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<東京怪談・PCゲームノベル>


月下の暗殺者



 それはコンビニ帰りのとある月夜。月は高くあり輝きは静かに。
 小坂 佑紀はがさがさと色々と買い込んだコンビニの袋を揺らしながら歩いていた。
 自分が食べるのではなく全部兄の使いっぱしり。少し買いすぎたそれは重たい。使い走りなど不本意だった。
 と、ふと後ろから気配を感じて振り向いた。その一瞬後で髪が数本、はらりと落ちた。
 自分に向けられる刀の切っ先、その先を追ってゆくとそれを手にしているのは少し年上くらいの金髪の青年。右目には派手な布らしいものが巻かれていて、みえている左目から冷たく視線を送られる。金色の髪が月明かりで少し光っていた。
「あたしに何か用? そんな物騒なもの持ち出して……」
「刀向けられてんのに、肝が据わってんな」
「そんなこと……ないわ。少しは、やっぱり驚いてる」
 佑紀はまじまじと相手を見詰めた。
 どこからとうみても普通の、一般人ではない。
「この状況から見て、あたしは殺されそうだってことでいいの?」
「ああ、俺はお前を殺すように言われてきた」
 そう、と佑紀は呟く。狙われるような覚えなどまったく持ってないのだけれども、こうして刃を向けられている以上はしょうがない。
 一体どんな理由で自分を邪魔だと思って殺そうとしているのか、気になる。
 佑紀はまっすぐに、彼の銀の瞳を見つめ返した。
 その視線の強さに、彼は一瞬驚くが、すぐにまた平静を取り戻した。
「殺しにきた理由が知りたいわ。それを聞くまではとてもじゃないけど死ねないかな。納得できるような理由だったら殺されてもしょうがないし……」
「んなこと言われてもな」
「人違いとか、そうゆう可能性も無きにしも非ず、でしょう? それにあたしはどうみたって普通の女の子よ、そんな話をしている隙に逃げたり、反撃なんてしないわよ。もししても、あんたにねじ伏せられそうだし」
 佑紀の言葉を受けて、彼はじーっと見詰めてくる。まじまじと品定めするような視線だった。
 そしてすっと、その刃を下ろした。
「そうだよなー、どーみたって非力そうだし、いつでも殺せそうだしなぁー」
 刃を鞘に収め、そして彼は自分の影にそれを落とす。するするとそれは影に、地に沈んで消えていく。
「いーぜ、お前に付き合ってやるよ」
「便利な影ね。ええと、近くに公園があるからそこで話をしましょう。丁度、食べ物に飲み物もいっぱいあるし」
 佑紀はがさっと袋を持ち上げて見せる。兄の胃袋に入る予定のものだがかまうものか、重いしちょっと量を減らしてしまえという感じだ。
 こっちだよ、と佑紀は先に進む。てくてくと夜道を公園へと向かって。その後ろをついてくる足音がちゃんとある。
「……狙われてるのに背中見せて、やっぱ肝据わってんなー、けっこーそういうのは好きだな」
「そう? 私はあんたのこと、何も知らないんだけど、名前くらいは教えてくれるわよね」
「あー、空と海って書いてウツミ、下の名前はレキハ」
「ふぅん、空海さんって呼べばいいのかしら」
「うわ、さんとかいらね、下の名前呼び捨てでいーって」
 レキハは居心地が悪い、というような声色で笑いながら言う。そう言うのなら、と佑紀はレキハ、と呼び捨てることにした。
 暫くの間歩いて、公園へと辿り着く。ベンチの上の埃を軽く払って佑紀は腰を下ろす。その隣にレキハが音もなく座った。
 二人の間にコンビニの袋を置いて佑紀はがさがさと中身を出す。ペットボトルのお茶をはい、と差し出した。それを彼は受け取る。
「おにぎりとかもあるの、好きなの食べて」
「腹減ってねーから茶だけで」
「買いすぎたの、拒否しても無駄よ。口に詰め込んで、無理矢理食べさせるわよ」
 自分で食べるのとどっちがいいかしら、と佑紀はにっこりと笑いかけた。レキハはその表情を見て、逆らわない方がいいと思ったのだろう一個自分の手でとってもそもそとそのパッケージを開け始める。
「肝据わってるわ、すげーいい性格してるわ、おもしれーのな、お前」
「褒め言葉、という事にしておいてあげるわね」
 佑紀は自分用に買っていたペットボトルのお茶を開け一口飲む。
 その時ふっと月が瞳に写った。淡い光が綺麗だと思う。
「さて、それじゃあなんであたしを狙ったのか、理由を言ってもらおうかしら」
「や、それは依頼があったからで……」
「誰に?」
「それは言えねーって」
「詰めるわよ」
 手近に会ったパンを手に持ち、見せ付けるように満面の笑み。
 こいつはやる、と本能でレキハは感じ取って固まった。逆らってはいけない、そんな感覚だ。
「おい、おい顔は笑ってるが目は笑ってねーぞ、待て」
「そんなことないわ、さぁ言いなさい」
 困った、と表情を固まらせてレキハは笑おうとする。この勢いには負けを感じざるを得ない。
「名前は知らね、でもどっかのお偉いさんだろ。そういう情報は俺んとこまでこねーっての」
「ま、そうでしょうね」
 佑紀はパンを手を持つ手を下ろす。それにレキハはほっとしたようだった。それが少しおかしい。
「じゃあレキハの仕事って、ことよね。あたしを殺すって言うのは」
「あーまぁそうだけど、なんかお前は、すっげー後味悪いことになりそ。夢とか出てきて……」
「口に恨みもこめて詰める?」
「そーそー、そんなかん、じ……」
 それだ、というように笑ってノッたレキハだったが、にこーっと佑紀が笑むのにまた表情を固まらせた。どうやらこうゆう対応は苦手とみて佑紀は積極的にそうゆう雰囲気を作る。からかうような、少しの意地悪もこめて。
