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<東京怪談・PCゲームノベル>


紅葉落つ庭にて



 はらりと開いたのは268項。



 ひらひらと、赤い色が目に映る。落ちるのは紅葉。
 ふと立ち寄った雑貨屋、だれもいなくて、奥にあった和室にあった本が気になり開いた。その途端、気がつくと紅葉の山の中にセレスティ・カーニンガムはいた。
 驚きはしたが、このような不思議な事象には慣れっこで、取り乱す事はない。
 あたりの情景を楽しむ余裕がセレスティにはあった。
 赤に染まった木々の、風にそよぐ音が心地良い。
「美しいですね……空気も澄んでいるような……たまには、いいですね」
 ひらりと落ちてきた紅葉を掴み、ゆっくりと歩き始める。山道のわりには歩きやすい。道、と思えるものがあることから人がここを通っているのだろう。
 日頃このような場所でゆっくりする事もない。セレスティはここは楽しもう、何が起こるのか少しばかり心が躍る。
「しかし、歩き続けるのも辛いですし……休憩できるところがあればいいんですけれども」
 視線をめぐらしながらゆっくり歩を進める。と、家のようなものがちらっと木々の隙間から見えた気がして立ち止まる。
 その方向をじっと見ると、確かにそれはある、幻ではないようだった。
 古い、生活観のある日本家屋。
「人がいるかもしれませんね、声をかけてみますか」
 どんな人がいるのか、はたまた人ではないのか。それとも誰もいないのか。
 そのどれであっても面白い。
 少しばかり楽しみと、セレスティは扉の前に立つ。
 静かにその扉を叩くが反応が無い。
 どうしようか、としばらく考えたがセレスティはその扉をゆっくりと開けた。
「ごめんください、どなたかいらっしゃいますか?」
 響くのは扉を開けた音だけだった。かつ、と靴の音を鳴らしてセレスティはその中へと入る。
 しん、と静かさだけがある。もしかしたら奥に人がいて、ただ気がついていないだけなのかもしれない。
 でも、その前に。
 この暖かな雰囲気を持つ家に興味がわいてきた。
「勝手にお邪魔……は、もうしていますか」
 セレスティは苦笑しながらその家に上がる。あたたかい和、木の雰囲気。
 あのふらりと立ち寄った店もこんな雰囲気だったなとふと思い出す。並ぶ商品は決まりは無くばらばら、店主が色々と集めているのが伺えた。
 それをまた眺めてみるのも楽しそうだなと思う。
 セレスティはそのまま家の奥へと進む。すると日当たりの良い、縁側にでた。
 そこからはまた、山々の紅葉が良く見える。
 誰もいない事だし、とセレスティは縁側に座り込む。
 ぽかぽかと日差しが心地良い。
「このまま眠ってうたたね、というのも良さそうですが……眠ってしまったらどうなりますかね……」
 この場所でうたたね、それはとても魅力的なのだけれども、知らない場所でそんな事をするほど無用心ではない。
 と、カタンと扉の開く音がしてぺたぺたと足音が聞こえてくる。自分がやってきた方向とは真逆から。
 セレスティはそちらを向く。
 そこにいたのは子供だ。だけれどもただの子供ではなくて獣の耳と尻尾がある。おそらくは、狐の。
 ずるずると一枚の布を引きずりながら、眠い目をこすりながら此方に来るその子はセレスティの姿を見ると不思議そうな顔をした。
 怖がらせてはいけないな、とセレスティは柔らかな、穏やかな笑みを浮かべる。
「こんにちは、私はセレスティ・カーニンガムと申します」
「こんにちは、ぼくはなつのすけといいます」
 ぺこっと頭を下げて礼をその子は、なつのすけは返した。
 そして自分にとっては害の無いものだと思ったらしくそのままセレスティの傍によってきて座り込む。だけれどそこにはまだちょっとばかり距離があった。
「きらきら、いっしょ」
「きらきら? 何が一緒なのですか?」
 にこっと笑って話しかけられる。まだ舌足らず、言葉足らずな印象だ。
 髪を指差されて、セレスティはああ、と納得する。
「私の髪も、キミの髪も同じ銀色で、きらきらしているということですね」
「うん」
 笑顔でご機嫌らしく、セレスティの言葉にきちんと耳を傾け、なつのすけは頷く。
 そしてあくびを一つ。
「眠いのですか? お昼寝途中だったとか……」
「んー、おきたらちちうえいなかったから、さがしてた」
「ちちうえ……父上ですね。ちゃんと戻ってきます、大丈夫ですよ」
 セレスティは笑んで、こっちにおいでと手招きする。
 なつのすけはちょっと迷った後で、セレスティの傍に立ち上がって寄った。
 そのままセレスティは、なつのすけを膝の上に乗せる。
「キミの父上が帰ってくるまで、一緒にいてあげますよ」
「ほんとー?」
「ええ」
 ありがとう、見上げて笑まれる。子供は無邪気だな、などと思った。
「キミは父上と一緒にここで暮らしているのですか?」
「ん、ちちうえと、よーとなーとにゃーがいっしょ」
「よー、なー、にゃー? ……名前ですかね……それとも名前の一部でしょうか?」
 きっとまだ、ちゃんと名を呼べないのだろう。それはなんとなくわかる。
「にゃーは……名前の感じから、猫ですか?」
「ねこ? にゃー……うん、にゃーはねこ!」
 片耳をぴこぴこっと動かして嬉しそうに言う。自分の言っていることが通じているのが嬉しいらしい。
「そうですか。早く帰ってくるといいですね」
「うん、なつは、まつしかできないからまつ!」
 へたりと、耳を寝かせて、セレスティの膝の上から遠くを見る。セレスティはそんななつのすけの頭を優しく撫でた。
 子供の相手なんてどうしたらいいものか、と最初は思っていたがあまり問題は無いようだ。
 心の移り変わりもわかる、ただまっすぐすぎる印象を受け、それが微笑ましい。
「ここは日当たりが良いですから、お昼寝の続きでもしますか?」
「う? する! せれすてぃもいっしょにするの!」
 ぴょん、と膝から降りて、なつのすけは奥へと姿を消す。
 どこへ行ったのか、と思うもののすぐ戻ってきた。その手には座布団を二枚もって、というよりは引きずっている。
「座布団を持ってきてくれたんですね、ありがとう」
「うん」
 ぱふぱふと、座布団を叩いてからなつのすけはセレスティに差し出す。どうぞ使って、という意思がよくわかる。
