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<東京怪談・PCゲームノベル>


All seasons 【 小さな訪問者 】



◇ 赤ちゃん? ◇


 夢幻館(むげんかん)の中を走りながら、片桐 もな(かたぎり・−)は妙な感覚に襲われていた。
 そう、言うなれば、普通ならばそこにいるはずのない存在がいるような・・・。
 人はそれをシックス・センスと言うのだが、生憎もなにはそんな難しい単語を理解するだけの能力は備わっていなかった。
 『なんかあるかも〜♪』と思いながらとてとてと廊下を走っていると、ふっと視線の先に小さな水色の物体を見つけ、もなは足を止めた。
 こんなところにふわふわの布・・・?
 そう思い見詰めていると、それは突然もそもそと動き出し―――
 「な・・・なっ・・・!!なにあれぇっ!!」
 驚きと言うよりは好奇心が勝ったのか、もなは走り寄るとその布を持ち上げ・・・
 「はれ?赤ちゃん・・・??」
 「う〜・・・あ〜・・・??」
 目と目が合い、もなは首を傾げた。
 どうしてこんなところに赤ん坊がいるのだろうか?
 どこかから入って来てしまったのだろうか?
 とは言え、如何せんこの館に存在する扉の数は数え切れないほどだ。
 挙句、扉がどこに繋がっているのかを知るのはここの館の支配人である沖坂 奏都(おきさか・かなと)ただ1人。
 「奏都ちゃんに訊けば分かるかなぁ・・・。」
 そう言いつつ、抱っこした赤ん坊の顔を覗き込む。
 「えーっとね、あたし、片桐 もなって言うの!貴方は?」
 「うー??」
 可愛らしく小首を傾げられ・・・しばらく考えた後で、月見里 煌は小さく言葉を紡いだ。
 「きあ・・・」
 「きあ?きあちゃんって言うの??」
 “ら”の発音が正しく出来なかったために“あ”と言う音に聞こえてしまう。
 もなはそのまま“きら”を“きあ”と間違えたまま、長く続く廊下を歩き、階下のホールへと入って行くのだった。


◆ 何処の子? ◆


 ここの支配人である奏都は、もなに抱かれながらやってきた赤ん坊を見て暫く凍りついた。
 頭の中では旋律の“もしも”がグルグルと駆け巡っていたのだ。
 誰かの隠し子?それとも、誰かが誘拐してきたのか・・・?
 どちらにせよ、奏都の頭を悩ませるのは必死である。
 しかしそんな考えも、煌が奏都の事を『ぱぁぱ』と呼んだ事によって全て吹き飛んだ。
 「う・・・うえぇぇぇぇぇ〜〜〜〜っ!?!?奏都ちゃんの子だったのぉぉぉ〜〜〜!?」
 「落ち着いてくださいもなさんっ!そんなわけないでしょうっ!」
 「で・・・でも、年齢的にも合うよぉ〜??」
 外見こそは高校生にしか見えない奏都だったが、実年齢は立派に成人している。
 その年齢でこのくらいの子供が居たとしても、なんら違和感はないわけであって・・・
 「でも違いますっ!ちょっともなさん、きあ君をこっちに・・・」
 もなが間違えたまま奏都に名前を伝えたため、奏都までもが“きあ”と呼び、もなの手から煌を受け取った。
 着ている洋服をよく見・・・はたと、奏都が顔を上げた。
 相変わらず煌は奏都の事を「ぱぁぱ」と呼んでキャッキャと抱きついており―――
 「もなさん・・・“きあ”君ではなく“きら”君ですよ・・・」
 そう言って盛大な溜息をついた。
 「ふえぇ〜!?だって“きあ”って言ってたよぉ〜??」
 「きっと“ら”の発音がきちんと出来なかっただけですよ・・・。」
 「う〜??」
 「きら君・・・ですよね?」
 「うっ・・・あ〜・・・きあ・・・」
 「ほら!きあって・・・」
 「“きら”君ですよね?」
 「きあ・・・きあ・・・あー・・・きら・・・」
 “きら”と発音できた煌の頭を優しく撫ぜると、もなにベビー服の裾を指差した。
 小さなタグに書かれた名前は―――
 「つきみさと・・・?・・・君?」
 「もなさん、きら君って言ってるじゃないですか・・・。」
 「ふえぇぇぇ〜!?コレ、きらって読むのぉ〜??」
 驚いた様子のもなに、盛大な溜息をつく。
 「それと“つきみさと”ではなく“やまなし”ですよ。月見里 煌君?」
 「うー・・・あっ!」
 そうだと言うようにニコニコと微笑む煌。
 「それにしても、どこから来てしまったのでしょうか・・・」
 「んー・・・扉からじゃないのぉ??」
 「まさか。こんな小さな子が扉を開けられるはずないですよ。」
 奏都が考え込むように椅子に座り・・・煌がその手から這いずり出した。
 そして―――
 「あぁぁぁぁっ!!!それは食べ物じゃないよぉぉぉぉぉ〜〜〜〜っ!!!」
 もなが見詰める先、床に落ちていた小さなボルトを見つけた煌がそのまま口の中へ―――
 ビクン!と驚いたように肩を上下させると、うりゅっと瞳を潤ます。
 あまりの声の大きさに驚いてしまったようだ。
 「う・・・あぁぁぁぁぁぁあ〜〜〜っ!!!!」
 もなの叫び声とどちらが大きいか・・・
 奏都は慌てて煌を抱き上げると、ポンポンと背を叩いた。
 「大丈夫ですからね?泣き止んでください・・・ね??」
 「ふえっと・・・えーっと・・・あ・・・あたしのせいだよね??ごめんね??煌ちゃん、ごめんね??」
 おろおろとするもなに、大丈夫だと告げておき、如何考えても子守に向かないもなをその場に残し、奏都はホールから出た。


