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<東京怪談ウェブゲーム あやかし荘>


小さな救出劇
「――ねずみ?」
 朝、因幡恵美は箒を持って、あやかし荘の廊下の掃除をしている時だった。「チチチ……」というねずみの鳴き声を聞きつけその聞こえた方へ行くと、恵美の目の前をねずみらしき小さいものが横切った。
「やだ……どこから入ったのかな?」
 ねずみが逃げていった先を見ると、廊下の隅に小さい穴が開いている。「ここかしら?」と思いながら、恵美はその小さな穴へ近づこうとした時、ポンっと後ろから肩を叩かれる。
「おはよーさん、恵美。朝から精が出るねぇ。」
「あ! 綾さん。おはようございます。」
 恵美が後ろを振り向けば、天王寺綾が手をひらひら振って立っていた。それに恵美は返事をすると、再び視線を先ほどの穴へ移した。「どないしたんや?」と綾もその視線を先が気になり、恵美の横からその穴を覗く。
「ここにねずみが入ったのよ。さっき目の前を横切っていったわ。」
「ふーん、ねずみねぇ。」
そう言いながら、綾は視線を低くして穴の中を覗こうとする。確かに、小さいと言っても小さなねずみ程度なら入れるだろう。そう思いながら、その穴に綾が手を伸ばした時だった。
「わわわわわ!!」
 綾の体は一瞬で縮まり手の平に乗るくらいの大きさへとなってしまった。そして、そのまま吸い込まれるように穴の中へ、小さくなった綾が入っていった。
「綾さん!」
 それに驚いた恵美は箒を放り投げて、その穴に手を伸ばした。すると、先ほどの綾と同じように恵美の体も小さくなってしまい、穴の中へ吸い込まれた。
「恵美! 大丈夫か?」
「え、えぇ、大丈夫ですけど……」
 綾の声に気づかされた恵美は、小さくなる時に閉じていた目を開けて辺りを見渡した。辺りは薄暗くも決して見えない事はない。壁に小さな穴が開いているのだろうか。そこから漏れる光が、柱や埃など普段は見る事のない壁の向こう側の世界を照らしていた。ふと隣を見れば、綾もまたその普段見る事ない世界を見上げていた。
「しっかし、これはどないしようなぁ……」
見上げていた顔を下げて綾が呟いた。恵美もまた見慣れぬ世界の事を一先ず置いといて、綾に顔を向けた。
「とりあえず、元入ってきた穴から戻ってみますか?」
「せやな。それが無理だったら、ここに小さいまま……」
「こ、怖い事言わないでください! きっと戻れま――!?」
 恵美は綾の冗談に肩を竦めて入ってきた穴へ振り向いた時だった。暗闇の奥に見える二つの小さな光に、出かけた言葉を飲み込んでしまう。そしてカチカチという音と共にその光が恵美と綾にどんどん近づいてきた。
「あかん、恵美! 早よ、逃げや!!」
 その近づく二つの光に危険を感じた綾は、恐怖で強張った綾を一喝する。だが、瞬く間に近づいてきた二つの光は恵美を攫って走り去ってしまった。
「恵美!!」
「――綾さん……!!」
 1人残された綾の叫びに、恵美の声が遠くから響く。
「くそ!恵美ー!!!」
やりきれない気持ちが綾を襲い、薄暗い世界に叫びが響いた。しかし、その叫びのせいか、再び二つの光とカチカチという足音が近づいてくる。「しもうた!」と気づいた時には、すでにその二つの光はすぐそこへと迫っていた。そして、近づくやいなや綾の体へ体当たりする。
(ネズミか、こいつは!?)
 咄嗟に腕を交差してガードをした綾は、そのまま穴の外へ放り出される。そして穴から出た瞬間、再び綾の体は元の大きさへと戻っていった。
「も、戻れた?」
 尻餅をついたまま体を見渡せば体当たりされた時の痣も服の破れも何もかも、元のサイズへと戻っている。そして、再び穴を見てから立ち上がった。
「くそ……恵美、待っててや!すぐ助っ人呼んできたる!!」
 そして綾は恵美を救出するためにあやかし荘の中を走り出した。



