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<東京怪談・PCゲームノベル>


-ドッグファイト- 通常要撃戦闘


 周辺住民からは完全に廃工場、バブルの残骸とみなされているようなこの基地である。
 乱雑に散らばる工具類、隅の保存棚ではみ出しまくるもろもろの図面、書類。
 たまに庭のサッシ下に設けられる応接スペース以外、生活感はほとんどない。
 その筈、なのだが‥‥‥。
「こんにちはー。すぐ戸口にいい野花咲いてたので生けようかと思いまして。花瓶、ありますか?」
 その筈、をくつがえしたご本人の参上だ。
 食材らしき白い袋を抱えている。
 なにぶん裏小路にあるこの基地。
 近道をしようとして大通りにでられなくなった迷い人に道案内、などはたまにはある事だが、いかにも怪しげなそんな場所に再度来訪するものはない。
 ところが彼女は例外中の例外、丁寧に礼を述べた後「お礼代わりに」と掃除機をかけていった。
 しかもそれ以来、ハンガーや工場の整頓、掃除、洗濯なんでもござれ、しかもカンペキ。
 時折訪れては食事までも。またこれがうまい。
 内藤・祐子。
 メイド服を欠かさずまとう、世話焼き天使である。
「おお、祐子さんか、ようきたの。さて花瓶、花瓶‥‥‥。そんなもん、ウチにあったかの」
 思案顔の泰蔵の整備服は、祐子が時折くる前にくらべ別物のように油ヨゴレがない。
「私のポプリの空きビンでよければ」
 サキがことん、と青いリボンで飾られたそれを置く。
「ありがとうございます、いいですね、これ」
 てきぱきと花を生ける祐子。殺伐とした基地内に、涼やかな彩りが添えられる。
「今日は豚肉とキムチでロールキャベツなんてどうかなと思って買い込んできました〜。お台所借りてもいいですか?」
「む、かまわんよ」
「お二人ともしっかり食べてスタミナつけなきゃだめですよぉ、激務なんですから。ではでは、仕込んできますね」
 肩のレースをひらりとなびかせ祐子は奥へ入っていった。
「奇特といえば奇特な方じゃが、まったくもってありがたいことじゃな」
 泰蔵がシガリロの煙を上に吐きながら言う。
「戦略コンピュータは彼女がスパイである確率を0.000026パーセントとしています」
「まあ、ゼロと思っていいじゃろ」
 そのとき不意にメインスクリーンが点灯した。
 警報が響く。
「むっ」
 サキは既にいない。管制指揮所へ入ったのだろう。
「なんてこった! パイロットのいないこのときにくるとは。仕方ない、ここはワシが‥‥‥」
 泰蔵が立ち上がろうとしたそのときである。
 祐子が台所からひょこりと顔を出した。
「あのー、なんか鳴ってますけどどうかしました?」
「こちら管制指揮所『シュヴィンデルト』、高月サキ。対空警戒レーダー・甲が空間異常を探知。敵は浮遊型、降下型多数、飛行型妖類が指揮をとっているものと思われます。敵勢力、方位087方面から一斉に東京上空へ向けて接近中」
「そういう、ことじゃ」
「たいへんじゃないですかぁ。よーし。私、いってきます」
「‥‥‥む?」
 固まる泰蔵。
 しかし彼女は既に、とてとて出口へと駆け出している。
 手にはいつからか剣と預言書。
「お掃除は得意中の得意ですから。大丈夫ですよ〜」
「ちょ、ちょっと祐子さんよ。え? 掃除てなんじゃ‥‥‥?」
「空のお掃除お掃除。祐子、がんばりま〜すっ!」
 祐子はその剣につかまりふわりと浮いたと思うと、風を残してすっとんでいった。
 泰蔵呆然。
「こちら『シュヴィンデルト』。内藤・祐子機――いえ機ではなく本人そのもの、なのですが――生体レーダーで補足しました。速度、高度をあげつつ迎撃ラインに向かっています」
「サキ、通信確保に全力をあげるんじゃ。いくら飛行できても、生身では上空の低酸素に耐えられん。呼び戻さなくちゃならん」
 泰蔵は、祐子のメイド服がただの布ではないとは知らない。
「了解。‥‥‥ちょっと待ってください。祐子機――音速域を超えています! 速度マッハ1、1.2。更に加速中」
「なに、音速を超える際のソニックブームの衝撃に耐えたじゃと!? ‥‥‥こりゃ‥‥‥彼女をみくびっとったわい」
「通信、確保できそうです。生体レーダー照準波の指向性を祐子機に限定。相互デコード、サーチ開始」

