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[ さんしたくんといっしょ。 ]
「さんしたくん、さんしたくん!?」
月刊アトラス編集部。その編集長席から一人の人物を呼ぶ声。
「はっ、はひぃっ！」
それから十秒も経たずして、呼ばれた人物三下忠雄は辺りの書類をばら撒き椅子を倒し、デスクの前に現れた。
「……暫く留守にするわ」
「は、はひぃ？ え、もしかして今日はもう帰って――」
嬉々として、編集長である碇麗香の言葉に返答するが、忠雄の言葉は途中で遮られる。
「二三日空けるけど、その間さんしたくんには一杯やっておいて貰うことがあるわ。明日からこれ、頼むわね」
そう、珍しく笑みを浮かべた麗香から手渡された一枚の紙。サイズはA4サイズが二枚。なにやらそこには膨大な量のスケジュールが書かれていた。どうやらそれを、麗香が留守の間に済ませて置けと言うことらしい。
「ぇっ……こ、こんなの…むっ――――」
「私が帰るまでに、しっかり終わらせておくのよ？ 頼りにしてないけど一応頼りにしてるから」
忠雄の『無理』の言葉は麗香の表情で飲み込まれ。
「はっ、はひぃぃいいい」
「素直で宜しい。それじゃあ行って来るわ」
「い…ってらっしゃ、い……」
麗香の背を見送り。もう一度紙に目を落とし……同時に忠雄は肩を落とした。
□□□
そんなやり取りがあった日から一夜明け――…‥
「あ…………れ？」
何かがおかしいと気づく。彼が辺りを見回し、この辺りに目的地である友人の家が無いと歩むスピードを落としたのは、『月刊アトラス編集部』と書かれた扉の前に立った時だった。何処をどう見てもそこはオフィスビルのワンフロアで、友人の名の書かれた表札など無い。
そしてその扉を目の前に、とりあえずそれを開けてみるという結論しか出ず、彼は手を伸ばす。
「すみません、ここはどこで――ぇっ!?」
しかしドアを開けた瞬間、飛び出してきた人物にタックルをかまされた挙句、わんわん泣きつかれた。
「って、な…なんですかあなたは！ ……一体これは何事で」
あまりにも突然の出来事に戸惑いながらも彼は、無き縋るスーツ姿の男を自分から引き剥がし最後は冷静に問う。とは言え、彼の涙で微かに湿った服が此処へ来て唯一の困り物であった……。
そして数分後。彼は会議室へと案内される。そこで月刊アトラス編集部編集員と名乗る三下忠雄から事情を説明された彼――志羽武流は先ず、自らの名を明かすと同時にため息を吐いた。
「――――そういうことでしたか……全く無茶な仕事を押し付けられたものですね」
武流の尤もな言葉に、ようやく泣き終えていた忠雄は再びじわりと目を潤ませる。その様子に気づいてか気づかずか、武流は眼鏡のブリッジを押し上げながらサラリと言った。
「わかりました、手伝える範囲で俺も仕事を手伝います」
「……ぇ、ほ…本当ですかぁっ!?」
瞬間、忠雄は涙を飲み込み椅子から立ち上がり。正面に座る武流に顔を近づけた。
「はい。あ、助っ人も呼びますね」
「ありがとうございますぅう!!」
頭を下げる忠雄に「気にしないでください」と片手を挙げて見せると、武流は携帯電話を取り出し。発信履歴からすぐ目的の人物へと電話する。勿論相手は、弟である。
『もしもし？』
「――もしもし」
『何だ、にーちゃんか……』
「何だ…って……。いや、そうじゃなくて今から白王社のアトラス編集部に来い」
『……は？ アトラス編集部に!?』
「今すぐ、ダッシュで、わかったな？」
『ダッシュ……って、いきなりそれは無いだろ？ 事情くらいはな――』
「良いから早く来い。待ってるからな」
『…………あぁーわかったよ、今すぐ行く！』
