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<東京怪談・PCゲームノベル>


超能力心霊部 サード・コレクション



 崎咲里美はファーストフード店に足を踏み入れた。
 とりあえず今日の仕事はこれで終わり。昼をとっていなかったから少しだけ食べておくのもいいだろう。
 そういえばこの店はあの三人に出会った場所だ。
(もしかして居る……かな。今日も)
 二度あることは三度あるともいうし。
 そう思いながら、里美は自分が注文したものの乗ったトレイを両手で持ち……少し期待しながら二階へと続く階段をのぼった。
 二階はあまり人がおらず、席はかなり空いている。
 里美は視線を奥へと移動させた。あの三人が居るとすれば奥の窓際だ。
(あ、いた)
 予想通りというか、期待を裏切らないというか。
(今日は三人全員いる)
 やっぱりこの三人は揃っていたほうがいい。バランスがちょうどいいというか。
「こんにちは」
 声をかけると三人がこちらを向いた。
 里美に笑顔を向けたのは朱理だ。
「やっほー! お仕事頑張ってる?」
「まあね」
 笑顔で返す里美が座れるようにと、正太郎が奥側の席に移動した。
 好意に甘えて里美は腰掛ける。
 テーブルの上には一枚の写真。
「あれ……?」
 正太郎が写っている。
 里美が見ているのに気づいた正太郎がパッと写真を取り、手の中に隠した。
「なんで隠すの? 正太郎くん」
「え……いや、なんか二人とも不気味って言うから……あまり見せないほうがいいと思って」
 苦笑する正太郎は鞄の中に写真を入れる。
「不気味……? どうして?」
「絵を描かない薬師寺さんが、絵を描いてる写真なんです。でも表情が……ちょっと」
 奈々子の説明に、彼女の横に座る朱理がこくこくと頷いて同意した。
 里美は自分のハンバーガーに口をつけて食べ始める。
「た、確かにボクはあんな表情しないけど……。たまにしてるかも、しれないし」
「薬師寺さんは怪奇写真を撮る名人なんですよ? もしかしたら、ということも考えられます」
「やめてよ! ボクだって普通の写真くらい撮るってば!」
 正太郎は立ち上がり、口をへの字にして眉間に皺を寄せた。
「もういいよ! 今日は帰る。またね」
 鞄を左手、トレイを右手に持って正太郎はさっさと行ってしまう。
 奈々子は嘆息した。
「これでも心配してるんですけど……」
「正太郎は写真を撮るのが趣味だからね……。いっつも変なのばっかり撮って、それがやっぱりヤなんだよ」
「そうですよね……」
 正太郎の心中を察し、奈々子はしゅんと肩を落とす。
 里美はハンバーガーを食べ終えてから二人に尋ねた。
「そんなに変だったの? 見た感じ、妙な写真とは思えなかったけど」
「写ってる正太郎の表情がちっとばかしおかしいんだよ」
「おかしい?」
「不敵な笑みっての? あたいが浮かべるような、ほら、ニヤリ? っていう笑みをさあ」
 朱理はうまく説明できないようでしどろもどろになる。
 ニヤリという笑み?
 里美は想像する。
 確かに妙と言えないこともない。
 この三人と出会ってまだ少しだが、それなりにわかっているつもりだ。
 怖がりで臆病者の薬師寺正太郎。彼が朱理のような不敵な笑みを浮かべることはまず見たことがない。
(それは……うん、確かにちょっと気になるかも)
 コーヒーを飲み干し、里美は立ち上がってトレイを両手で持つ。
「じゃあ私はこれで」
「えっ? もう行っちゃうの?」
 驚く朱理に里美は頷いた。
「ちょっと正太郎くんのことが気になるの……」
 なにも起こらなければいい。
 以前も朱理の写真のことがあった。今回の写真がもしも未来のことならば……里美が予知して回避できる危険もあるかもしれない。



