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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


[ さんしたくんといっしょ。 ]


「さんしたくん、さんしたくん!?」
 月刊アトラス編集部。その編集長席から一人の人物を呼ぶ声。
「はっ、はひぃっ!」
 それから十秒も経たずして、呼ばれた人物三下忠雄は辺りの書類をばら撒き椅子を倒し、デスクの前に現れた。
「……暫く留守にするわ」
「は、はひぃ? え、もしかして今日はもう帰って――」
 嬉々として、編集長である碇麗香の言葉に返答するが、忠雄の言葉は途中で遮られる。
「二三日空けるけど、その間さんしたくんには一杯やっておいて貰うことがあるわ。明日からこれ、頼むわね」
 そう、珍しく笑みを浮かべた麗香から手渡された一枚の紙。サイズはA4サイズが二枚。なにやらそこには膨大な量のスケジュールが書かれていた。どうやらそれを、麗香が留守の間に済ませて置けと言うことらしい。
「ぇっ……こ、こんなの…むっ――――」
「私が帰るまでに、しっかり終わらせておくのよ? 頼りにしてないけど一応頼りにしてるから」
 忠雄の『無理』の言葉は麗香の表情で飲み込まれ。
「はっ、はひぃぃいいい」
「素直で宜しい。それじゃあ行って来るわ」
「い…ってらっしゃ、い……」
 麗香の背を見送り。もう一度紙に目を落とし……同時に忠雄は肩を落とした。


    □□□


 そんなやり取りがあった日から一夜明け――…‥

 その日はとても良く晴れた一日だった。青い空にまだ快晴と言えるほどに散らばっている白い雲。
 ――――なのに。
「この状況は……一体?」
 月刊アトラス編集部を訪れた彼女は、思わずこの状況を目の前に首を傾げた。
 編集部の扉を開けた瞬間見た光景は部屋中の人間が殺気立っている、もしくは慌てふためいていると言うべきか。状況は全く違うのだが、要するに普段と違うという事だけは確かだった。
「シュラインさぁああああん!!!?」
 そんな中彼女、シュラインの姿を見つけ真っ先に飛んできたのが三下忠雄だった。一体何時からこの状況なのか、見えない眼鏡の向こう、なんとなく目を赤く腫らし、涙でぐしゃぐしゃになった顔にシュラインは思わずティッシュを差し出す。
「っ、三下くん? 一体どうしたの、この状況は……はい、鼻かんで」
 ぶびーと一気に鼻をかむと少しだけ落ち着いたのか、忠雄はティッシュを近くにあったゴミ箱へと捨て、ゆっくりとシュラインを見た。
「三下く…ん?」
「碇さんが、碇さんがぁああっ、こ…コレを僕に」
 しかし、再び何かに火の付いてしまった忠雄の目からは、じわりと涙が溢れ出している。差し出された二枚の紙をシュラインは見た。
「えっと『さんしたくん用スケジュール…自分の仕事の合間にやってね』?」
「碇さん、出掛けるとかで…皆さんにスケジュールを渡していったみたいで……でも僕のだけ異様に多いんですぅ」
 確かに、そこに書かれてある仕事の量は決して一人でこなせるようなものではない。
「……麗香さん、協力者前提に日程組んでそう。それにこの取材内容……花粉症の症状のまま亡くなってるか、花粉の幽霊でもいない限り幽霊は発病しないのではって気がしなくも――」
 思わずポツリポツリ突っ込みを入れつつ、目の前の忠雄には「はい泣かない、泣かないで?」と優しく諭す。
「今のところ一人手伝ってくれるって…でも僕不安で……」
 ただどうにも浮かべてしまった苦笑い。そんなシュラインの表情を見て顔を曇らせポツリ呟いた忠雄に「大丈夫よ」と改めて声をかけ、もう一度スケジュールに目を落とした。
 一日目・二日目・三日目と、そこには濃密なスケジュールが書かれているが、人手があれば上手く分担できそうな気もする。
「とりあえず、今のところはもう一人誰か手伝ってくれる人がいるのかしら?」
「会議室に。僕はもう少し助っ人を探してくるので……」
 そう言いあっという間に遠ざかってゆく忠雄の背を見送り、シュラインはゆっくりと会議室へ向かった。


