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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


[ さんしたくんといっしょ。 ]


「さんしたくん、さんしたくん!?」
 月刊アトラス編集部。その編集長席から一人の人物を呼ぶ声。
「はっ、はひぃっ!」
 それから十秒も経たずして、呼ばれた人物三下忠雄は辺りの書類をばら撒き椅子を倒し、デスクの前に現れた。
「……暫く留守にするわ」
「は、はひぃ? え、もしかして今日はもう帰って――」
 嬉々として、編集長である碇麗香の言葉に返答するが、忠雄の言葉は途中で遮られる。
「二三日空けるけど、その間さんしたくんには一杯やっておいて貰うことがあるわ。明日からこれ、頼むわね」
 そう、珍しく笑みを浮かべた麗香から手渡された一枚の紙。サイズはA4サイズが二枚。なにやらそこには膨大な量のスケジュールが書かれていた。どうやらそれを、麗香が留守の間に済ませて置けと言うことらしい。
「ぇっ……こ、こんなの…むっ――――」
「私が帰るまでに、しっかり終わらせておくのよ? 頼りにしてないけど一応頼りにしてるから」
 忠雄の『無理』の言葉は麗香の表情で飲み込まれ。
「はっ、はひぃぃいいい」
「素直で宜しい。それじゃあ行って来るわ」
「い…ってらっしゃ、い……」
 麗香の背を見送り。もう一度紙に目を落とし……同時に忠雄は肩を落とした。


    □□□


 そんなやり取りがあった日から一夜明け――…‥

 その日はとても良く晴れた一日だった。青い空にまだ快晴と言えるほどに散らばっている白い雲。こんな天気の日には路上で宴会芸を披露するのも良い。
 そんなことを考えながらぼんやりと歩いていれば、何時の間にやら携帯電話が着信音を奏でていることに気づき、彼は我に返った。
 慌てて出した携帯電話は、誰からの発信か見ることも無く通話ボタンを押し耳へと当てる。
「もしもし?」
 ただ、「――もしもし」と聞こえてきた声はあまりにも馴染み深いもので、彼は思わず安堵の息を吐いた。
「何だ、にーちゃんか……」
 電話の主は兄――武流である。
『何だ…って……。いや、そうじゃなくて今から白王社のアトラス編集部に来い』
「――……は? アトラス編集部に!?」
 声はいつもより少しだけトーンが低く、加えて有無を言わせない命令形。何を言われたか、咄嗟には判断しきれず思わず聞き返すが、返って来た言葉は繰り返しの言葉ではなく更に念押しするものだった。
『今すぐ、ダッシュで、わかったな?』
「ダッシュ……って、いきなりそれは無いだろ? 事情くらいはな――」
『良いから早く来い。待ってるからな』
 何が良いのか全く判らないが、言葉を遮られ何かがカチンと来て。
「……あぁーわかったよ、今すぐ行く!」
 多少の理不尽さに思わず声を張り上げブチッと通話を切ると、携帯電話をしまい彼はダッと走り出す。
 今居る場所からアトラス編集部までは幸いそれほどの距離は無い。ただ思うのは、どうして武流がそこへと向かっていたかと言うわけで。
「あぁ……迷い込んで厄介事、か?」
 ポツリ呟いてしまった言葉だが、あの方向音痴の兄のことだ……あながち間違っていない気がして。
「いやいや、早く向かわないとな」
 そんな思考を振り払うよう首を左右に大きく振ると、もう考えることはやめ白王社ビルを目指すことにした。

 編集部ドアの前に着く頃、翔流の額には薄っすらと汗が浮かんでいる。流石に少し暑い。一先ず背中で大きく息を整えながら彼はドアを開けた。
「うああああああぁん!!」
「っぶぁ!?」
 開けた瞬間突如泣き付いて来たは三下忠雄。こうして尋ねる人間にタックルをかました挙句、あの兄をも巻き込んだのかもしれない。
「お願いですぅ、手伝ってくださいぃっ〜!」
「ちょっ、いいから離れっ……いや、にーちゃんは何処にっぁあ、いーからもうどういうことか事情を――ぉっ!!」
 ろくに事情も説明してもらえないこの状況。彼はもう勘弁してくれといわんばかりに忠雄を引き剥がすと、コホンと一つ咳払い。
「事情を…説明してもらおうか、三下さん」