武流が礼を言うよりも早く、心なしかブチッと通話は切られてしまう。
「……とりあえず今、一人こちらに向かわせたので。編集長さんが帰ってくるまでに、全部済ませましょう」
携帯電話をしまい忠雄に言うと、彼の表情はようやく明るさを取り戻した気がした。
「では、一先ず皆さん会議室に集まるようにするので…先に行ってて下さい。僕はもう少し助っ人さんを探してみます」
言われ、武流は忠雄に示された会議室――流石に今居る場所から目視できる場所にある――に向かい、無事その扉を開ける。
そうして暫くすると、会議室にはぱらぱらと人が集まり始めた。
□□□
会議室には二人の女性――内一人は一度出会ったことがある上、茶まで出してくれた――、そして最後に翔流が忠雄と共に戻ってきた。
今までの経緯を話し、後は忠雄に説明を頼む。それを聞いた翔流は、出された湯飲みの中身を一気に空け机に置いた。
「そういうことね……あの編集長らしいや」
そうして僅かに忠雄から顔を逸らすと、苦笑いを浮かべる。しかし、次に忠雄を見た翔流の顔から苦笑いなど消え失せていた。
「わーったよ、俺も手伝う」
そんな翔流を見ると、武流も満足そうに頷き、ようやくこの場が落ち着いたようで。
「――えっと、これでお手伝いが揃ったって事かしらね？」
そう切り出したのはシュライン・エマ。
「そういうことになりますね」
続いたのは志羽・武流(しば・たける)。
「四人で手伝いか。まぁ、上手く分担してやるしかないよな」
双子の兄の手により巻き込まれた志羽・翔流(しば・かける)。
「遊馬、何やれば良いデスか？ 早速やるデスよ！」
そう意気込むは神代・遊馬(かみしろ・あすま)。
「皆さん、宜しくお願いしますぅ!! あ、これが予定表です……一応僕の頼まれ物なので、自分の仕事の合間には絶対お手伝いしますね……」
四人が口々に言えば、最後に未だ立ったままの忠雄が机の上にＡ４用紙を二枚置いた。
「なんだこれ？」
「三下くんが碇さんから指示されたものね」
「と、言うことは……これを分担するデスね！」
早速翔流に遊馬が身を乗り出し用紙を覗き込む。そこには――。
『さんしたくん用スケジュール(09:00〜17:00)※自分の仕事の合間にやってね。
一日目：掃除(編集部内全て)要らない書類のシュレッダーかけ・ごみ捨て
重要書類を郵便局へ(速達)・隣駅スーパーまで買出し
二日目：特集記事の校正(32P分)
次回特集の取材…有名花見スポットに現れる霊特集。
突撃インタビュー！幽霊に花粉症はあるのか。
写真現像まで終了のこと。
三日目：定時にFAX送信・家電店へ買出し(セール品のため売り切れ注意)』
と、書かれている。なんとも無茶なもので、コレを見れば忠雄が縋ってきた理由も分かる気がした。
「――では、やはり得手不得手もあると思うので……この三日間で各日、お手伝いできると思う所をそれぞれ出し合いましょう」
武流の言葉にシュラインが続く。
「まずは今日。これは大まかに室内と屋外に別れるわね」
挙手の結果、綺麗に意見は分かれ。室内で主に掃除担当が武流に遊馬、外へのお使いがシュラインと翔流となった。
因みにと、忠雄が口にした彼自身の仕事は次々回特集記事のネタ出し――所謂意見収集と、校正が十六ページ。
「二日目はデスクワークか取材って感じだな」
翔流の言葉の後、デスクワークはシュラインと武流が、取材は翔流と遊馬と決まる。
忠雄の仕事は次回記事の執筆。六ページ。
「最終日のお仕事は事務かお買い物デスね」
しかしこの日、遊馬は仕事のため欠席、シュラインは午後には事務所に戻るということで……事務は武流が、買い物は翔流と決まった。
最終日、忠雄の予定はどうやら桂と取材(早朝取材・行き先不明)との事。兎にも角にも無事に終われば良いと願うばかりだ。
