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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


螺旋の刻


 事件から数日後。
 興信所にも無事平穏が……とは多少言い難い忙しさではある。
 所長である草間がIO2に呼ばれ機会が増えたのだから。
とりあえず政治絡みの問題や組織内部のゴタゴタとは無縁でいられる辺りのみ、何時も通りだ。
「そう、良かったわ。無事捕まった様で」
 直ぐに見つかるだろうとは思っていたが、シュラインの予想通り。
 その日の内に脱走者であるりょうは何事もなく捕まって、大人しく仕事しているそうである。
 そしてその翌日。
 つまりは現在。
「引継ぎ終わるまでも時間掛かったが、どうにか一段落付いたからな。仮眠取って、どうにか戻って来られた」
「ふらふらの状態で車には乗れないわよね」
 戻ってきたばかりの草間はソファーに座り込み、深々とため息を付いた。
 ここ最近は忙しかったから疲れているのだろう草間の様子に、目の前のテーブルにコーヒーを置く。
「お疲れ様武彦さん、一休みしたら堪ってる依頼のチェックお願いね」
「今あるのは?」
「零ちゃんに頼んでいた人捜しの報告書と浮気調査で報告しておいた方が良い件があったから」
「……?」
「どうも怪奇絡みみたい、憑いてるらしいとは……偶然その場に居合わせた人の話よ」
「またか」
 がくりと肩を落とす。
 気持ちは解るが、日頃の行動から怪奇探偵として名が売れているのは否定できない事実だ。
 今回は依頼人とっても予想外の事件だろうが、怪奇絡みに行ってしまうのが此処らしいとも言えなくはない。
「そう腐らないの、私も手伝うから」
「助かる」
 コーヒーを飲み始めた草間に、今の内にと尋ねたのは事件の顛末についてだ。
「タフィーとディドルのことなんだけど」
 安全のために出来るだけ向こうの情報は入れないようにしているのだがこれぐらいなら構わないだろう。
「あの二人ならまあ、何とかなりそうだ。大人しくしてるし、保護しようって動きもあるからな」
 特にタフィーに関しては年齢や状況も考慮されている。
 ディドルに関しては引き取りたいという人も居るのだ。
 暫くはIO2預かりだが、いずれはメノウのような状況で落ち着く事だろう。
「そう悪い事にはならなさそうね」
「これからが大変だろうが、関わった相手が生きてた方が良い事には違いないだろうからな」
 助ける事が出来なかった人も過去にいたからこそ、生きていて欲しいとそう願う。
 何かを紡ぐ可能性があるのなら、尚の事。
「武彦さんは、何か進展したの?」
 タバコに火を付けて吸い始める代わりに、カップをテーブルへと置く。
「解ったのは探してる異界が、どこか他の異界の中から繋がってるって事だな」
 言葉を選びつつ話し始めたのは、シュラインと同じ理由からだろう。
「三人が出入りしていた地点を確認してみたが、もう移動していて影も形もなかったな」
 遠回しな言い方だが、ものすごく直球だとも言える。
 探していたのは三人が出入りしていた場所、つまり虚無の境界の本拠地探しと言ったところだろう。
「そこに一人昔の依頼人が居るんだ。前は助けることも出来なかったから、今からでもどうにかしたいと思ってな」
 例え昔のことであったとしても、知ってしまったのがそう遠くない前のことであるのなら……それは今も継続中であるも同然である。
「その口調だと、まだまだ掛かりそうね」
「焦らないようにじっくりやるさ」
 短くなったタバコを消し、新しいのに火を付けようとしたのを見逃しはしなかった。
「吸い過ぎじゃないかしら?」
 疲れている所悪いが、帰ってきた時から既にタバコの臭いをさせていたのである。
「嘘だろ? 全然吸ってない」
「……武彦さん?」
 にっこりと微笑みかけると、すぐさま言ったことを撤回した。
「……吸ったよ」
 誰も止めないだろう事を良いことに、帰って来るまでに何箱吸った事やら。
「少しは減らさないと体にも財布にも良くないでしょう」
 タバコを箱ごと没収し、しっかりとしまっておく。
「せ、せめて一本……っと、出かけるのか?」
 等と言った未練がましい台詞はさておき。
「お見舞いに伺わせていただきますって、約束してるのよ」
 おみやげを手に出かける支度を済ませたシュラインが気になっていたことがあったのだと振り返る。
「本部で狩人さんと一緒に会ったオジさん達の事なんだけど……」
 そこまで言ってから一度言葉を切った。
 気になったのはご飯をどうしているかなのだが、色々難しい部分に触れる可能性も高い。
 どうしているかを聞くのは流石に贅沢だろうと思い直し、何でもないと首を振る。
「忙しそうだったから少し気になったのだけれど、贅沢は禁物よね」
「それなら贅沢でもなさそうだとは思うけどな?」
「忙しそうだしね、良いのよ」
 コーヒーを飲み干したて言った草間に、お変わりを注いでから興信所を後にした。




