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<東京怪談・PCゲームノベル>


超能力心霊部 フォース・ファントム



 なぜかいつもここに来てしまう。
 らんはファーストフード店を見上げ、とことこと歩いて中に入って行く。
 この店の二階の窓際にはらんの知り合いである三人の男女がいつもいる。
 その三人と一緒にいると、らんはなぜか安心できた。それにみんな優しいのだ。
 唯一らんの喋りに関して怒った朱理も、最初は怖かったが今ではそんな感情など抱きはしない。
 正太郎も、奈々子も……らんにとっては今ではとても大好きな人だ。
 二階にあがり、窓際のほうへ急ぐ。
 がつがつとハンバーガーを頬張る朱理の向かい側には呆れたような顔の正太郎が座っている。
「ほんとに朱理さんはよく食べるよね……。小さいのに」
「ちょっとちょっと。あたいはそんなに大食らいじゃないよ?」
 不満そうに眉根を寄せる朱理はポテトを摘んで口に運んだ。
「そうかな……。ボクら三人の中で一番食べてるじゃない」
「あんたらが食べなさ過ぎなの! だいたいあんた男なんだからもっとしっかり食べなよ! だからそんなにヒョロいんだって」
「元々こうなの!」
 二人の会話にらんは少し吹き出しそうになる。
 だが、一人足りない。
(奈々子姉ちゃんがいない……?)
 らんは二人に近づいて朱理のスカートの端を引っ張った。
 朱理はそれに気づいて「ん?」と見下ろす。
「おお。らんくんだ。今日はどした?」
「あ、本当だ。また一人かい?」
 朱理が奥に寄ってくれたので、らんは朱理が座っていた席に腰掛けた。
「奈々子姉ちゃん……は?」
 きょとんとして尋ねるらんに、正太郎は苦笑する。
「奈々子さんはもう帰ったよ?」
「あたいと正太郎だけじゃ不安なのかな……」
「奈々子さんが居たほうが安心かい?」
 嘆息する朱理と尋ねてくる正太郎にらんは首を左右に振った。
「三人一緒が、いい」
「ええー! それってセットみたいじゃない!」
「あはは! わかった。あたいがハンバーガーで、正太郎がポテト。奈々子がジュースだね?」
「ヤだよ、そんなセット!」
 嫌がる正太郎を見て朱理は愉快そうにケラケラ笑う。
 正太郎は溜息を吐き、頬杖をついた。
「ったく……。それにしても奈々子さん大丈夫かな」
「むは?」
「朱理さんは食べてから返事しなよ」
 食べていたハンバーガーを飲み込む朱理。
 らんは正太郎をじっと見た。
「奈々子姉ちゃん……どうかしたの?」
「正太郎がまーた変な写真撮ったんだよね〜」
「正太郎兄ちゃん……またやったの……?」
 哀れんだような目で見るらんに正太郎は複雑そうな表情を浮かべる。
「な、なにその……常習犯を見るような目は……」
「あんた常習犯じゃん。怪奇写真の」
「犯罪者じゃないだろ! 写真くらい!」
「いーや、犯罪だね! ある意味覗き写真だもん!」
「好きでやってるわけじゃないよ!」
 二人のやり取りにらんはオロオロした。奈々子が居るならばここで止めてくれるはずだ。もっとも……止め方はきっと乱暴だろうが。
 にやにや笑っている朱理の袖を引っ張る。
「仲良く……して」
 らんの懇願に二人は笑い合った。
「ごめんごめん。別にケンカしてるわけじゃないから」
「そうだよ。大丈夫」
「? なら……いいけど」
 仲良くしているのが一番いい。らんは安堵して胸を撫で下ろす。
 正太郎がらんに、まだ手をつけていないチキンナゲットを差し出して「食べる?」と尋ねた。
 二人と居るのもとても楽しいが……らんはどうにも不安だ。
 なにか嫌なことが起こらなければいいが。
 ぴくん、とらんが鼻をひくつかせる。
 まただ。また、あの嫌な臭いがする。
 正太郎の時も嗅いだあの臭い。微かだが残っているその香りにらんは眉根を寄せた。
 奈々子の匂いと混ざっているそれに、どうしようもない不安を感じる。
 そわそわするらんが朱理の腕をぐいぐいと引っ張った。
「朱理姉ちゃん」
「んー? どした?」
「探そう!」
 きょとんとする朱理が正太郎を見遣る。正太郎もらんが何を言いたいのかわからずに肩をすくめた。
「奈々子姉ちゃんが……危ない!」



