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ひな祭りと天児
もうすぐひな祭り。
幽艶堂もこの時期ばかりは大忙しで雛人形の出荷に当たっている。
「さぁ、これが最後。皆さん御疲れ様でした。これで当日はゆっくり過ごせますよ」
翡翠が全員にお茶を配ると、紅蘭が疲れた体を大きく伸ばし、そうや!と声を上げる。
「なぁなぁ!せっかくやしひな祭りやらへん?女の子の節句とかそんなん抜きで人呼んで」
紅蘭の提案に、一同顔を見合わせる。
確かに、出荷はもう終わったし、他に急ぎの仕事もない。
「骨休め…と思えば宜しいのでは?師匠方」
御盆を膝の上に置き、そのまま輪に入って正座する翡翠は最終的な承諾の権限を持つ師匠たちに尋ねた。
「あては構しまへん。たまにゃぁええでっしゃろ。あんさんらのいいようにしおし」
そう言って雀はズーッと熱い茶をすすり、にこにこ笑っている。そんな雀に、他の二人もまぁいいか、と承諾した。
「っしゃ!おぉきにぃー!蒼ちゃん!翡翠はん!黄ちゃん!しっかり手伝ってーなぁ?」
紅蘭が張り切って当日のプランを練っている頃、翡翠が仕事部屋で一体の天児を出していた。
「―――この子も流してあげないといけませんねぇ…」
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■梅香に誘われ
竹林を抜け、幽艶堂の茅葺屋根が見えてくると、彼らを今か今かと待っていた紅蘭の京都弁と関西弁が混ざった独特の発音が出迎える。
「よぉきはったねぇ。そないえぇモンはあらへんけどぉ、ゆっくりしてってなぁ。菊坂はんこないだぶりやねー」
「この間はお世話になりました」
紅蘭のテンションも慣れてしまえば気にならないもので、静は会釈し、にこやかに振舞う。
「おお!こっちの坊は双子かぁ、かわえぇ顔しとるなぁ♪ウチ紅蘭。仲よぅしたってやー」
まず真っ先に守崎・啓斗(もりさき・けいと)の手が掴まった。
いきなり何だと、眉を寄せ、当然の反応を返そうとしたが、あまりの豪快さに気おされ、気の抜けた返事をしてしまう。
「すげ…」
弟の守崎・北斗(もりさき・ほくと)は、止め入る隙が無かった為、傍観している。
それを見て気の毒そうに苦笑する翡翠が、助け舟を出した。
「紅蘭、紹介は後でしますので…まずは貴女が担当する準備を終えてきてから絡みなさい」
その言い方もどうかと思うのだけど…と苦笑するシュライン・エマは、準備という言葉で自分が手にしていた分と、草間に持たせた分の荷物を思い出した。
「あ、紅蘭さん?準備って宴の準備ですよね。宜しければこれどうぞ。彩りを添えるかどうかはわからないけど…」
「え?なになに?……おおおっ!?スゴッ」
手渡されたお重の中身は、蛤と菜の花ワインで蒸したものや、甘酒のムース、手まり寿司など、見るも鮮やかな品ばかり。
「ぅわ―――ぁ…いやほんまおおきにぃ、姐さん。蒼ちゃんやうちの師匠の料理やと何や茶色ばっかでなぁ。いやこんな綺麗な料理、嬉しいわぁ♪」
「喜んでいただけて嬉しいわ」
紅蘭の屈託の無い子供のような笑顔と喜びように、シュラインは些か照れてしまう。
「さぁ、こんな所で立ち話もなんですから、皆さん先に宴の席へどうぞ。師匠たちがお待ちです」
工房の真向かいにある、もう一件の古民家。
煙管をぷかぷかと吹かしながら二人の老人が、その軒先に腰掛けている。
「師匠方、こちらが昨日の一件で大変お世話になった草間探偵とシュラインさん、守崎さんご兄弟。そしてこちらは先日いらっしゃった菊坂さん」
それぞれ会釈すると、煙管をふかす老人にくしゃっと皺が増え、よぉ来やったなぁと、快活に喋るその通りのよい声は、なかなかに心地よい響きだ。
もう一人の老人は対照的で視線をちらりとくれるだけで一言も喋らない。
だがそんな彼の気持ちを代弁するかのように、もう一人がよく喋った。