取りあえず予定が決まったところで全員席を立ち会議室を出る。早速お手伝い開始――。
□□□
「それでは、早速始めましょうか」
「始めるデス！」
二人にはまず忠雄から見取り図が渡された。そこには掃除箇所が赤ペンでチェックされており、紙の殆どは赤に塗りつぶされかけた状況だったのだが。
元々この編集部、本来ならばビルの清掃会社が入るはずなのだが、常に皆が殺気立った状態で〆切に追われているせいか清掃業者が入る隙も暇も勇気も無く、こうして自分達でやる羽目になるらしい。
まずは清掃道具があるらしい場所へと向かう…と言っても、会議室のすぐ隣にあると見取り図には書かれている。
「隣と言うと……」
会議室を出た隣は行き止まりとなっていたが、そこにみすぼらしいロッカーがあった。
「これデスね。遊馬ほうきとちりとりと掃除機を使うデスよ」
そう言い遊馬は中から長箒と塵取りを出し、ロッカーの外にそっと置いてあった掃除機にも手を伸ばす。見取り図によれば絨毯の場所もあるようで、そこばかりは箒よりも掃除機の方が良い。ついでに長い髪の毛を後ろで一つに結わき一歩後退した。
「それじゃ俺は主に拭き掃除を」
続いて武流が下からバケツと雑巾を数枚。スプレータイプの洗剤をこれまた数本取り出すと、満足そうに立ち上がる。
「清掃用具はやたら充実してるようですね。それではお互いぶつからない様、反対側からやっていきましょう。先に終わった方がシュレッダー作業やゴミ出しも随時やっていくと言うことで」
「分かったデスよ。じゃあ遊馬は入り口側から行くデスね」
言うや否や、遊馬は踵を返し入り口の方へと走っていった。流石に掃除機は置いていったが……。
武流は武流で自分の作業に移行する。
まずはバケツにたっぷり水を張り、窓際へ移動。窓専用のスプレーを吹きかけ一拭きすれば、綺麗な雑巾は一瞬で黒くなった。
「…………なるほど…遣り甲斐は十分」
思わず又眼鏡を押し上げると、武流は薄い笑みを浮かべ。右手に雑巾、左手にスプレーのスタイルで窓拭きを始める。
外に面した窓の為、勿論大きさもあった。上の方は脚立を使い、隅々まで丁寧に拭いていく。こうしている間でさえ、ゆっくりと陽が移動していくのが目に見えて分かったが、そんなことは気にしていられない。
何度かバケツの水も替えながら、窓を終えると各部屋の机を拭き、蛍光灯を拭く。扉やドアノブ、コピー機にありとあらゆる機械を拭いていくと、麗香の机の上も整理しつつ拭く――と言っても、此処は綺麗だったが。
拭き掃除を始め数時間。やがて夕方頃になると、掃き掃除を終え、シュレッダーがけにゴミ捨てまで終えた遊馬がやって来た。
「遊馬もお手伝いするデスよ？」
この時間になっても未だ終わらない彼を心配してか遊馬はそう言うが、武流はそれをやんわりと断った。
「あぁ、終わりましたか。俺の方は大丈夫なのでお構いなく、お疲れ様です」
此処まで自分でやってきたのだ。此処で人の手を借りてしまうと後で後悔してしまいそうだった。
やがてシュラインや翔流が買い物から戻ってきたようで。そして仕事を終えた皆は帰って行く。
忠雄は明日の仕事を今からと、未だ机にかじりついていた……。
――因みにこの日の結果。
忠雄 ／ 自らの仕事終了＋疲労。
シュライン ／ 買出し終了＋軽疲労。
武流 ／ 現在続行中＋疲労大。
翔流 ／ 郵便局＋買出し終了＋掠り傷＋疲労。
遊馬 ／ 掃除・ゴミ出し終了＋軽疲労。
そして武流、掃除続行中――。
編集員達もやがて力尽き、仮眠室へ流れ込むか家へ帰り始める頃。武流は編集室の明かりを消し、脚立を出してくると蛍光灯を拭き始めた。人が多い時にはなかなか出来ないことだ。
続いて編集部員の机も一つ一つ拭いていく。