 服装の確認。持ち物の確認。今日の予定の確認。
「よし、これで大丈夫かな。」
 あやかし荘のとある一室で、変わらない朝の支度を終えた少年――奉丈・遮那は「今日も張り切っていこう!」と意気込み部屋を飛び出した。
(あ、恵美さん、玄関あたりにいるかな?)
 そんな事を思いながら、廊下を曲がろうとすると、ドタバタと大きな音を立てて、こちらへ猛突進してくる天王寺綾の姿が――見えた。
「え――!」
「あ――!」
 綾だと認識した頃には、時既に遅く。間抜けにも漏らしてしまった声と、ドン!という音、そしてドタン!という廊下に尻餅をつく音と共に、二人はぶつかり、そして尻餅をついた。
「いてて……綾さん、廊下は走らないほうがいいって、恵美さんに言われてるでしょ。」
「あーたたた……遮那か……すまんわ〜……」
「まったく前を見ないで、そんなに慌てて……」
「すまんすまん……って、あーー! こんな事してる場合やない!」
 大声を上げる綾に、思わず顔を引きつってしまう遮那だが、次の綾の一言で遮那の目つきが変わった。
「恵美が、こうしてる間にもやばいんや!」
「え!?」
 その綾の一言に尻餅をついた時の痛みさえも忘れた遮那は、綾の両肩に掴みこれまた大声で綾に問う。
「恵美さんに何があったんですか!?」
「あ、え、えーとなぁ――」
 遮那の剣幕に、今度は綾が思わず顔を引きつってしまう。だが、綾はこれは話したほうがいいと思い、手っ取り早く先ほど小さい穴の中であった出来事、そして助っ人を探している事を話した。そして、話が進むほどに遮那の目つきは、変わっていった。
「――というわけなんやけど……遮那?」
「……綾さん!」
「は、はぃい?」
 いつもとはぜんぜん違うその遮那の剣幕に、綾は思わず素っ頓狂な返事をしてしまう。そして遮那は一度背を向けて走り出し、1分も立たない内に戻ってきた。その姿は先ほどまで持っていた鞄はなく、手には束となったカードが握られている。
「僕がいきます!」
「へ?け、けど、学校はどないするんや?」
「そんなのよりも、恵美さんの方が心配です!さぁ、案内してください!」
「け、けどなぁ……」
「さぁ!」
「わかった、わかったぁ……」
 綾はやれやれと首を振りながら「こっちや。」と遮那を案内する。先ほどと、そこまで距離が離れていないのか、小さな穴はすぐ近くにあった。
「ここですね……」
「なぁ、遮那。ほんま一人で大丈夫なんか?」
「えぇ、召還を使えば一人じゃありませんし、人員を集めている時間すら惜しいですよ!」
「そなら、ええんやけど……」
「それじゃ、綾さんはここで誰か誤って入らないよう見守っていてください!」
「う、うん……」
「恵美さんの身に何かあったら……魔物だろうがネズミだろうが、容赦はしません!!」
そう叫びながら、遮那は小さな穴へと飛び込んでいった。
 一瞬にして、場がシーンと静まる。綾はそこより近い位置に座ると、煙草を取り出し吸い始めた。普段はいじられる遮那があそこまで自身を圧倒するとは……思いもよらない事に思わず、煙草の煙を「はー」と吐き出しながら、
「愛の力は偉大って事やねぇ……」
と呟いてしまうのだった。



 穴の中――というより、壁の中は思ったよりも広く感じる。そこまで自身が縮んだのだろうか? 所々からもれる光を見つめながら、なかなか神秘的な世界だなと、遮那は思っていた。
「それでも薄暗いな。」
遮那は左手に持つカードの束から右手で一枚抜き出し、掌の上で回転させる。
「No.19……THE SUN.」
遮那が呟くと、回転させたカードを囲むように赤い球体ができあがる。そして、小さな"太陽"となり掌から浮くと、遮那の右肩あたりに停滞した。穴の中がより一層見やすくなった所で、遮那は周りを見回して顔をしかめる。
「やっぱり……」
 明るくなかったからこそ、その無数の影ははっきりと見えた。穴を取り囲むように、ネズミが少なくとも10以上が、遮那を狙っているように見える。遮那はタロットカードから一枚取り出すとふと思う。
(なんでこうも冷静なんだ……)
 無数のねずみを前に。そして大好きな人がピンチという状況に、自身でも信じられないほど頭の中がすっきりしている。その一つ、一つに注意が行き届き、状況を把握、そして判断を出せる。大学受験を目指す身として学校をサボった事に後ろめたさがないわけではない。けど、今は大切な人を救い出す事を――
「No.7.THE CHARIOT!!」
 遮那がそう叫びカードを地面に叩きつけると、二頭の馬とそれに繋がれた車に乗る槍を持った騎士が現れた。それを見るや否や、ネズミたちは一斉に遮那を目掛けて襲い掛かった。遮那は即座にその古代戦車に乗り発進させる。そして、襲いくるネズミを槍を持った騎士が迎撃していった。
「ぢゅう!」
「ぢゅぅっ!」
襲い掛かるネズミを迎撃し、柱に開いた穴をくぐり進みながら、ふと遮那は想像してしまう。もしももう手遅れだったら――そんな"最悪な事態"を払うように頭を振り、そして尚襲い掛かるネズミの集団に、遮那は声を張り上げた。
「そこをどけえええええ!!!」