「うわ、もうなんか本当、お前には勝てない気がする! 刀持っても負けそう、すげーにっこり笑われたら俺動けねー」
「じゃあ殺すのは諦めることね。無駄に終ることならやめておくほうがいいわ」
 でもそうはいかないんだな、とレキハは苦笑混じりに言う。
 この二人の感覚は今、暗殺する方される方ではなくて、そのへんでだべったりする友人のような関係に近い。力関係は明らかだけれども。
「……レキハは何歳なの? あたしより年上よね」
「十八だな、一緒だろ?」
「あたしは十五よ」
「は?」
「嘘言ってどうなるの」
 きょとーんと驚いた表情。何かどこかがおかしいような気がして佑紀は続ける。
「事前情報が間違っていそうな雰囲気ね。あなたが狙ってるのは本当にあたしなの?」
「……そう言われると、なんだか自信が……」
 この人はちょっと馬鹿なのではないか、とひっそりと佑紀は思う。なんだか色々とつっこんで聞いてあげた方が良いような気がしてきた。
「その狙ってる人の性別は?」
「それは女」
「どのへんに住んでいる、とかはわかる?」
「や、よくわかんね」
 なんだかとても、嫌な予感を佑紀は感じた。これは、これは絶対に何か勘違い、というか間違えていそうな感じだ。
「……答えたくなくても、答えて。狙った相手の名前は?」
 レキハが渋々と紡いだ名前。
 それは、小坂 佑紀という名前以外だった。誰よそれ、というような知らない名前。
「どした?」
 まだワケがわかっていない、不思議そうな表情のレキハ。佑紀は無言、笑顔でパンの包みを開けて、手に持った。そしてそのまま一言も発さずレキハの口へと押し込む。
「あんた相手間違ってるわよ、あたしの名前は小坂佑紀よ、こ、さ、か、ゆ、う、き! あってるの性別だけじゃないの」
 しっかりと覚えなさいというように佑紀は言葉を強調する。
 口に詰められたものをレキハは飲み下し、死ぬかと思った、と佑紀を見た。
「ちょ、マジ詰めるのは勘弁してくれって」
「それぐらいされて当然よ。あんた、人違いじゃないのやっぱり。間違えて別人殺さなくてよかったじゃない」
「うっ……」
 びしっと顔の前に指を一本立てられてレキハは言われる。その言葉は正しくて返す言葉がない。
「う、悪いって。でも死んでねーからいーじゃねーかよ」
「それはそれ、これはこれ。ちゃんと謝って」
「ご、ごめんなさい……」
 よろしい、と一応の納得を佑紀はしめす。とりあえず重かった荷物も少し減ったしまぁ良いか、と。
「もう間違えたら駄目よ、間違わなくても人殺しは駄目だけど」
「わりーけどそれは無理。何でも屋は何でもやるってのが仕事だからなー」
「他人の迷惑になる仕事をしなければいいの」
「そりゃそーだけどな。さってと……」
 ベンチから勢い良く立ち上がってレキハは佑紀に背中を見せる。
 肩越しに振り返ってかち合う視線。
「俺行くわ、ごっそーさん。まぁ、半ば無理矢理だったけどな」
「あたしも、荷物が減って助かったわ」
 もしまた会ったら今度はあんたが何か奢るのよ、と佑紀は手を振りながら言う。今日の分のお返し、ということだ。
「りょーかい。缶ジュース一本な」
 ひらひらと手を振りながらレキハは声に笑いを含ませながら歩く。その背中を佑紀はしばらく見守っていた。
 刀を向けられ、色々と話してみると実際のターゲットは自分ではなくて。
 日常に一滴の波紋を落とされたような感じだった。
 もしまた会うとしたら、レキハは缶ジュース一本と言っているがほかにも何か奢らせよう、と佑紀は心に決める。
 そしてもうちょっと、色々な方向から接してみようと思う。
 きっと面白い反応を返してくれるはずだ。
 そのときのことを楽しく予想しながら佑紀はベンチから立ち上がった。
 少しばかり軽くなったコンビニの袋を持って家路をたどる。
 この寄り道の時間は短いようで長くて、兄は餓死、とまでは行かずおなかを空かせているだろう。
 そんな姿を想像してちょっとだけいい気味、とひそりと思った。



 小坂 佑紀と、空海レキハ。
 今の関係は、人違いで狙われて、人違いに気付かず狙って。
 今回は、もし勝ち負けをつけるなら佑紀の圧勝だろう。レキハは佑紀の微笑みに負けっぱなしだ。
 次に出会う時、この関係がどうなっているのかは、まだ誰も知らない。
 知るわけが、無い。



<END>



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号/PC名/性別/年齢/職業】

【5884/小坂・佑紀/女性/15歳/高校一年生】


【NPC/空海レキハ/男性/18歳/何でも屋】

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■         ライター通信          ■
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 小坂・佑紀さま

 お久し振りです、今回は無限関係性一話目、月下の暗殺者に参加いただきありがとうございました。ライターの志摩です。
 佑紀さまの圧倒的勝利にて一話目、幕を閉じました。人違いとかお馬鹿丸出しのレキハでした。佑紀さまの性格が良い方向にまただせていればいいなと思っております。
 次にレキハと出あったとき、今回の続きなのか、それとも他の形での出会いか、それは佑紀さま次第でございます。
 ではでは、またお会いできれば嬉しく思います!