    □□□


 会議室には一度会ったことのある男性が居た。その斜め前に一度は座るものの、シンとした会議室はあまりにも不気味なもので。シュラインは立ち上がるとお茶の準備を始めた。
 コトリとまずは二人分の茶を用意すると、やがてもう一人見知った、今度は女性が入ってくる。彼女にもお茶を出すと、最後に忠雄とやはりもう一人の男性が現れた。
 最後に入ってきた彼は、どうやら何も事情を説明されていなかったらしく、彼の兄と忠雄から説明を受けている。そんな彼にも茶を出せばあっという間にそれは飲み干され、湯飲みが机に置かれた。
「そういうことね……あの編集長らしいや」
 そうして僅かに忠雄から顔を逸らすと、苦笑いを浮かべる。しかし、次に忠雄を見た彼の顔から苦笑いなど消え失せていた。
「わーったよ、俺も手伝う」
「ありがとうございますぅううっ」
 そして忠雄の歓喜の声の後、ようやくこの場が落ち着いたようで。
「――えっと、これでお手伝いが揃ったって事かしらね?」
 そう切り出したのはシュライン・エマ。
「そういうことになりますね」
 続いたのは志羽・武流(しば・たける)。
「四人で手伝いか。まぁ、上手く分担してやるしかないよな」
 双子の兄の手により巻き込まれた志羽・翔流(しば・かける)。
「遊馬、何やれば良いデスか? 早速やるデスよ!」
 そう意気込むは神代・遊馬(かみしろ・あすま)。
「皆さん、宜しくお願いしますぅ!! あ、これが予定表です……一応僕の頼まれ物なので、自分の仕事の合間には絶対お手伝いしますね……」
 四人が口々に言えば、最後に未だ立ったままの忠雄が机の上にA4用紙を二枚置いた。
「なんだこれ?」
「三下くんが碇さんから指示されたものね」
「と、言うことは……これを分担するデスね!」
 早速翔流に遊馬が身を乗り出し用紙を覗き込む。そこには――。

『さんしたくん用スケジュール(09:00〜17:00)※自分の仕事の合間にやってね。
 一日目:掃除(編集部内全て)要らない書類のシュレッダーかけ・ごみ捨て
     重要書類を郵便局へ(速達)・隣駅スーパーまで買出し
 二日目:特集記事の校正(32P分)
     次回特集の取材…有名花見スポットに現れる霊特集。
             突撃インタビュー!幽霊に花粉症はあるのか。
             写真現像まで終了のこと。
 三日目:定時にFAX送信・家電店へ買出し(セール品のため売り切れ注意)』

 と、書かれている。なんとも無茶なもので、コレを見れば忠雄が縋ってきた理由も分かる気がした。
「――では、やはり得手不得手もあると思うので……この三日間で各日、お手伝いできると思う所をそれぞれ出し合いましょう」
 武流の言葉にシュラインが続く。
「まずは今日。これは大まかに室内と屋外に別れるわね」
 挙手の結果、綺麗に意見は分かれ。室内で主に掃除担当が武流に遊馬、外へのお使いがシュラインと翔流となった。
 因みにと、忠雄が口にした彼自身の仕事は次々回特集記事のネタ出し――所謂意見収集と、校正が十六ページ。
「二日目はデスクワークか取材って感じだな」
 翔流の言葉の後、デスクワークはシュラインと武流が、取材は翔流と遊馬と決まる。
 忠雄の仕事は次回記事の執筆。六ページ。
「最終日のお仕事は事務かお買い物デスね」
 しかしこの日、遊馬は仕事のため欠席、シュラインは午後には事務所に戻るということで……事務は武流が、買い物は翔流と決まった。
 最終日、忠雄の予定はどうやら桂と取材(早朝取材・行き先不明)との事。兎にも角にも無事に終われば良いと願うばかりだ。
 取りあえず予定が決まったところで全員席を立ち会議室を出る。早速お手伝い開始――。


    □□□


 会議室を出る際、忠雄から二人宛のメモと沢山の封筒となにやらお金が入っているらしき茶封筒を渡された。
 メモには隣駅の巨大スーパーで買うべき品物が、恐ろしくずらりと並んでいる。とても一人で買って返ってこれる量ではないと思う。
「んじゃぁ、俺は早速自転車で郵便局行くつもりだけど……スーパーで落ち合うか?」
 同じく外へと出る翔流の言葉に、シュラインは一度出口に背を向ける。
「そうね。それじゃ、私は車借りられるか聞いてからスーパーに直行するから、郵便物は頼むわよ」
「りょーかい!」
 沢山の封筒と、郵便料金分のお札を数枚封筒から引き抜きポケットに捻りこむと、翔流は先に編集部を出ていった。
「さて、と。三下くん?」
 翔流が猛ダッシュで編集部を出て行ったのを見送ると、シュラインはその辺りにいる筈の忠雄の名を呼ぶ。ひょっこり顔を見せた忠雄は、どうやらメモを片手に編集部員から次々回特集記事の意見を集めていたらしい。
「可能だったら会社の車を借りたいのだけど、大丈夫かしら? 後、もし家電セールのチラシがあったら見せてもらえる?」
「車なら碇さんの机の上にキーがある筈です。チラシは此処に」
 言いながら忠雄は、上着のポケットからチラシを出す。それを受け取り礼を言うと、忠雄は戻っていった。
「さてと、麗香さんの机に……」
 チラシを眺めつつ麗香のデスクへ向かうと、確かに車のキーがある。しかし無用心なものだ。
 キーに書かれていた番号を頼りに駐車場へ向かい、その途中でチラシに大きく赤い丸がいくつも付けられているのを見た。こんなものを揃える必要があるのかとも思うのだが、何故か全てが三日連続セールの最終日のみの商品で、挙句限定数がある。こうなるともう、後は翔流に任せるしかないだろうとチラシを元通り小さく折りたたみ、見つけた車に乗り込み隣駅へと向かった。

