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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


+闇鍋パーティでどっきり!?+



■■■■



「闇鍋しようと思いまして」
「闇鍋しようと思ってさ」
「……なんで?」


 スガタとカガミと名乗った少年二人が声を揃えて言った。
 聞いていた草間は首を傾げる。依頼人の言うことがさっぱり分からなかったのでもう一度聞き返した。


「僕達最近暇なんですよ」
「俺達最近暇なんだよなー」
「だから此処なら面白い人が出てくるかなーって思いまして」
「だから此処なら面白い人に出会えるかなーと思ってさ」
「「と、言うわけで闇鍋やらない? ていうか強制?」」


 二人声を合わせてくすくす笑う。
 それから紙を渡す。草間はそれを見やり、それから顔を持ち上げた。しかしすでにそこには少年達はいない。一体なんなんだともう一度紙を見やる。
 紙にはこう書かれていた。


『本日九時より草間興信所にて闇鍋パーティ開始。草間は参加者に連絡を取って、「何か食べ物をもってこい」とだけ伝えること』


「この場所ですること強制かよ!?」


 思わず紙を握りつぶす草間。
 しかし、なんとなく面白そうだと思ったのも事実。携帯電話に指をかけ、アドレス帳を開く。取りあえず彼は何人かに連絡を取ってみる事にした。



■■■■



「えーっと。武彦さんや零ちゃんだけじゃなく他にも来る口ぶりだったから、丁度知人から貰った物を持ってきたの」
「……そ、そうか」
「何を持ってきたのかは闇鍋ってことで秘密にするけれど、これが鍋に入っちゃうのかぁ……不思議な触感になりそう」


 草間は彼女に闇鍋パーティをすることになった経緯を話す。
 するとシュラインは肩を竦めて「そういうのに本当に好かれるわね」と笑った。本人は不本意だったらしく眉を顰める。心霊現象、超現象お断りだと何度叫んだのか分からない。しかし、この興信所には『そういうもの』ばかりが集まるのだから困ったものだ。


 興信所にやってきたシュライン・エマは手に持っていた袋を軽く草間に見せる。
 彼は煙草を灰皿に押しつぶしながら彼女を招いた。台所の方ではすでに零が鍋の準備を始めている。草間達は最初から闇鍋パーティだと言う事を知っているのでベースになるだし汁を担当することにしたらしい。こんぶと鰹節の良い香りが室内を満たす。


「これは単品で食べるなら文句なしに美味しいのだけどね。現状、味や色や匂いは謎だけど鍋って聞くだけで暖かい気がして嬉しいかも」
「もうそろそろ春だけどな」
「まだ鍋を食べるだけなら良いんじゃないかしら」


 彼女は愛用の割烹着を着用して台所に向かう。
 草間はその様子をソファに座りながら見送った。煙草をもう一本吸おうかと迷う。だが、これ以上煙を増やして鍋パーティに支障を出しても嫌だったので、吸おうとした煙草を箱の中に仕舞いこんだ。
 奥からは零とシュラインの楽しげな会話が聞こえてくる。


「えーっと、これの皮は食べられないから剥いてっと……あ、でもあんまり小さくしても溶けちゃいそうだし半分に割るくらいにしておくわね。こっちは一口大にすればいいかしら」
「それ、とても美味しそうですね」
「ふふ、このまま食べたら美味しいとは思うわよ? でもまあ……鍋に入れたらどうなるかはちょっと保証出来ないわね」
「……ですよね……」
「ところでお茶碗とか用意したいのだけれど、結局何人来てくれる事になったのかしら?」


 てきぱきと人数分のお椀、箸、それから布巾やお玉等細々と用意する。
 一体これからどうなるのか少々不安になりつつも、草間だってパーティ自体は嫌いじゃない。楽しめるのならばそれでいいとは思う。
 だが。


「そうそう、胃薬も確かあったはずよね。後は洗面器やバケツも一応準備しておきましょうか」


 ……こういう台詞が聞こえてくると不安が増大するだけで。


 はぁあっとため息が零れる。
 その時丁度玄関のブザーが鳴った。零が「はぁーい」と走っていく。やってきたのは主催者である少年二人。彼らは草間に対してにっこり&にぃっと笑いかける。その何かを企んでいるような笑顔を見た瞬間、思わず脱力する。それからソファの背凭れに背中を預けて一言呟いた。


「無事に生き残れますように、だな」



■■■■



 そして最後にやってきたのは門屋将太郎(かどやしょうたろう)。彼はよっと手をあげながら挨拶をした。


「闇鍋パーティに招いてくれてありがとよ、草間さん。おっ、スガタにカガミじゃねぇか! お前達も呼ばれたのか」
「こいつらが主催者だ」
「あは、暇だったもので」
「あっはっは、暇だったから」
「? お前ら知り合いだったのか?」
「「ちょっとね」」


