事、誰にもしゃべんなよ」
 クツクツと笑う陽月。レキハは面食らったような表情だ。
 攻撃される、と思ったのか身構えたレキハのその唇に桜の花の花弁を陽月は人差し指一本で軽く押し付ける。
 薄くあいた唇から指を離すとその一枚の花弁はひらひらと地に落ちていく。
「じゃーまたどこかで会ったら。ま、俺は殺されないけどね」
 からかうような笑い声とともに、言葉を残してふっと陽月の姿は消える。身を沈め、レキハを置いてけぼりに、姿を消す。
 それは全て一瞬の事で、後にははらはらと風に揺れ、舞い落ちる花弁の雪のみ。
 ぼーっとレキハはその花弁の雪を見ている。そしてふと気がつき、苦い表情。
「……あ、俺逃げられてんじゃん。うっわ……」
 うっかりこの世界に見蕩れてしまった。
「くっそ、誰にも言わねーよ、たけー口止め料だな」
 苦笑しながら、レキハは呟く。





 とん、と軽く地に足をつける。
 追ってくる気配はない。
 陽月は一安心する。それと同時に脇腹の痛み。服の上から触ると少しねとりとした感触がした。ちょっと調子に乗ってしまったなと苦笑する。
「空海レキハか……ま、誰にもしゃべらないだろうな……うん、大丈夫だ」
 自分に言い聞かせるような言葉、それで安堵する。
 レキハと違う形で出会っていたらまた、面白かったかもしれない。
 そんなことを思う。
 至近距離、そのときに浮かべた表情といったら、ちょっと面白かった。
 瞳を見開いて、驚いて。
 きっとレキハにとって予想してない行動だったのだろう。
「あーゆう揺さぶりには弱いっぽいなー。今度もしあったらまたからかってやろう」
 また出会うかどうか、対峙するかどうかはわからない。
 けれども、そんな未来を想像して陽月は楽しげに笑う。
 殺されるわけにはいかないがなかなか面白い相手だ。絶対ずっとかわし続けてやる。
 それがレキハ以外であってもかわらない。
 自分にはまだ、やらなければいけないこと、そして自らのエゴで他のものを傷つけたその罪を背負っていかなければいけない。
 己の手は汚れているけれども、他人の血では決して穢さない。
 それは絶対。
 そして自分が一番、自分のことを良くわかっている。
 死などで、終ってたまるか。
「色々考える前にまず怪我、治さないとな」
 少し血の赤がついた掌を見詰め、陽月は呟く。
 この血の色は、赤色は、自分が生きて、追い求めているという証、実感だ。
 ぎゅっと掌を拳に変え、そして陽月は瞳を伏せた。



 黒羽 陽月と、空海レキハ。
 今の関係は怪盗と、暗殺に来た何でも屋。
 今回は陽月の、勝ち逃げではなく、逃げ勝ち。
 次に出会う時、この関係がどうなっているのかは、まだ誰も知らない。
 知るわけが、無い。



<END>



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号/PC名/性別/年齢/職業】

【6178/黒羽・陽月/男性/17歳/高校生(怪盗Feathery/柴紺の影】


【NPC/空海レキハ/男性/18歳/何でも屋】

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■         ライター通信          ■
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 黒羽・陽月さま

 はじめまして、今回は無限関係性一話目、月下の暗殺者に参加いただきありがとうございました。ライターの志摩です。
 色々と背負った感がばしばしの怪盗さん、ということで陽月さまの持つ軽やかさなどなどを出せていれば、と思っています。幻想的夢の世界っぽさを少しでも感じていただければ嬉しいです。
 次にレキハと出あったとき、今回の続きなのか、それとも他の形での出会いか、それは陽月さま次第でございます。
 ではでは、またお会いできれば嬉しく思います!