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<東京怪談・PCゲームノベル>


-スクランブル- 飛行大型魔獣迎撃


 放課後。カバンを肩にかけ、帰途。
 櫻・紫桜はふと地面に視線をとめる。
 モノクロがちの冬の路地に気の早い野花。
(そろそろ春だな。新芽の香りがする)
 風に生暖かさが混じっているのを感じながらつかの間の感慨に浸った。
「今年の寒稽古もそろそろ終わりか‥‥‥。あ、ここは」
 意識してそうしたわけではないが、例の空軍基地のある小道だ。
「平穏そうなら、挨拶ぐらいはして帰るのが礼儀、か」
 紫桜は入り口のサッシ手前でしばし耳を澄ます。
 静かだ――。
「おうおう! ようきたの!」
「っと。驚かさないでくださいよ」
 先に発見されてしまった。
 煙をふかしながら高月が奥からでてくる。
「丁度いい、茶でものんでいかんか? 今ちょうど暇しとるんじゃ」
「そうでしたか。ええ、ご迷惑でなければ」
「それにおまえさん用に新装備を考案しての。自慢したくて自慢したくてわしゃもう」
「俺専用‥‥‥?」
「ふっふ、伊達に年くっとらんよ。これじゃ!」
 示されたそれは――
「俺には普通のミサイルにしか、見えないんですが」
「こいつの弾頭は炸薬じゃない。先端におまえさんの刀の柄を固定できる」
「ちょ、ちょっと無茶苦茶言わないでください! 発射したらそれっきりじゃないですか、駄目です」
「ところが違う。超硬度ワイヤーの有線誘導なんじゃ。発射後も持ち帰れる」
「はあ。じゃ、発射したあとはワイヤーに刀をぶら下げて飛ぶんですか‥‥‥不安だな」
「そこはお前さんの腕の見せ所。旋回することによって、乗りながらに剣を振れるじゃろ」
「なるほど」
 ときに音速を超える戦闘機だ。
 その旋回の遠心力が加われば、先端で弧を描く刀の斬撃がすさまじい威力になるだろうことは想像がつく。
 だが。
「作って頂いてなんなんですが」
 小さく息をつく。
「俺自身が持った状態では、刀は切れ味を発揮できない。木刀の打撃力程度なんです。人間相手ならともかく、化け物に通じるかどうか」
「‥‥‥操るのはお前さんだが、持って振るうのはおまえさんではない」
「俺じゃない?」
「以前おまえさん、感じたろう。ウチの戦闘機は意思がある。イズナ、読みは同じじゃが本当の名を『雷沙』。あの機体の宿り神。いやー実はコレ、この異界の隠し設‥‥‥」
 耳の割れるような警報がその言葉の続きを遮った。
「ぬ! いかんぞ、この警報は‥‥‥臨戦態勢をとってくれんか!? ヤバイのがきたわい」


