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<東京怪談・PCゲームノベル>


CallingU 「小噺・病」



 物部真言はバイトの帰り道、公園の横を通りかかった。
 公園のベンチに腰掛けている袴姿には見覚えがある。
(あれは……遠逆?)
 座ってなにをしているのだろうか。
 真言はそう思って公園に足を踏み入れ、ベンチに近づく。
 額に手をやって「考える人」のようなポーズをしている日無子は、足音に気づいて顔をあげた。
「……あれ。真言さんだ」
「どうした? なにか悩み事か?」
「いや。なんというか、少し頭がグラグラするから、誰かから呪い攻撃でもされてるかなと」
 呪い攻撃???
 不思議そうにする真言の前で、日無子は続ける。
「でもそういうの仕掛けられた憶えはないから……変だなあと考えてたとこ」
「…………顔色が少し悪いようにみえるが」
「……そう?」
 ぼんやり呟く日無子は頬杖をついて嘆息した。
 昼過ぎの三時の太陽の明るさからしても、日無子の顔色が悪いのは明白だ。
(……まさか、な)
 真言はそう思うしかない。
 だいたい日無子は体調管理をしっかりしていそうなイメージがある。それなのに。
「もしかして……風邪、とか?」
 最近風邪が流行しているとニュースでやっていたのを思い出して、真言はそう呟いた。
 すると日無子がプハ! と吹き出す。
「アハハ! あたしが風邪ぇ? ンなわけないよ〜!」
 足をばたばたさせ、腹を抱えて笑うその様子に、女性らしさはカケラも感じられない。
「病気になりにくい体質なのに、そりゃないよ〜!」
「そんなに笑うことはないと思うんだが……」
 それほど面白いことなのだろうか。真言にはわからない。
「でも説明がつかないが…………食べ物にでもあたったか?」
「おなかは痛くないよ?」
「どこが痛いんだ?」
「頭が少しグラグラするだけ。大丈夫。これくらいならたいしたことないし」
 日無子はベンチから立ち上がる。軽くよろめいた。
「ぬ……」
「……やっぱり風邪じゃないのか?」
「風邪、か。病気になったことないからわからなかっただけなのかな、もしかして」
 そういえば彼女は記憶喪失だったということを真言は思い出す。
(そうか……病気の記憶がないからわからないだけなのか)
 それはそれですごいことのような気が。
「まあそれほど深刻でもないみたいだし、この調子だとすぐ治りそうだな」
「顔色のわりに言葉もはっきりしてるから……それほど悪いことはないようだ」
「あ、真言さんもそう思うんだ。じゃあ大丈夫だな」
 うんうんと日無子は頷く。
 真言は日無子を見つめて視線を少し泳がせる。
(とはいえ、少し心配なのも確かだ……。世話……じゃない、看病するなり飯を作るなりしてやったほうがいいんじゃないだろうか……)
 だが放っておいてもそれほど支障はなさそうにもみえた。
 問題は。
(遠逆がそれを受けてくれるか、だな)
 借りを作りたくないとか……そういう理由で断ってきそうだ。
「その……なんだったら飯とか作るぞ?」
 とりあえず一応言ってみることにした。
 日無子はにっこり笑う。
「いや、いいよいいよ」
 ほらな、と真言は思った。予想通りの日無子の反応である。
「…………べつに恩を着せようってわけじゃないんだが」
「んー。そうじゃなくて、ご飯作ってもらうとなるとあたしの家か、真言さんの家に行くってことになるじゃない?」
「……ああ、なるほど」
 遠逆は気にしていないようで気にするタチだったのか。
(そうだな。遠逆も高校生くらいの女の子なんだし、気にするか)
「そういうふうには見てないから安心しろ……と言っても気にするか、やはり」
「気にはしないけど、常識的にそれはダメだと思うの」
 笑顔のままで日無子は言う。
 本当に奇妙な娘だ。
「襲われてもあたしは相手を一撃で悶絶させてやるから大丈夫だし。
 んー。普通の娘さんはそんなことしないでしょ。それだけだよ」
 フツウ?
 物凄く不似合いな単語が日無子の口から出た。
「まあ看病なんてしなくていいから。状態もそれほど悪くないしね」
「そうか……。遠逆がそう言うなら仕方ない。でも早く治せよ。遠逆は元気じゃないと落ち着かない」
「……あたしってそんなイメージがあるの?」
 不審そうに見てくる日無子に真言は頷く。
「元気か……そうなのか」
 むぅ、と考え込む日無子。
 彼女の呟きに、自覚がなかったのかと驚く真言であった。
「しかし仕事柄丈夫そうなのに、遠逆でも風邪をひくんだな」
「最近忙しいから……かな」
「……働き過ぎだ。少しは休んだらどうなんだ?」
「たとえば」
 唐突に日無子は人差し指を立てる。
「日給、または自給で働くとする。一ヶ月の出勤日数が少ないと生活費がピンチになるとする。真言さんはその時どうする?」
「え……そ、そうだな。無理してでも出る、か」
「でしょ! ま、そういうことで納得してよ」
 ……微妙に納得できないが、まあいい。
 真言は肩から力を抜いて言う。
「じゃあ顔色良くなるまではここで休むっていうのはどうだ? ジュースくらいなら奢るぞ」