 どれくらい経ったのだろうか?気づけば、ネズミ達は諦めたのかもう襲ってこなくなり、古代戦車を納めた遮那は息を荒くしながら、その場に座り込んだ。襲ってきたねずみはどれも強靭なのか、なかなか倒れようとしなかった。
「はぁはぁ……こうしている場合じゃ……」
 明らかに普通のネズミじゃないと感じながらも、早く恵美を助け出さなければと無理矢理体を起こす。そしてゆっくりと歩き出すと、ふとねずみとは違う声が耳に飛び込んできた。
「……なく……しゃ……」
「――!?」
 間違いない。微かしか聞こえないが恵美の声だ。遮那はまだ恵美が生きてる事に安堵を覚えつつも、深呼吸をして目を閉じる。そして、呼び続ける微かな声に意識を集中させた。
(上だ!)
 遮那はタロットの束からカードを一枚取り出し、それを自分の足元に置く。
「No.16……THE TOWER!」
 そう唱えると、足元がどんどん盛り上がり足場が塔となって遮那を上げていく。そしてある程度、昇ったところではっきりと恵美の声が聞こえるまでになった。
「遮那くん!」
「恵美さん!」
 声の先を見れば、柱に開いた結構大きめの穴から一匹の青いネズミがこちらを睨み付けていた。遮那は咄嗟にタロットの束から一枚取り出し、それを掲げる。そして召還しようとしたその時だった。
「待って! 遮那くん!」
「え―!?」
 ふと穴の奥から恵美が青いネズミの前に立ち、遮那の動きを制した。それに困惑する遮那に、恵美は言葉を続ける。
「このネズミは私を助けてくれたの!」
「ええ!?」
「ともあれ、この子は大丈夫……遮那くんもこっちへ来て。」
そう言って恵美は手を伸ばした。遮那は戸惑うが、恵美を信じて手を伸ばし、穴の中へと入っていった。



 穴の中は、入り口と同じように広々としている。そして先ほど睨み付けていた青いネズミの他に、もう2匹小さなネズミが潜んでいた。遮那は思わずネズミに一礼をすると、恵美の体を見回した。
「恵美さん、大丈夫ですか?」
「えぇ、ちょっと服が切れちゃったけど……この子のおかげで、なんとか無事だわ。」
「そ、そうですか……よかったぁ。」
 遮那は恵美の無事に緊張の糸が切れ、安堵のため息をついた。そんな姿に恵美は「ありがとう」と笑顔で微笑んだ。
『少年……少年は、力を持っているのか?』
「―え?」
 ふと恵美でも遮那の声でもない、別の声が遮那の頭の中に響く。それに驚いた遮那は周りを見回した。その様子に恵美は困惑する。そして、遮那はその青いネズミに目をあわせた。
「まさか、君が喋っているの?」
『よかった……少年には聞こえるのだな?』
「え?え? ど、どうしたの??」
 どうやら恵美には、この声は聞こえていないらしい。遮那は恵美にネズミの声が理解できる事を説明して、ネズミの話を続けさせた。
『力を持っているものなら、伝わると思ったが……よかった、これで伝える事ができる。』
「それは、あの小さくなる穴の事?」
『そう……それと最近起こっている、この閉ざされた世界での事だ。危うくこの人間が最初の犠牲者になるところだった。』
「そ、そうなの?一体何があったの?」
 その遮那の問いにゆっくり青いネズミは語り出した。
 このあやかし荘に居つく壁の中の世界にいるネズミ達は、長年漂っている妖気や霊気などで、微力ながらも力を持ったネズミというのが存在するらしい。自身もその一人で、このように力を持った者同士ならば、種族などを超えて意思の疎通が可能だと言う。そんな中、特に力を持った一匹のネズミが恐ろしい事を考えた。それが小さくなる穴の事であり、あれは人間のみ小さくする事が出来、穴に誘き寄せたところを捕獲して食料にするというものだった。それならば、危険を冒して餌をとりに行く必要もなく、また一匹だけが囮となれば気になった人間が穴に近づくという罠であった。
「それじゃあ、私が見たネズミも囮だったって事ね……」
 遮那に説明を受けた恵美はふと今朝の事を思い出す。そして、その呟きを遮那はネズミに伝えると、ネズミは頷き話を続けた。
『だが、私達とてこのあやかし荘を愛するもの。例え、餌の為とはいえ人を食す事など出来る気にならない。だから、私はこの人間を助けたのだよ。』
「そ、そうなんですか……」
『さぁ、長話もなんだ。そろそろ外へ出たほうがいい。案内しよう。』
「あ、ありがとうございます!」
『そうだ、少年……ひとつ願いを聞いてくれないか?』
「え?」