    □□□


 結局奥の会議室へと案内され、そこに武流の姿は勿論、二人の女性の姿があった。一人に見覚えがあったが、今はそれどころではなく、忠雄から事の始まりを、武流からやはり道に迷った挙句手伝うことになった経緯を聞くと、翔流は出された湯飲みの中身を一気に空け机に置く。
「そういうことね……あの編集長らしいや」
 僅かに忠雄から顔を逸らし、思わず浮かべた苦笑い。しかし、次に忠雄を見た翔流の顔から苦笑いなど消え失せていた。
「わーったよ、俺も手伝う」
 巻き込まれたとは言え、此処で放っておくことも出来ないだろう。何より、例え此処で人の道を外れ断ったとしよう。此処まで呼び出した張本人であり、隣に座る武流がそれを許してくれるとも思えなかった。
「ありがとうございますぅううっ」
 そして忠雄の歓喜の声の後、ようやくこの場が落ち着いたようで。
「――えっと、これでお手伝いが揃ったって事かしらね?」
 そう切り出したのはシュライン・エマ。
「そういうことになりますね」
 続いたのは志羽・武流(しば・たける)。
「四人で手伝いか。まぁ、上手く分担してやるしかないよな」
 双子の兄の手により巻き込まれた志羽・翔流(しば・かける)。
「遊馬、何やれば良いデスか? 早速やるデスよ!」
 そう意気込むは神代・遊馬(かみしろ・あすま)。
「皆さん、宜しくお願いしますぅ!! あ、これが予定表です……一応僕の頼まれ物なので、自分の仕事の合間には絶対お手伝いしますね……」
 四人が口々に言えば、最後に未だ立ったままの忠雄が机の上にA4用紙を二枚置いた。
「なんだこれ?」
「三下くんが碇さんから指示されたものね」
「と、言うことは……これを分担するデスね!」
 早速翔流に遊馬が身を乗り出し用紙を覗き込む。そこには――。

『さんしたくん用スケジュール(09:00〜17:00)※自分の仕事の合間にやってね。
 一日目:掃除(編集部内全て)要らない書類のシュレッダーかけ・ごみ捨て
     重要書類を郵便局へ(速達)・隣駅スーパーまで買出し
 二日目:特集記事の校正(32P分)
     次回特集の取材…有名花見スポットに現れる霊特集。
             突撃インタビュー!幽霊に花粉症はあるのか。
             写真現像まで終了のこと。
 三日目:定時にFAX送信・家電店へ買出し(セール品のため売り切れ注意)』

 と、書かれている。なんとも無茶なもので、コレを見れば忠雄が縋ってきた理由も分かる気がした。
「――では、やはり得手不得手もあると思うので……この三日間で各日、お手伝いできると思う所をそれぞれ出し合いましょう」
 武流の言葉にシュラインが続く。
「まずは今日。これは大まかに室内と屋外に別れるわね」
 挙手の結果、綺麗に意見は分かれ。室内で主に掃除担当が武流に遊馬、外へのお使いがシュラインと翔流となった。
 因みにと、忠雄が口にした彼自身の仕事は次々回特集記事のネタ出し――所謂意見収集と、校正が十六ページ。
「二日目はデスクワークか取材って感じだな」
 翔流の言葉の後、デスクワークはシュラインと武流が、取材は翔流と遊馬と決まる。
 忠雄の仕事は次回記事の執筆。六ページ。
「最終日のお仕事は事務かお買い物デスね」
 しかしこの日、遊馬は仕事のため欠席、シュラインは午後には事務所に戻るということで……事務は武流が、買い物は翔流と決まった。
 最終日、忠雄の予定はどうやら桂と取材(早朝取材・行き先不明)との事。兎にも角にも無事に終われば良いと願うばかりだ。
 取りあえず予定が決まったところで全員席を立ち会議室を出る。早速お手伝い開始――。