 草間と対面するように腰掛けた少年二人は声を揃える。
 零に出してもらったジュースを飲みながら足をふらふらと遊ばせている。彼らは一体何を持ってきたのだろう。二つに分けられた袋が非常に気になる。


「あ、材料持ってきたぜ。取り合えず食えそうなもんを」
「サンキュ。ちなみに闇鍋だから何を持ってきたかは言わなくて良いぞ」
「闇鍋……ならまあ、こんなもんでいいっか。悪いが台所借りるぞ。このままじゃちょっと放り込めない材料があるんでな」
「ああ、勝手にしてくれ」


 シュラインと零は自分達の材料の準備が終わったらしく、今度はテーブルの上を拭いたり食器を並べたりしている。門屋はそんな彼女達に簡単に挨拶をしてからまな板の前に立った。何を出したのかは見えないが、取り合えず『食べられるもの』なのは前提だ。その材料のままだったら美味しいのだろう。
 だが、行なうのは闇鍋パーティだ。何が入るのか分からないところがポイントである。


「これはこんなもんでいいっか。んでもってこっちはーっと……あ、零ちゃん。これ切ったらそのまま突っ込んで良いわけ?」
「いえ、どうやら一斉に材料を突っ込むみたいですよー。でも硬いものは煮込むのに時間が掛かるらしいのでそれだけは先にと」
「じゃあこれだけ入れとくか」


 どぼどぼどぼ。
 それからすぐにばんっと蓋が閉められる。今現在中身を知っているのは門屋だけ。出汁の良い香りが消えなかったのでまだまともな材料だったのかな、と一同は思った。ぐつぐつとガスコンロの上で煮込まれる鍋。この時点『では』美味しそうだ……と誰もが思う香りが辺りを漂う。


「ところで草間さん、参加者は何人ですか?」
「ところで草間、お前何人呼んだの?」
「こいつらだけだ」
「「えぇー……」」
「うっせぇ! 他の皆は忙しかったり、何となく嫌な予感がするから嫌だって逃げたんだよ!」
「「ち」」


 声を揃え、指をぱちんっと鳴らして心から惜しむ声。
 ぐつぐつぐつ。鍋の良い音がする。


「じゃあ、そろそろ始めましょうか」
「はーい」
「ういーっす」
「やっと始まるのか」
「あっと、飲物とコップも必要だったわね。物によってはなかなか飲込めない事あるでしょうし……」


 シュラインはコップ等を用意してから割烹着を脱ぎ、草間の隣に腰掛ける。
 それから零は彼女の隣に座った。最後に門屋がスガタの隣に腰を下ろして全員揃ったことになる。与えられた食器とお箸を面白そうに弄くっているのはカガミ。スガタの方はにこにこと自分の持ってきた袋の表面を撫でていた。


「何は兎も角、楽しくやろうぜ。折角のパーティなんだし」
「そうね。楽しまなきゃ損よね武彦さん、零ちゃん」


 何故だろうか。
 門屋とシュラインの声に草間は先行きの不安のためか、苦笑しか返せなかった。



■■■■



 部屋の照明を消し、蝋燭だけの明かりにしてから皆一斉に材料を入れる。
 沢山の食材によって、どばどばどばーっと出汁の跳ねる音が聞こえた。時々跳ねた其れによって「熱っ!」と声があがる。今は手元程度しか見えないので仕方がないと笑うしかない。
 そんな風に始まったパーティ……だが。


「ぴぎゃぁあああああああ!!!」


 何やら、変な叫び声。


「スガタ……お前今何入れた……?」
「え、食べ物だよー。ちゃんと食べれるよ、保証済みだよ?」
「お前、アレだな!? アレを入れたな!?」
「さーって良くかき混ぜて不正のないようにしなきゃねー」


 にこにこ微笑みながらぐーるぐると箸でかき混ぜる。
 カガミは大量の汗を流しながらあわわわわっと慌て始めた。その様子を見ていた他の四人は「一体何を入れたんだろう……」と心の中で呟く。同時にろくなものではないということが分かったので「当たりません様に」とそっと祈った。


 どれくらい経っただろうか。
 食材をいれ、ぐつぐつ煮込むこと十分程度。そろそろ大丈夫だろうと零が蓋を開く。中身はまだ見えないが、あたりを漂う匂いによって一種類だけ何を入れたのか推測することが出来た。


