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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


ふほうせんきょ

●しゅつどうようせい
「というわけで来たんだ」
「兄さんは留守なんですけど」
 その日、草間興信所に訪れたのは、子供たちを引き連れた猫。
「‥‥分かってる、うん」
 ため息をつく猫所長と不安そうなこどもたち。
 そんな取り合わせに草間零は、小さく首を傾げた。

「あれ」
 神社の側の木陰の奥。猫が鼻先で示すのは家状のダンボールだった。
屋根は青いビニールシート。周囲にはタイヤやら切り株やらが転がる。
「この子たちが作ったんだけどね」 「はあ‥‥」
 その建物の中。そこにいる人影を確認し、零は言葉を探した。
 そこには。
 ぶんぶかと手を振る五色と、明後日を向く草間武彦が居た。

●せっとくがかり
「零ちゃん、ちょっと手伝って」
 猫が出してきたメガホンを零に渡す。
「と‥‥?」
「ああ、しゃがんでくんない? うにゃ、OK。あと、メガホンを」
 猫がしゃがんだ零の足に挟まれる位置に移動。ふとももにちょんと前足を乗せ、立った状態になる。

「何をやってるんだか」
 シュライン・エマ(−・−)は、女の子の頭を撫でてやりながら、ため息をついた。
 不安げなまなざしは、あちらに対してか、こちらに対してか。
(どっちも、かしらね)
 とりあえず微笑んでおく。
(それにしても‥‥)
 昼ごろから、興信所に居なかった草間。
(何があったのやら)
 相変わらず明後日を見て憮然としている。
「まあ、意味もなくする人じゃないものね‥‥多分」
 
「本当に居座ってるとは」
 五代 真(ごだい・まこと)は、男の子たちの先頭に腕を組んで立っていた。
 時折、服やらズボンやらが引っ張られるのは、猫所長の指示で突っ込んでいかないようにとのこと。
(誰がそんな大人気ないマネするかよ)
 大丈夫だと頷いておくも。どうにも効果はない。
(それにしても、だ)
 子供たちの遊び場に居座る男二人。
(大人気ないぜ。本当に)
 さらに、決して悪びれる素振りはない。
「だから、んなことはしねえって言ってんだろうが!」
 
「あ〜、あ〜。犯人に告ぐ、犯人に告ぐ」
 少し高さが足りないらしい。メガホンに食らいつくように一杯に伸びた灰色のトラ猫が声を張る。
「君たちはそれなりに包囲されている。大人しく投降せよ」
「それなり?」 「いや、ほら。上は無理だし」
 いつからそこに立っているのか。基地の頭上には境内の神木よりも立派な枝がある。
「よし、登ってくるぜ」 「却下」
 袖を捲くる真の提案を猫が即座に切りすてる。
「完全に包囲したら何をやらかすかわかんないし」
『つうか、包囲者に告ぐ!』
 基地から五色らしき声。微妙に違うのは、構えているのが変声器だかららしい。
『特に猫、お前なんつう羨ましいことをやってんねん! 場所変われ!』
「ん〜? 代わっても良いけど、何くれるの?」
『せやなあ‥‥って、お前が要求してどないする!』
「もう充分、分からないと思うけど」
「いや、一つだけ確かな事がある」
 肩をすくめるシュラインに真が親指を立てて、両手で口元を囲むと大声で言った。
「その場所、子供たちのもんだ! 大人のあんたらが占領するなんて大人気ないぞ!」
 そして、一同に向き直ると爽やかに笑う。
「さ、そこのいたいけな子供たち、あの怪奇探偵なおじさんに何か言ってやれ。そこの猫所長もな」
「‥‥そうじゃないでしょ」
「や〜い、大人気ない大人気ない。さ、零ちゃんも」
 促された零が口を開きかけたとき、猫所長はひょいと持ち上げられた。
「説得、よね?」
 シュラインが首後ろを掴んだ猫と目を合わせ、静かに尋ねる。
「あい。説得です」
「大体、理由はなんなのよ。犯人の要求は?」
「皆目不明です。いやさ、聞いておりまてぬ」
「そ。なら、五代君。自販機までお使い」
「う‥‥あ、了解」
 有無を言わさぬ迫力に、つい頷いた真が脱兎の如く走り去る。
「さ、零ちゃん、子供たちを集めて。聞きたいことがあるから」