-TAKE OFF IMMEDIATELY-

<こちら管制指揮所『シュヴィンデルト』、高月サキ。対空警戒レーダー・甲が空間異常を探知しました。敵は――大型飛行合成魔獣、戦術呼称『ビッグモース』級、一体>
 三人それぞれがハンガー方向へ駆け、自然並ぶ形となる。
「しかし全員が走りながら顔合わせか。櫻・紫桜(さくら・しおう)です」
「アリスです。あ、クミノさん、この前の空戦ではどうもっ」
 アリス・ルシファールが横を走るササキビ・クミノに言う。
「ええ、どうも。今日は前ほど楽にはいかなそうね。紫桜さん、よろしく」
「細かい挨拶は空にあがってからですね、いそがなくては」」
「いや‥‥‥上がる前に。二人ともちょっと待って」
 クミノが管制指揮所ドア前で立ち止まる。
「っと? どうしたんです」
「敵戦闘力の把握。基本でしょう」
「うん、一理ありますっ」
「なるほど」
 一同『シュヴィンデルト』内に入る。
 オペレーター席では既にサキが目まぐるしく計器を操っていた。
「サキさん、敵構造の可能な限りの解析を。確認後、でるわ」
「弱そうだといいですねっ」
「『シュヴィンデルト』了解‥‥‥全レーダー指向性を敵妖獣に限定。早期無人偵察機からの映像、正面ディスプレイにまわします。リアルタイム」
 流石に全員が息を呑んだ。
「でかい、な」
 無数の白い目をもった降下型甲虫の塊り、その外側にはぎっしり生えたウツボのような無数の穴。
「相変わらず、気色悪いなあ〜」
 とアリス。
「重レーザー砲型118体、その周囲の砲門はロケット砲もしくは誘導弾発射口とシュヴィンデルトは解析。重砲型キメラです」
「こんなの、まともにもらったらこちらは粉微塵ですね‥‥‥」
 紫桜が唇を噛む。
「じゃあもう、何もさせずにやっつけちゃいましょうっ」
 アリスは戦闘前とも思えない澄んだ微笑。
「いや、そうはいかないかもしれない。装甲強度は未知数、複数妖魔のキマイラということはその逆、分離さえやりかねないわ」
「しかしクミノさんの言うとおりだとしても、あとは上で確かめるしかないですよ‥‥‥いや、待ってください、コイツどうやって飛んでるんです? ずんぐりして羽根なんてない」
 食い入るように映像を見る紫桜の問いにサキが答える。
「解析の結果、下面部の排気組織からアフターバーナー並みの推力空流を吐き出しているようです。同時に大気中からエネルギーを摂取している模様」
 いわれれば、砲門部位の下に巨大な肺の集合体のようなものが収縮している。
「じゃ、この呼吸アンド飛行してるとこさえ潰しちゃえば落とせるってことじゃないですかっ。楽勝〜」
「そうすれば機動力は奪えますね。いきましょう」
 ハンガーへ向かおうとするアリスと紫桜。
「? クミノさん、どうしたんですか」
 指を唇に当て考え込んでいる。
「弱点が、あからさますぎる」
「う〜ん、そういわれればそうかも」
「これは単に知能がないのか、或いは‥‥‥」
「或いは?」
「いえ、いずれにせよここで考えていても仕方がないようね」
<スクランブル。各機、離陸位置に到達したものから離陸開始。『シュヴィンデルト』は編隊飛行を戦術上非推奨、離陸後に散開を>
 ばらばらに滑走路へとむかう各機内で衝突警告音が一瞬なるがすぐに止む。
 管制所が上位コマンドから警告をキャンセル。
<アリス機『ニイツキ』、テイクオフ。紫桜機『イズナ』、つづいてクミノ機『ニイツキ』テイクオフ>
「二度ともなるとさすがに慣れるな‥‥‥」
 機動性でニイツキを上回る紫桜機が自然、先行する。
「紫桜さん、突出は危険ですよっ」
「といって密集しても危ないわ。三人してあの火力に巻き込まれてはまずい」
 イズナと一定距離をとりつつ、クミノとアリスの漆黒の機体、ニイツキが変則的機動を描きながら追いつく。
「紫桜機、敵視認しました。まだ距離はあるのに‥‥‥なんてサイズだ」
「こっちからも見えます、アリス機、アクティブステルスにはいりますっ。事象遮断起動」
「え?」
 既にアリスの機影はない。付き従うサーヴァントから大体の位置はわかるのだが。
「こちらクミノ、敵の射線死角からの隠密接近を試みる」
「って、クミノさんもですか‥‥‥」
 クミノのニイツキ、緩旋回しつつダイブ。敵下方へ向かう。
「まいったな、これじゃ俺一人が的だ」
