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<東京怪談・PCゲームノベル>


『応接室にて〜青天の霹靂〜』

 それは正に青天の霹靂だった。
 呉・水香が応接室で休憩していた時の出来事だ。
「うわ、美味しい〜」
 ゴーレムの時雨が淹れたお茶は格別だ。今日はアップルティー。時雨は、水香の好みのお茶を、水香の体調や機嫌を見て淹れてくれる。
「時雨、隣にいらっしゃい。背もたれがほしいの」
 水香は時雨を隣に座らせると、体を寄せて寄りかかった。
 アップルティーのほのかに甘い香りを楽しみながら、目を閉じる。
 のどかな平日だった。
 ……だった。

「ぱぁぱ」
 突然、袖口を引っ張られ、時雨は声の主に目を向ける。
 水香……ではない、ずっと下。自分の足の辺りにいる人物を見て、目を疑う。
「ぱぁぱ、ぱぁぱ♪」
 ズボンをくいくいぴっぱっているのは、赤子だ。生後1年くらいだろうか。
「み、水香お嬢様」
「ん、何よ時雨。さっきから変な声出して……!?」
 目を開いた水香も、一瞬固まる。
「えっと、水香様、いつのまに赤子なんて作られたのでしょう?」
「わ、わ、私は赤ちゃんなんて産んでないわよ! つ、作り方もわかんないし!」
 時雨の言葉を大慌てで否定する水香。
「赤子型ゴーレムではないのですか?」
「あ、ああ、そういう意味ね。違うわよ。赤ちゃんゴーレムなんて作っても役に立たないじゃない」
「ぱぁぱ、だっこ、だっこー!」
 赤子が、時雨に手を伸ばす。
 不可解ながらも、時雨は赤子を抱き上げた。
「ぱぱって……」
 水香が眼を見開いて時雨を見る。
「あんたっ、何時の間に!! 私というものがありながら〜〜〜っ」
 突如時雨の首を絞める水香。
 赤子……月見里・煌は時雨の髪や顔をぎゅううっと引っ張って遊んでいる。
「ほんなわけはいじゃないですは!(そんなわけないじゃないですか!)」
「知らなかったわ、ゴーレムが人間との間に子供を儲けることが出来るなんてっ。私ってやっぱり天才。でも、これは許せない〜〜〜キーッ!!」
 首を絞めたまま、時雨をゆさゆさ揺する水香。
 煌は2人の様子に楽しそうに笑いながら、時雨の手から離れ、テーブルに乗った。
 まずは、ティーカップを手に取る。
 中を覗いて口に含んで……不味いと認識。ポーンとカップを投げる。
 邪魔なので、皿は払いのける。
 置いてある難しい書類は難しいことが書かれているとも分からず、遊び道具に。
 破ってみたり、折ってみたり。
 灰皿はちょっと重い。ガンガンテーブルを叩いてみたら、いい音がした。
 これはなんだろう……お人形さんが、机の上にある。
 手にとって転がして。
 口に入れてみたり。
 足がちょっと曲がっているので、ぐいっとひっぱったら……ボッと火が出た!
「う、う、うぎゃああああああああー」
 突然目の前に現れた火に、驚いて人形を放り出す!
「うるさいわよ! 今真実を聞き出してるところなんだから! 言いなさい、相手は誰なのよ、時雨っ!!」
「ぐ、は……」
 首を絞められていては、ゴーレムとはいえ声が出ないらしい。水香の締めなど、簡単に外すことができる時雨だが、彼は主に絶対忠誠を誓っている人物だ。主である水香を払いのけるようなことはできないのだ。
「ぎゃーーーーー。きーーーーー」
 煌は机から下りて、机の上にあったペンを使って、壁にお絵かきをしてみた。
 飽きたら、近くの掛軸を引っ張って落とす。
 頭に落ちてくれば落ちてきたで、びっくりして大泣き。
 しばらくすれば、またちょこちょこ這い回ってあれをひっぱりこれを引っ張り。
 小さなものは口にいれるは、大きなものは投げるは。
「時雨ぇぇぇぇぇ!!」
「きゃははははははっ」
 バタバタ歩き回る音や、投げつけられる音、叫び声、泣き声、笑い声……応接室の外では、女中や家族がハラハラしながら、シカトを決めこんでいた。関わりたくないと!
 ひらり〜ぱしっ。
 煌が投げた観葉植物の大きな葉が、水香の頭に乗った。
 ぎらりと水香が煌を睨む。
 その様子は、妖怪のようで煌をおびえさせた。
「ぎゃーぎゃーぎゃー」
 煌は、そこら中のものを投げつける。
 一体、こんなもの、何処から見つけ出してきたのだろうかというほど、玩具が散らばっていた。
「ちょっと、痛っ、痛いじゃないっ」
 投げられたものを払い落とす水香。その隣には、ようやく開放されて大きく息をつく、時雨の姿が。
「ぱぁぱ〜ぱぁぱ〜だっこ〜」
 助けを乞うように、煌が時雨に言う。
「ほほう、では聞いてみましょうか。坊や、あなたの名前は? あなたのお母さんの名前はわかるかな? うふふ」
「やまなしきら」
 そろ〜りと近付いてくる水香を避けるように、自分の名前だけ言うと信じられないスピードでぱたぱた逃げ回る。
「待ちなさいっ」
 端に追い詰めて手を伸ばすが、這い這いですり抜ける煌。
「こらーっ!」
「み、水香様、相手は子供です。どうかお手柔らかに……」
「アンタが言うかーっ!」
 突如、水香のターゲットが煌から時雨に戻る。
 どたどた、時雨の元に駆け寄る。
「元々はアンタが節操のないことをするから、こういう事になったんでしょうが!」
「いえ、ですから私の子のわけは……」
 問答無用で時雨に飛び掛る水香。
「そんな大人に育てた覚えはないのにっ!!」
「育てられても、子供は無理……げほっ」
 とび蹴りが時雨の腹に決まる。
「キーッ、ギャーッ」
 気付けば赤子のような声を発しているのは、水香だった。
「キャッ、キャッ」
 煌の声も混じってまるで、動物園のようだった。
 数分……それとも、一時間以上だろうか。
 荒れに荒れた水香を宥めるまでに要した時間は。
 我に返った水香が回りを見回した時には、既に煌の姿はなかった……。

「ああ、もったいない。赤ちゃんなんて触れられる機会滅多にないのにー。もっと可愛がればよかった」
 誤解が解け、残念そうに水香は淹れなおしたアップルティーを口に含んだ。
 甘い香りが気持ちを静めてくれる。
「可愛い男の子でしたね」
「うん。どういう力を持った子だかはわからないけど。せめて親の名前は聞いておくべきだったわ」
 周囲を見回して水香はにっこり微笑んだ。
「損害賠償請求をするために。ふふふふふ……」

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【4528 / 月見里・煌 / 男性 / 1歳 / 赤ん坊】

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■         ライター通信          ■
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 初めまして、川岸です。
 とても可愛らしい赤ちゃんの訪れに胸が躍りました。
 ぎゅっと抱きしめたい衝動がありますっ。
 発注ありがとうございました!