そして深夜。武流は最後の大仕事を開始した。その名もワックスがけ。
窓も綺麗、照明も綺麗、机も綺麗、足元も今は塵一つないというのに……光を反射しないこの床はなんとも嘆かわしい。
数人残っている編集員には声をかけつつ、又は仮眠時を見計らい作業をすることにした。
「今からやるとして……朝までには乾くでしょう」
そう思って始めた作業だが、思いの他早く終わり。空が僅かに明るみを帯びてきた頃、武流は仮眠室を借り眠りについていた。
□□□
彼の目覚めの時、辺りは薄暗く。此処が何処で、今が何時かもよくわからなかった。
「……ん、あぁ…そう、か……」
ベッドから起き上がり、近くに置いておいた眼鏡をかけると武流は仮眠室を出る。意外にも十分な睡眠が取れた気がした。
目覚めたのは時間的なものもあったようだが、多分人が増えてきたせいもあったのだろう。
何時の間にやら出社の時間のようで、周りに人が増えてきたのは勿論のこと、編集部の入り口にはシュラインに翔流、そして遊馬の姿があった。
「――……おはよう、ございます」
「皆さん、今日も来てくれたんですね〜、有難うございますぅ！」
武流と同じく、結局編集部で寝泊りした忠雄も顔を出しお手伝い二日目が始まる。
そして、昨日の組み合わせと変わり。こちらはシュラインと武流の二人。いわゆる頭脳派コンビといったところか。
特集記事の校正という事で、忠雄からは記事六十四枚と赤ペンを二本渡された。
「では、宜しくお願いします」
そうして立ち去ろうとする忠雄の肩をシュラインが優しく叩き。
「……ちょっと三下くん？」
「……倍、ありますよね？」
武流が冷ややかに言った。
「うああぁあん、だって今朝碇さんから連絡があったんですよぉ……」
忠雄の言うことには、編集部員の一人が麗香に引き抜かれ、その人物がやるべきだった校正分が丸々忠雄に流されてきたらしい。
「大丈夫よ、三下くん。二人居るのだから」
「そうですよ。一人でコレを全部ではなく、二人で分ければ元の量を一人で、になりますから。増えたとは思いませんよ」
「ううっ……すみません、それじゃぁお願いしますっ」
そう言い、忠雄は一応にと校正記号のプリントされた紙までくれた。
しかし、生憎机に空きが無い為、会議室で作業をしてくださいとまで言われ、シュラインと武流は一式を持ち会議室へと向かう。
ノルマは三十二枚。勿論写真も所々にある記事だが、どう見ても文字数は半端ではない。
武流は早速椅子に座ると、校正記号表を一応と横に置き作業に取り掛かった。
「えーっと……『本誌取材人は対に発見した！』って、いきなり誤字だらけ……」
最初の一文を見るなり武流は苦笑し、赤ペンで正しい漢字を書き込んでいく。
その後も一枚目から誤字脱字が相次ぎ、その度に素早く修正していった結果、紙はほぼ真っ赤に染まった。
「この調子で続くんでしょうか……」
思わずボンヤリと呟き二枚目、三枚目へ。暫くは単なる誤字脱字の続く、怪奇現象特集記事といったところだったが、どうも途中でライターと記事内容が変わったらしい。
怪奇現象からは一歩離れ、それでもまともな取材とは思えない一見変わったレストランの特集記事だった。
「……っ…」
新たな誤植に遭遇し、思わず赤ペンを落とす。
「反…転……」
それもパッと見は良く分からない字が多い。
例えば上下左右に反転しても見落としそうな『一』や『王』、左右反転では『青』や『黄』に見落としがちな『赤』。これらはゴシック体ならともかく、明朝体ではいわゆる"止め"部分が気になる物。
「はあぁ…っ」と小さく息を吐くと赤ペンを持ち直し、反転修正記号を入れていく。
昼を過ぎた頃、忠雄から店屋物の差し入れがあった。
一息入れながらも、食べ終わると再開。
