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<東京怪談・PCゲームノベル>


超能力心霊部 サード・コレクション



「なんだか心配ですね。薬師寺さんのこと」
 頬杖をつく一ノ瀬奈々子の向かい側に座るのは高見沢朱理だ。
「まあ、あの写真の正太郎は不気味だったけどね」
「でしょう? それに薬師寺さんが撮るのは怪奇写真がほとんど……。これは何かあるかもしれないです」
「考え過ぎだよ奈々子。あいつだってたまにはフツーの写真撮るってば」
「自分の写真を撮ってしまうのが普通とは思えませんけどね」
 嘆息する奈々子。
 朱理は「お」と呟いて視線を移動させる。
 ちょん、と佇むのはらんだ。
「こんにち……は」
 ぺこ、と頭をさげるらんに二人は微笑む。
「やっほー」
「こんにちは。また遊びに来たんですか?」
 奈々子の言葉にらんは頷いた。
 朱理は席を奥側に移動すると、らんを手招きする。朱理が今まで座っていた席にらんは腰掛けた。
「イモ食べる?」
 らんに向けてポテトを差し出す朱理。ポテトを一本取って、らんは口に運んでもぐもぐ食べた。
 鼻をひくつかせたらんは首を傾げる。
「……正太郎兄ちゃんは?」
「ああ、あいつなら帰ったよ」
「帰った?」
 らんに向けて朱理は「うん」と頷いた。
 正太郎がいないことにらんは不安そうな表情を浮かべる。奈々子がそれに気づいた。
「どうかしましたか? やっぱりお姉さん達よりは、お兄さんのほうがいいんでしょうか……」
「まあ男同士にしかわかんない話もあるとは思うけど」
 そんなやり取りをする二人に、首を左右に振ってらんは「ちがう」と呟く。
「そうじゃない……嫌な臭い……する」
「ヤなニオイ? やだな。奈々子、トイレなら奥にあるよ」
「なにを頬を染めて言ってるんですか、あなたは」
 こめかみに青筋を浮かべる般若に、朱理は悲鳴をあげてトレイで顔を隠した。
 思わずらんも朱理にしがみついて震える。
「ごごごごめん……! てっきり奈々子がオナラでもしたのかと……」
「なんで私がそんなことするんですか!」
「だってあたいはしてないし……。らんくんが言い出したから絶対違うって思って」
 がたがたと震えながら言う朱理とらんは目を閉じて何も見ないようにしていた。
 目を開けるとそこには般若がいる。目を合わせちゃいけない!
「……素晴らしいですね。朱理は、私がこんな場所ですると……そう思っていたんですね」
 声のトーンが変わったことに朱理がギクっと反応する。
 ゆっくりと目を開けたらんと朱理は、そこで見てはいけないものを見た。
「ふふっ。ふふふっ」
 薄く笑う奈々子に二人は真っ青になる。朱理は思わず立ち上がってらんを脇に抱え、その場から逃げ出した。