●ねご
「タバコ屋しかなかったですぜ、ボス!」
 勢いよくMTBを横滑りさせて止まると、真は適当な敬礼をした。その様子に集まっていた子供たちから歓声が上がる。
「ボス? ちょうど良かったわ。こっちも聞き終わったところだし」
「聞き終わった? じゃあ、説得が終わった?」
「あ、そっちじゃなくて」
 シュラインは秘密基地を見やると、真に子供たちの話を取りまとめて話した。
「立ち入り禁止」
「そ、親御さんたちからすればってことらしいけどね」
 怪我に過敏な昨今、親たちは「子供が作った以上は」と考えたらしい。
 学校でもそういう指示が出始めているとの事。
「それって、こいつらからしてみれば、いい迷惑じゃないか。折角、作ったってのにさ」
「とは言っても、何かがあってからでは遅いしね」
「それで、兄さんたちがあそこに居るのでしょうか?」
 撫でている女の子のためにか、嫌がる猫を押さえたままの零が二人を見上げた。
「そこなのよ」
 腕組みのシュラインが一つ息を吐く。
「それって武彦さんらしくないでしょ? もっともそんな依頼があったわけじゃないけど」 
「一般的な探偵の仕事でもないね」 逃走は諦めたのか逆撫でされながら猫所長。
「で、怪奇現象でもない、と」 うんうんと頷き真。
「兄さんって‥‥」
「どうせ聞くつもりなんでしょ? そのためにいきばた放浪刑事をパシらせたんだし」
「誰がいきばた放浪刑事か」
「ええ、武彦さんのことだし、何か理由があると思うのよ」
「話聞けよ!」

「さ、納得のいく説明をお願いね」
 声をはらずとも聞こえる位置まで基地に近づいたシュラインが、入り口越しに立てこもる男どもをじっと見つめた。
「説明やとさ」 「話すことはない」
 へらりと笑う五色の横で、相変わらず憮然と草間。
「煙草あるけど、どうだ?」
 真がタバコ屋の袋を差し出すも、一瞥するだけ。
「そ。でしたら、事務所、零ちゃんと一緒に乗っ取りますけど構いません?」
「で、ここが新しい草間興信所になる」 「都市伝承化でますます怪奇度アップ?」
「そうするか」
 軽口を叩く真と猫にぼそりと。薄い笑みで。
「俺にはそれが似合っているみたいだし、な」
「‥‥何か、あったの?」
 低くシュラインの声。
「お前たちには関係ない話だ」
「私にも、ですか?」
 零が呟くように。
「俺の、俺だけの話さ」
「要は、あんたの、あんただけの理由ってことか」
 ふっ、と真が息を吐いた。
「そうだ」
「そんな理由で子供たちの遊び場に立てこもったってのか」
「‥‥ああ」
「そうかいそうかい‥‥だったら!」
 誰もが止めるより速く。
「ここをぶっ壊してでも引きずり出してやる!」
 叫びが爆発した。

●あたらしいばしょ
 親たちがなんと言うかは知った事ではない。ただ子供たちの為に。
 真は新しい『秘密基地』作りを手伝った。

「兄ちゃん。これは?」
「それは上から吊るすんだ。ちょっと待ってろ」
 木を登り、太い丈夫な枝からロープを吊るす。後はタイヤを括りつければ一端の遊具になる。
「お兄ちゃん、これ〜」
「あ、ちょっと待て! おい、手伝ってくれ」
 ここで遊ぶだけあって、どの子供もそれなりに機敏。年長組は木登りならそこらの大人よりも達者だろう。
 だが、遊ぶのは不特定な子供。特に羨ましがってマネをするのは一番危険の高い年少組だ。
(案外、そうだったりして、な)
 結局、聞けなかった草間の話を思う。

 もっとも、その後で親たちを説得する羽目になることまでは思わなかったが。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 年齢 / 性別 / 職業】
0086 シュライン・エマ (しゅらいん・えま) 26歳 女性 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員
1335 五代・真 (ごだい・まこと) 20歳 男性 バックパッカー

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■         ライター通信          ■
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 どうも平林です。この度は参加いただきありがとうございました。
 さて。どちらの祖父母の家も山の側でした。特に母方のほうには大きな木のある『お宮さん』が‥‥あったんですけど、木は落雷でなくなったとか。ちと残念な話です。
 では、ここいらで。いずれいずこかの空の下。再びお会いできれば幸いです。
(梅の頃/平林康助)
追記:少々ケンカっぱやいイメージで捉えてますが、いかがでしょうか?
  ‥‥森林の「新草間興信所」。あ、「都市」伝承じゃないやん、とか。