    □□□


 会議室を出る際、忠雄から二人宛のメモと沢山の封筒となにやらお金が入っているらしき茶封筒を渡された。
 メモには隣駅の巨大スーパーで買うべき品物が、恐ろしくずらりと並んでいる。とても一人で買って返ってこれる量ではないと思う。
「んじゃぁ、俺は早速自転車で郵便局行くつもりだけど……スーパーで落ち合うか?」
 同じく外へと向かうシュラインに翔流は声をかけるが、彼女は何故か出口に背を向ける。
「そうね。それじゃ、私は車借りられるか聞いてからスーパーに直行するから、郵便物は頼むわよ」
「りょーかい!」
 沢山の封筒と、郵便料金分のお札を数枚封筒から引き抜きポケットに捻りこむと、翔流は先に編集部を出た。
 小脇に抱えた封筒は殆どがA4サイズの物。そして紙というものは量があればそれなりに重い。更に、B5サイズなどが紛れていたりして落ちそうにもなる。
 それらを白王社下に都合よく置いてあった自転車――しかも何故か『さんしたくん専用車』と書かれている――の前籠に、折り目が付かない程度に上手く曲げ全部突っ込み、一気に駅を目指した。
 此処まで走ってきた疲れはもはや無い。翔流は駅まで全速力でペダルを漕ぎ続けた。

 数分後。郵便局の前に自転車を止めると、翔流は封筒を手に中へと駆け込んだ。呼吸はすぐに整うがこの春の陽気のせいか、額には又もや薄っすら汗が浮かんでいる。そこへ追い討ちをかけるような暖かな暖房の風。
「うげぇ」
 片腕で軽く汗を拭うと、入り口側の窓口に頼まれた郵便物、しめて三十通を出した。
「これ、全部速達で! 後領収書も」
 担当職員は若い女性一人のようで、一通一通の重さを慎重に測っては速達のスタンプをその場で押し。その行動はかなりのマイペースだった。
 やがて翔流の後ろに待つ人々があからさまな舌打ちを始める頃、ようやく会計に至る。速達料金だけで八千円超えの為、ポケットに入れた一番大きなお札とその次に大きなお札を出し、白王社宛に領収書をきってもらう。
「次はスーパー、っと。合流できっといいんだけどな」
 呟きながら自転車に跨ると常人であれば自転車で十五分掛かるであろう距離を、翔流は五分で風の如く駆け抜けた――。

 駐輪場に自転車を置くと、中へ入り籠を持つ。中は思ったよりも広く、それでいて二階建てだ。
 一階が食料品売り場、二階が食料品と酒や文房具や家庭用品全般、小さな家電製品まで扱っている。
 意外に混雑した店内で人一人見つかるか不安もあったが、やがて幾つかの人込みをすり抜け、ショッピングカートを押す彼女の姿を見つけた。
「――悪い、今着いた!」
 シュラインの隣に立つと、彼女の押すカートや籠には既にどっさりと商品が入っているのが分かった。
 一旦呼吸を整えると「残りの買い物は?」と問う。
「後は二階の買い物と……お客様用の良い茶葉が見当たらないのよね」
「茶葉ぁ? どれだ?」
 メモを覗き込めば、シュラインの指し示す茶葉の名前の横に※1と印があるのを見つけた。まさか補足でもあるのかとメモを裏返せば、案の定それはある。
「――『※1無い場合は更に隣駅の○×茶屋に必ずあるからお願いね』……だって、よ」
「…麗香さんっ……」
 思わず通路の真ん中、二人メモに目を落としたまま立ち尽くす。
「とりあえず……残りの買い物済ませて、全部車に乗っけたら俺が行くわ。それでいいか?」
「悪いわね…じゃ、二階に」
 二階での買い物は蛍光灯――清掃業者が入れないような編集部状況故、取替えすら編集部員任せの職場…――を始めとし、電池や文房具、紙なのだが……。
「なんか、メーカー名とかすっげー指定しまくりだな……」
 茶葉と同じく、※印で裏にこのメーカーの何が幾つと事細かに書かれているのを見ると正直頭が痛い。
「でも後もう少しで終わりよ」
 籠の中に入れた物には斜線を入れながら、シュラインは自分にも言い聞かせるよう静かに言った……。

