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<東京怪談・PCゲームノベル>


紅葉落つ庭にて



 はらりと開いたのは903項。



 ひらひらと、赤い色が目に映る。
 紅葉だ、とその赤の正体を認識し、あたりを見回した。
「えっ……銀屋だったよね? まぁ、いっか……」
 菊坂 静は驚きはしたが、すぐに平静を取り戻す。
 こういう、自然の多い場所というのはあんまり来た事がない。良い気晴らしになるだろうと思う。
「帰れなかったら……」
 ふと、もしこのまま帰れなかったらどうしよう、と思う。しばらくの間色々と考えてみるが、でた結論は一つ。
「……奈津さんなら気付いてくれるかな」
 きっと大丈夫だ、と思い今はこの世界を楽しむ事にした。
 今自分がいるのは河原。時間帯は昼頃だろう。太陽の位置が高い。白い石、綺麗な水が流れる川。その川面にも紅葉が流れている。その上流の方を見てみると、そちらの山肌も綺麗に朱色。
 見事なものだな、と静は思う。
 そういえばあの朱色、ふと思い出す。
 最初に銀屋に来たときに出会った、遙貴。あの人の髪の鬢もこんな色だったな、と思う。「そういえば、僕のことで何か気付いてた様子だったけど……結局あの後聞けず仕舞だったよね。気になるけどそう都合良く会える訳……」
 ないだろうな、と静は苦笑する。
 と、しばらく河原から離れるように、山の中を散策していると一件の日本家屋が目に映る。そこには生活観が感じられて、人がいるのかもしれない。
 静かはその家に近づいて、ゆっくりとその引き戸を開けた。
「ごめんください、誰かいますか?」
 立て付けが悪いのか、その引き戸はがたがたと音を鳴らす。
「んー誰だー……うお、最近人間が多いな……」
「藍ノ介さんだ、こんにちは」
 静はその音に気がついて出てきた人物、藍ノ介の姿を目にし、頭を下げて挨拶をする。向こうもつられてこんにちは、と一礼。
 顔を上げて、違和感を感じる。
 藍ノ介が、なんだか今よりも若い。しかも狐の耳と尻尾と、出しっぱなしだ。
「……なんで汝はわしの名を知っておるのだ」
「え、だって僕達会ったことありますよね、いくらなんでもそれを忘れるなんて……」
「や、会った事などないぞ」
 眉間に皺を寄せて藍ノ介は言う。少し若い雰囲気がするのと、何か関係があるのかもしれない。髪も知っている藍ノ介よりも長い。
「……髪の毛邪魔じゃないですか?」
「え、髪……? いや、別に……」
「目に入ったりして……みつ編みすると、きっと邪魔にならなくなりますよ」
 静はにこっと笑う。その笑顔に押されてか、藍ノ介はおう、と曖昧な返事をした。
「なんなら僕がしてあげましょうか?」
「そ、そんな必要ない! いいのだこのままで!」
「それに何を言っても、言う事なんて聞かないぞ、静」
 くすくすと、笑い声が上から聞こえてくる。その方向を見ると家の屋根の上で遙貴がおかしそうに笑っていた。
「あ、遙貴さん、こんにちは」
「うん、こんにちは。藍ノ介、そいつは我の連れだ、安心していい。何も悪いことはしないさ」
「汝の連れか……確かに、そんな感じだな……」
「あらあら、お客様ですか?」
 外の騒ぎを聞きつけてか、置くから一人また姿を見せる。ふわふわとした銀髪に優しい笑顔の女性。静はなんとなくその女性が、奈津ノ介と似ているを思った。
「うむ、遙貴の連れだと」
「遙貴さんの? 珍しいわね、遙貴さんが誰かをここにつれてくるなんて」
「そうなんですか?」
 少し首をかしげて聞き返す静に、彼女はええ、と頷く。余計な事は言わなくて良い、と上から困ったような声が響いて、ふわりと音もたてず遙貴は降りてくる。そしてそのまま、静の腕を掴んでずるずると引きずっていく。
「お話しするのなら中でお茶をだしますよ?」
「いいんだ、ヒサヤ。その気持ちだけで十分だ。静にこの辺を案内する約束があるからな」
 遙貴は肩越しに二人に言う。そして引きずる静の視線を受けてついて来いと告げた。静は、あの二人も気になるけれどもまぁいいか、とそれに従う事にして、さようならと藍ノ介と、遙貴がヒサヤと呼んだ女性に向かって手を振る。
 案内してもらう約束などないけれど、それがこの場を離れる口実だとはいくらなんでもわかった。
 藍ノ介はあっけにとられているが、ヒサヤは同じようににこにこと笑って手をふり返してくれていた。
「あの、遙貴さん?」
「ん、ああ……引きずって悪い。静もあの本、開いたんだろう?」
 ぱっと引きずっていた手を離して、そして遙貴は問う。静はこくん、と頷いてそれに応えた。
「我は藍ノ介に連れ込まれたんだが、藍ノ介はどこかに行くし……」
「え、さっきいましたよね?」
「あれは昔の、藍ノ介の記憶の中の藍ノ介だ。隣にいたヒサヤは、藍ノ介の妻」
「……なんとなくわかりました。奈津さんと似てるなって思ってたんですよね」
「うん、奈津は母親似だから」
 柔らかく笑んで言う。それはたまにしか見せないような雰囲気だった。
 静はあの奈津ノ介の母親であるヒサヤが好きなんだな、と感じる。
「そうだ、僕聞きたい事があるんですけど」
「なんだ?」
 山の中を歩きながら二人は話す。どこに行く、というあてはもちろんない。