 今、敵には紫桜のイズナしか見えていないはずだ。ステルスがない。
「‥‥‥ん」
 紫桜の視界上、遠くでなにかが光った。
「やっぱりか、まずいっ」
 即座にイズナを90度急旋回。
 その背後を無数のレーザー照射の束がすりぬけていった。
「大丈夫?」
 クミノ機より通信。
「よけましたよ――おっと」
 さらに二弾、三弾と同様の攻撃が紫桜を狙う。
「既にそれは見切った」
 的確な角度をとり、ことごとく回避。無駄がない。
「やはり軌道が単純だ‥‥‥それなら。俺も避けてばかりじゃいないぞ」
 イズナ、反転。
「ガンは‥‥‥射程外か。的は大きいんだ、当てさえすれば!」
 パネルに使用可能武器一覧が表示される。
 さすがに刀を固定した有線弾を撃つ気にはなれない。
 ミサイルレディー。ホーミングをオフ。
 紫桜の視界正面に巨大な敵影。
「大きすぎてロックオンは無理か、けど‥‥‥いけ」
<紫桜機、交戦>
 イズナから二基のミサイルが放たれる。
 誘導機能をオフにされたそれはまっすぐ巨体へ向かっていき、命中した。
「よし、これで砲台のひとつやふたつはやった筈だぞ」
 高度をとり、反復攻撃の準備。
「もう一度っ」
 さらに紫桜のミサイルが喰らい付く。イズナはそのまま敵の死角へ離脱。
「さてどうだろう――こちら紫桜です。『シュヴィンデルト』、敵の損傷を教えて下さい」
<ダメージ、確認できません。砲撃力依然100%を確認>
「そんな、 確かに命中しました、無傷なんてことは」
「こちらのレーダーでも信管の作動を確認したわ。本当なの」
<『シュヴィンデルト』、原因解析中。完了。敵はなんらかの防御壁を展開させた模様>
「ええっ、いわゆるバリアってあれですかぁ?」
「‥‥‥ベタだけど」
「そうか、だから火力のみの合成妖魔なんですね。厄介だな」
「でも私のサーヴァント四騎の一点集中なら破れるかも。アリス交戦、いけ、やっちゃえ!」
 火・水・風・地の四元素属性の力を附与されたアリスのサーヴァントが、密集しつつ流星のように突進。
「クミノ機よりアリス、援護する‥‥‥そこね」
 アリスのタイミングにあわせ、クミノ機のミサイルが飛ぶ。
 サーヴァントとミサイルの命中が同時、同箇所に叩き込まれる。
 おそろしく精密な射撃技能。
「ピンポイント同時攻撃、成功ね」
「やったぁ、命中です! って、あれあれ?」
「どうしたの」
「弾き返されちゃいました、サーヴァントは無傷ですけど。ミサイルと四属性の一点突破なのに‥‥‥」
 クミノは反射的に自機の火器管制ディスプレイの文字に目を走らせる。
 [AASM NOT reaching TGT....ATK missed]――[小型空対空ミサイルはターゲットに到達セズ、攻撃失敗]
「かなり硬い防壁ね。クミノ機より指揮所、今の攻撃で得られたデータを要求する」
<こちら『シュヴィンデルト』。ビッグモース防壁展開時の分析完了>
「サキさん、前置きはいいから早く要点をお願いしま――おっと!」
 紫桜はさらに襲い来る攻撃を回避。
<こちらの攻撃が一定距離まで接近すると発動し、具現化瘴気の壁を展開しています。同時に可能な展開数不明>
 急に高月のだみ声が飛び込んでくる。
<被攻撃箇所にバリアをはる仕組みのようじゃ、常に全体が覆われておるわけではない>
「待ってください、なら‥‥‥どこかにそれを制御している箇所があるんじゃ」
 落ち着き払いつつも、まとわり付く誘導弾をひらひらと振り切る紫桜。
 イズナの機動性を限界まで使いこなしている。
「単純な全方位バリアじゃないからその可能性は高いわね、でもそこを狙ってまたガードされてしま――」
「なーんだ、全体をカバーしてないならよゆーじゃないですかっ」
 アリスの明るい声が無線でひびいた。
 同時に聞こえてくる――
「歌‥‥‥ですか? これは」
「前に見たわ。彼女の謳術、広域浄化攻撃」
 またたく黄金色の波紋が黒い大空に広がり、包み、ゆらしていく。
「澄んだ‥‥‥妙に安らぐ声ですね」
「こちらにとってはね」
 謳術は空間全体を、つまり敵体表面全てを、浄化する。
「なるほど、部分的にしか防壁をはれないアイツにアリスさんの歌を防ぐ手立てはない」
「見事な戦術。『シュヴィンデルト』、敵解析を」
<『ビッグモース』は防御壁展開中、しかし防ぎきれていない模様。体表面に浄化侵食を確認。進行中>
