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<東京怪談・PCゲームノベル>


STORY OF THE PARALLEL WORLD 〜別の世界の茜と遭遇〜

 さて、まずはお断りしておくが、これは、“もしも”の話である。

 田中裕介24歳。かなりの腕前の演奏者。得意な楽器はトランペットとサックス。両親健在で二人とも名のあるオペラ歌手の父とピアニストの母である。妹が一匹いるようだが。
「一匹って何よ」
 と、つっこまれたわけだがそれはスルーしておこう。
 つまり、この世界は、田中裕介が大鎌と契約するきっかけが無い、親が健在で平和な世界から、ちょっと大きな事件に巻き込まれる話である。


〈田中裕介からの視点〉
 朝から戦争だった。
 なにしろ、私がかくまってきた妹とそっくりな少女と、妹が喧嘩をしているのだ。
「なによ! 私の何が悪いって言うの!? 居候のくせして、威張らないで!」
「いいえ! いう。そっくりな分だけ、自己嫌悪に陥っちゃう! そのだらしなさは何よ!」
 私は、フライパンの卵焼きを皿に盛り、サラダをテーブルに並べる。
 私自身どうして良いか分からなくなったが、これが日課になった。
 喧嘩とは言っても、10分もすれば疲れ果てて何も言わなくなるので放っている。実のところ結構意気投合しているのも分かる。たんに、妹と少女の癖というかスタイルが異なるだけだ。
 妹は田中茜。そして私が出会ってかくまった少女は長谷茜という、迷い人なのだ。
 長谷という家はこの近辺にはない。彼女が言うには異世界との門が連結しどうこうと言うので、門が見つかり次第戻るそうだ。
 幸い、もう学校や仕事などは休み。私は彼女につきあうことになっている。それが妹の茜は不満のようだ。

〈長谷茜サイド:さかのぼる〉
 私は、時空のゆがみを察知し、封じる仕事をする。
「むう。ゲートキーパーとかこの辺いないからなぁ」
 と、ぶつぶつ言いながら、門を閉める術にはいるわけだけど、
 そこにいるのは悪魔のたぐい。やれやれ、何をしたいんだろうね?
「封じるからとっと、出て行って。それ、九層地獄の門じゃないの。何が狙い?」
 と、一応悪魔の言葉で訊いてみる。
 門は空中に浮いており、水たまり。すこしアストラルの銀の世界が見え、その先に地獄の門が見える。まだ先の方が完全に開ききっていない分、アストラル門を封印か破壊は楽なんだけど悪魔が邪魔だ。
「ちょっとしたいたずらと思えばいいさ。けっけっけ。あんたら長谷家がいなくなれば、楽だし」
「消去決定。失せなさい。バカども」
 と、ハリセンで叩き殺す。静香も入れくれる分、楽なの。
「しまった!」
 門が衝撃で開いちゃった! 吸い込まれる!

 気がついたら、空き地だった。見たことがある場所。
「ううん。どうしよう」
 状況が何となく分かっているんだけど、これはどういう事だろう?
「銀の世界ではないみたい……はき出されたのかな?」
 と、首をかしげる私。
 見覚えのある町並みなので、まずは長谷神社に帰る。
 しかし、
「え? ない? 神木も家も!?」
 在るべきはずの長谷神社は、空き地になっていた。というか、何かマンション建築予定地に!?
「え? 浦島効果? そ、そんなわけ無いよね?」
 あ、気がつけば
「静香!? 静香!?」
 叫んでも声が聞こえない!
 周りの人が白い目で見ている。しかし私には全く関係のないことだ。
 ど、どうしよう!
「あ、あやかし荘に向かえば何とか!?」
 と、巫女服姿であやかし荘に向かう。
 しかし、そこにあるべきはずのあやかし荘はただの雑木林だけの小さな丘だった。私有地というより国有地?
 へたりこんで、ぺたんと座る私。呆然とするしかない。
 混乱している。いくら世界の力云々持ってもただの人間で普通の女の子なのよ、私。
「どうしよう……どうなっているんだろう……」
 と、泣きじゃくる。
 そこで、
「どうした茜? そんなところで泣いて」
 聞き覚えのある声が聞こえた。
「……あ、……」
「?」
「裕ちゃあああん!」
 裕ちゃんが声をかけてくれたので抱きつい大声で泣いた。
「ど、どうした茜」
「裕ちゃん! 裕ちゃん!」
 ショックや混乱して、叫ぶしかない私。
「あ、しょうがないな。いつもはつっけんどんなのに」
 と、裕ちゃんは私の手を優しく握ってくれて、歩き始めたの。
 着いたところは、彼のマンションらしいけど……“違う”感じがする。今の私には余りその違和感がなんなのか分からなかった。
「どうして巫女服なんだ? それにあんなところで泣いてて」
「わかんないよ。えっぐ。えっぐ」
 そして、裕ちゃんはなれた手つきで家の鍵を開けて、中に入る、けど……。
「あれ? 開いている?」
 どうも、逆に鍵を閉めてしまったらしい。
「……誰かいるのか? 空き巣か?」
 と、裕ちゃんは慎重に中に入る。
「何いってんの? 裕ちゃん」
 不機嫌そうな声が。
 声。声? あれ? この声は?
「あれ? 茜?」
「どうしたの?」
 家の中で何かが起こっているみたい。
「どういうことだ? あれれ? ちょっとこっちに」
 裕ちゃんは私を引っ張った。
「…… きゃああああああああああああ!」
「きゃあああああああああ」
 ご近所迷惑な悲鳴で耳鳴りがする。
 これ私と、“こっちの世界”で茜。
 でもさ……くたびれたパジャマじゃなく白いシャツきてやぎパンツで堂々玄関まできて(私もだけど)、 かててくわえて、裕ちゃんの妹という設定ってどうかと思うんだけど!