 静は思っていた事を口にする。この前、自分について何か気付いていた様子だったけれどもそれは何か、と。
 遙貴は、その時の事を思い出すかのようにああ、と声を漏らす。
「ちょっと、気になってたんですよ」
「そうか……でも言うと、きっと静はにっこりとても友好的な笑みを浮かべると思う」
「僕にとって言われて嬉しく無い事だって事ですか?」
「そうとって貰っていい。ま、どうしてもというなら応えるが……そうだな、あえて言うのなら我と静は似ているって事か」
「似てる?」
 うん、と遙貴は頷いて、そして曖昧に笑う。
 自分の何を感じて、自分と何が似ているのか。明確には答えないけれどもそれは遙貴にとって言いたくない事である気がする。
「……何か考えてみます。遙貴さんも言いたそうじゃないし……」
「うん、言いたくないな。静の反応が怖いからな」
「やだなぁ、僕は普通の反応しかしませんよ」
「本当か? そうは思えないな」
「本当ですよ」
 にこにこと笑いあっているのだけれども、どこか突き放すような、お互い様子を伺い合うような様子で二人は話す。
 お互い食えないやつだとでも、思っているようだ。
「他に何か聞きたいことはあるか? 今なら、答えるかもしれないぞ。ここの雰囲気は我にとって心地良いものだから、機嫌が特に良い」
「サービスがいいですね。そうだなぁ……奈津さんがこの間口説いていたけど……もしかして女の人ですか? でも胸とかないですよね、あ、まな板でコンプレックスとかだったらごめんなさい」
 静はにっこり満面の笑みで問う。ちゃんと答えてくださいね、と暗にプレッシャーをかけて。遙貴は仕方ない、と苦笑をしながら言葉を紡ぐ。
「隠す事でもないしな。どうみても我は男だろう、でも女でもある。何が切欠で、とかどれくらいの周期でとかはまったくわからんのだが……まぁ、簡単に言うと両性だな。女の我は美人だぞ、今の我も美人だがな」
「そうですね、綺麗ですよ。ふーん、両性か、そうなんだ……」
「さらっと流すか……なんだ、我が女なら静も口説く気だったのか?」
「そうだったらどうします?」
「どうもしない。口説き返してやろうか?」
 酷い答えだ、と静は笑う。もちろん遙貴が女でも口説く気なんてさらさらないのだけれども、口説かれる気もないのだけれど、こんなやり取りが楽しくて続けたくなる。
「じゃあ奈津さんに口説かれてるのは、どうするんですか?」
「それを聞くとは、無粋だな。わかってるだろう、簡単に落ちてなんてやらんよ。奈津もそれはわかっているみたいだ」
「そうでしょうね。遙貴さんが簡単に靡いてしまったら、もう遙貴さんじゃないですよね」
 言ってくれるな、と返す遙貴にそんなことはないですよ、と静は笑う。
「そういう静は好きなやつはいないのか? 恋人とか」
「さぁ、どうでしょうね」
「その言い方はいないようだな。まぁ、そうだろう、それでいいんだろうな。まだまだ若いからそのようなもの早すぎるんだろう。それに静に好かれたら苦労しそうだな」
 どういう意味ですか、と聞き返す。わかってる癖に聞くのか、と遙貴は言う。
「好きだという感情も、まっすぐ伝えず、辛辣な言葉でチクチクと小言。普通のやつならば、静は自分のこと嫌いなんじゃないか、と思うわけだ。あれだな、好きなやつを苛めたい心理とか、持ってそうじゃないか。ああ、いかん、そうだとしたら本当に我と似ている証拠になってしまうな……」
「そんなことないですよ。なるほど、だから藍ノ介さんにチクチク言うんですね」
「ああ、そうだな。あれは弄って良いやつだ。動じないやつは本当に動じないんだがな……静もそんなやつをみつけるといい。どちらもいると楽しいぞ」
 と、視界が開ける。木々が途切れ、そこは崖の近くだ。
「ん、相変わらずだなこの場所。と、言っても藍ノ介の記憶の中だからあるに決まってる場所なんだが」
「この場所、思い入れでもあるんですか?」
 崖の高さがかなりあるのは容易にわかる。けれどもそこから一望できる山々の紅葉は美しい。赤のグラデーションが、足下に広がっている。
「この崖からな」
 遙貴は、苦笑混じりに言う。馬鹿をしていたから、と自嘲も含んで。
「落ちたことがあるんだ。落とされた、でもいいな。ちょっと悪ふざけが過ぎて」
「落ちたって……怪我とかはしなかったんですか?」
「うん、落ちたときは一瞬、何がどうか理解できなかったが飛べるから問題なしだ。落としたやつも、それをわかってやった……いや、あれはわかってなかったかもしれないな……」
「ふふ、でも今遙貴さんはここにいるし。いいじゃないですか、昔の悪ふざけで」
 そうだな、と遙貴は頷いて笑う。
「さて、この世界も堪能したし、我は本の外にでるが……静、帰り方は知ってるか?」
「いいえ、まったく」
「本の外に出たいと思うだけでいいらしい。簡単すぎて阿呆らしい帰り方だ」
「うわぁ……でも平和的で良いじゃないですか」
 静はそう言い、この美しい景色をもう一度見て、心に焼き付けておこうと思う。
 視線を巡らす先は心地良い風が吹き、さわさわと葉の鳴る音。赤い色は穏やかに静かにある。
「本の外に出たら、奈津さんにお茶淹れてもらいましょうか」
「そうだな、うん」
 それを楽しみに、静は思う。
 本の外に戻りたい。
 白い光が、目の前に広がった気がした。