その後、もう一人――短めの記事の校正を終了し、再確認に入った頃は既に夕方も近かった……。
「お、終わりました……」
昨日の疲れを若干引きずりながらも再確認も終えた武流は、眼鏡を外し机に置くとシュラインの方を見る。彼女の表情は余裕と言ったもので、いつの間にか掛けていた眼鏡を同じく外し一息吐いた。
「私の方も、大体終わりかしら。それにしても、毎度こんなに校正箇所あったら大変よね……」
まさかとは思うが、結局二人分を集めパラパラと見る限り殆どが真っ赤に染まっている。おまけに良く見ればシュラインの方は写真等が多く文字が少ない……。
揃って会議室を出ると、忠雄は机に突っ伏していた。少し酷だとは思うが揺さぶり起こす。
「――…んー……？」
顔を上げた忠雄は二人の姿を見るなり、掛けっぱなしでずれていた眼鏡を元に戻し時計を見る。
「――――!?」
「三下くん…終わったわよ？」
「終わりました……」
忠雄の顔がどうも蒼白に見えるがそれから少しした頃、午後五時のチャイムが鳴り響き。業務終了時間を告げていた。
――この日の結果。
忠雄 ／ 仕事終わらず＋疲労無し。
シュライン ／ 校正終了＋軽疲労。
武流 ／ 校正終了＋疲労大。
翔流 ／ 取材・写真現像終了＋疲労大。
遊馬 ／ 取材(お花見)お手伝い(満喫)＋疲労大。
□□□
翌日。ようやくまともな睡眠を得、昨日よりは疲労を回復させた武流は、編集部に来るなり忠雄に送信用の紙と、送信時間の一覧と時計を渡されFAXの前に立っていた。
今のFAXならば予約送信くらい出来ると思うのだが、想像以上に送信枚数は多く、予めセットしておける枚数ではない。
「――……５・４・３・２・１スタート…」
時計の秒針が真上を指すと同時、武流はスタートボタンを押した。
「まずは一枚、ですね」
FAXは午前九時半から午後四時半まで流すらしい。一時間に何十箇所へと流すこともあれば、全く流さない時間もある。
ともあれ今日が最終日だ。遊馬は店の仕事の為、言っていた通り此処へは来ていない。午後には戻るらしいシュラインは、今忠雄が昨日消化し損ねた原稿の手伝いをしていた。当の忠雄は、早朝から取材に行っているらしくまだ戻っていない――と言うより、今日は編集部に来ていないと思う。翔流は編集部に寄る事も無く、早朝から指定された家電店にチラシを持って並びに行っているらしい。この調子ならば皆、麗香が戻ってくる前に終わっている筈――だと思う。
手際良くFAXを流し終えた武流は、仕事が終了すると同時にこの三日間の疲れが一気に出てきたのか、編集部片隅のソファーでぐったりとしていた。既に翔流も買出しから戻っており、武流より少し前からソファーで一息吐いている。
「……よーやく終わった、な」
ポツリ翔流が呟き、武流が持ってきたお茶に口をつける。
そして武流が入り口のそれに気づいたのは、もう午後五時も近い頃の事。
「――さんしたくん、さんしたくーん？」
いかにも見た目とオーラが女王様気取りの女性が一人、忠雄の名前を連呼する。
「はっ、はひぃいいっ!?」
続いて一秒の間も許さない勢いで忠雄が返事をした。一体いつの間に帰って来ていたのだろうか？
ともあれ編集長、碇麗香――帰還。
その日の夜、差し入れに来た遊馬と、麗香に呼ばれたシュラインも揃い。計六名が会議室に居た。
「そんな期待してなかったけれど……やっぱりさんしたくんの人望は頼りになるわ。皆、有難う」
にっこり微笑んで見せた麗香に、全員の表情が内心では引き攣る。
とは言え、忠雄の個人的な仕事を残し、麗香から出されていたノルマは無事達成。お手伝いは無事成功と言える。
「さて、お礼と言っては何だけどお土産買って来たら食べて頂戴」
「あ、遊馬からも差し入れあるデスよ」
「いっただきます！」