「はあ……はあ……ここまで逃げれば十分かな……」
 朱理は肩で息をしてらんを降ろす。
 らんはきょろきょろと周囲を見回した。
「嫌な臭い……?」
 らんの呟きが耳に入っていない朱理は用心深く周りを見る。
「でもあいつテレポートできるからなぁ……」
「朱理姉ちゃん」
 セーラー服の端を引っ張るらんに気づき、彼女は振り向く。
 振り向いた先には屋敷があった。
「……なんだここ……。こんなでっかい家、さっきまであったっけ?」
「嫌な臭い……ここからする」
「は?」
 疑問符を浮かべる朱理の声などらんは聞いていない。
 屋敷から漂ってくるその臭いに眉をひそめた。
 地面を蹴ってらんは窓を突き破り、中に入る。朱理の驚いた気配がしたが、それに構ってはいられない。
 とても嫌な予感がするのだ。
 屋敷の中は薄暗く、らんは目を細める。
 壁という壁に肖像画が飾られており、不気味さが強調されていた。
 らんは手の甲で鼻を隠すような仕種をする。あまりにも臭いが強烈だからだ。
(すごい臭い……!)
 臭いが強すぎて意識が朦朧としかける。だが奥へと足を進めた。
 正太郎のニオイを微かに感じる。彼はここに居るのだ。
 奥の廊下を突き当たった場所にドアがある。あのドアの向こうから臭いがしていた。
 ぎぃ、とドアがゆっくりと開く。
 罠だろうか。らんは慎重にそちらに進んでいく。
 ドアの隙間からそっと中を覗くと、誰かが絵を描いていた。
(? 正太郎兄ちゃん……?)
 部屋の中央では正太郎が筆を手にして絵を描いている。だが、彼の見る先にはなにもない。
 絵を描くならモデルがあるはずなのに。
 それに……。
(……違う)
 ドアがバン! と音をたてて開いた。驚くらんは部屋の中に逃げ込むような形になる。
 正太郎が低く笑った。
「小さなお客さまだな。見たところ、私の欲しい霊力はあまりないようだけど」
「お前……ナニ……? 正太郎兄ちゃん……違う……」
 姿は正太郎だが、まったくの別人だ。それは間違いない。
 正太郎の姿をした何者かは肩をすくめ、パレットと筆を置く。
「間違ってはいない。だが、この姿はキミの探しているショウタロウという人物だよ」
「? どういう……こと?」
「姿をいただいたのさ」
「姿……? 正太郎兄ちゃんの……?」
「とても美味しい霊力だったのでね」
 微笑む彼にらんは警戒を解かない。
 正太郎が戻らねば朱理と奈々子は心配するだろう。それはダメだ。
 あの三人は一緒に居るのがいいのである。誰か一人欠ければ不自然になるのだ。
 彼ら三人の出す雰囲気がらんは心地良い。そばにいると安心する。
 だから。
「正太郎兄ちゃん……連れて帰らなくちゃ……駄目」
「連れて帰る? それは無茶を言うなあ。この姿はもう私のものなのに」
 肩をすくめる彼をらんは睨みつけた。
「返せ! その姿、おまえのじゃない」
「残念ながらそれはできないな。私の姿はもうこの世にないのだ。この姿がもう『私』なのだよ」
 らんは小さく唸る。
 正太郎を助ける手立てはないのだろうか。
「キミ一人でどうするっていうんだい? ふふふ」
「…………」
 正太郎の姿を奪っているというなら、この男を攻撃するとどうなるかわからない。
 攻撃して、この男が死ねば……もしかしたら正太郎も死んでしまうかもしれないのだ。
 どんなことになるかわからない以上、無闇に手出しはできなかった。屋敷の外にいる朱理がいればまた違うのだろうが……。
 ふと気づく。
 そういえばこの部屋はなにかおかしい。
(なにか違う……? でも、なにが違うかわからない……)
 正太郎はらんを見てにたにた笑っている。その態度にらんはムッとした。
「正太郎兄ちゃんはもっと優しく笑う……笑顔、全然違う……!」
「ははっ。そうなのかい?」
 目を細める彼。
 らんはそこで違和感に気づいた。
 この部屋には絵がないのだ。
 ここに来るまでの廊下の壁にまであったのに、この部屋には絵が一つも飾られていない。
 なぜ一つもない?
(絵……?)
 男の真正面には絵がある。こちらからでは何を描いているかはわからないが……重要なものだろう、おそらく。
 まずはあれを奪う!
 らんはそう決めて瞳に力を込めた。
 チャンスは一瞬しかない。それを逃がしてはならない。
 男はやれやれというように嘆息した。