「さてと……」
 屋上にある大型駐車場へと車を入れると、まずは一階まで降りてスーパーの構造をチェック。一階は食料品売り場で、野菜から生もの、冷凍食品や惣菜まで様々な物を置いている。二階に上がるとお菓子や日用品や酒類等など。
 早速ショッピングカートを押し、籠を一つカートの下に置くと、メモを片手に店内へ。
「まずは夜食用のカップ麺にインスタントコーヒーと茶葉…来客用の茶葉、コーヒー豆にフィルター、スティックシュガーに――なんだかもうここぞとばかりのまとめ買いよね」
 主に編集部員の夜食のまとめ買い(流石にこの辺りは食べた本人から料金を徴収するだろうが)に、来客用のお持て成し品といったところか。広い店内の頭上にある案内も頼りに、効率よく回っていくがどうも来客用の高級茶葉が見当たらない。挙句、既にカップ麺の時点でかさばってしょうがない。
「上での買い物も考えると籠、もう一つ必要だったかしら?」
 丁度そう考えている時だった。
「悪い、今着いた!」
 籠を一つ持った翔流がシュラインの隣に立つ。どうやら全速力で来たようで、その場で呼吸を整えると「残りの買い物は?」と聞いてきた。
「後は二階の買い物と……お客様用の良い茶葉が見当たらないのよね」
「茶葉ぁ? どれだ?」
 メモを覗き込めば、シュラインの指し示す茶葉の名前の横に※1と印があるのを見つけた。まさか補足でもあるのかとメモを裏返せば、案の定それはある。
「――『※1無い場合は更に隣駅の○×茶屋に必ずあるからお願いね』……だって、よ」
「…麗香さんっ……」
 思わず通路の真ん中、二人メモに目を落としたまま立ち尽くす。
「…とりあえず……残りの買い物済ませて、全部車に乗っけたら俺が行くわ。それでいいか?」
「悪いわね…じゃ、二階に」
 二階での買い物は蛍光灯――清掃業者が入れないような編集部状況故、取替えすら編集部員任せの職場…――を始めとし、電池や文房具、紙なのだが……。
「なんか、メーカー名とかすっげー指定しまくりだな……」
 茶葉と同じく、※印で裏にこのメーカーの何が幾つと事細かに書かれているのを見ると正直頭が痛い。
「でも後もう少しで終わりよ」
 籠の中に入れた物には斜線を入れながら、シュラインは自分にも言い聞かせるよう静かに言った……。

 レジ清算後、翔流に駐車場まで荷物の運びを手伝ってもらうと、車に入り一息吐く。流石にこの買い物は疲れた。男手があったのが本当に救いだと思う程に。それ故、これを編集部まで上げることを考えると少しばかり気が滅入る。
 結局駐車場も混雑してきた為、五分だけ休むと安全運転で編集部に戻ることにした。
 そして不安だった荷物の積み下ろしから運び出しは、途中忠雄が気づき手伝ってくれた。それでも編集部と駐車場を何往復かし。ようやく椅子で休める頃、時刻は夕方近かった。


 ――この日の結果。
  忠雄 / 自らの仕事終了+疲労。
  シュライン / 買出し終了+軽疲労。
  武流 / 現在続行中+疲労大。
  翔流 / 郵便局+買出し終了+掠り傷+疲労。
  遊馬 / 掃除・ゴミ出し終了+軽疲労。


