|
月下の暗殺者
夜道は暗く、冷たく、清々しい。月が綺麗に輝くとある夜。
そんな夜に、月見里 千里は出会った。
風がおぉんと鳴くような音がした。その音のおかげで、救われる。
先ほど一閃が放たれたらしい。それをかわしてふりむくと、鎌を自分にむける少女が、いた。
銀色の髮が靡いて、キラキラと月の光に輝いている。
自分と同じか、それより少し上といったところ。
彼女の唇が動いた。
「月見里 千里さん、ですね。死んでください」
かちゃ、と彼女は鎌を振り上げ、そして一歩を踏み出す。
千里は咄嗟に、自らの能力で薙刀を作る。
空中の分子を変質固定。望むものを瞬時に作り出す事ができるその能力。
がっと硬い音をたてながら薙刀の柄で刃を受け止めた。千里は身体のわりにこの少女の力は強いと、押される感覚を受けた。
近づいてきたことで彼女の瞳が金色で、そして左目が眼帯で覆われていることを知る。瞳の光は鋭く、冷たい。
「わ、ちょっと…!」
「っ!」
千里は驚きと、そして戸惑いを少し持ちながらも静かに目の前の彼女を見詰めた。
突然でてきた薙刀、そして受け止められたことに驚いてか、彼女は間合いをもう一度とった。
瞳を細めてこちらをみている。
「いきなり何よ、もー」
「最初に殺させていただきます、と言いました。それだけの事です」
それだけのことじゃないと千里は言う。そしてのんびりとこの、今とられている間合いを崩さないようにする。
「危ないでしょー……大体あたしなんか殺してもなんもなんないのにねぇ」
薙刀を構えて、振り下ろされる鎌を綺麗に捌く。キィンと硬い音が何度も何度も響いた。
それはまるで音を奏でるかのように。
昔習っていたおかげもあり、薙刀を使い攻撃をかわし、そして流す。それは苦もなくできたが、やはり集中していないとそれは難しい。何撃もかわし、そして隙を伺うがなかなかそれは出来ない。焦らないように心を落ち着かせる。
こちらが落ち着いていれば、向こうも焦りを見せるかもしれない。
冷えた瞳を向けてくるな、と思いながら千里は対応する。
上から鎌を振り下ろしてくれば一歩下がり、懐が空いたと思えばそこに勢いをつけて踏み込んでみたり。
相手のように傷つける、という意識がない分、低い分、千里の方が分が悪い。
かわしかわされ、というのが続く。それがどれほど続いているのかもうよくわからない。
ただ千里は最初の力強さがだんだんとなくなっているのを感じていた。
だけれども自分の手も少し痺れてきている。
と、一撃凌いだところですっと掌の中から薙刀が崩れる。
「時間切れ、かぁ……ということは一時間やってたってことか……」
千里は苦笑するがまた掌に薙刀を生み出す。先ほどよりも自分に使いやすい形に合わせて。
いつまでも防戦一方では駄目かと思い千里は自分から薙刀を構えて踏み込む。
もちろん、相手も防ぐのだけれども勢いと気合は今まで以上だ。差を感じてか彼女が身を引く。
この攻勢に彼女が慣れる前、今しかないと千里は思い一気に踏みを深く、そして身体を沈めて力強く動く。
「うりゃあっ!!」
踏み込みは掛け声と共に。
千里は薙刀で鎌を上へとはじいた。その振動が手に伝わってくる。そしてがキィンと硬い音を響かせてその鎌は夜空に舞った。それは綺麗に弧を描いて彼女の後方に落ちた。
彼女は後退り、後方に落ちた鎌をちらっと見る。
表情はまずった、と苦々しげだ。
「あたしは殺したりとかしないから大丈夫だよ」
ふぅ、と一息つき、そして薙刀の先をおろしつつ千里は言う。
けれども気は抜けない。
「だいたいあたしなんか狙っても意味ないのに……とりあえずさ、名前教えてよ」
千里はにこりと笑う。
一度彼女は瞬いて、そして口を開いた。
「……凪風シハルです」
ぽそりと彼女は呟き、視線は外さない。
「シハル、ね……誰の依頼か聞いていいかな、名前適当に並べていくからさ、反応してほしいなー、とか」
千里はいくつかの名前を思い出しつつ並べる。
その名前の羅列は自分にとってかかわりがあるようでないもので。
自分が言っている名前であるのに千里には他人事のようだった。
実家のある地元、そこで親類だと、自分に関係あるものだと見聞きした名前、その一つにぴくりとシハルが反応した。
「あ、今反応した……そっか……ばっかだなぁ。あたしなんか殺してもなんの足しにもならないのに……あたし、末っ子だってわかってるのかな」
千里は思い切り溌剌とした声色で苦笑しながら言う。
その表情を、様子をシハルは観察するようにみていた。
そんな彼女を千里はまっすぐ見て、笑いかける。
「でも、ま。折角だし、一緒にお茶でも飲まない?」
「お茶……ですか?」
「うん、て言ってももう時間が時間だし、お店開いてないから……公園かどこかで缶ジュースってことになるけどさ」
はぁ、と曖昧な声でシハルは返事をしそして少し困ったような表情を浮かべた。