そしてかまどの方からこちらへやってくる、場に似つかわしくない屈強な男に目を見張る。
「皆さんいらっしゃいませ、幽艶堂へようこそ。ボクは手足師見習いの黄河(こうが)といいます。こっちのバンダナのよく喋る方が御厨・虎太郎(みくりや・こたろう)、ボクの仕事の師匠です。そして隣が辰田・宗次郎(たつた・そうじろう)師匠。うちの頭師です」
見た目に反して実に穏やかな物腰に、些か肩透かしくった感は否めない。
しかし雰囲気からすると見た目と中身のギャップを気にするタイプだろう、と、思った一同はそれ以上に態度には表さなかった。
雛壇の置いてある奥座敷に通された一行は、思わず感嘆の溜息をもらす。
「これは、すごいな…」
「綺麗だね…」
煙草を取り出しかけた草間はその手を止め、気鬱な顔をしていた静の表情は優美な雛壇を前にふと明るくなる。
「七段飾りの雛壇…さすがねぇ…細工物もいい造りだわ」
女性であるシュラインは当然ながら雛壇の優美な様に見惚れ、少女のように華やいだ顔を見せたかと思うと草間や他の三人の視線に気づき、軽く咳払いして誤魔化した。
シュラ姉も可愛いトコあんのな、と茶化しながらも北斗は雛壇をしげしげと見つめる。
「すげー…実は昔っからこの菱餅…つーの?これだけは食う機会が無くてさぁ?だって俺ら一応男じゃん?この年になったらこの時期スーパーにいきゃ売ってんだけど…なんとなくこっぱずかしいじゃん?」
「でしょうね。私も直接ひな祭りに参加するのはこれが初めてです。紅蘭と雀師匠に感謝ですね」
そう答える翡翠に、北斗はあれやこれやと質問しつつ、物珍しげに雛壇を見つめ、菱餅や雛あられなどを手に取り、んまい?と聞いてくるあたりはやはり花より団子な北斗だった。
そしてそんな北斗とは対照的に、雛壇に見入るもののあれこれ薀蓄を語るでもなく、啓斗はただその光景を見つめていた。
男なのだから当然こういった女の子の節句には縁が無い。
雛人形をまじまじと見る機会などあるはずもなく、大人しく会話を聞いている。
そのときだ。
「翡翠や。始める前に先にやっといた方がいいんでないかい?」
縁側にいた虎太郎は紅蘭や雀が宴の準備に勤しんでいる間に、事を済ませてしまえと催促する。
「…嗚呼、そうですね。先に用事を済ませておきませんとね…」
翡翠の表情が少し曇った。
食べ物に夢中の北斗や、煙草を吸うのに外へ向かった草間を除き、他の三人はその様子に気づいた。
「翡翠さん、もしかして…」
シュラインの問いに翡翠は浅く頷き、皆さんもご覧になりますか?と尋ねる。
「見るって…何をですか?」
一人状況を把握していない静は、首を傾げつつ質問する。
昨日の一件を知るシュラインと啓斗は、勿論天児のことだとわかっていた。
自分たちの口から言うべきかと、一瞬躊躇ったのを翡翠も感じたのだろう。
準備をする為に外へ向かう途中で、簡潔に説明した。
「ひな祭りは今でこそ煌びやかな人形を飾りますが、立ち雛や天児(あまがつ)…這子(ほうこ)といった信仰の対象を祀り、子供にふりかかる災厄を人形が肩代わりする為の儀式…とでも申しましょうか。私がこれからするのはその御役目を終えた人形たちの供養と穢れ落としなのです」
「穢れ…」
それを聞いた瞬間から、静の表情が一気に曇った。
勿論、あまり聞こえのいい話ではない。
「身代わりの人形なんだ…」
「そうです、子供を災厄から守る為に用意された空の器です」
「でも、どうして人形って流さないといけないのかな…何だか、日本神話の蛭子流しや、静御前の子供を由比ヶ浜に流した話と似てる気がして…
僕は…何となく、嫌だな…
はっきりとは言わずとも、静の表情や声にならない声を発する口元を見ればわかることだった。
しかし、流さねば終わらない。流さねば始まらない。
これは師匠たちと自分のケジメでもある。
他の若衆は今は知らなくていい。
それぞれの師匠たちが最終的にそれぞれに受け継ぎ、与えるものだから。