〈にているなぁ〉
 混乱しているのは長谷の方だけではない。この世界の茜もそうだ。
 おびえて裕介にくっついている長谷茜の方に鋭く睨み付けるも。よく見れば見るほど、自分と似ている。この世の中に3人は似ている人がいると言うが、うり二つ。生き別れの双子の姉妹ではないかと思わせるモノだ。
 お互い睨みながら、手を軽くあげてみる、鏡の前で確認するみたいに。
 片方が手を挙げると、同じように手を挙げる。
 顔を近づけると同じく。
 それの繰り返し。
「……」
「……」
「似ている」
「似ている」
 と、はもる。
 境界線の道標ように立っている田中裕介は言葉が出ない。
「ま、落ち着いて。二人とも。彼女はえっと……とにかく入って」
 何とか言った言葉はそれだけだった。
「で、この子をどうするつもりなの?」
 田中茜は裕介に訊く。
「いや、一応事情を聞いてから考える。うん」
「はあ。裕ちゃんの考えていることは分かるけどね。どうなるか分かっているのかなぁ」
 田中茜はため息をついた。
「えっと、私、帰らないと……」
 長谷茜は、おどおどしながら言う。
 何となく気まずいというべきか、驚きと不安の、緊張した雰囲気。それもそうだろう。田中茜にとっては兄が女性を連れてくること自体許せない。いつもつっけんどんにするが、兄が大好きなのだ。しかも釣れてきた女性が、自分にうり二つだなんて「信じられる? お兄ちゃんも私のこと好きだけど禁断の恋は出来ないって事?」と勝手な妄想など考えるわけである。
「どこの人なの? 名前は?」
 裕介が紅茶を入れて来た。
「長谷茜。長谷神社の巫女。神聖都学園大学部……」
「そんな大学ないよ? 嘘言っちゃだめだからね!」
 田中茜の一言。
 つまり、かなり敵対している感じだ。
 しばらく立ってから……長谷茜はなにか分かった。
「アストラルから……更に別の門が開いて……平行世界にたどり着いたって事かも!?」
 と、独り納得した長谷茜。
 沈黙する田中兄妹。
「ねぇ、裕ちゃん。この子頭悪いんじゃないの?」
「こら、そんなこと言うんじゃない。事件に巻き込まれて混乱しているんだ、と思う」
 結局話を聞いていくと、兄妹にとっては電波以外の何者でもない長谷茜の言葉に戸惑うばかりだったが……。
「図式にしてみるとそういうことになるのか」
 と、田中裕介は大体のことを理解した。
 妹の方はまだ信じていないらしい。巫女さんと自分が似ていることに驚きを隠せないほかに、裕介にべったりくっついていることがやはり許せないのだ。実のところかなりのブラコンである。
「うーん、これが事実とすると……しばらく彼女をここで預かるしかないな」
「えええええ?!」
 茜が二人とも叫んだ。
 しかし、長谷茜は選択の余地はない。何しろ平行世界といえども、どのように変化しているか、大体見当がついており、下手に動くことが出来ないのだ。

 田中茜は、自分の立場が危うくなると言うところは数分後に起きた。
 長谷茜が、田中茜の部屋を見たとたんに愕然とするのだ。
「こんな汚いところがこの世界の私の部屋?」
「わるい?」
「あのねー。ひょっとして掃除とか洗濯とか……」
「全部裕ちゃんがやってくれる」
「……こんな私はイヤー!」
「いきなりなにいってんのよー!」
 怒るのも当然である。
「喧嘩は止めなさい! 二人とも」
 しかし、巫女茜がさっくりと綺麗に片づけたあたりに田中茜は驚くしかなかった。
「すごいな、茜さんは」
「なれてるんです」
 と、勝ち誇って威張っている。