「ムダなことはやめたほうがいい。それよりも、絵を描いてる途中なんだ。邪魔をして欲しくないな」
 一瞬だが男が瞼を閉じて首を左右に軽く振る。呆れを表現するための動作だ。
 だがらんはその瞬間、だん! と跳躍して絵を奪った。
 男はすぐさま顔色を変える。
「なっ……! なにをする!」
 らんは男と距離をとって、奪った絵をちらっと見遣った。
 それは正太郎の肖像画だ。怯えた眼差しの正太郎は見ているこちらが哀れに思うほどだ。よっぽど怖い目にあったのだろう。
(正太郎兄ちゃん……)
 絵が微かに動いたような気がする。
 らんは確信した。
 この絵に正太郎が封じられている。絵が完成したら、正太郎は完全に助からなくなるに違いない!
「かっ、返せ! その絵はまだ途中なんだ!」
 動揺した男は必死になってらんに言う。無理に笑顔を作った。
「わかった。この男の姿は返す。だから。な?」
「嘘だ!」
 らんは言い放ち、絵を両腕で抱えて窓を突き破って外に逃げる。
 ごろごろと地面を転がって着地の衝撃を和らげ、らんはすぐさま朱理を探した。
 朱理は「どうすりゃいいのかなー」とかブツブツ言いながら首を傾げ、屋敷を見上げている。
「朱理姉ちゃん!」
 らんの声に朱理は気づき、こちらを見た。
「これ……コレ、燃やして!」
 絵を投げるらん。
 窓からこちらを見ている男がなにか怒鳴っている。
「燃やして!」
 戸惑う朱理だったが、らんの必死な声に表情が変わった。
 すぐさま自分のほうに降ってくる絵に向けて掌を向ける。
「あいよ! 燃やせばいいんだね!」
「やめろ! まだ途中なんだっ!」
 男の静止の声などまったく耳に入れずに朱理は掌から炎を作り出して絵に向けて放った。
 絵はすぐさま炎に包まれてしまう。
 正太郎の姿をした男は甲高い悲鳴をあげた。
「なんてこと……なんてことを! まだ途中だったのに……!」
「ぎゃ! あいつ、正太郎と同じ顔してる!」
「朱理姉ちゃん……今さら……気づいたの……?」
 朱理の鈍さにらんは呆れてしまう。
 男の顔がみるみる溶けていく。その醜悪さにらんは青ざめた。朱理に駆け寄ってしがみつく。
「ああ……せっかく手に入れた姿が……」
 男はただれていく顔に手を遣って嘆いた。
「うえぇ……気色悪ぃ……」
 男の様子に思わず口を手で覆った朱理は、屋敷が妙な振動をしているのに気づいた。
 慌ててらんを脇に抱えて朱理は走り出す。
 らんは後ろを見遣った。
 遠ざかっていく屋敷が崩れ落ちるのが見える。あの窓はもう見えない。
 だが男の嘆く声だけは延々と聞こえるような気がした。
 いつの間にか濃い霧の中を走っていた朱理は、それを突き抜けて眩しさに目を細める。
「あ、あれぇ?」
 足を止めた朱理はらんを降ろした。
 周囲を見回すがあの屋敷があった形跡はどこにもない。
「どうなってんだ……?」
 疑問符を浮かべる朱理とらんは顔を見合わせる。
「あれ? どうしたの朱理さんてば、こんなところで。あ、らんくんも一緒なんだ」
 後ろから聞こえた正太郎の声に二人は振り向いた。
 にっこり微笑む正太郎の笑顔にらんは安堵する。間違いない。本物の正太郎だ。しかも、絵に閉じ込められていた時のことを覚えていないらしい。
「なんでも……ない、よ」
 らんは正太郎にそう言って微笑した。



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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PC
【6177/―・らん(ー・らん)/男/5/魂の迷い仔】

NPC
【高見沢・朱理(たかみざわ・あかり)/女/16/高校生】
【一ノ瀬・奈々子(いちのせ・ななこ)/女/16/高校生】
【薬師寺・正太郎(やくしじ・しょうたろう)/男/16/高校生】

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■         ライター通信          ■
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 ご参加ありがとうございます、らん様。ライターのともやいずみです。
 今回は正太郎のお話でした。いかがでしたでしょうか?

 今回はありがとうございました! 楽しんで読んでいただけたら嬉しいです!