 里美は正太郎を探してきょろきょろと見回していた。
 今ならまだ追いつけるはずだ。
(どこへ行っちゃったのかな……)
 青信号へと変わったのが見えた。
 道路を渡る人々の中に正太郎の姿がある。
「!」
 里美はそちらに足を向けて彼を追いかけた。
 信号をぎりぎりで渡り、里美は正太郎の腕を掴む。
 驚いて振り向く正太郎。
「あれ……崎咲さん?」
 どうしてここに、という感じの正太郎の声に慌てて走った里美は息を切らしたまま笑った。
「正太郎くん、が……っ」
「? ボクがどうかしました?」
「き、きっ、気になっ……」
 ぜは、ぜは、と荒い息を吐き出す里美。
 なにせここまで全力疾走だ。信号だって、間に合うとは実は思っていなかった。
「だ、大丈夫ですか?」
「だっ、だいじょ……ぶ」
 里美は何度も息を吐き出し、正太郎と並んで歩き出した。
「体力には少し、自信あるの。記者って、意外に体力使う仕事だから」
「そ、そうならいいんですけど……」
「それでね、さっきの話だけど」
 しばらくゆっくり歩いたおかげか、里美の呼吸は徐々に元に戻りつつある。
「写真、気にしてるよね?」
 里美に問われて正太郎がぎくりとしたような表情をした。彼は視線を伏せて苦笑する。
「気になんてしてないですよ」
 そんなあからさまな態度では「気にしている」と言っているようなものだ。
「……良かったらもう一度見せてくれる?」
 撮った本人が気にしているのならば、きっと何かある。
 里美はそうにらんでいた。
「べ、別に見ても……面白いことなんてないですよ。ボクが絵を描いてるだけですし。美術の授業でのことかもしれないです」
「なにもしないから。見せてくれるだけでいいの」
 にっこりと微笑む里美を見て、正太郎はやがて根負けしたように渋々と鞄を開け、中から写真を取り出す。
 何度も写真を見ていた正太郎は、思い切って里美に写真を差し出した。
「ありがとう、正太郎くん」
 受け取った里美は早速先見能力でその写真を読み取ろうとした刹那――――。
「あ、あれ……?」
 正太郎が呆然と呟いた。
 里美は顔をあげ、彼の見ているほうに視線を遣る。
 周囲は家屋の並ぶ場所だったはず。なのに。
(な、なに……? どうしていきなりこんなお屋敷が……?)
 しかも周りは深い霧に包まれていてなにも見えない。
 二人の前に、屋敷だけがただ静かに存在していた。
(どこから現れたんだろう……)
 不審そうにしている里美は横で正太郎がびく、と反応したのに気づかない。
「あ、わ、ちょっ」
「ん?」
 正太郎のほうへ視線を向けてやっと異常に気づく。彼はずるずると屋敷に引き寄せられているのだ。
「しょ、正太郎くん!?」
「た、助け――っ!」
 吸い込まれるように、突然開いた屋敷の入口のドアから彼は中に引っ張り込まれてしまう。
 里美の足もとに正太郎の鞄がどさ、と小さな音をたてて転がった。
「なんてこと……!」
 嫌な予感は的中してしまったのだ。
 里美はぐ、と唇を噛む。
(もう少し早く先見をしていれば……! とにかく助けなきゃ!)
 屋敷へと駆け寄った里美はドアのノブを掴み、回した。だが動かない。
「あ、あれ?」
 どうなっているんだろう?
 正太郎の悲鳴が屋敷内から響いた。
(! 正太郎くんが……っ。早く開いて!)
 がたがたとノブを揺らす里美は一旦ドアから離れるや、窓に狙いをつけてそちらに近づく。
 窓に触れるがなんの衝撃もこない。安心した里美は肩からさげていたバッグを見遣り、背に腹は変えられないとそれで窓ガラスを叩き破った。
 不思議なことにバッグは傷つきもしなかったが、ガラスは砕けてしまう。
「よいしょ」
 里美は窓から中に侵入し、暗闇に目を慣れさせるために何度か瞬きをした。
 暗闇に慣れてくると部屋の中の異常さに里美は呆然とする。
 壁という壁に肖像画が飾られていたのだ。しかも、老若男女、古今東西のありとあらゆる種類の人々の絵だ。
(服装も……顔も……年齢も……全部違う……)