「さて、此処で特別ルールです」
「さて、此処で特別ルールな」
「ん? 何だ?」
「何かしら?」
「今度は何が飛び出すんだ……」
「この闇鍋では自分が取った物を自分で食うんじゃなくって、隣にいる奴に食わせること。此れが条件。ちなみに一周回ったら反対周りすることな」
「じゃないと安全そうなのを皆選んじゃうでしょう? ですから、箸で取った物を絶対に相手に食べさせてあげて下さいね」


 二人が説明を終える。
 その言葉に草間の顔がひくっと引き攣った。どうやら彼は安全そうな食べ物を狙うつもりだったらしい。しかしこのルールでは其れも出来ない。よって、唯一の逃げ道を奪われたわけである。


「んじゃまず僕からね。はいカガミあーん」
「あーん……ん? んんんんんんん?????」


 カガミが首を傾げる。
 それからぐっぐっぐっぐっぐっとテンポよく顔の色を赤に変え……。


「辛ぁあああああああああああ!!!!」


 唐突に火を吹いた。


「何これ、何これぇえ!?! マジで辛い辛いからいぃいい!!」
「あ、それ多分俺が持ってきたハバネロだわ」
「ハバネロって何ですか?」
「つまり唐辛子だな。まあ、カガミ。お前は水飲めや」
「飲むッ……んっくんっく……くぅ……ぷはぁあ!」
「ハバネロって香りだけなら柑橘系で結構フルーティなんだけどさ。……本当に大丈夫か?」


 ぐたっと崩れたカガミのつむじを門屋はつんつんと突付く。
 涙がぼろぼろ零れた様子から言って、相当な辛さだったらしい。それでも何とか復活すると、箸をがしっと掴んで鍋の中に突っ込む。それから彼は何かを取り出すと、門屋に突きつけた。涙が滲んだ為に視界がはっきりしていないらしい。睨みつけるような表情になっている彼に思わず苦笑。


「さぁ、食え。やれ食え!」
「そ、そんな殺気立たなくても食うから……んむ」
「どうだ!」
「んー……美味いような……不味いような……。ま、食えるからいいか」
「其れは一体何なの?」
「んーっと、これは多分、鶉の卵?」
「あ、それは私が持ってきたの。小さいゆで卵って可愛らしいわよね」


 うふふっと笑うシュライン。
 眉を歪めながら何とか食いきった門屋は水をぐびっと煽り飲んだ。あまり口の中に残したくない味だったらしい。


「と言うよりも匂いで分かるものがありますしね」
「なー……つーかもうばらしちまえ。誰だ、カレールゥなんて入れたの」
「あ、はい。俺だ俺」
「……こんぶと鰹節の香りが一気に消えたな」
「仕方ねえだろうが。カレーだけなら美味いぞ?」


 そう言いながら門屋は零に何かを差し出し食べさせる。
 どんな反応が出るのかと皆で注目していると、零はうっと口元を押さえた。どうやら『アタリ』だったらしい。食べれないでいる零を見て少々皆慌て始めた。


「大丈夫か? 吐くならほれ、バケツがあるぞ」
「た、食べ物を粗末にして……は……」
「でも体調を壊すよりかはマシよ?」
「の、飲み込み……ます」


 ごっくん。
 根性で飲み干した彼女に拍手が沸いた。何を食べたのかと彼女に尋ねる。
 すると。


「な、何かすっぱくて、ぶにぶに……してて、それでいてカレーの味が……その異常なほどのはーもにー……が」
「御免なさい。それ多分私のキウィだわ……」
「フルーツはきついな」
「……まだあるから気をつけてね?」


 その言葉にぞっと寒気が走る。
 零はよろめきながらシュラインに何かを出す。差し出された彼女は一瞬首を傾げ、それからちょっと角度を変えて『其れ』を見遣る。


「あら櫛もの。練り物なのかしらね。それならきっと美味し……」


 ぴたっと止まった台詞に一同が固まる。
 シュラインは口元をそっと押さえ、ごくん……っと静かに飲み込んだ。それから水を飲んで口の中を軽く濯ぐようにする。そうしてにっこりと微笑みを作りながら言った。


「カレー味のお団子……ね」
「あ、それ俺が持ってきた。ほら、確か鍋にこういう三色の団子みてーなの入れるだろ? 誰か騙されねーかなって思ってさー」
「カガミ、お前企んだろ」
「あったりまえだ」
「流石に三色団子が入っているとは思わなかったわ」
「まだあるから気をつけてな。ほら残ってるし」


 三色団子は三つのお団子がくっ付いて一本。
 食したのはまだ一つだけ。まだ櫛に残っている二つを見遣り、シュラインは遠い目をした。それでも出来るだけ噛まないように気をつけながら飲み込む。そうして全てを食べ終えれば、やはり美味しくないのかうえっぷと苦しんでいた。やがて苦しさの波が引くと、彼女は箸を掴んだ。


「さ、次は武彦さんの番よ」
「……や、やっぱ俺も食わなきゃだめか?」
「だって参加してますし」
「だって参加してんじゃん」
「強制だっただろうが! ったく。こうなりゃ自棄だ。さあ、食わせろ」
「はいはい、じゃあ武彦さんあーん」
「あーん」


 シュラインが鍋の中に箸を入れて何かを引っ張り出す。
 その瞬間。


 ざばぁあああっ!