 レジ清算後、駐車場まで荷物の運びを手伝うと翔流は又自転車でもう一つ先の駅へと向かう。
 時刻は既に夕方近い頃。目的の茶屋は駅前にあったお陰ですぐに買い物は済んだが、帰り道の途中で自転車ごとひっくり返った……。
「ってぇ……」


 ――この日の結果。
  忠雄 / 自らの仕事終了+疲労。
  シュライン / 買出し終了+軽疲労。
  武流 / 現在続行中+疲労大。
  翔流 / 郵便局+買出し終了+掠り傷+疲労。
  遊馬 / 掃除・ゴミ出し終了+軽疲労。


    □□□


 二日目――。
 編集部を訪れた翔流に遊馬、シュラインの三人が白王社の入り口で出くわした。
 揃って編集部に向かうと、そこには昨日までとは違う光景がある。
「なんだ…こりゃぁ」
「ぴかぴかデスねぇ」
「これはワックス、かしら?」
 床は光っている上に照明が明るさを増している気もする。人はまだまばらで、忠雄が自分の机で眠っているのは見えた。
「まさかにーちゃん……」
 掃除担当だった武流が今この場には居らず、けれど同じく掃除担当の遊馬が隣で驚いている。この状況が表している事など多くは無いと翔流は思った。
「――……おはよう、ございます」
「皆さん、今日も来てくれたんですね〜、有難うございますぅ!」
 やがて仮眠室の方から武流が、起き上がった忠雄が三人の元へ現れ。お手伝い二日目が始まる。

 そして、昨日の組み合わせと変わり。こちらは翔流と遊馬の二人。
「今日はお花見デスね!」
「花見ぃ? 霊特集の取材だろ、インタビューしに行くって」
「……え、違うデスか? いんたびゅー?」
 翔流の言葉に、遊馬はあまりにも意外そうな答えを返す。
「場所も教えてもらったし、機材も借りてきたから行くぞ」
 そう言う翔流の手には既に紙とペン、テープレコーダーにデジタルカメラがあった。しかし、遊馬の頭の中では既に花見がメインで取材はおまけと言う事で話が進んでいたようで。
「うーん……どーせなら、ゆーれーサンと楽しくやるデスよ」
「――っ、あんた……なぁ」
 思わず頭を抱える翔流に遊馬は更に追い討ちをかける。
「それに遊馬、三色団子作ってきたデスよ。一緒に食べるデス」
「まぁ、楽しいのは賛成だけど……取材終わったら、な」
 一応手伝いに来ている事は自覚しつつそう言うと、翔流は先に編集部を出た。

 丁度先日告げられた開花宣言もあり、東京の桜は満開までは行かないものの綺麗に咲き乱れ、見る者の目を楽しませている。
 問題の霊が現れると言う桜は、桜の名所と言える場所の一角にあった。そこだけは見事に人が寄り付かず、辺りに比べて空気が冷たい。
「居るな……」
「早速れじゃーしーと敷くデスよ」
 言いながら遊馬は嬉々として、大きな桜の木の下にレジャーシートを敷いた。
 翔流は折角なので荷物の一部をそこに置き、早速辺りを浮遊しているモノ等――霊に声をかける。
「ちょっとそこのあんたら、取材良いか?」
 霊達は一斉に翔流を見たが、すぐに興味無さそうに顔を逸らした。
「んだよ、話ぐらい聞いてくれたっていーだろ!?」
 そんな中、着物を着た黒髪美人の霊がゆっくりと翔流の方を見る。
「――私達は御花見をしているのですよ? 御話しする事等御座いませんわ」
「なら遊馬とお団子食べるデス。志羽クンも他のゆーれいサンも、どうぞデス」
 何時の間に団子を広げていたのか…遊馬が笑顔でそう言うと、翔流の声には興味を示すことの無かった霊達が、一気にレジャーシートに押し寄せた。
 その光景に、ポツリ残された翔流は思わず呟く…‥。
「……幽霊もちゃんと食えんのか?」


