|
『あの世への同行者募集』
投稿者:ベータ 21:10
集団自殺志願者を募集してます。
七輪なんかより、もっと確実で全く苦しまないで逝ける方法知ってます。
とある山林に住む妖魔に生気を吸い取ってもらうんです。
優しくて、美しい人間の形をした妖魔です。
山奥で最後のパーティを楽しんだ後、夢心地のまま息を引き取ることができます。
興味ある人は、応募理由を書いてメール下さい。
*******
「ちょっと待ったぁ! ここは、そういうサイトじゃないってば!!」
その記事を目にした瀬名・雫は、即刻削除をしようとして、ふと手を止める。
「妖魔……か」
内容は掲示板の趣旨と違えど、妖魔という単語には心引かれるものがある。
雫はベータの記事とメールアドレスを保存し、記事を削除した。
「ねえ、誰か志願者装って潜入してみない? あー、あたしはよしとこっかなぁ……」
「死ぬのに楽も苦もねぇだろうに。そういう集団自殺は、意地でも俺が止めてやる!」
申し出たのは、五代・真という二十歳の青年であった。
この話に乗るということは、死を望んでいる姿勢を見せるということ……つまり、命の危険がある。インターネットカフェには彼以外調査を申し出る者はいなかった。
「俺一人で行くのも何だから、一緒に行こうぜ、雫」
ぽんっと、真は雫の肩を叩く。
「う、う〜ん。真ちゃんと一緒なら……」
あまり乗り気ではないようだが、雫はフリーメールアドレスを取得する。
「……これでいいか?」
席を代わり真が送信文を書く。
『人生が面白くなくなったので死のうかな〜と思っていたところで、これは渡りに船だと思った。是非、パーティに参加させて欲しい。2名だ』
「面白いんだけどなー人生」
そう言いながら、雫は真が書いた文を送信したのだった。
*******
「うわあああ、凄いよ、この建物! こーんな山奥にこーんな豪華な洋館があるなんて、ホントいかにもってカンジだよねっ!」
数日後、真と雫はベータという人物に指示された山奥にやってきていた。
先日とは一転して、雫のテンションは高かった。しかし、はしゃぎながらも、真の腕をつかんでいるあたり多少怖いらしい。
怪奇現象に全く恐怖を感じない彼女でも、死は怖いのだろう。
「いらっしゃいませ」
ドアの前に、メイドが迎えに出ている。長い黒い髪と目。生粋の日本人のようだ。
何も知らずに働いているバイトだろうか。それとも……。
雫と真がベータから送られていた秘密の文章をメイドに見せる。
メイドが扉を開く。中で待機していた同じ格好のメイドに、二人は会場へ案内される。
室内はとても明るかった。
既に会場には数名の男女が集まっていた。
部屋の明るさと、きらびやかな装飾とは違い、人々の顔は暗かった。
「ようこそ、私達の別荘へ」
最後の客を通すと、メイド服姿の女性達がビールを注ぎに回った。
料理は既に揃っている。
「最後の日に、皆様とお会いできたことを祝して。乾杯」
グラスを手にメイドが言うと、集まった男女も乾杯といいながら、グラスを重ね合わせた。
「覚せい剤かなんかが入ってる可能性もあるな……雫、飲むなよ?」
「苦いから飲まないよ。それより、これ、すんごい美味しいよ!!」
雫はステーキに夢中だった。
「雫〜!」
「少しよろしいでしょうか?」
雫を止めようとする真の肩に、突然手が置かれた。
振り向けば、くたびれた着物に袴姿の男性がいる。
「高ヶ崎・秋五と申す者です。貴方は何故自殺を……?」
真はいぶかしげに秋五を見る。格好はくたびれた和服だが、その顔は余裕とも見える笑みが浮かんでおり、明らかに会場の人々とは雰囲気が違っていた。
「ああ、失礼。自分から話すのが礼儀ですよね。最近仕事がなく、世の中がつまらなく感じましてね。いっそのこと……と思ったわけです」
「あー、まあ、俺も似たようなものだ」
「そうですか。そんな風には見えないのは……気のせいでしょうか?」
「それはお互いに、な」