 なにやら大きな音を立てて食材が出てきた。
 何が出てきたんだ!? と入れた本人以外が目を丸くする。どう考えても鍋材料には相応しくない大きさ&細長い形状のもの。カレーに塗れているが表面の色がオレンジ色であることと、ぷらんっと出ている手足のようなものが辛うじて『其れ』だと分かった。


「やっぱり『いよかんさん』を入れたのかぁー!!」
「あっはっは、食べ物でしょう? 美味しさは保証済みっ!」
「お前アレを愛していたんじゃねーのかよ!」
「愛してるよ、愛しているとも! だから食したいと思っても仕方ないでしょう? ほら、ネタとして使えそうだったし」
「や、愛があるなら止めてやれよ」


 カガミはがっと足を一歩出し、相方スガタの襟首を掴んで大きく揺さぶる。
 指を立てて説明をする少年を見遣りながら、シュラインは掴んでしまったものを器に入れた。それから決して手では触れないように気をつけながら其れの皮を剥く。剥かれるたびに手足らしきものがぴくぴくっと跳ね上がる様子は少々スプラッタを想像させ……正直その状況を実況するだけの勇気は誰にもなかった。


 いよかんさんの魂はあの奇声が発生した瞬間にはすでに抜けているので、現在は他のいよかんへと乗り移るために今は八百屋にでも向かっているのかもしれない。カガミは何となく同情しながらも顔の付いていないいよかんさんが解体……いや、剥かれていくのを観察した。
 やがて背の高いいよかんを剥き終わり、一房だけもぎ取る。それから草間に向かってそっと差し出した。


「やっぱり、こういうものは皮を剥いて入れなきゃ。ね、武彦さん」
「そ……そういう問題か?」
「取り合えずこれくらい剥けば食べられるわね。はい、あーん」
「あ、あーん………………ぅ、生温い……」
「まだ皮を剥いて貰った分カレーの味しなくていいんじゃないか? ホットみかんってのがあるくらいだし、まだ同じ柑橘類だから食えるだろう」
「門屋……お前そうは言ってもこれホットいよかんだぞ? しかも並大抵のでかさじゃない分、量も多いんだ……。なんならお前も食ってみるか?」
「いやいやいやいや」


 勢い良く首を振ってお断り。
 門屋は鍋の中に箸を突っ込んで一度ぐるぅりとかき混ぜた。箸に引っ掛かるものといえば小物ばかり。どうやらいよかんさんはシュラインが引き当てたものだけらしい。そのいよかんさんといえば、まだ一房しか食べていないため器にこんもりと乗せられたままだ。


「……これ、全部食えと?」
「全部食べさせてあげるわよ。はい次、あーんして」
「頑張って下さいね、草間さん」
「頑張れ、草間!」
「死んだら骨くらい拾ってやるから」


 ほろほろほろほろほろ。
 草間が心の中で涙を零しながら出されたいよかんをあむっと銜える。生温かい其れはジューシーでフルーティ。何となくアタリのような外れのような……そんな複雑な気持ちでいっぱいになりながら咀嚼を続けた。


 何はともあれ闇鍋パーティ。
 まだまだ材料は残っていますので……皆様、くれぐれもお気をつけ下さいませ。



……Fin





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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【1522 / 門屋・将太郎 (かどや・しょうたろう) / 男 / 28歳 / 臨床心理士】
(持ってきた材料:大根、白菜、激辛カレールゥ、ハバネロ)
【0086 / シュライン・エマ / 女 / 26歳 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
(持ってきた材料:バナナ、キウィ、鶉の卵)

【NPC / スガタ / 男 / ?? / 案内人】
(持ってきた材料:いよかんさん※共有化NPC)
【NPC / カガミ / 男 / ?? / 案内人】
(持ってきた材料:三色団子)

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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、発注有難う御座いました。
 今回シュライン様にはカレーの付いた三色団子を食べて頂きましたが、如何なものでしたか? 何となく美味しそうな……でも甘そうな&辛そうな……そんな味がするかと思われます(笑)