「―――では、幽艶堂の人形流しをご覧あれ」
■想いは巡る
紅蘭たちの目に触れぬよう、こっそりと竹林の奥へ進む一行。
風が吹けば、シャラシャラと錫杖の音にも似た、笹の葉が擦れ合う音が耳に響く。
「――あら?」
笹の葉が擦れ合う音に混じって微かに、川のせせらぎが聞こえてきた。
「うちが人形流しに使っている川です。この辺り一帯で見ても、これ以上の清浄な水はありません。ここで儀式を行います」
川縁に降り、人形流しの支度を始める翡翠に、先程から考え事をしていた啓斗が口を開いた。
「…なぁ?天児って…悪く使ってしまえば「呪いの藁人形」とあまり大差なくなるんじゃ…ないのか…上手く使えばこうやって身代わりになってくれるんだろうけれど…」
啓斗の質問に、翡翠は微苦笑しつつも彼の言うことが概ね当たっていることを告げる。
確かに、今手元にあるのは天児から転化した藁人形が数体ある。
翡翠の手元を見ながら、静の表情はいっそう暗くなった。
「穢れを受けたから、流されてしまう…どうやっても一緒にいられないのかな?…いられなかったのかな……」
ふと視線を落とし、今にも泣き崩れるのではないかと思ってしまうぐらい、か細い声色。
そして、他の誰に聞こえるでもなく、翡翠の耳に届く程度の小さな声で、静はつい本音を洩らした。
「…僕も、流されるのかな…穢れてるから…」
「…菊坂さん…」
「!」
今更遅いと解っていても、咄嗟に口元を覆い隠し、慌てて言葉を足す。
「――御免なさい、何でもないです」
傷つき、それでもなお今を生きる静を、翡翠は僅かながらにも知っている。
それはあの、闇が巣食う庵で一夜を明かした者だからという意味もある。
「菊坂さん…」
肩に手をかけようとした矢先、静は翡翠をまっすぐにみて問うた。
「翡翠さん…「穢れ」は、水に流れていつか…綺麗になると思いますか?だから天児も…沈まずに何処かで流れ着ける様に、小船で流されるのかな…?」
二人のやり取りの内容はボソボソとしか聞こえない。
傍に行けば済む話なのだろうが、シュラインも啓斗も、如何せん近寄りがたい空気を感じていた。
「――ねぇ、翡翠さん。私たちに何か手伝える事があります?」
思い切って言葉にすると、翡翠はいつもの柔らかな口調で、御手伝いして下さるなら有難いです、と、微笑んだ。
「――あと、昔の様に川に流すにしても下流で止まっちゃうだろうし…流してしまいさえすれば回収しても問題はないのかしら?」
「では一連の流れをご説明致しましょう。菊坂さんの想いも酌んで…」
三人に向き直り、翡翠は三体の藁人形を差し出した。
「シュラインさんがお持ちの分が昨日の天児の中身。菊坂さんと守崎さんの分は以前から預かっていた分になります。まず、よく知られているもちがせの流し雛は旧暦の三月三日のひな祭り、男女一対の紙雛を桟俵にのせ、菱餅や桃の小枝を添えて、災厄を託して千代川に流します。無病息災で1年間幸せに生活できますようにと願う民俗行事です」
説明に浅く頷きながら三人は聞き入った。
「もともと物忌みの行事で、紙などで人形(ひとがた)を作り、これで体をなで、災いをその人形にうつして川や海に流す行事から生まれた風習です。この行事がいつの頃から始められたのか、文献等の記録が少なく定かでありませんが、源氏物語に源氏の君が祓いをして人形を舟に乗せ、須磨の海へ流すという著述があり、雛流しそのものの原型は、遠く平安時代にさかのぼるといわれています」
「夏越の祓えなんかもそうよね」
シュラインの言葉に翡翠はにこやかに頷いた。
夏越の祓えとは、古来より、『水無月の 夏越の祓えする人は 千歳(ちとせ)の命延ぶというなり』と詠まれ、日々の生活の中で知らず知らずのうちに身についた半年分の罪・穢れを人形に託し、「茅(ちかや)」で作った「茅の輪(ちのわ)」をくぐり、祓い清め、悪疫退散・除祭招福・延命長寿の身心清浄を祈る神事である。