互いに別の目的でパーティに参加していることを察知する。しかし、その目的事態はどうも違うようだ。真剣な真に対し、秋五の方はどことなく愉しんでいるように見える。
「真ちゃ〜ん、真ちゃんの分も食べていい〜?」
雫がフォークを振り回しながら、叫んでいる。
「だからなぁ、雫」
真は慌てて雫を止めに戻る。雫は、既に自分に出された料理をあらかた食べつくしていた。
高ヶ崎・秋五は情報屋兼探偵である。
今回のパーティ参加理由は、自殺希望ではなく、依頼でもなく、独自調査……でもなければ、単なる興味本位である。
会場には、十数人の男女がいる。このパーティは週に一度行われているようで、参加希望者は好きな週を選ぶことができるらしい。3度目の申し込みでようやく参加の決心がついたなどと言う者もいた。
ただ、2度目の参加という者はいなかった。
会場内には穏やかな音楽が流れており、色気のあるコンパニオンが客の世話をして回っている。
壁に掛けてある絵画も、室内の装飾も立派であったが、何故かどこかしらうそ臭く感じる。
秋五は自殺希望者一人一人に自己紹介をして回り、理由を問う。
夢破れ、生きる希望をなくした者もいる。
事業で失敗をし、妻子に逃げられた男もいる。
病気で余命を宣告され、苦しんで死ぬくらいなら……と考えて参加した者もいた。
最初は暗く沈んでいた彼等だが、アルコールとコンパニオンの話術で次第に穏やかな表情へと変わっていく。
秋五は同時に主催者を探す。
乾杯の音頭をとったのはコンパニオンの女性であったし、会場には主催者といえるような人物はいない。
(自殺志願者が14人に、変なの(真と雫!)が2人……コンパニオンが5人。この中にいるんでしょうかね)
「本日は沢山の方々にお集まりいただき、光栄ですわ」
突然の高い声に、秋五は顔を上げる。
一際派手な格好をした女性が、会場の中央へと歩みを進める。
スタイルの良い金髪美人だ。思わず目を奪われる。
「お出ましのようですね」
秋五の顔に笑みが浮かぶ。
それにしても、今日はどうも調子が悪い。
僅かではあるが、頭痛を感じており、軽い耳鳴りもしている。
風邪のひき始めだろうか。
しかし、次の瞬間。女性の言葉を聞いた直後に、秋五は全てを理解する。
「皆様に、私から素敵なプレゼントがありますの」
脳に直接響くような声……軽い眩暈を感じる。
秋五は煙草を取り出すと、口にくわえて火を点ける。
煙を吸い込み、脳をクリアにする。
意識を集中して、再び女性を見る。
「なるほど、ね……」
秋五は一人大テーブルから離れ、壁に寄りかかる。
「お一人づつ、来てくださいませ」
ゆらり、ゆらりと、客達が女性に近付いていく。
「待て!」
突如皆と女性の間に割り入ったのは、真であった。
「しっかりしろ、こいつは少女じゃねぇ、化け物だ!!」
女性の眉がぴくりと動いた。
「ばけものぉ〜ようかい〜」
うっとりした表情で、雫が女性の下へ行こうとする。
真は雫の腕を引っ張り引き寄せると、秋五に目を向けた。
「こいつを頼む!」
雫の背を勢い良く押す。雫は躓くかのように、秋五の元に倒れこんだ。
「化け物とは心外ね。あなたも望んでここに来たんでしょ? さあ、心を安らかにして、私のところにいらっしゃい」
「ふさげるな!」
真の口から、一筋の血が流れていた。妖魔の暗示に歯で舌を噛み抗ったのだ。
「おい、あんたら、何で死にたいんだ? 死ぬ前に人生楽しく、なんて考えないで、これからも楽しくと考えられないか?」
真は、人々を揺する。しかし、皆の視線は既に妖魔の向かっていた。生気のない顔で、恍惚の笑みを浮かべながら、ゆっくりと妖魔に近付く。
「いらっしゃい」
妖魔は最初に手を伸ばした若い女性を引き寄せた。黒髪をなで、唇を額に寄せる。
「離れろ!」
真が若い女性を突き飛ばす。
「解らねぇっていうんなら、妖魔を倒すまで! あんたら、見てくれは美人でも、こんなバケモノに殺されてもいいのかよ!」