 らんは奈々子のニオイを追いかけて走っていた。後方に続くのは朱理と正太郎だ。
 急がなければ間に合わないかもしれない。
 駆けつけた先には奈々子が呆然と立っている。
「ぎゃー! 奈々子さんが二人いるよ!」
 正太郎が悲鳴をあげ、朱理の背後に慌てて隠れた。
 二人の奈々子がこちらを振り向く。
「朱理! 薬師寺さんも……! らんくんまで……」
「朱理! 私を助けてください!」
 同時に喋られて駆けつけた三人は唖然とする。
 姿どころの話ではない。声までそっくりだ。
 奈々子は駆け寄って朱理の腕を掴む。
「突然あの、私そっくりの人が現れて……! きっと悪霊に違いないです!」
「え? あ、で、でもどっちもそっくりだし……」
 困惑する朱理の腕を強く握りしめ、奈々子はもう一人の奈々子をキッと睨んだ。
「あっちが偽者でしょ!? 見ればわかるじゃないですか!」
「え、で、でもさぁ……」
 強く言われては朱理としても否定できない。
 朱理の背中にしがみつく正太郎まで震えながら言った。
「奈々子さんが二人だなんて冗談じゃないよ! 絶対どっちかが偽者なんだから、なんとかしてよ朱理さん!」
「う……」
 困った朱理は二人に揺らされる。
 残されたもう一人の奈々子はその様子を見て呆然としていた。
 唇を噛み締め、彼女は涙を浮かべる。だがそれを流さないように堪えている様子だった。
 らんは二人の奈々子を交互に見遣り、一人でいる奈々子のほうへ近寄る。
「奈々子姉ちゃん……」
「どうしてこっちへ来るんですか……あちらが本物だと思わないんですか?」
「わかる」
 はっきりとらんは言った。
「ニオイが違うから」
「ニオイ? おかしなことを言いますね」
 皮肉っぽく言う奈々子は苦笑する。
「あちらの私も私であることは間違いないんです。どちらが消えても……」
「俺が好きなのは、今の奈々子姉ちゃんだよ?」
「今の……私?」
 こくんと頷くらん。
 奈々子は、朱理にしがみつくもう一人の奈々子をじっと見る。
「あちらも私なんです……あれはドッペルゲンガー。私の分身」
「分身……? でも、奈々子姉ちゃんと、ニオイ……違うよ?」
「そのうち私に完全に同調し、『同じ』になります。それにどちらにせよ私は……」
「奈々子姉ちゃん……?」
「…………」
 無言の奈々子。
 もう一人の奈々子は執拗に朱理にせがんでいる。
「早く退治してください! 早くっ!」
「朱理さん! 早くしてよ! タンコブ二倍になってもいいの!?」
 正太郎まで一緒になって言っていることに、らんは呆れた。正太郎は早く終わって欲しいからだろう。
 朱理は「えー」とか「うー」とか言いながら二人のなすがままだったのだが、後頭部を掻いた。
「朱理姉ちゃん、違うよ!」
 そっちじゃない! 奈々子はそっちじゃないのだ。
 らんの言葉に偽者は声を荒げた。
「なにを言うんですか! そっちが偽者です! 私の前に突然現れて、いきなり……!」
 涙を浮かべる偽者の様子にらんは戸惑う。なにから何まで奈々子にそっくりすぎる。臭いがわからなければ迷うのは当然だ。
 本物は黙っている。どうしてなんだろうか。偽者と同じようにああやって喚きたてればいいのに。
(どうして……?)
 奈々子を見上げるらんは気づいた。
(奈々子姉ちゃん……、なんだか薄くなってる……?)
 向こうが微妙に透けて見えることにらんは青くなる。
 同じになるというのはまさか……。
(消えちゃう……)
 ドッペルゲンガーを見た者は、死んでしまうという噂がある。それはこういう意味だったのか?
「奈々子姉ちゃん……」
「元に戻る方法は知らないんです……。彼女はいずれ『私』になりますから」