 不気味だ。
 里美はごくりと喉を鳴らし、正太郎を探すために屋敷内をさ迷った。
「正太郎くん……どこ……?」
 小さな声を出して歩き回る里美は明かりのついている部屋を見つけてそっとそちらに近づく。
 ドアの隙間から中を覗くと、誰かが絵を描いていた。
(……?)
 目を凝らすと、絵の対象になっているのは気絶させられた正太郎だ。床に転がっている彼に里美は驚愕する。
(正太郎くんが!)
 正太郎の姿は徐々に薄くなり、完全に消えてしまう。
 驚く里美はドアから離れる。
 なにが起こっているのだ?
 絵を描いている人物を見ようと里美はもう一度覗き込んだ。
「っ!」
 声を出さなかったのは奇跡だった。里美は口を両手で覆い、声を洩らさなかったのである。
 絵を描いているのは正太郎だ。いいや、正太郎の姿をした……別の生き物。
(なんで正太郎くんの姿をしてるの……?)
 男は自分の身体を確かめるように見下ろしている。
 ああ、そうか。
(正太郎くんの姿を奪った……? でもどうやって?)
 写真のことを思い出し、里美はハッとする。
(絵……? そういえば、この屋敷の中は肖像画ばかり……。じゃあもしかして、あの『絵』は)
 男の描いているあの絵は……。
 持っている正太郎の写真を確かめて里美は頷く。
 これは正太郎ではなく、あの男の写真だ。
(とにかく絵を取り戻さないと……! 絵が完成する前に……)
 完成しては何もかも手遅れになるだろう。
 里美は深呼吸をしてから決意して瞼を閉じた。
 絵を取り戻してからこの屋敷を脱出する。そうしなければ。
 屋敷のドアからは出られない可能性が高い。入ってきた窓はここからでは遠すぎる。
(来るまでの道のりで一番近い窓……)
 だめだ。どれも遠い。
(! そうだ……この部屋の窓は?)
 それが一番近い。幸いここは一階だ。窓から外に飛び出してもたかが知れている。
 決まった。ならばそれを実行するだけ。
 里美はドアを勢いよく開くや、一直線に絵に向けて走った。
「! 人間!? どうやってこの屋敷に入った!?」
 声をあげる男など無視だ。
 里美は描きかけの絵を奪うや、そのまま近くの窓目掛けて駆ける。
「ま、待て! やめろ! まだその絵は……っ」
 男の悲鳴が聞こえたが里美は躊躇せずに窓から外に飛び出した。
 瞬間、屋敷どころか空間そのものがぐにゃり、と揺らいだ。
「えっ!?」
 里美はゆっくりと落ちていく。ゆっくり――――っ。

 ドサッ、と落ちた里美は腰を打った。
「イタッ!」
 周囲を見回して安堵する。どこもおかしなところはない。
 元の世界に帰ってこれたのだ。
 持っている絵が音をたてて砕けた。
 ボン! と破裂してそこに正太郎が現れる。
「よ、良かったぁー……」
 ほー、と胸を撫で下ろす里美の様子に、正太郎は事情がわかっていないようで疑問符を浮かべていた。



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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PC
【2836/崎咲・里美(さきざき・さとみ)/女/19/敏腕新聞記者】

NPC
【高見沢・朱理(たかみざわ・あかり)/女/16/高校生】
【一ノ瀬・奈々子(いちのせ・ななこ)/女/16/高校生】
【薬師寺・正太郎(やくしじ・しょうたろう)/男/16/高校生】

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■         ライター通信          ■
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 ご参加ありがとうございます、崎咲様。ライターのともやいずみです。
 正太郎の救出劇、いかがでしたでしょうか?

 今回はありがとうございました! 楽しんで読んでいただけたら嬉しいです!