 夜倉木家。
 チャイムを押すと、直ぐに詩織が出迎えてくれた。
「おじゃまします」
「いらっしゃい、ちょうど落ち着いた所なんですよ」
 中へ案内してもらう際、庭や道場の方で何かあったらしいのだが……。
 何があったのか聞こうにも、どう聞いたら良いかすら解らないありさまなのだ。
 菊やら。
 道場の入り口や窓からのぞいてる手とか。
 酒の臭いや火薬の臭い。
 普通の民家ではあり得ないが、ここに普通が当てはまるのかと聞かれ場答えはノーだ。
「色々あったようですね」
「ちょっとした宴会があって、今は大丈夫だから」
 何事もなかったようにパタパタと手を振られ、多少気にはなった物の大丈夫だと思っておくことにする。
 客間に通され、持ってきた土産を渡す。
「どうぞ、良かったら食べてください」
「あら、何時もありがとうございます。今お茶入れますね」
 ポットのお湯を急須に入れているのを眺めつつ。
「具合はどうです?」
「もうすっかり良くなったようですよ、どうぞ」
「頂きます」
 勧められたお茶を飲んでいると、すっと襖が開き辰巳が顔を出す。
「おじゃましてます」
「こんにちは、シュラインさん。先日は息子がお世話になりまして」
「いいえ」
 首を左右に振るシュラインに、気の抜けたような笑みを返してから詩織の横に座る。
「少し飲み過ぎた様です、お茶もらえます?」
「直ぐに用意しますね」
 湯飲みを用意しながら詩織が話を切り出す。
「受けた恩は返すのが家の礼儀ですから、遠慮せずにこき使ってくださいな」
「ええ、いずれお願いします」
「雑用から何から何でもどうぞ」
 くすくすと笑いつつ、入れ立てのお茶を辰巳に差し出す。
「ああ、おいしい」
 ほっと一息ついた後、シュラインが持ってきた包みに気付いたように視線を移す。
「こちら頂いても?」
「ええ、おみやげですから」
「ありがとうございます」
 包みを開けて食べ始めたが、自分用にお茶を入れてから詩織が苦笑しつつ窘める。
「あなた、昨日もプリン食べてたでしょう?」
「今日は人が多いですから、早く食べないと無くなってしまうんですが……そうですね、持って行くのも良いかもしれません」
 幾つか取り分け蓋を閉めてから、辰巳が何かに気付いたように顔を上げた。
「あら、起きたみたい」
 誰がと言うのは直ぐに解った。
「……おはようございます」
 戸が開き、不機嫌そうな顔で夜倉木有悟が挨拶をしてきた。
 原因は何か別のことだろう。
「おじゃましてます、具合は良いって聞いたばかり何だけれど」
 何時も通りのスーツ姿だが、袖口の包帯や所々にアザがのぞいていた。
「これは……ま、これ以上実家にいると危険だって解っただけです。仕事にでも行った方がました」
 なにやら大変だったようではある。
「くれぐれもお大事に」
「是非そうしたい物です」
 お早い復帰をと言いに来たのだが、予想外に早くなりそうだ。
「治ったならお礼に手伝ってきなさいね」
「頑張れ、有悟」
「………」
 気ほどの会話の最中から気付いていたが、拒否権という物は存在しないらしい。
「それなら……そうね。向こうの仕事に復帰してくれたら、興信所も楽になりそうだけど」
「解りました、直ぐに行ってきます。あまり休むのも仕事がたまる一方ですし」
 携帯を取りだし、連絡を取りはじめる。
 怪我のこともあるのだから直ぐに復帰と行っても事務仕事からにはなるだろうし、言葉通りここにいるよりは安静に出来るだろう。
「早く落ち着くといいわね」
「……努力します」
 とびきりの笑顔を向けてから、忙しくなりそうな事と、事務所の方も仕事の途中だからと鄭重に挨拶をしてから夜倉木家を後にした。



 帰りがけに店に立ち寄り、何を買おうかを見て回る。
 本や食べ物。
 日が経っても構わない物を選んだのは、渡す相手が現在もIO2に居る面々だからだ。
 ナハトとタフィーとディドルの三人には、何を持って行けば喜ぶだろうか?
 事前に連絡さえ取っておけば苦もなく会えるだろう。
 買い物を終え、帰路についた頃。
「……?」
 携帯に連絡が入り、どうしたのだろうと思いつつ応答する。
「はい?」
『よお、この間はご苦労さん』
「狩人さん?」
『正解、気になってる事があるらしいって聞いてな』
 直ぐに何を言っているかを察した。
 出かける前のシュラインの言葉を草間が伝えたのだろう。
「構わないの?」
『これぐらいはな、差し障りない程度にしておくから』
 情報の出入りに関しては狩人も気をつけているのだ。
 こうして電話をかけてきたという事は、大丈夫だと確信しての事だろう。
「それなら少しだけ」
『今どうしてるかだっけ?』
「画面の向こうのオジさん達、ちゃんとご飯食べてるか気になって」
 そのままを伝えたのだが、電話の向こうの狩人が一瞬沈黙する。
「まずい事でもあった?」
『や、まあ。そうだな、今日にでも何かおくっとく。ああ、食べて無い訳じゃないだろうから安心していいぞ』
 くっくっと小さな笑い声が聞こえた。
「そんなに意外?」
『今まで心配する対象じゃなかったんだ、元気すぎるぐらいだったし。大丈夫、驚くだろうけど、お礼いっとくから』
「解ったわ、よろしくね」
『ああ、じゃあまたな』
 電話を切り、携帯をしまう。
 とりあえずは平気だと解ったのだから十分だ。
 結果は、次にIO2へ行く時にでも聞けるだろう。
 荷物を持ち直し、シュラインは今度こそ帰路に付くことにした。




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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【0086/シュライン・エマ/女性/26歳/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】

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■         ライター通信          ■
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突発シナリオでしたが、発注ありがとうございました。
どこで繋がってるようなそうでないような進行具合となりました。
楽しんでいただけたら幸いです。