    □□□


 二日目――。
 編集部を訪れた翔流に遊馬、シュラインの三人が白王社の入り口で出くわした。
 揃って編集部に向かうと、そこには昨日までとは違う光景がある。
「なんだ…こりゃぁ」
「ぴかぴかデスねぇ」
「これはワックス、かしら?」
 床は光っている上に照明が明るさを増している気もする。人はまだまばらで、忠雄が自分の机で眠っているのは見えた。
「まさかにーちゃん……」
 掃除担当だった武流が今この場には居らず、けれど同じく掃除担当の遊馬が隣で驚いている。この状況が表している事など多くは無いと翔流は思った。
「――……おはよう、ございます」
「皆さん、今日も来てくれたんですね〜、有難うございますぅ!」
 やがて仮眠室の方から武流が、起き上がった忠雄が三人の元へ現れ。お手伝い二日目が始まる。

 そして、昨日の組み合わせと変わり。こちらはシュラインと武流の二人。いわゆる頭脳派コンビといったところか。
 特集記事の校正という事で、忠雄からは記事六十四枚と赤ペンを二本渡された。
「では、宜しくお願いします」
 そうして立ち去ろうとする忠雄の肩をシュラインが優しく叩き。
「……ちょっと三下くん?」
「……倍、ありますよね?」
 武流が冷ややかに言った。
「うああぁあん、だって今朝碇さんから連絡があったんですよぉ……」
 忠雄の言うことには、編集部員の一人が麗香に引き抜かれ、その人物がやるべきだった校正分が丸々忠雄に流されてきたらしい。
「大丈夫よ、三下くん。二人居るのだから」
「そうですよ。一人でコレを全部ではなく、二人で分ければ元の量を一人で、になりますから。増えたとは思いませんよ」
「ううっ……すみません、それじゃぁお願いしますっ」
 そう言い、忠雄は一応にと校正記号のプリントされた紙までくれた。
 しかし、生憎机に空きが無い為、会議室で作業をしてくださいとまで言われ、シュラインと武流は一式を持ち会議室へと向かう。

 ノルマは三十二枚。文字が多いと踏んでいたが、意外にも写真やイラストが多く入っている記事らしい。
「うーん、これなら終わるかしら?」
 眼鏡をかけ赤ペンを持つと、早速作業に取り掛かった。
 校正記事の内容はやはり怪奇現象から、とりあえず霊が関わっているらしき物まで。流石に専門用語や漢字、カタカナが入り混じっている。
 まずは誰が見ても判るような誤字脱字から、反転文字や行の入れ替え。揃えやフォントの変更まで。目に付くものは次々と赤ペンでチェックしていく。
 が、丁度波に乗り始めた十時頃。シュラインは時計を確認すると赤ペンを置いた。
「……ちょっと一休み…」
 武流は一心不乱に校正を続けているようだが、シュラインは一度席を立つとお茶を淹れ一息つく。
 そのまま一時間、手も眼も休ませ。休憩は後に昼食時と午後三時から一時間ずつとるが、昼食をどうしようか考えていた頃には、忠雄から店屋物の差し入れがあった。

 休憩が多かったものの――否、そのお陰か。作業は思いの外捗り、夕刻頃には既に再確認も一応終了。
 眼鏡を外し大きく一息吐いた時。
「お、終わりました……」
 同じく眼鏡を外し、少しくらくらな様子で武流がペンを置いていた。
「私の方も、大体終わりかしら。それにしても、毎度こんなに校正箇所あったら大変よね……」
 まさかとは思うが、結局二人分を集めパラパラと見る限り殆どが真っ赤に染まっている。おまけに武流の方は写真等は滅多に無く、文字数がとんでもない……。
 揃って会議室を出ると、忠雄は机に突っ伏していた。少し酷だとは思うが揺さぶり起こす。
「――…んー……?」
 顔を上げた忠雄は二人の姿を見るなり、掛けっぱなしでずれていた眼鏡を元に戻し時計を見る。
「――――!?」
「三下くん…終わったわよ?」
「終わりました……」
 忠雄の顔がどうも蒼白に見えるがそれから少しした頃、午後五時のチャイムが鳴り響き。業務終了時間を告げていた。


 ――この日の結果。
  忠雄 / 仕事終わらず+疲労無し。
  シュライン / 校正終了+軽疲労。
  武流 / 校正終了+疲労大。
  翔流 / 取材・写真現像終了+疲労大。
  遊馬 / 取材(お花見)お手伝い(満喫)+疲労大。


    □□□


 最終日。遊馬は休みで翔流は家電店へ直行、忠雄も早朝から取材。翔流がFAX流しを永遠としている朝。
 シュラインは忠雄の机の上で、不穏なオーラを放つ一枚のメモを見つけた。