 さらにアリスのサーヴァントが散開しつつ襲い掛かる。
<アリス機の能力による『ビッグモース』へのダメージ確認。敵砲戦力依然100%>
「防壁なしでも本体も硬いのか。あまりこれ撃ちたくなかったけど‥‥‥仕方ないな」
 紫桜は自らの刀を弾頭に固定したミサイルを攻撃オプションから選択。
「『雷沙』、俺の刀を預ける‥‥‥いけっ!」
 紫桜機のはなったミサイルはワイヤーをひきながら直進。
 月光に刀身が淡くきらめいた刹那、刀は鍔もとまで敵に突き刺さっていた。
「やった!‥‥‥いや、ワイヤーを砲撃で切られちゃまずい、引き抜かなければ」
 イズナ、反転離脱、刀を引き抜く。紫桜はワイヤーを巻き取り可能な限り短くする。
「妙ね」
「どうしたんです? クミノさん」
「見てたの。いまのあなたの攻撃に、ヤツの防壁は動かなかった、ということは」
 クミノは急旋回、防壁に守られた敵部位を正面にとらえ、最大加速する。
「バリア制御箇所、最も破壊されたくない箇所‥‥‥そこね」
<『シュヴィンデルト』よりクミノ機、それ以上の接近は危険です>
「クミノさん、反転、反転してください! まさか‥‥‥体当たりでもやるってんですか!」
 紫桜の額を汗がつたう。
 応答は、ない。クミノは進路を変えない。
 無数の誘導弾とレーザーがニイツキを貫いた。
 墜ちていく。
「きゃあ、クミノさんっ!?」
「そんな‥‥‥嘘だろう。『シュヴィンデルト』、確認してください!」
 紫桜の声に悲壮な響きが混じりはじめている。
<こちら『シュヴィンデルト』。クミノ機ニイツキ、レーダーから消滅>
「く、くそ‥‥畜生!」
<待ってください、レーダーに新たな機影、味方機です、IFF(敵味方識別信号)応答あり。間違いありません>
「え、え? どういうことですかぁ!?」
 クミノは障気の翼をはばたかせ、召喚した新しい機体へ乗り移っていた。
 被弾の寸前でベイル・アウト(座席射出による脱出)していた。
 クミノの障壁は、受けた攻撃に比例する威力をもつ現存兵器――今回は防霊空軍機だが――全てを召喚できる。
 その範囲は40m、そのための一見無謀な急接近。
「自動帰還は入力しておいたけど、前の機体はこなごなみたいね。クミノ機ニイツキ、事象遮断ポリマー展開」
「その声は‥‥‥無事だったんですか」
「はぁ、てっきりやられちゃったかと。ヒヤヒヤしたなあ」
「ご心配どうも。それよりここを破壊する」
「ここ?」
「一番壊されたくない、場所よ」
 事象遮断により、防壁展開距離の裏側にクミノがまわったことに敵は気付かない。
 失速寸前まで速度をおとし旋回。
 バリア制御箇所を正面に捉える。
 確かにここだけ見かけが違うようだ。
「この空白の時間をもらうわ――搭載ミサイルオールロック。霊子機関砲レティクル、セミオートでロック――」
 ファイア。
 ガン残数、それぞれのミサイル到達残り距離数がみるみる減っていく。そしてゼロ。命中。
 黒煙とも血煙ともつかないものがクミノのキャノピー視界いっぱいに広がる。
 同時に衝撃、あらゆる種類の警告音。すぐにイジェクションレバーを引いた。
「べイル・アウト」
 破壊されるニイツキの黒煙から飛び出して来たのは、既に召喚し乗り移ったイズナだった。最大速で離脱。
<『シュヴィンデルト』、クミノ機の被撃墜を確認。搭乗者の脱出、新機体乗換えを同時に確認>
「贅沢というかなんというか‥‥‥」
「でも自分で召喚してるんですし。すごいすごい」
「どうも。クミノより各機、防壁展開の制御部位を破壊したと思う。攻撃してみて」
「アリス了解っ」
 灼炎のサーヴァントが彗星の軌跡を描き敵表面に到達。一瞬の後、業火が紅い舌をあげる。
「いけますよ。バリアの気配すらないです――うわっとっ。あぶないあぶない」
 危機を察知したのか、砲撃が一段と数を増している。
「成功みたいね」
「こちら紫桜。了解です。こうなれば鬱憤晴らし‥‥‥させてもらうぞ」
 弾かれたように加速。旋回。
「斬れてくれっ!」
 紫桜機の刀が突き立ったと思うや、豆腐を楊枝で裂くように走る。
「まだまだっ!」
 二回、三回、いや数え切れない。
 連続旋回。
 縦横無尽に紫桜のイズナ、白い影が走る。
 どす黒い血飛沫が飛び去ったあとにあがる。既に滝のごとく体液を流していた。