「――と、言うことは…幽霊になっても花粉症が続いていると?」
 数分後、団子を食べ上機嫌の霊達に翔流はちゃっかり取材を始めていた。食べ物に釣られ上機嫌なのか、やたら饒舌だ。
「――幽霊になってから花粉症が発症してるモノも居ると……」
 インタビュー内容はメモを取りながら、テープレコーダーも使用――とは言え、霊の声は翔流自身の声で吹き込んだのだが。
 しかし暫くすると団子が尽き、興味を無くした霊達は一気に離れていく。
「やっべ……まだろくに写真撮ってないな!?」
「もう遊馬のお団子無いデスよ?」
「……しょーがない」
 そう言うや否や、翔流は常に持ち歩いている大道芸道具を広げた。
「いーか? 俺が惹きつけている間に撮りまくれ。マスクしてる霊とか、くしゃみの瞬間とか頑張って撮れよ!?」
「あ、遊馬がんばるデスよ!」
 その後、翔流の大道芸披露と遊馬の写真撮影は止まることなく一時間以上続き――ようやく取材を終えた頃、二人はレジャーシートの上にぺったりと座り込んでいた。
「一先ずインタビューは終わったし…後は現像だけだな」
 時刻は午後三時過ぎ。二人は片づけを終えると、デジカメプリントの出来る店を探すことにする。
 駅前まで出れば店はすぐに見つかり。何十枚かの写真を現像して貰う。しかし写真内容を見たのか、会計時店員の目は怯えていた。
 何とか午後五時前には編集部に帰る事も出来、無事取材メモとテープレコーダーに写真を、何故か蒼白の忠雄に提出した。


 ――この日の結果。
  忠雄 / 仕事終わらず+疲労無し。
  シュライン / 校正終了+軽疲労。
  武流 / 校正終了+疲労大。
  翔流 / 取材・写真現像終了+疲労大。
  遊馬 / 取材(お花見)お手伝い(満喫)+疲労大。


    □□□


 翌日、翔流は編集部へ寄ることなく早朝から家電店へ向かっていた。手にはチラシと資金を持ち、開店数時間前にパラパラと出来ていた列へと入り込む。
 チラシで丸がついているのは全て今日限定の物で、挙句限定数。個人的な物が入っている気もするのだが、買う物を頭の中に叩き込むと後は開店時間を待つだけだ。

 数時間後、開店の挨拶のアナウンスと同時、一気に人が流れ込む。
「まずはコーヒーメーカー二台! ボイスレコーダーにデジカメ!」
 限定五台や十台をあっという間に掴み取り、電動歯ブラシにマッサージ器と言った私物のような物を買い。
 後は限定数三桁で、購入数に制限がある物――パソコン周辺機器の小物等――を掻っ攫うと会計へ。丁度店を出る頃、店内は更なる人でごった返し始めていた。
「にしても大変だな……三下さん」
 提示した忠雄名義のポイントカードの残高は、彼が日頃どれだけ此処で買い物をさせられているかを告げている気がした。

 大荷物を抱え編集部に戻ると、武流がFAXの前で時計を睨んでいた。翔流は不在らしい忠雄の机の上と下に荷物を置くと、編集部隅のソファーで一息吐く事にした。流石にこの三日間動きすぎた。
「……よーやく終わった、な」
 ポツリ翔流が呟くと、丁度仕事を終えた武流が持ってきたお茶に口をつける。武流はソファーに座るなりぐったりして動かない。
『…大丈夫か、にーちゃん?』