「神事として執り行われるものにはキチンと作法があり、勿論アフターケアも今の世では万全でしょう。で、当工房の作法としてましては、まず天児や這子、立ち雛が肩代わりした災厄を藁人形に転化し、川に流します。中身を抜いた人形はそのままにしていくとまた勝手に入り込まれかねないので、御役目が終了し次第、人形供養をしている所へ預け、お焚き上げしていただきます。浄化の工程です」
流す事と焚き上げる事の意味合いが些か異なるのは静にもわかっている。
しかし、結局の所言い方を悪くすればどちらもお払い箱ということだ。
静の表情は暗い。
「――それで、先程菊坂さんやシュラインさんが懸念したことですが、うちの人形流しは特別でしてね」
「特別?」
鸚鵡返しで静が尋ねる。
「姿なき思念は藁人形という一つの形を得る事によって、それを媒介とし、新たな肉体を構築します。それは皆さんも一度は聞き覚えのある妖物の姿」
「妖物??ってことは……この藁人形、妖怪になるんですか!?」
暗かった静の表情が一気に驚きへと様変わりした。
「妖怪…川に流すということは水に関する妖怪よね?…それってもしかして…」
「――――河童?」
ポツリと啓斗が洩らした言葉に、ご明察、と翡翠は軽く拍手する。
「藁人形が河童に?そんな馬鹿な…」
「信じがたいことでしょうが、本当にそうなるんです。特にこの辺りではね。生命溢れるこの土地と、清浄な水と、私がいるから」
最後の言葉に一同首をかしげる。
だが翡翠は彼らが抱いたその疑問には答えず、ただ柔らかな笑みを湛えている。
「さぁ、彼らを新しい姿に生まれ変わらせる為の儀式です」
流してあげて下さい、と翡翠はそれぞれに促した。
下流へ向かって流れていくように、生まれ変われるように思いを込めて三人は手にしていた藁人形を川に流した。
「川姫なるか川太郎なるか…河伯となるか」
それぞれ同じ水を住処とする存在だが、場所場所によりその性質も形状も異なってくる。
誰の流した藁人形がどんな姿に変貌を遂げるか、それはまた別のお話。
「さて、もうそろそろ宴も始まることでしょう、早く戻らないといけませんねぇ」
■宴の席
翡翠たちが人形流しをしている頃、北斗は興味津々で雛壇をつぶさに見ながら、用意されていく菱餅や雛あられに小料理などちまちまとツマミ食い。
「白酒もなー…甘酒と見た目似てるし、まさに未知の行事だよなあ…」
徳利に鼻を近づけ香りを確かめつつ、北斗は一人ごちる。
まぁ彼の言うように、白酒と甘酒はこれと言って似ているわけではない。
「あ、あんま酒の類は飲むの止めとくわ。だって後で兄貴のっけて警察にみつからねーように家までバイクでとばさなきゃなんねーんで」
「面白い坊やなぁ、ま、未成年に酒勧める訳にもいかんわなぁ」
ケラケラ笑いながら、紅蘭と黄河は次々に酒と料理を運んでくるのだが、北斗にすればあまり腹持ちのよい料理は並んでいないのである。
「ところでよ?もう飯でてこねえの?」
「あん?結構並んでると思うんやけど…足らんの?」
まだ食べ始めたわけではないが、それでもこんな量じゃ自分は全く喰い足りないと言われ、紅蘭はおやまぁと溜息をつく。
「ほんまに花より団子なんやねぇ」
「そか?」
「桃の節句ってあんま満腹になるほど料理でねーみたいだな。そういや端午の節句も柏餅と粽しか料理見たことねえな…」
そんな北斗の様子を見かねたのだろう。
色気より食い気だねぇとケタケタ笑いながら紅蘭の祖母、雀が北斗の前に焼いた餅を十個ばかり置いた。
「あんさんぎょーさん食いよるぇ、これでちっと腹ふくらしおし」
餡子やきな粉、醤油などいろんな味が楽しめるようにと、まるで自分の孫に接するかのように、胡坐をかく北斗の頭をポンポンと軽く叩いた。
「あんがとな、ばーちゃん」
なにやら気恥ずかしい気分になりつつも、出された餅を頬張る北斗であった。
■花よ舞え
「用事は済んだのか?」
準備を手伝ってくる、と、一足先に戻ってきたシュラインに、外で煙草を吸っていた草間は尋ねる。