「恵美!遮那!」
 小さな穴から出て元に戻ってきた二人の姿に、そこでずっと待ち続けた綾は思わず二人に抱きついた。
「わわ、綾さん!」
「よかった!よかったなぁ!」
「お、落ち着きましょうよ、とりあえず。」
 遮那がそう言うと、笑いながら綾は二人を開放した。外を見れば日は高くなっており、朝から随分時間が経ったのだなと知らされる。
「とりあえず、この穴はふさごうか……これ以上、迷い込んだら大変やろ。」
そう言って綾は「道具探してくるわ。」とその場から離れた。
 恵美と遮那が穴を見つめながら、ふと青いネズミの頼み事を思い出す。

『これ以上、犠牲を出すわけにはいかない。あの親玉を一匹倒せば、あの穴の術式も解除される。私は君達を送り届けた後、そいつを倒しに行く。だが、もしもの事がある。だから――』

「この穴をふさげ、か。」
「私達、このまま戻ってきてよかったのかしら……」
 恵美のその一言に遮那の心が揺らいだ。青いネズミは恵美の事を助けてくれた。そしてこのねずみもこのあやかし荘を大切だと言う。それは自分も、もちろん恵美も。
「恵美さん……」
「うん、気をつけて……必ず帰ってきてね。」
 遮那の気持ちを察した恵美はそう言って遮那を抱きしめる。それに応えるように遮那は大きく返事をする。
「はい!」
 そして遮那は再び穴の中へ、飛び込んで行った。



 薄暗い世界の中。多数のネズミ達が、一匹の青いネズミを目掛けて攻撃を繰り返す。だが、それに怯む事なくネズミは、その奥にいる一匹の黒く大きなネズミへ目掛けて突撃していく。
「ちゅう!」
「ぢゅぅ!!」
 だが、数が圧倒的に違いすぎた。いくら払って進もうとも、その黒く大きなネズミに届かない。次第に傷、そして疲労が体の動きを鈍らせていく。
「ぢゅううう!!!」
 それでも尚進み、もうすぐで届きそうになった時だった。ふとその背後より、更に大勢のネズミ達が一斉に襲い掛かる。もうダメか……そういう考えが頭を過ぎった時だった。
「No.12――」
「!?」
「!!」
 ふと人の声が響く。そして、その言葉は更に続いた。
「THE HANGED MAN!!」
刹那、すべてのネズミ達の動きがピタリと止まった。そして青いネズミの後ろから、童顔の少年――遮那が現れる。
「このカードの意味は"我慢"。一時的ながら、皆に行動の我慢をしてもらいますよ!」
『少年!?なぜ、またこんな所に!?』
 ネズミは驚きの声を上げる。それに対して、遮那は首を振って答えた。
「僕もあやかし荘が大好きだからですよ。」
『――!!』
「あやかし荘を愛する者が、例えネズミでも一緒です。それに僕の大切な人を守ってくれたから!」
『少年……ありがとう!』
 そう言うと遮那は左手に持った束から一枚取り出して、それを地面に置いた。
「さぁ、親玉はどれですか!」
『奥にいる唯一黒いネズミだ!』
「ぢゅううう!!」
刹那、その黒いネズミが叫ぶと動きを止められていたネズミ達が再び動き出した。だが、それに動じる事なく遮那は唱えた。
「No.13…DEATH!」
 途端、カードからは白い瘴気が噴射する。そして黒いネズミの後ろに集まると、それは鎌持った死神へと具現化していく。
「――!?」
そして音もなく、悲鳴もなく……ネズミへ鎌を薙いだ死神はそっと消えていく。一瞬の事だった。黒いネズミはその場で消滅し、襲いかかろうとしたネズミ達も我を戻したのか、その動きに殺気や戦意の類はなかった。
「ふぅ……終わったぁ。」
『ありがとう……本当にありがとう、少年!』
「ははは……いえいえ、そんな事ないですよ……って、あー!!」
 緊張の糸が切れ笑顔がこぼれていた遮那の顔が、何かを思い出しふと青ざめる。そして、周辺を見回し自身の体を見回して、その場に座り込んでしまう。
「ぼ、僕の体、どうやって戻るんだろう……」
 そう。黒いネズミを倒し、小さい穴の術式が途切れた今、その術式のおかげで小さくなった遮那の体が元に戻ろうともしてなかった。もちろんこのままでは、戻れる手段など見当がつかない。
『さすがにそればかりは私だけでは……』
青いネズミもまた言葉を曇らせる。その様子に、辺りのネズミ達が続々と集まってきた。
「ちゅう……」
「ちゅうちゅう……」
「ちゅう!」
『お、お前達……』
「え、何を言っているの?」
 ネズミ達のその行動に青いネズミは頷き、声を喜ばせて遮那に伝えた。
『大丈夫だ、少年! 私"達"が君を戻す!』