 一方上空。
 疾空するディスロートと祐子。
 流石に空気は冷たい。
「わあ、キレイ‥‥‥」
 眼下の東京の夜景に思わず見とれる。
「こんなに綺麗なのに散らかしたりさせませんよ〜。あ、メガネ。風で飛ばされないように気をつけなきゃ」
 白いエプロンが風で白くなびき、星をまとったようにまたたく。
「あー、あれですかぁ、空のホコリさん」
 濁った球体、浮遊型の群が迫ってくる。
「埃ハタキの代わりってことで〜。これでも如何でしょう?」
 彼女は預言書を胸元にあてる。
 そこに異次元から現れた蒼い炎の火種があらわれたとみえた刹那。
「えいっ」
 空気さえ焼き尽くさん勢いで灼熱の大虎が飢えていたように跳ね、浮遊型に次々と襲い掛かる。
 虚空を這い、次々と喰らい、飲み込む。
 炭さえ残っていない。
「少しは綺麗になりました、うんうん」
<祐‥‥‥さん‥‥‥聞‥‥‥ますか、こちら『シュヴィンデルト』、聞こえたら応答を>
「あ、サキさんですか〜。よくきこえます。こっちは全然大丈夫です、メガネもしっかり健在です」
<とにかく無事でなによりじゃ>
<『シュヴィンデルト』は貴機の『モスキート』級、一斉撃破を確認しました。方位024、相対高度1500上方に降下型3体。誘導甲弾のロックオン態勢に入ろうとしています>
「降下型‥‥‥ですか?」
<白い目の、黒い虫型の妖魔が見えたらそれじゃ>
「あ、ゴキブリ退治ですかぁ」
<ご、ゴキブリ‥‥‥ともかく嬢ちゃんに、平たく言えば敵はミサイルの照準を合わせとる、回避じゃ!>
「はいっ。上にいるんですよね、それじゃ一旦上昇して――」
 上昇を始めたがおそかった。
 敵3体が放った誘導甲弾が祐子めがけて無数に寄ってくる。
<いかん、おそかったか!>
 否。
 そうではなかった。
「も〜。これ以上、ゴミふやさないでくださいってば」
 もう蜂の巣にされたと見えたその時。
 白閃。
 数え切れないほどの。
 祐子の周囲には、魔剣ディスロートの斬撃でみじん切りにされた敵ミサイルが風に散っているだけだ。
「うーん、包丁の練習にもならないです‥‥‥」
<祐子機、健在。全弾斬りおとした模様。更に高度をあげています。『ペスト』3体の上方へ加速中‥‥‥真上へ占位>
 真下にグロテスクな降下型甲虫の群がみえる。
 まだそこにあることを確かめるようにメガネのはしをちょっと上げて、狙いをつける。
「殺虫剤噴射――じゃなくて。霊気砲、発射〜」
 預言書をかざした白魚のような指先から。
 むしろ発射より噴射であっているほどのすさまじさ。
 猛烈な霊気砲の白銀の豪雨が、降下型妖虫に降り注ぐ。
 初撃で敵の腹に大穴があき、すぐにその円など判別できないほどの死片へと化す。
 体液を散らしながら3体は爆散した。
「空には冷蔵庫の下とかないですものね〜。うちでもこれだけ楽だといいなあ。ゴキさん退治」
<こちら、『シュヴィンデルト』。祐子機の降下型撃破確認。残存敵勢力は飛行妖類『ブラック・ビー』指揮型、1です>
「了解で〜す。さて、どこにいらっしゃるのでしょ」
 魔剣と預言書を構える。
「サキさん? いない、ですよ‥‥‥? 逃げちゃったんじゃないですか〜」
<依然、捕捉しています。方位036、いえ、方位101、さらに181――高機動型です、警戒を>
「181、ということは今。私に北極星みえてますから、え〜と」
<真後ろ、真後ろじゃ! 右旋回、違う違う振り向け――>
「きゃ!?」
 背中に衝撃。
<『シュヴィンデルト』より祐子機、ダメージを報告してください>
「ああ、びっくりしました。ダメージは、ないといいますか‥‥‥無傷です」
<『シュヴィンデルト』は貴機が直接攻撃を受けたのを確認しています。本当にダメージはありませんか?>
<無茶するな、死んだらなんもならんのじゃぞ!>
 彼女のメイド服が趣味だけではない――ある程度ならば発生させているフィールドでダメージを防げる――とまではサキも泰蔵も知らない。この心配は当然だろう。
「本当に大丈夫です。でもまだあきらめてないみたいですね」
 鋭く風を切る音が、自分の周りで間断なく鳴っている。
 次の機会を狙っているのだ。
「困っちゃいますねぇ‥‥‥。しょうがないので、奥の手いきま〜す」
 預言書の魔術を自分へ。
 淡い光が祐子を包む。呼応するように魔剣ディスロートがそれを受け入れる。
 預言書の力でさらに速度を上げるのだ。
「それっ」
 加速――。
 指揮所内でレーダーを見つめる泰蔵は息を呑んだ。
 祐子が音速を超えた時点で充分驚いたと思っていたが、まだ上がるとは。
<祐子機、マッハ1.7、いえマッハ2。瞬間速度は更に上昇中>
「よーし、見えましたっ。逃がさないですよ〜」
 いくら高機動型とはいえ今の彼女にはハエより遅くみえる。
「そこですね〜。‥‥‥つーかまえた!」
 白いレースの裾をはためかせながら。
 祐子は妖魔の背中の上で仁王立ちしていた。
「正面からでもつかまえられたんですけど〜。下着みられるのいやですので」
 その言葉が終わるが早いか、妖魔の背中にディスロートのみねうちを渾身の力をこめて叩きつける。
 いくら妖魔に翼があるとて彼女のバカ力でそれを受ければたまったものではない。
 真下へ落ちていく妖魔を祐子が流星のごとく追う。
 剣を振っている間は自分も落ちるのだが、相手も真下なら関係ない――魔剣をふりかぶる。
「て〜い。それっ。それそれそれぇっ!」
 ディスロートが何度もうなる。
 まだ、まだ足りない、そう言うかのように。
 銀光の嵐。その一閃、一閃が的確に、悪魔的なほど無慈悲に切り刻む。
「仕上げ、で〜す♪」
 思い切り突き立てた魔剣をひきぬいた。
 さらに魔術の炎の舌が妖魔を舐め尽す――
 断末魔さえ上げさせてもらえず、敵は消し炭と化し‥‥‥風に吹かれて消えた。