 セレスティはそれを和やかに受け取って、座りなおした。確かに板の間にじかに座るよりは幾分か楽だ。
 なつのすけももう一枚の座布団の上へと座る。座るのだけれども、座布団の法が大きくてなんだか可愛らしい印象を受ける。
「私の膝を貸してあげます。キミはもう少し、眠ると良いですよ」
「ん、ありがとうございます」
 キャッキャと、嬉しそうにこてんとセレスティの膝の上に倒れこむ。その頭を優しくセレスティは撫でた。
 くすぐったそうな表情がそれに帰ってくる。
「ぽかぽかして、ここは気持ちよいですね」
「うん、ここすき?」
「ええ、好きですよ」
 穏やかな気持ちだった。時間がゆっくりと流れていて、それからしゃべる事は無かった。というか、必要が無かった。
 この板の間、縁側から見える景色をぼーっと二人で眺めていたのだ。
 と、穏やかな吐息が聞こえ始め、セレスティは膝の上を見る。
「ふふ、眠るのも早いですね」
 くすりと笑い、最初に彼が現れたときにもっていた布を手繰り寄せ、そしてかけてやる。
 この場所は安全なのだろう。この、今膝の上で寝ている子にとってはそうであっても、突然この世界に放り込まれた自分にとってはそうでないかもしれない。
 一緒に眠ってしまったらどうなるのか、誘惑は少しばかりある。
「なんだか、眠ったらどうなるか、この子が実験台のような感じですね。まぁ、何も起こらないとは思うのですが……」
 セレスティは苦笑しながら言う。
 少しばかり寝かせてあげて、少し寒くなったら起こしてあげよう。
 それにこの子の父親もそのうち帰ってくるかもしれない。
 返ってくるのが早いか、このなつのすけが目覚めるのが早いか、そのどちらかだ。
「この子を一人にも出来ま……そうさせてくれないようですね」
 しっかりと、服の裾をその小さな手で握っているのが目に留まる。その様子を苦笑しながらセレスティは眺める。自分の何回りも小さな手でしっかりと、どこにそんな力があるのかというほど握りこんでいるようだった。
「それにしても、子供を一人にしておくなんて……」
 セレスティはあたりを見回すが、相変わらず人の気配は無い。
 まったくどこに行っているのだろうか、と一つ溜息をついた。
 と、ひらりと眼前を影が舞う。とん、と地に足を着く軽い音。
 セレスティの視界にそれは問答無用で入ってくる。
「んー、良く寝たなぁ……お?」
「こんにちは」
 その人物は一つ伸びをして、そして振り向きセレスティの姿に気がつく。セレスティは悪い人では無さそうだと感じ、笑いかけた。
「この子の父上、ですか?」
「膝の上、奈津か……そうだけれども、そうでないというか……」
 困ったような笑みを浮かべ、そしてその人物は縁側に腰掛ける。セレスティの膝の上で眠る子を一撫でし、そしていとおしそうな表情を向ける。
「汝、店にあった本を、開いたな?」
「ええ、少し……興味を惹かれましたので」
「そうか、すまんな。アレはわしの本なのだ。わしは藍ノ介、汝の名は?」
 セレスティは自分の名を告げる。藍ノ介、と名乗った男はそうか、と頷いた。
「あの本の中、つまりここは……わしの記憶の世界なのだ。だから、この子はわしの子であるのだが、今のわしの子ではない。記憶の中の、昔の子の姿だな」
「そうなんですか」
「うむ、本の外におる実際の子は、とても生意気な、茶を淹れるのが上手な子になっている」
 セレスティはそう話をされて今の現状を理解した。この人物が本の持ち主なら、この世界からでれる方法というのも知っているはずだ。
「ここでうたたねしても大丈夫、だったみたいですね」
「うたたね? 今から……ああ、もう夕方近くか……これからするのはちょっとばかり寒くなるからな。それに奈津も、このままにはしておけないか」
「そうですね、気持ち良さそうですが起こしましょうか」
 セレスティは肩をゆすって起こす。優しく、なるべくなら穏やかに眠れるようにとの配慮が見える。
「そういえば、この子の名前はどう書くのですか?」
「ん、奈津ノ介だな。わからなかったか?」
「いいえ、名前は教えてくれたのですけれども、幼いですから……イメージとしてはひらがな、だったので」
 さらっと縁側に藍ノ介が指を走らせその字を書く。セレスティはそれを感じ取って理解をした。
「う……おはよ」
 こしこしと目をこすりながら奈津ノ介は起きる。そしてセレスティを見上げ、藍ノ介の姿を瞳にうつすと嬉しそうに笑った。
「ちちうえー、おかえり」
「ああ、ただいま」
「ちちうえ? やー、ちちうえじゃないー」
 すくっと立ち上がって、そして藍ノ介のほうによろうとしたのだけれども、奈津ノ介は違和感を感じ、そしてセレスティの背に隠れた。そこから恐る恐る、覗くという様子で。
 どうしたのか、とセレスティも驚くが、それよりも藍ノ介本人がショックを受けている。
「何故だ……! ……って、ああ、そうか、これか」
 ふっと、へこんでいたものの思い出したように藍ノ介は頷く。セレスティは心当たりがあるのか、と背中の奈津ノ介を心配しつつも藍ノ介の方をみた。
 するとぴこっと耳と、ふさふさの尻尾がいつのまにか出ている。
 親というからには、この奈津ノ介にあるものと同じものがあって当然だろう。綺麗な銀色の毛並みの尻尾に思わず触りたいと思う。
「! ちちうえ!」
 耳と尻尾、それが出た瞬間、奈津ノ介は笑顔で走り寄る。そして嬉しそうにしがみついて笑った。
「耳と尻尾がないとわからないとはな……」
「まぁまぁ、いいじゃないですか」
 セレスティは小さく笑う。微笑ましいなと思いながら。
「さて、わしはもう少し奈津と一緒におるが、汝はどうする?」
「そうですね……いつまでもここにいるわけにはいきませんからね」
「そうか、きっと本の外に出たら成長した奈津がおる。茶でも淹れてもらう」
「ええ、そうですね。ところで、どうすればここから出られるのですか?」
 奈津ノ介を抱きかかえて、藍ノ介はそういえばその方法を教えていなかったなと苦笑する。
「思うだけで良い、本から出たいと」
「なるほど、簡単な方法ですね。それでは、また本の外でお会いできると思っていますよ」
 ああ、と藍ノ介は頷く。
 セレスティは、心の中で思う。
 少しばかり名残惜しいけれども、本の外へ出たい。
 そして視界が白く、眩しくなった。