「やるじゃない」
「かなり突拍子もない武器で、不安だったんですけどね。弾頭が剣だなんて」
「‥‥‥察するわ」
「私も負けてられませんっ」
 アリスの謳術とサーヴァント、クミノのミサイルが敵砲門を的確に潰していく。
 が。
「なかなか弾幕が止んでくれないわね、そもそもの数が多い」
 クミノ機にせまる敵誘導弾。チャフをばらまき撹乱、回避。
「あの下方部分の呼吸器みたいなやつですが‥‥‥あれでエネルギーを大気中から摂取しているとか」
「ですねぇ、たしかそんな事いってたような。『シュヴィンデルト』へ、アリスです。聞こえてました?」
<『シュヴィンデルト』より各機、事前解析情報にエラーはありません>
「そうか、ということは」
「成るほどね。ちまちま潰すよりいい戦術だわ」
「なんですか二人して〜。私にも教えてくださいよ」
「あれだけの威力の連射には相当のエネルギーが必要なはず、てこと」
「あ、了解しましたっ。供給機関やっちゃいましょうっ」
 各機、ダイブ。
 全員の視界正面に、ちりばめられた地上の灯り。
 機首、真下へ。
「アリスより各機、相対距離500までこのまま降下、一斉に上昇してがっつーんと叩き込みでっ」
「そうね、一機ごとにいくより狙われにくい。離脱機動を忘れないで。乱流が予想される、機を保持」
「紫桜了解。距離、そろそろですか」
「各サーヴァント及びミサイルレディっ」
「この機体の最大火力は‥‥‥全弾発射?‥‥‥趣味丸出しの仕様ね。とにかくレディー」
「紫桜機、ワイヤー調節完了です。機動も見切った。よし、今!」
 全機、急速反転、上昇。ターゲットは真上。
 アフターバーナーがMAXで吼える。
 月の逆光に真っ黒なシルエットへ突進――。
 紫桜の斬撃、続いてクミノのイズナの全弾、さらにサーヴァント五騎。
 全速での離脱行動で三機が上へすり抜ける。
 刹那、爆音と断末魔が空気を揺らした。
「よし、やったか!?」
「砲撃も止んでますしやりましたよっ」
「おそらく。『シュヴィンデルト』確認を」
<こちら『シュヴィンデルト』。敵エネルギー反応、ありません。高度低下中。撃破確認。各機、編隊巡航へ>
「ほらほら、やっぱりっ」
「‥‥‥終わったわ。帰投する」
「そうですね。いや、ちょっと、高度低下だって? アレはどうなるんでしょう」
「アレ? どういう意味」
「死体とはいえあれだけのでかさですよ、おちる場所によってはマズイんじゃ。『シュヴィンデルト』、どうなんです」
 たしかに体液を風に散らしながら、巨体がゆっくりと落ちていく。
<こちら『シュヴィンデルト』。え、えーと‥‥‥高月司令より通達。「いかん、ワシとしたことがそれを忘れちょった」だそうです>
「な、なんなんだあのおじさん‥‥‥。いや呆れてる場合じゃない、でも俺の刀じゃ到底時間が」
「こっちはさっきの射撃で弾切れ。川か野原に落ちてくれるのを祈るしかないわ」
「くそ、ここまできて運だのみ、か」
 紫桜が唇を噛む。
 かすかに滲む血。
「いえいえっ! そーでもないですよっ」
 場違いなほど明るい声が割り込む。
「そうでもない? アリスさん、なにかあるんですか」
「お任せをっ。各サーヴァント、配置につきました。見ててくださいっ」
 おちてゆく影を包みながら、白銀の線がのびてゆく。
「もうちょいで完成ですっ。」
 それが五芒星形の光陣になり、そして一層まばゆく輝き始めた。
 かすかに響く謳術。
「最高度まで練りこみました。撃ちますっ」
 アリス機から黄金の光条が五芒星の中心に伸び達したと思われた瞬間、天に達しそうなほどの光の柱が夜空を照らした。
 それは何秒続いたろうか。一瞬だったのかもしれない。
 光陣のあった場所には跡形もない。
 彼女の各サーヴァントは舞い戻ってきていた。
「今のは。思わずみとれてしまったな、アリスさん、何を?」
「サーヴァント五騎の五芒陣で包囲しました。相互属性でそれぞれの力を増幅。謳術で練りにねった超高密度の浄化光でかっこよくトドメっ」
<『シュヴィンデルト』より各機へ。『ビッグモース』完全消滅確認しました。ミッションコンプリート。全機、R・T・B。(Return・To・Base)>
「クミノ機、了解。オートランディング誘導、おねがい」
 各機に同様の交信。
 帰投。