真は額に巻いていたバンダナを解く。
瞬時にバンダナに念を込め、強度を高める。真の特殊能力だ。
「わからない子ね、いいわ。あなたからあの世へ送ってあげる」
伸ばしてきた妖魔の手を、バンダナで弾く。
既に、真の眼には真実が映し出されていた。
ここは、崩れかけた温泉宿の宴会場のようだ。
メイドの姿はない。
目の前の人物……いや、生き物は、先ほどまで真の目には黒髪黒目の可愛らしい少女として映っていた。しかし、今は……。
妖魔の緋色の髪が真に襲いかかる。
バンダナで払い落とすが、針のように鋭い髪だ。掻い潜った僅かな髪が、真の体を掠める。
真の腕が妖魔の首をつかみ、そのまま床に倒す。
緋色の髪、緋色の眼。二本の手足を持ってはいるが、その顔、その姿は明らかに人間のものではなかった。体格に対し、手足が異様に太い。
「きゃあああっ☆」
それは、恐怖の悲鳴ではなく、歓喜の叫びのようだった。
真は手を離さぬまま、首を捻り振り向く。雫が若い男性に腕をつかまれていた。
「アレハ、我ノテシタ。アノ娘ノアリアマル生気ヲモライ、ワレ、キサマヲ滅スル……」
「おい、高ヶ崎秋五! あんたは正気なんだろ! 雫を守ってくれ、頼む!! ぐわっ」
真は妖魔に襟首を捕まえれ、床に倒される。
若い男が、秋五を睨みながらナイフを取り出した。
「やれやれ」
秋五は吐息を付くと、煙草を取り出す。銘柄はマイルドセブン・スーパーライト(タール6mg ニコチン0.5mg)だ。
口に銜えると、軽く息を吸い込みながら、ライターで火を点ける。
少年が雫を離し、飛び掛ってくる。
秋五は煙草を口から離し、煙を吐きながら、指で弾いて床に叩き落す。
――瞬間――
秋五が飛びのく。
爆音が鳴り響き、秋五の背後に飾られていた絵が爆発を起す。
少年は激しく吹っ飛び、テーブルに頭をぶつけ、動かなくなった。
周囲の人々は……まるで夢から覚めたかのように、悲鳴を上げ始めた。
「あばよ!」
爆音に気をとられた妖魔の胸を、真が貫いた。
「うっ、きゃああああー、妖魔がーーーっ」
妖魔の断末魔に続き、我に返った雫の的外れな悲鳴が響いた。
*******
正気になった人々は一目散に建物から逃げ出した。
結局、死は怖いのだ。
一人で死ぬ勇気のない人達……。
だけれど、生きる希望を見失ってしまった哀しい人達。
その心までは救うことは出来なかったけれど、彼等も少しはわかっただろう。
「死ぬのに楽も苦もねぇだろうに……」
「はあ……それにしても、残念」
雫は無念そうなため息の連続だった。
「あたしも、妖魔をちゃんと見たかったよー」
「見たじゃないか、ばけもの〜ようかい〜って近付いてたぞ、おまえ」
「え? そうだっけ?? うーん、そういえば、凄く素敵なバケモノを見た気が」
詳しく聞けば、髪は逆立ち、手は10本、足は手の倍に、口は裂け、眼は……聞いていて気持ちが悪くなるような姿だったそうな。
真には、清純な少女に見えたあの妖魔だが、雫には妖魔本来の姿より、もっとグロテスクに映っていたようだ。
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【6184 / 高ヶ崎・秋五 / 男性 / 28歳 / 情報屋兼探索屋】
【1335 / 五代・真 / 男性 / 20歳 / バックパッカー】
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■ ライター通信 ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
初めまして、川岸満里亜です。
妖魔討伐お疲れさまでした。物足りなくはあったようですが、雫も結構楽しめたようです。しかし、この後彼女は腹を壊したかもしれないですね。いったいどんなものを飲み食いしていたのか……。
発注ありがとうございました!
|
|
|