◇ ワンパク盛り? ◇


 「ぱぁぱ〜!」
 「なんですか?」
 夢幻館を彷徨い続けて数十分。
 最初の頃こそ「違う」と言い続けていたのだが・・・
 こうも無邪気にパパと言われてしまうと、どうして良いのか分からない。
 とりあえず、一応返事をする事にした奏都。
 それにしても本当に困った・・・。
 この子はどこから入って来てしまったのだろうか?今頃は親御さんが心配しているのではないだろうか・・・。
 グルグルと考えながら歩き・・・ふっと、視界の端に見慣れた姿を見つけた。
 「冬弥さん・・・!」
 「あ?奏都??」
 目を見張るほどの美男子・・・
 「うーあ〜!ぱぁぱぁ〜!」
 煌がそう言って、奏都にしがみ付いていた手を、今度は梶原 冬弥(かじわら・とうや)の方へと向け―――
 「おい、一応言っておくが・・・」
 「知ってます。俺もついさっきまで“ぱぁぱ”って言われてましたから・・・」
 先に続く言葉を察知した奏都がそう言って溜息をつき、煌を冬弥へと手渡す。
 「・・・で?なんで赤ん坊がこんなところに?」
 「俺もわからないんです。もなさんが抱っこして来て・・・」
 「あいつに子守が出来るのか?」
 「無理だと思ったので、引き剥がしてきました。」
 更に、先ほど大声を出して泣かせた事を報告し・・・二人で溜息をつく。
 「思うに、煌君は不思議な能力でもあるのでは・・・と。」
 「不思議な能力??」
 「この館に入るためには、必ずどこかしらの扉を開けなければなりません。」
 「ま、この身長なら無理だな。んで?どうすりゃ帰るんだ?」
 「俺にもわかりません。」
 キッパリと言い切った奏都に溜息をつき・・・煌がバタバタと冬弥の腕の中で暴れ出した。
 とりあえず下ろしてあげ―――
 「う〜!!あ〜っ!ぱぁぱ・・・」
 そう言って、煌が何もない方向を向いてニコニコと笑い出す。
 ・・・ゾっと、背筋に冷たいものが走る・・・
 「おい・・・なんかいるのか・・・?」
 冬弥がそう声をかけた瞬間、煌がタタっとハイハイをして行ってしまう。
 「えっ?おい、ちょっ・・・」
 見詰める先、廊下に並ぶ扉が独りでに開き―――煌がその中に入ってしまう。
 「なっ・・・なんで扉が開いたんだ!?」
 「そんな事を考えてる場合じゃないですっ!扉の先はどこに繋がっているのか分からないんですからっ!!」
 奏都が真っ青になって走り出し、扉を開ける。
 幸いそこはただの部屋だったようだ。
 ベッドの上でキャッキャと跳ねる煌に、ほっと安堵したのも束の間・・・煌がベッドから転げ落ち・・・
 「わぁぁぁっ!!!」
 冬弥が素晴らしい反射神経でナイスキャッチをする。
 それが楽しかったのか、煌が「ぱぁぱぁ」と言いながらキャー!と声を上げ・・・
 再び扉の外へと―――
 「うわっ!奏都っ!」
 「分かってますっ!」
 捕まっては逃げ、逃げては捕まえ・・・
 気がつけば陽は傾いており、疲れ切った煌が冬弥の腕の中でクークーと寝息を立てていた。
 「・・・すっげー疲れた・・・」
 「俺も同じです。」
 真っ白な部屋の中、中央に置かれたキングサイズのベッドの上、真ん中に煌を寝かせ、丁度挟むような形で寝転がり―――――
 襲う眠気に引きずり込まれるようにして、2人は目を閉じた・・・。