「でも……でも……それじゃあ……」
 らんはさっきの奈々子の涙を見ている。
 きっと、悔しい。諦められない。
(あいつが悪い……!)
 ギラッとらんが朱理を揺する偽者を睨んだ。
「朱理姉ちゃん! そっちが偽者! 燃やして!」
「いやー……でもさあ、燃やしたら奈々子がどうなるかわかんないし……」
 のらりくらりと言う朱理に正太郎が言う。
「もうどうでもいいから早くしてよ朱理さん!」
「正太郎兄ちゃん……サイテー」
 らんが頬を膨らませて怒りに眉を吊り上げた。
「ええー!? だ、だってさ〜!」
 言い訳のような声を出す正太郎は朱理の後ろにさっ、と隠れる。とことんダメな男だ。
 朱理の腕を掴んでいる奈々子は頷く。
「そうですね。朱理の言う通りかもしれません。どちらを攻撃しても影響が出るかもしれませんから」
「…………」
 疲れたように半眼になる朱理は、もう一人の奈々子を見遣った。
 本物である奈々子は朱理の視線に気づいてすぐに逸らす。
 怪訝そうにする朱理に、らんは言った。
「早くしないと奈々子姉ちゃんが……! 朱理姉ちゃん……っ」
「そんなこと言われてもあたいは万能じゃないよぉ……」
 朱理は当てになりそうにない。
 らんはどうするこもできなくて奈々子を見上げた。奈々子の姿はすでに半透明だ。
「奈々子姉ちゃん……朱理姉ちゃんに……」
「もういいんですよ……」
「でも……! でも泣いてたのに……!」
 諦めたように笑う奈々子の腕をらんは掴む。まだ触れる。まだきっと間に合うはずだ!
「消えないで……消えないで……!」
 らんの悲しい声に朱理が眉根を寄せ、自分にしがみついている奈々子のほうを見遣った。
「なんかさ、あっちのほうが本物なんじゃないの……?」
「なにを言うんですか!」
「あたいをぶたない奈々子なんて、奈々子じゃないよ」
 ニヤッと笑う朱理は逆に偽者の腕をしっかりと掴む。その握った手から発火した炎が偽者の衣服に燃え移った。
「きゃあ!」
 悲鳴をあげて逃げようとする偽者だが、朱理は手を放さない。火は衣服を燃やし、皮膚を燃やし、さらに強くなる。
 偽者は燃やし尽くされ、灰になって足もとに落ちた。
 するとどうだ。消えかけていた奈々子の姿が元に戻ったではないか。
 らんは顔を輝かせた。
「奈々子姉ちゃん!」
「無事……ですね。あいつが消えたら私も消えると……言われていたんですが。あれは嘘だったんでしょうか……」
 呆然として呟く奈々子はやがて嬉しそうにらんに微笑んでみせたのだ。



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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PC
【6177/―・らん(ー・らん)/男/5/魂の迷い仔】

NPC
【高見沢・朱理(たかみざわ・あかり)/女/16/高校生】
【一ノ瀬・奈々子(いちのせ・ななこ)/女/16/高校生】
【薬師寺・正太郎(やくしじ・しょうたろう)/男/16/高校生】

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■         ライター通信          ■
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 ご参加ありがとうございます、らん様。ライターのともやいずみです。
 今回は奈々子のお話でしたが、いかがでしたでしょうか?

 今回はありがとうございました! 楽しんで読んでいただけたら嬉しいです!