「遮那くん……」
「遅いなぁ。」
 日は傾きかけた頃。あの小さな穴の前で、恵美と綾はずっと待っていた。
「まさか、遮那の奴……」
「―!?こ、怖い事言わないでください!」
「あぁ、すまんなぁ……」
「大丈夫ですよ……私信じてま――!!」
 恵美がそう言い掛けた時だった。ふと小さな穴から青い光があふれ出す。そして、その光の向こうからゆっくりと、元の大きさに戻った遮那が現れた。
「あ……ああ!」
「遮那!」
「はは、ごめんなさい……元に戻るのに時間がかかっちゃって……」
「遮那くん!」 
 そう笑いながら頭をかく遮那に、思わず恵美が抱きついた。遮那はそれに照れながらも、事情の説明を進めようとする。
「あ、いやその最後まで、ネズミ達にお世話になっちゃったて言いますか、その……」
「アホ。そんな事やないで。よー見てみ?」
「え?」
 綾のその一言に、遮那は恵美の顔を見る。その恵美の顔からは、いくつもの涙が落ちていた。
「あああ!?ごめんなさい!本当に迷惑かけちゃって!!」
「ううん、ありがとう、遮那くん。」
「え、恵美さん……」
「私を助けにきてくれたのはもちろん、あやかし荘を守ってくれた事。そして帰ってきてくれた事……」
「あ――」
その言葉に、遮那は綾の顔を見ると「ほらな?」と目で合図をしてきた。それに遮那は頷くと、恵美の顔を見てそっと呟いた。
「恵美さん、ただいま。」
「うん、おかえりなさい。」
そんな様子を見ていて、綾は煙草に火をつけ夕日を見ながら呟いた。
「ほな、一件落着やな。」



 翌日。また変わらぬ朝を迎えた遮那は、昨日さぼってしまった分を取り戻さねばと、朝早く部屋を出た。廊下を歩いていくと、小皿を持った恵美と鉢合わせた。
「あ、おはようございます!恵美さん!」
「遮那くん、おはようございます。今日は早いわね。」
「はは、昨日さぼっちゃいましたから、ははは……」
「あ……ほんと、昨日はごめんなさい。」
「いえいえ、気にしないでくださいよ、その、えーっと……」
 遮那は言葉に迷っていると、その小皿の上にあるチーズに目がいった。
「もしかして、これは……」
「あのネズミ達に感謝をこめて、今度から餌をあげようと思うの。」
「なるほど! それなら二度と同じことはないですよね!」
「えぇ。あ、ごめんなさい、話し込んじゃって。」
「あ、いえいえ!それじゃ、恵美さん、いってきます!」
「えぇ、いってらっしゃい。気をつけてね。」
 そう恵美に見送られた遮那は、元気よくあやかし荘を出て行った。


 この事件以降、あやかし荘でネズミの姿を見る事はない。
 あやかし荘の小さな世界は、今日も平和に過ぎていっている。


fin



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号/PC名/性別/年齢/職業】

【0506/奉丈・遮那/男/17歳/占い師】

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■         ライター通信          ■
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初めまして、喜一と書いて"きひと"と申します。
ご利用ありがとうございました。
お話の方はいかがでしたでしょうか?
楽しめましたら幸いです。

奉丈・遮那様
納期ぎりぎりになってしまい、申し訳ありませんでした。
プレイングから恵美を想うその姿勢を、楽しく書かせてもらいました。
それと恵美の救出だけではなく、小さな世界をも救出。
遮那を英雄としても書かせていただきました。
またタロットを使った戦いを中心としましたが、こちらのほうもいかがでしたでしょうか?
愛の力は偉大、というのが伝われば幸いです。

ご意見等ありましたら何なりとご指摘ください。
それでは、またの機会ありましたら、よろしくお願いします。
喜一でした。