-AFTER R.T.B-

 無事着陸、ハンガーまで牽引された機を降りると、妙な様子だった。
 サキと高月が直立で出迎えている。
「オホン。よくぞやってくれた。ブレイヴ・ウイングの諸君。その戦功と勇気を讃えてここに‥‥‥」
「どうしたんですかぁ高月さん、礼服なんて着て。口調もなんかしゃちほこばってますよ?」
 アリスが首をかしげつつ聞く。
 高月は油まみれの整備服ではない。
 階級章など元からないが、普段サキが着ている正規服と同じメインカラー。
「なんかもう、ほとんど別人ね」
「ずばずば言いますねクミノさんも。でも確かに」
「あはは、なんか面白いですっ」
「あー、ゴホン。その戦功を‥‥‥ええい、ちょっと黙っとれぇ!! ワシだってむずがゆくてしょうがないんじゃ!」
「‥‥‥地がでた」
「せっかくかっこよく叙勲式をやろうと思ったのに台無しじゃわい。まあいい、これはこれでウチらしいかもしれん」
 そういって高月は手にしていた木箱をあけた。勲章らしきもの一式がはいっている。
「あー、正規勲章は私はちょっとっ‥‥‥」
 アリスが困ったような微笑でリボンを横に揺らす。
「むう、たしかに時空管理維持局所属で、まだ外部には秘密裏じゃったの。こりゃしょうがない。後の二人じゃな。本勲章とブレイヴ・ウイングの称号を与える」
「はあ。どうも」
「なんか大層だけど、まあいいわ。‥‥‥じゃ」
「では私も今日はこれでっ」
「俺も夕飯に遅れますし。お二方、今日はどうも」
「いえいえっ、またよろしく」
 見上げると空は澄んでいる。またたきが眩しいほどに。
 ふと予報は曇りだったはずと思いだす。
 なんとなく軽くなった気がする足取りで、帰途についた。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【1166/ササキビ・クミノ/ 女性 / 13歳 /殺し屋じゃない、殺し屋では断じてない。】
【6047/アリス・ルシファール/ 女性 / 13歳 / 時空管理維持局特殊執務官/魔操の奏者】
【5453 /櫻・紫桜(さくら・しおう)/ 男性 / 15歳 / 高校生】

【NPC3583/高月・泰蔵(たかつき・たいぞう)/男性/58歳/整備士兼指揮官】
【NPC3587/高月・サキ(たかつき・さき)/女性/16歳/航空管制オペレーター】
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■         ライター通信          ■
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 櫻・紫桜さま

またのご参加ありがとうございます。
まずは事前に3つ決定しておいた、敵設定のバラシなど。

・敵は完全砲戦形態。エネルギー補充は呼吸器兼飛行用の肺のような部分。
・無防備部分が多いため、近づく攻撃には選択的に超強力な防壁を展開する。全体はカバーできない。
・防壁制御の複雑さゆえ、それ専門の部位が存在する。そこを優先的に防御する。

というところでした。

なんとか戦闘機に乗りながら紫桜さまの能力を生かせないか、ということでミサイルの弾頭が刀というトンデモウェポンを考案してみましたが…如何だったでしょうか(笑)

尚、今回は用語アリの方と重複したためカッコつきで解説をはさんであります。

  あきしまいさむ