「ええ、なかなか興味深いものだったわ」
「そうか」
「…そういえば武彦さん、ただ酒かどうかはわからないけれど、宴の方にでも行ってみる?」
興味はあるが、そこで出費が嵩むとなると、なかなかに二つ返事は出せない。
そんな二人のやり取りを後から来た翡翠が見てくすりと笑う。
静かに真後ろまで迫り、まるで二人の会話に気づかなかったかのような態度で二人に話しかけた。
「滞りなく済みました。草間さん、この度はご足労頂き、まことに有難う御座います」
深々と丁寧にお辞儀され、つられて草間もこちらこそ、と頭を下げてしまった。
「宴の経費はご心配なく。労う為に呼んだのに更にとるなんて不躾なことは致しません。どうぞごゆるりと御寛ぎ下さい」
だってさ、とシュラインを振り返る草間。
「それじゃあ、お言葉に甘えさせていただきますね」
人形流しに行かなかった北斗は既に宴の料理をもりもりとつまんでおり、帰ってきた啓斗たちはその様子に苦笑する。
「北斗……」
「ん?兄貴たちどっか行ってたんだ。量少ないけど美味いよこれ」
呆れる啓斗の隣で、静とシュラインは声を出して笑っていた。
「さぁさ、全員が揃いましたね。これより幽艶堂ひな祭りを始めたいと思います。皆さん、杯をどうぞ」
朱塗りの杯がそれぞれに配られ、飲める者は清酒を注ぎ、飲めないものには甘酒やジュースなど振舞った。
朗らかな春の日差しの中、窓の外で満開に咲き誇る梅の花と、広い畳敷きの部屋の壁際に飾られた、立派な七段飾りを眺めつつ、それぞれにこの宴を楽しんだ。
「身代わりに良く似ていれば似ているほど効果は増すとか……やっぱりそう言うのを作るとなると特注だったりするのか…?例えば俺達がいや…俺の弟のものを造って欲しいと言ったりしたら…どうなんだ…」
隣に座る啓斗が翡翠に向かって何か質問したかと思えば、何処までが質問なのか、何処からが独り言なのか判断に困る。しかし、やはり双子ですね、と、翡翠は一人ごちた。
昨日の興信所での北斗の質問を、啓斗は聞いていなかったのだ。
同じ質問ような質問をなげかけるあたり、と翡翠は微笑ましげに啓斗を見やる。
「?何…」
「いいえ、兄弟とは絆の深いものだと思いましたので」
「??」
「どうしました?何か面白い話でも?」
先程とはうって変わって明るい表情で話しかけてくる静。
そんな静に安堵の笑みをうかべ、翡翠は何でもないといい、杯を空け、艶やかな朱を称える杯を見つめ、ぽつりと呟いた。
「――来年の春には、川に三匹増えていると良いですね」
―了―
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【0086 / シュライン・エマ / 女性 / 26歳 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
【0554 / 守崎・啓斗 / 男性 / 17歳 / 高校生(忍)】
【0568 / 守崎・北斗 / 男性 / 17歳 / 高校生(忍)】
【5566 / 菊坂・静 / 男性 / 15歳 / 高校生、「気狂い屋」】
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■ ライター通信 ■
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こんにちは、鴉です。
【ひな人形と天児】に参加下さいまして有難う御座います。
実在する人形流しの風習と、藁人形を流す事によって河童になる。という伝承も含めた構成にしてみました。
ともあれ、このノベルに際し何かご意見等ありましたら遠慮なくお報せいただけますと幸いです。
この度は当方に発注して頂きました事、重ねてお礼申し上げます。
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