「おかえりなさい、静さん、遙兄さん」
「おう」
「ただいま戻りました」
 穏やかな声色に安堵する。まだ目の前が眩しいけれども奈津ノ介だとわかる。
 本の中から現実に戻ってきたんだ、という実感。
 だんだん眩しさもおさまってくる。そこは銀屋の和室、いつもと変わらない。
「本の中で何かありました?」
「特にはなかったさ、なぁ、静」
「そうですね、僕がしたのは若い藍ノ介さんにみつ編みをすすめたくらい、ですね。あとは紅葉が綺麗でした」
「みつ編み……」
 静はくすくすと笑いながら言う。そして奈津ノ介をまっすぐに見る。
 どうしましたか、と不思議そうな表情をした彼に、静は遙貴に気がつかれない様にしながら言葉を伝える。
「大変そうですけど、頑張ってください」
「えっと……何かわからないですけど、頑張りますね」
 一瞬、ぱちっと驚いた表情を浮かべた奈津ノ介だけれども、すぐありがとうございますと言う。何だかわからないけれども応援されているのだと受け取ったらしい。
「お二人ともお茶、飲みますよね。僕準備してきます」
「はい、お願いします」
「うん」
 奈津ノ介が立ち上がり、奥へと消えていく。
「静」
 と、奈津ノ介がしっかり奥に行ったのを確認してから、遙貴が声をかけてくる。
 なんですか、と静はにこりと笑い返す。
「静は奈津を応援する気なのか」
「ああ、聞こえてましたか……」
「しっかりとな」
 二人の間には笑顔があるのだけれども、どちらも本心は見せない様子。
 ある意味気があって、仲が良さそうなのだけれども、周りにそうとられるのは少し控えたい。そんな雰囲気だ。
「僕は奈津さんの味方しますよ、おいしいお茶も飲みたいですし」
「さらっと笑顔でそう言うか……ま、そうだろうな。と、奈津が戻ってくる、この話はここまでだ」
 そうですね、と静も頷く。奈津ノ介の機嫌を損ねるのはなんとなく嫌だ。
 笑顔で戻ってくる奈津ノ介の淹れるお茶を飲みたいから、今はこの話は終わり。
 またの機会があればつっこんでみようかな、と静はひそりと思う。



<END>



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号/PC名/性別/年齢/職業】

【5566/菊坂・静/男性/15歳/高校生、「気狂い屋」】

【NPC/遙貴/両性/888歳/観察者】
【NPC/藍ノ介/男性/897歳/雑貨屋居候】
【NPC/ヒサヤ/女性/223歳/良妻】
【NPC/奈津ノ介/男性/332歳/雑貨屋店主】

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■         ライター通信          ■
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 菊坂・静さま

 こんにちは、ライターの志摩です。いつもお世話になっておりますー!
 今回は書いていただいた項数903は9→話をする人:若藍ノ介とヒサヤママ、0→最初に到着した場所:昼の河原付近、3→話の内容:みつ編みでした。内容みつ編みってなんですか!って感じですが、これは私の好きな動作を入れたものでした。
 今回は遙貴と笑顔でトークをしていただきました!本当に笑顔なのかはわかりません、腹の探りあいです…!(何)にこにこと似たもの同志だなー雰囲気を出しつつの世界をだせれていればと思います!
 ではまたご縁があってお会いできれば嬉しいです!