-After R.T.B-

「どうもご心配おかけしまして。お掃除おわりました」
「いやーようやったようやった! 全くたすかった。一時はどうなるかと思ったがの」
 サキの誘導で無事帰還した祐子。
「晴れておまえさんも空の勇士っちゅうわけじゃ」
「誘導、助かりました。ありがとうございます」
 目で頷くような仕草でサキは応える。
「あとな、傭兵じゃからな、一応給料もだすぞ」
 出されたのは、ぱっと見けっこう分厚い封筒だ。
「そんなつもりじゃなかったんですけれど‥‥‥」
「よいよい。服でも買うか、家主に美味い食材でも買いこんでやれぃ」
「ではありがたく頂きます。‥‥‥あ!」
「む? どうしたんじゃい」
「ロールキャベツの仕込み、途中でした。流石に‥‥‥もう焦げちゃってますね。ごめんなさい」
「火。とめときました」
 サキがぽそりといった。
「がはは、今日は男の出る幕はまったくなかったのう」
「サキさんありがとうございます。では、夕餉の準備、準備」
 激戦の後と思えぬ団欒。
 談笑。
「いやーくったくった。相変わらずじゃが美味い美味い」
「そういわれると作り甲斐があります――あ、私そろそろお暇しなきゃ。」
「おおそうじゃった、つい引き止めてすまんかった、また頼む」
 出口近くでサキに一片の紙片を渡された。
「私のブレンドハーブティーのスペシャルレシピ。家主さんのお口にあえば」
 それだけいってサキはすたすた戻っていく。彼女なりの照れ隠しか。
 帰途へ。
 遠く見える高層ビルの灯り。
 家庭の賑わい。
 そのいくらかを私は守っていた。
 居候先の灯りもその中に含まれているかも。
 なかなか悪くない気分。そう思いつつ空をもう一度仰いでみる。
 澄んでいる。星々の、ひとつひとつのまたたき。
 それが自分へのねぎらいのように、瞳に映った。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【3670/内藤・祐子(ないとう・ゆうこ)/ 女性 / 22歳 / 迷子の預言者】

【NPC3583/高月・泰蔵(たかつき・たいぞう)/男性/58歳/整備士兼指揮官】
【NPC3587/高月・サキ(たかつき・さき)/女性/16歳/航空管制オペレーター】
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■         ライター通信          ■
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おはつにお目にかかります。
あきしまいさむと申します、よろしくお願いいたします。
 
何故、待機期間を待たず個別作成したかという裏話(?)を‥‥。
 
 漆黒の空、魔剣をたずさえて飛ぶメイド服の風の妖精。
 サイコーにクールです…。
 PCさまも魅力的で、カッコよすぎてツボはいってしまいました(笑)
 執筆し出すと熱中して止まりませんでした。
「プレイングも素晴らしいし、これは個別でプレイング内容全てを反映させて書きたい!」
 と思ってしまった次第でございます。


それではPL様、内藤・祐子様ともどものご健勝を祈りつつ。
 
 あきしまいさむ 拝