 やわらかな、畳の感触。
 真白い視界が和らいでいく。
「おかえりなさい、本の中に入ってらしたようですね」
「ええ……キミは……ああ、奈津ノ介さんですね?」
 セレスティは視界がクリアになり、姿を捉えた人物に微笑みかける。
 あの、本の中では幼子だった子の成長した姿。面影がある。そして名を呼ばれて少し、驚いていた。
「私はセレスティ・カーニンガムと申します。幼い頃のキミに、本の中で出会いましたよ」
「ああ、そうなんですか、なるほど」
 納得したように奈津ノ介は笑う。
「よかったらそのお話聞かせてもらえますか? お茶を淹れますね」
「ええ、キミの淹れるお茶は美味しいと伺ってますから楽しみです」
 そうですか、と奈津ノ介は笑う。
 その笑いが、あの幼い頃の笑顔と変わらないものであるなとセレスティは思う。
 紅葉の綺麗な山で育った子は、昔と変わらず笑顔を称える。
 セレスティは、それがなんだか嬉しく感じた。



<END>



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号/PC名/性別/年齢/職業】

【1883/セレスティ・カーニンガム/男性/725歳/財閥総帥・占い師・水霊使い】

【NPC/藍ノ介/男性/897歳/雑貨屋居候】
【NPC/奈津ノ介/男性/332歳/雑貨屋店主】

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■         ライター通信          ■
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 セレスティ・カーニンガムさま

 こんにちは、ライターの志摩です。いつもお世話になっておりますー!
 今回は書いていただいた項数268は2→話をする人:若奈津ノ介、6→最初に到着した場所:昼の山の中、8→話の内容:膝枕でした。
 膝枕と奈津でよかった、と心底思いました…こ、これでもし偽皇なんかが出たときは本気で悩んだと思います…(…)このノベルでおっとり和やかな時間を楽しんでいただければ幸いです!
 ではまたご縁があってお会いできれば嬉しいです!