 レモンティーを受け取った日無子が早速開けて口をつけた。
 ベンチに座る日無子の横に真言は腰掛け、自分のコーヒーを開ける。
 こうしてのんびりと公園にいることなどほとんどないため、少し新鮮だ。
 空は雲が流れて綺麗な青。
 だが。
(それに不似合いな遠逆のこの格好……。よく見たらすごい光景だな)
 まあいいのだが。
「ありがとう。真言さんて優しいねえ」
 そんな物凄い笑顔で言わなくても。
(手のかかる妹ができたみたいだ……)
 暴走列車のようなところがある日無子を追いかける自分を想像するが、まったく笑えない。
「さっきより少し顔色よくなったな」
「そう? 自分ではわからないからなー」
「鏡とか持ってないのか?」
 女の子はそういうのを持っていそうなイメージがある。
 だが日無子はふいに表情を消し、すぐさまニコッと微笑んだ。
「落としそうなものは持ち歩かないようにしてるの。戦闘の時に落とすと勿体無いし」
「ふーん。色々考えてるんだな」
 公園内には他にも人がいる。日無子の格好を珍しがってちらちらこちらをうかがう人もいた。
 犬の散歩をする人。子供と一緒に来ている母親。様々だ。
 それをじっと眺めている日無子に気づき、真言はびくっとした。
 真剣な表情の日無子の瞳は感情が一切浮かんでいない。まさに「観察」している目だ。
「ど、どうした遠逆? 珍しいものでもあったか……?」
 どの人も日無子とは違う生活をしている。それが珍しいのだろうか?
 日無子は真言の言葉に気づき、「ん?」と視線をこちらに向ける。
「いや、フツーに眺めてただけだよ?」
「そう……か。いや、真剣な表情だったから、つい」
「まああたしには珍しいからね」
 にこっと微笑む日無子はレモンティーを飲んだ。
 彼女は飲み干し、ちろ、と視線を走らせた。
 そちらに居るのは嫌がる女性の腕を掴み、無理やりナンパしている男二人組みだ。
(こんな昼間から……)
 呆れる真言だったが、日無子は手の中の缶を握りしめ、それからヒュッ! と投げた。
 え? どこに?
 そう思った時は、缶は猛烈な勢いで飛び、右側の男の頭に直撃する。
 お見事、という顔をしたのは見て見ぬふりをしていた人々だ。日無子は立ち上がってそちらに近づいていった。
「あやー、ごめんなさい。手元が狂っちゃって」
 へこへこしながら近づく日無子に真言が真っ青になった。なにを考えているんだろうか、彼女は。
 日無子は落ちている缶を拾う。男は舌打ちした。
「なにすんだよ、イテーだろが」
「うるせーな。テメーこそ男の風上にもおけねークズだろうが」
 一瞬。
 誰がそれを言ったのか、見守っていた人々も、男二人も、腕を掴まれていた女性もわからなかった。ただ真言だけが瞬時に理解する。
 綺麗な笑顔で言い放ったのは――日無子だ。
「っな! なんだと!?」
「聞こえなかったのかボケ。耳まで悪いのか? え?」
 笑顔で言うものだから余計に恐ろしい。
 気づけば、手を振り上げる男の顔に、日無子の拳がめり込んでいた。
(あ、あいつ……容赦しないなほんとに)
 唖然とする真言。
 驚く片割れの男に日無子はニヤ〜っと意地悪な笑みを向ける。
「よしよし。じゃあ嫌がってもしこたま殴ってやろう。同じことすればわかるよね」
「ひっ!」
 青ざめてガクガク震える男。真言は慌てて日無子を止めに入った。
「許してやれ、遠逆!」
「…………」
 無言になる日無子は両腕を降ろす。それを見て男達は慌てて逃げていった。
 女性は日無子に頭をさげる。
「あ、ありがとうございますっ」
「……いや。礼を言われるほどのことじゃないよ。単に雑音がうるさくて手ぇ出しただけだから」
 さっさと女性に背中を向けて、座っていたベンチに日無子は戻った。
 日無子と並んで座り、真言は胸を撫で下ろす。
「いきなり何するのかと思ったぞ、遠逆。それに、随分とガラの悪い喋り方だったが」
「ん? いや、ああいう連中にはああいう言い方するのが効果的って教わってたんだよね。あれ? 違ってた?」
 きょとんとする日無子に、真言はガックリと肩を落とした。
(しかも雑音って……絶対あいつらのやり取りのことだろうな……。本当に恐ろしい子だな、遠逆は)
 それに一体誰が日無子にあんな言葉を教えたのか……。謎だ。
「あれー? なんか変だった?」
「いや、そういう遠逆のはっきりと、言いたいことを言うところは俺は好きだから……」
 はははと乾いた笑いを洩らす真言の言葉に、日無子は少し不愉快そうに眉根を寄せた。
 それに気づいて真言は不思議そうにする。
「どうした?」
「……いや、べつに」
 すぐにニコーっと笑う日無子は缶をゴミ箱に向けて投げた。
 それがまた見事に入る。
「お……すごいな」
「これくらい簡単だよ。あれくらいゴミ箱が大きいと入れるのは」
 そうだろうか。ここからだとかなりの距離があるように見えるが……。目の錯覚じゃないならば。
「俺は無理だ」
「飲んだなら貸して。お手本見せてあげるよ」
 真言は苦笑した。
(俺に力はないけど……遠逆を手助けしてやりたい)
 そう思いつつ、彼女に缶を手渡す――――。



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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PC
【4441/物部・真言(ものべ・まこと)/男/24/フリーアルバイター】

NPC
【遠逆・日無子(とおさか・ひなこ)/女/17/退魔士】

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■         ライター通信          ■
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 ご参加ありがとうございます、物部様。ライターのともやいずみです。
 関係上日無子の症状が軽くなったため、一緒に公園で休むという形にさせていただきました。いかがでしたでしょうか?
 少しでも楽しんで読んでいただければ幸いです。

 今回は本当にありがとうございました! 書かせていただき、大感謝です!