「……うん、まぁ……いいです。私もやる気なくなっちゃっいました……」
つん、と冷たい印象は変わらないものの、その態度には歳相応のものを感じる。というより歳よりも少し幼いような印象を、今までとは変わって受ける。
「あはは、じゃあ行こうか、途中で自販機でもみつけてさ!」
「うん、それでいいです」
じゃあ行こうか、と歩み始めた千里を追おうとしたが、ふとシハルは思い出したかのように走る。後ろにあった鎌を持ち、それを自分の影の中に溶かすように落とし込む。
千里はその様子をじっと見ていた。自分の力と、同じようでそうでないものなんだろう。
千里はいまだ掌にある薙刀を一瞬見、そして足下にからん、と転がす。
一時間以内にこれはさらりと先ほどみたいに消えてしまう。だからいいか、と思う。
「……薙刀、置いていくんですか?」
「うん、いらないでしょ」
千里はにこっと笑顔だ。調子が狂う、というような表情をシハルは浮かべる。
暗闇の中、灯がほのかに燈っている公園。途中でみかけた自動販売機で飲物を買って、二人は歩く。
「シハルちゃんはいくつ?」
「……シハル、ちゃん…………」
「あ、ちゃん付けっていや? だめ?」
「いえ、あんまりそう呼ばれないもので慣れないだけです。私は十八歳ですね」
「あたしより二つ上かぁ、なーんかそんな感じ、あんまりしないんだよね」
「そうですか」
淡々とシハルは答え、ぐびりと一口缶ジュースを飲む。
千里はそっけないなぁ、と思う。
なんとなく、仲良くなれそうな気もするのだけれども、まぁまだ会ったばかりといえる二人なのだ。それは無理かもしれない。
「じゃあさ、好きな事……趣味は何かないの?」
「特には」
「え、折角若いのに何か趣味もたなきゃ駄目だよ! そうだ、あたしと一緒にゲームしよう、コスプレしよう! 楽しいよ!」
「ゲームに、コスプレ……」
シハルは眉を顰め、うんうんと頷く千里を見る。それは何だ、とまるで怪しいものをみるような視線を受けて千里は笑う。
「あのね、なんていうか、自分なんだけど自分じゃない感覚? そーゆーのがあるのかな」
「ああ、なるほど。自分だけど自分じゃないっていうのなら、わかります」
「そう? いいよね、別の自分になれるって!」
それから二人は、公園内をずっと歩き回る。ベンチもあるのだけれども、なんとなく座るのは躊躇われた。
千里が明るく元気に、場を盛り上げようと話しかけ、それを淡々とシハルが受け流す。そんな会話が続くのだけれども飽きはこない。飽きよりも、新しい発見がある。
「……千里さん、時間は大丈夫なんですか?」
「え、あーそういえば……そろそろ帰らないと明日に響く……かも!」
ふと思い出したかのようにシハルは言う。何時の間にか出会ってから、戦ってから、話し始めてから何時間もたっていた。時間が立つのが早い。
千里はたたっとシハルの数歩先に進み、くるっと回ってまっすぐ視線を送る。
正面から凛と静かに強く。
「また会えるといいね」
「その時は、今日の続きかもしれません」
「そうだね、今日の、今の続きでまた話しようね!」
またね、と千里は手を振り、そしてシハルに背を向けて歩き出す。
シハルは自分の逆方向に進んでいると背で感じた。
なかなかに刺激的な出会いだったけれども、なんとなく、シハルも普通の女の子なんだろうなと千里は思う。
仲良くなろう、と彼女への好奇心を感じつつも思う。
今度会ったら何をしよう。
そんなことを考えながら千里は暗闇の中、家路へとつく。
月見里 千里と、凪風シハル。
今の関係は、暗殺ターゲット以上、知り合い以上、友達未満?
今回は、千里はシハルの技を全て凌いでかわして。千里は勝ったと思ってないが、シハルは負けたと内心ひそりと思っている。
次に出会う時、この関係がどうなっているのかは、まだ誰も知らない。
知るわけが、無い。
<END>
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
【整理番号/PC名/性別/年齢/職業】
【0165/月見里・千里/女性/16歳/女子高校生】
【NPC/凪風シハル/女性/18歳/何でも屋】
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■ ライター通信 ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
月見里・千里さま
はじめまして、今回は無限関係性一話目、月下の暗殺者に参加いただきありがとうございました。ライターの志摩です。
元気な千里さまをかけて楽しかったです!そ、そのうちコスプレ姿でも…!(…)千里さまらしさが少しでもでていれば良いな〜と思っております!
次にシハルとであったとき、今回の続きなのか、それとも他の形での出会いか、それは千里さま次第でございます。
ではでは、またお会いできれば嬉しく思います!
|
|
|