「戴きます」
「頂きます。それにしても麗香さん、今回は自ら取材？」
不意に問うシュラインの言葉に、皆の視線が麗香へと向いた。
「――？ さんしたくんに言っていかなかった？ 慰安旅行だって。だからスケジュールも、別に急いでやる必要も無かったし。でも仕事は速いに越した事は無いし、明日からスムーズに仕事できそうだから良いけど」
「「「「…………」」」」
瞬間、辺りの空気が凍った事を誰もが察する。
「聞いて、ないですよぉ……」
最後に響くは忠雄の半泣き声だった――――。
――最終結果。
忠雄 ／ 仕事達成率70％＋疲労大。
シュライン ／ 仕事達成率95％(後にメーカーが違うとケチを付けられる＋若干の校正ミス)＋軽疲労。
武流 ／ 仕事達成率80％(後に校正忘れ箇所、ミスが出てくる)＋疲労大(行動不能)。
翔流 ／ 仕事達成率80％(後にメーカーが違うとケチを付けられる＋写真の半分が没となる)＋疲労大。
遊馬 ／ 仕事達成率85％(後に写真の半分が没となる)＋疲労。
and.. 麗香の満足度 ／ 95％――「みんな、ご苦労様」
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■ 登場人物（この物語に登場した人物の一覧） ■
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【整理番号 ／ ＰＣ名 ／ 性別 ／ 年齢 ／ 職業】
[0086／シュライン エマ／女性／26歳／翻訳家＆幽霊作家＋草間興信所事務員]
[2459／ 志羽武流 ／男性／18歳／大学生（薬学部）]
[2951／ 志羽翔流 ／男性／18歳／高校生大道芸人]
[5330／ 神代遊馬 ／女性／20歳／甘味処「桜や」店員]
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■ ライター通信 ■
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こんにちは、いつもありがとうございます、若しくは初めまして。亀ライターの李月です。
なんだかんだで今年初の依頼、一年ぶりのアトラスとなりました。しかしながら、お届けが少々遅くなってしまった方も居て申し訳ありません。
今回は三下くんのお手伝い、有難うございました。三日を通し見事二手に別れ、皆さん効率良くお手伝いすることが出来ました。平均達成率(のような数値)は84％でした。お疲れ様です。
相変わらずぽつぽつと個別部分が存在しています。他の方のも見てみると実は色々な事が起こっているので、お時間や興味がありましたらどうぞ。
再三の注意を払っていますが、誤字脱字などありましたらすみません。その他何か問題ありましたらご連絡ください。
【志羽 武流さま】
初めまして、兄弟でのご参加有難うございました！
弟さんと同じく、お兄さんもイメージに近ければ…と思います。どちらさんも書かせて頂き楽しかったですが、個人的にとんでもない方向音痴な秀才眼鏡のお兄さんが特に書かせていただき楽しかったです。
校正ミスは膨大な量＋前日の疲労が完全に抜け切らなかった特殊状態によるものですが、勿論この後ちゃんとした校正さんがチェックしています。ともあれ、ゆっくりお休みくださいませ……。
説明文がやたら多めではありましたが、トラブルも続出しオチ付でしたが、お手伝いお楽しみいただけてれば幸いです。結果的には終わらせていた方が麗香の機嫌が良かったので…。
それでは又のご縁がありましたら…‥
李月蒼
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