 そして武流が入り口のそれに気づいたのは、もう午後五時も近い頃の事。彼の視線に気づき、翔流も入り口を見た。
「――さんしたくん、さんしたくーん?」
 そこに居たのは紛れも無い此処の主の姿。そして忠雄の名前を連呼する。
「はっ、はひぃいいっ!?」
 続いて一秒の間も許さない勢いで忠雄が返事をした。
 編集長、碇麗香――帰還。


 その日の夜、差し入れに来た遊馬と、麗香に呼ばれたシュラインも揃い。計六名が会議室に居た。
「そんな期待してなかったけれど……やっぱりさんしたくんの人望は頼りになるわ。皆、有難う」
 にっこり微笑んで見せた麗香に、全員の表情が内心では引き攣る。
 とは言え、忠雄の個人的な仕事を残し、麗香から出されていたノルマは無事達成。お手伝いは無事成功と言える。
「さて、お礼と言っては何だけどお土産買って来たら食べて頂戴」
「あ、遊馬からも差し入れあるデスよ」
「いっただきます!」
「戴きます」
「頂きます。それにしても麗香さん、今回は自ら取材?」
 不意に問うシュラインの言葉に、皆の視線が麗香へと向いた。
「――? さんしたくんに言っていかなかった? 慰安旅行だって。だからスケジュールも、別に急いでやる必要も無かったし。でも仕事は速いに越した事は無いし、明日からスムーズに仕事できそうだから良いけど」

「「「「…………」」」」

 瞬間、辺りの空気が凍った事を誰もが察する。


「聞いて、ないですよぉ……」


 最後に響くは忠雄の半泣き声だった――――。



 ――最終結果。
  忠雄 / 仕事達成率70%+疲労大。
  シュライン / 仕事達成率95%(後にメーカーが違うとケチを付けられる+若干の校正ミス)+軽疲労。
  武流 / 仕事達成率80%(後に校正忘れ箇所、ミスが出てくる)+疲労大(行動不能)。
  翔流 / 仕事達成率80%(後にメーカーが違うとケチを付けられる+写真の半分が没となる)+疲労大。
  遊馬 / 仕事達成率85%(後に写真の半分が没となる)+疲労。


 and.. 麗香の満足度 / 95%――「みんな、ご苦労様」


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
 [0086/シュライン エマ/女性/26歳/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員]
 [2459/  志羽武流  /男性/18歳/大学生(薬学部)]
 [2951/  志羽翔流  /男性/18歳/高校生大道芸人]
 [5330/  神代遊馬  /女性/20歳/甘味処「桜や」店員]

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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、いつもありがとうございます、若しくは初めまして。亀ライターの李月です。
 なんだかんだで今年初の依頼、一年ぶりのアトラスとなりました。しかしながら、お届けが少々遅くなってしまった方も居て申し訳ありません。
 今回は三下くんのお手伝い、有難うございました。三日を通し見事二手に別れ、皆さん効率良くお手伝いすることが出来ました。平均達成率(のような数値)は84%でした。お疲れ様です。
 相変わらずぽつぽつと個別部分が存在しています。他の方のも見てみると実は色々な事が起こっているので、お時間や興味がありましたらどうぞ。
 再三の注意を払っていますが、誤字脱字などありましたらすみません。その他何か問題ありましたらご連絡ください。

【志羽 翔流さま】
 初めまして、兄弟でのご参加有難うございました!巻き込まれ参加と言うことで、最初のやり取りは楽しく書かせていただきました。他のお手伝いは分散していたものの、お陰で最終日は特に助かりました。どうも有難うございます。写真が没と言うことですが、単に麗香が気に入らなかっただけですので、ネタや構図的には結構イケテいたりもします(笑)
 口調がたまに何処まで崩していいか迷ってもいたのですが、イメージに近ければ…と思います。
 説明文がやたら多めではありましたが、トラブルも続出しオチ付でしたが、お手伝いお楽しみいただけてれば幸いです。結果的には終わらせていた方が麗香の機嫌が良かったので…。

 それでは又のご縁がありましたら…‥
 李月蒼