『シュライン エマさま
  ごめんなさい。終わりませんでした…。 三下忠雄』

 昨日眠っていた結果だろう……。
「他の仕事は終わってるし、お昼頃まで少しお手伝いしていってあげよっと」
 そう言い椅子を引くと、シュラインは忠雄の席へと座った。
 どうやら一ページは終わっていたようで、残りの五ページも大まかな構成は決まっているらしく、後は実際に文章に起こすといったところ。写真配置等も考えながら、取材メモも参考にする。
 白紙だった五ページもゆっくりと埋まってはいくが、やがて時刻は正午を過ぎた。
「三下くん……早朝から取材って事だったけど、何時戻ってくるのかしら?」
 そろそろ戻ろうかと考え、椅子から立ち上がる。忠雄が戻っていれば声をかけていこうかとも思ったが、まだ帰って来ている気配は無い。
「ともあれ、一応マイペース作業だったけど、人数もいたし上手く働き手が分散して、お手伝い無事終わったみたいだし……良かったわ」
 最後にメモ用紙にサラリと一言残し。シュラインは編集部を後にした。

『三下くんへ
  全部は終われなかったけれど、少し終わらせておいたからあと少し頑張ってね! シュライン エマより』

 しかしその数時間後……シュラインは麗香の電話により再び編集部に呼び出されることとなる。


 その日の夜、差し入れに来た遊馬と、麗香に呼ばれたシュラインも揃い。計六名が会議室に居た。
「そんな期待してなかったけれど……やっぱりさんしたくんの人望は頼りになるわ。皆、有難う」
 にっこり微笑んで見せた麗香に、全員の表情が内心では引き攣る。
 とは言え、忠雄の個人的な仕事を残し、麗香から出されていたノルマは無事達成。お手伝いは無事成功と言える。
「さて、お礼と言っては何だけどお土産買って来たら食べて頂戴」
「あ、遊馬からも差し入れあるデスよ」
「いっただきます!」
「戴きます」
「頂きます。それにしても麗香さん、今回は自ら取材?」
 不意に問うシュラインの言葉に、皆の視線が麗香へと向いた。
「――? さんしたくんに言っていかなかった? 慰安旅行だって。だからスケジュールも、別に急いでやる必要も無かったし。でも仕事は速いに越した事は無いし、明日からスムーズに仕事できそうだから良いけど」

「「「「…………」」」」

 瞬間、辺りの空気が凍った事を誰もが察する。


「聞いて、ないですよぉ……」


 最後に響くは忠雄の半泣き声だった――――。



 ――最終結果。
  忠雄 / 仕事達成率70%(フォロー有+10%)+疲労大。
  シュライン / 仕事達成率95%(後にメーカーが違うとケチを付けられる+若干の校正ミス)+軽疲労。
  武流 / 仕事達成率80%(後に校正忘れ箇所、ミスが出てくる)+疲労大(行動不能)。
  翔流 / 仕事達成率80%(後にメーカーが違うとケチを付けられる+写真の半分が没となる)+疲労大。
  遊馬 / 仕事達成率85%(後に写真の半分が没となる)+疲労。


 and.. 麗香の満足度 / 95%――「みんな、ご苦労様」


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
 [0086/シュライン エマ/女性/26歳/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員]
 [2459/  志羽武流  /男性/18歳/大学生(薬学部)]
 [2951/  志羽翔流  /男性/18歳/高校生大道芸人]
 [5330/  神代遊馬  /女性/20歳/甘味処「桜や」店員]

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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、いつもありがとうございます、若しくは初めまして。亀ライターの李月です。
 なんだかんだで今年初の依頼、一年ぶりのアトラスとなりました。しかしながら、お届けが少々遅くなってしまった方も居て申し訳ありません。
 今回は三下くんのお手伝い、有難うございました。三日を通し見事二手に別れ、皆さん効率良くお手伝いすることが出来ました。平均達成率(のような数値)は84%でした。お疲れ様です。
 相変わらずぽつぽつと個別部分が存在しています。他の方のも見てみると実は色々な事が起こっている、お時間や興味がありましたらどうぞ。
 再三の注意を払っていますが、誤字脱字などありましたらすみません。その他何か問題ありましたらご連絡ください。

【シュライン エマさま】
 三下くんのお手伝い、どうも有り難うございました! 今回は見事マイペースながらも他のPCさんとのバランスが良くお手伝い終了できました。
 説明文がやたら多めではありましたが、トラブルも続出しオチ付でしたが、お手伝いお楽しみいただけてれば幸いです。結果的には終わらせていた方が麗香の機嫌が良かったので…。

 それでは又のご縁がありましたら…‥
 李月蒼