◆ そして・・・? ◆


 「う・・・あっ・・・」
 どのくらい眠っていたのだろうか?
 妙な時間に眠ってしまったために痛む頭を押さえながら、冬弥は目を覚ました。
 そして見詰める先・・・眠る奏都と自分の間にいたはずの煌の姿がない・・・。
 「おい!奏都っ!!」
 「え・・・?」
 「え?じゃねぇっ!!煌はいねぇっ!!」
 「あー・・・本当ですね。」
 いたって普通の口調で言う奏都に、溜息をつく。
 どうしてコイツはこんなに呑気なんだ・・・!?
 「また変な扉にでも入ったら―――」
 「大丈夫ですよ。煌君は、お家に帰りましたから。」
 「・・・なんで言い切れるんだよ!?」
 「それじゃぁ言いますけど、いくら疲れているとは言え、扉が開いたら気付くでしょう?貴方も、俺も。」
 正論に、冬弥は口を閉ざした。
 「つまり、この部屋から出ていない。にも拘わらず居ない。」
 「どう言う事だ?」
 「・・・不思議な子・・・でしたね。」
 苦笑しながら奏都がそう言って、乱れた髪を元に戻す。
 全て知っているかのような横顔を見ながら苦々しい表情で前髪を掻き揚げ―――
 そっと、煌が眠っていた場所を撫ぜた・・・。


          ≪END≫



 ◇★◇★◇★  登場人物  ★◇★◇★◇

 【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】


  4528/月見里 煌/男性/1歳/赤ん坊


  NPC/沖坂 奏都/男性/23歳/夢幻館の支配人
  NPC/梶原 冬弥/男性/19歳/夢の世界の案内人兼ボディーガード
  NPC/片桐 もな/女性/16歳/現実世界の案内人兼ガンナー


 ◆☆◆☆◆☆  ライター通信  ☆◆☆◆☆◆

 この度は『All seasons』にご参加いただきましてまことに有難う御座いました。
 そして、初めましてのご参加まことに有難う御座いました。(ペコリ)
 可愛らしいお客様に、館でも(まだ)常識的な部類に入るであろう奏都と冬弥を登場させました。
 2人とも年齢が年齢なので“ぱぁぱ”の中に入るかと・・・(苦笑)
 煌様のふわふわとした愛らしい雰囲気を壊さずに執筆出来ていればと思います。


  それでは、またどこかでお逢いいたしました時はよろしくお願いいたします。