 ――いつか絞める

 と、田中茜は思ったのである。

〈しかしまぁ:裕介視点〉
 平行世界から来たと言うことは理解できた。茜さんがここまで茜と同じでも、スペックが違うこと以外には性格が同じだ。炊事洗濯も何でも出来るし、つっこみは一級品だ。ずぼらな茜と見比べてしまう。鏡を見ているためにお互い険悪モードのようだが、何とか上手くやっているみたいだ。
 茜さん自身、その次元門が見つかって帰ることが出来るまでいると言うことに、茜も渋々従ってくれた。私の生活も少しはメリハリのあるモノになったと思う。双子の妹がいるみたいで幸せだ。
 妹の茜はずぼらすぎて、私がいなければ何も出来ない。楽器演奏は両親の血を受け継いで上手いがまだまだだ。しかし、可愛い事は確かだ。
 長谷茜さんは、炊事洗濯掃除と完璧にこなす。それに、色々私たちに分からないことを知っている。妹と比べてしまうと。何となく視線が痛い。
 一人増えたぐらいなので、それほどこの世界に影響を及ぼすことはなく、家は綺麗になって、ご飯はおいしく、にぎやかな日々になった。
「裕ちゃーん ちょっと一発芸」
 と、双子物まねで笑いを取る茜ズ。
 仲が良いのか悪いのかというところだろう。

 ただ、彼女の世界での私が問題だった。
「メイド魔神?」
「そう。メイド服が大好きで、気に入った女性にいつもメイド服を着せるの。神業だよ」
 変態なのかとショック。
「でも、こっちの裕ちゃんは素敵でかっこいいなぁ」
「あ、ありがとうございます」
 本気で言うからドキドキしてしまう。
 そのあと、後ろから痛い視線が来るんだけど……。


「帰昔線か、時間世界樹の起点を計算して……」
 と、茜さんは東京の地図を必死に見てなにやら色々計算している。
「地脈と、その経路。ああ、この世界の精霊力や魔力などは少ない……かなり大きな霊力など集まる場所がないと」
 と、かなり悩んでいるようだ。
「頑張っているけど私たちには手伝えることが出来ないなぁ」
 と、私はため息をつくしかなかった。

〈突然の別れ〉
 気がつくと、置き手紙があった。
「ありがとう。え? まさか!?」
 と、私はかけだした。
 下着だけの茜は寝ぼけ眼でぼうっとしている。
「どうしたの?」
「茜さんが居ない!」
「私ならいるけど……ああ! あっちのほうね!」
 いそいで出かける。茜も探してくれた。


「別れとかすると辛くなるから……」
 私はこっそり抜け出した。微力な魔力をもって、次元門を探し出す。
「ここか」
 前の退魔をした場所。私の故郷での場所だけど。周期があったようで、一番魔力が強く残っている。
「門、開け。我を導け、時の翁よ。異界の狭間を彷徨いし賢者よ……我に力を」
 門が開く。
 近くに二人がやってくる。
「ドラマみたいに面と向かって“さよなら”は言いたくない。悲しくなるから。さようならこの世界の裕ちゃんと私」
 と、私は開いた門をくぐった。


 私(田中裕介)と茜は、彼女が奇妙な門をくぐるところを見てしまった。
 少しだけこっちを見て、にこりとほほえみ、中に入っていった。
「さよならも言わないで……どうしてなんだ?」
 と、私は呟いてしまった。
 悲しみがこみ上げてきた。
 茜が私の腕を抱く。
「あのこ、さよなら言いたくなかったんだ。目の前では」
 と。
 さすが似ているから、分かったのだろう。
 この奇妙な体験は二人だけの秘密となった事は言うまでもない。

 END


■登場人物
【1098 田中・裕介 18 男 何でも屋】

 今回の設定
【田中裕介 男 24 大学生+演奏者】

【G-NPC 田中茜  女 18 ブラコン女子大生】
【NPC  長谷茜  女 18 長谷家継承者】


■愉快な仲間達のコメント(ライター通信もどき)
義明「こういう事はありそうだよね」
茜「ありそうで怖いので。一番怖いのは、ずぼらな私って事と、あの完璧超人の裕ちゃんだ!」
|Д゚) かわうそ? つまんない
エルハンド「次元の門で迷うことはあるだろう。それもまた貴重な体験となる。おもしろい話だ」
茜「一番の被害者は私だね。うん」
滝照「どれだけずぼらか、描写に苦しむのでカットしたのです」
|Д゚) むーイメージするとへちぃとか?
滝照「そうだな、ナマモノ」
茜「でもさ」
全員「?」
茜「かわうそ?なら適応するからいいよね。別世界に迷い込んでも」
|Д゚) それはそれで困るなりよ
(と、色々話がふくらんでいく……)

滝照直樹
20060308