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<PCシチュエーションノベル(ツイン)>


□■□ 愉快なお茶会…? □■□

暖かな日差し。飛び交う小鳥達の囀り。
時さえもゆっくりと感じられる午後。
舞台は、ある日の魔法薬屋にて――。

それは何時もの光景。
魔法薬屋の主、シリューナ・リュクテイアは自分を「お姉さま」と慕うファルス・ティレイラと共にデザートを食べようとしていた。
シリューナは自分で淹れた紅茶を啜り、自分の時間を堪能している。
ファルスはというと、美味しそうなケーキに頬を緩ませながらフォークでケーキを口へと運び―――。

「★○▽□×@!!!???」

バササササッ!!

いきなり聞こえて来た少女の絶叫に、囀り合っていた小鳥達は一目散に空へと逃げていった。


************


時は少し遡る。

「ティレ、そろそろお茶でもするか」
シリューナの言葉で魔法薬屋はしばしの休憩となり、2人でお茶の準備を始めた。
今日の為にと美味しいケーキ屋のケーキを用意していたシリューナは紅茶を入れに台所に向かった。
その間に食器を揃えるのがファルスの役割で、早速ケーキを乗せる為の皿を準備していた。
「……あれ?」
コトッとケーキ皿をテーブルに並べていると、皿以外の何かが視界の隅に移った。
改めてよく見ると、テーブルの隅には腕輪のような物が置かれていた。
「何…これ?」
綺麗な金に、複雑な紋様が描かれた腕輪。
少し興味をそそられて腕輪を手にとって見ると、その細工の美麗さが更によく分かる。
「きれ〜い♪」
何故こんな所にあるのだろうと少し不思議ではあったが、多分シリューナが持ち込んだものであろう。
そのまま腕輪を見つめ、不意にファルスはキョロキョロと周りを見回した。
耳をすませると、台所からはシリューナがお茶の準備をしているであろう物音が聞こえてくる。
誰も見ていない…そう確認してから、ファルスは徐にその腕輪を自分の腕へと飾った。
「うん、良い感じ!」
何となく気に入ってしまった腕輪を見つめながら、ファルスは満足げに笑みを浮かべて呟いた。
シリューナにバレてしまった時は、貰えないかどうか相談してみようと考えながら――。

「ティレ、食器の準備はできたのか?」
「はい、お姉さま♪」
盆に紅茶のポットとケーキが入った箱を乗せて、シリューナがファルスの所に戻ってくる頃には確りとテーブルには食器類が並べられていた。
それでは早速、とばかりにケーキを皿へと移し、紅茶を並べられたコップへと注ぎ込む。
ケーキの甘い香りと、紅茶の美味しそうな匂いでたちまち部屋が満たされる。
それだけでささやかな幸せが感じられるのが不思議だ。
良い匂いに満たされながら、2人は席につく。
テーブルに並べられたケーキは美味しそうで、少しファルスはわくわくした。
ちらっとシリューナを見てみると、シリューナもシリューナで何処か満足げだ。
腕輪の事も気付かれていないし、ケーキも早く自分を食べてというようにその存在を主張しているのでファルスはフォークを手に持った。
何の苦労もなくケーキを切り取って口へと運んだ――。


************


そして、時は戻る。

「★○▽□×@!!!???」
「どうした?!」
突然のファルスの絶叫に流石に驚いたようにシリューナが腰を浮かした。
ファルスはというと口を手で押さえたまま、まじまじとケーキを見つめていた。
(な、何でー!?)
既に頭の中はパニックだ。
甘くて美味しそうだと思っていたケーキは、何故か自分の嫌いな味で――。
一瞬、シリューナの悪戯かと考えたが、自分も食べるケーキに細工等するだろうか?
しかも、普通のケーキ店で買って冷蔵庫にしまった後、ファルスが見た限りではケーキの箱にさえシリューナは触れていない。
故に、シリューナの悪戯である可能性は少ない。
「ティレ、どうしたんだ?」
「あ、あのケーキが!?」
訝しげなシリューナの声に、ファルスは我に返り慌てて先刻の異変を話した――。


「つまり、自分の好きな味であるケーキが何故か自分の嫌いな味へと変わってしまっている、と?」
「そうです〜」
先程のファルスの話を纏め、シリューナは紅茶を啜った。
突然の異変にファルスはすっかり混乱してしまっているし、とりあえず落ち着いている者がいなければいけないだろう。
(しかし、何処かで聞いたような――ん?)
ファルスの話に何処か引っ掛かりつつファルスへと視線を移すと、そこにはお茶を入れに行く前にはしていなかった腕輪がファルスの腕に飾られてあった。
そこで、シリューナは気付いた。
この異変の原因は、その腕輪であると――。
(また、この娘は勝手に…)
あの腕輪は、シリューナが遊びで作った『好きな味、嫌いな味をそれぞれ逆転させて味を感じさせてしまう』という効果を持った腕輪である。
腕輪に刻まれた紋様はその効果を出すための呪のようなもので――まぁ、とりあえず簡単に言えば味をあべこべに感じるようにしてしまう紋様なのだ。
混乱しているファルスは腕輪の事をすっかり忘れてしまっているのか、まだ大騒ぎしている。
すぐに教えてやるべきか――と思ったが、ココにきてむくむくと悪戯心が顔を出した。
シリューナは普段妹のようにファルスを可愛がってはいるが、ファルスで遊ぶ事も好きなのだ。
しばらく気付かないフリをしてからかってやろう――シリューナはファルスの見えない所で、その美麗な顔を不適に微笑ませた。


「ティレ、とりあえず落ち着くんだ」
「は、はい…」
シリューナの落ち着いた声にまだあわあわと混乱していたファルスは一度大きく深呼吸し、とりあえず落ち着いた。
こんな時、やっぱりお姉様は頼りになるなぁ♪等と、シリューナの考えている事など知らずにファルスは感激した。
「紅茶でも飲んで、もう一回試してみたらどうだ?」
さぁ飲むんだといわんばかりに、シリューナは紅茶をファルスへと差し出した。
「あ、ありがとうございます♪」
良い香りを漂わせる紅茶に微笑を浮かべ、ファルスは紅茶を一口飲み――。
「@%Х&〜!?」
――またもや嫌いな味が怒涛の如く襲ってきて、ファルスは再び奇声を上げる事となった。


************


(ひ、酷い目にあったよぉ…)
はぁっとファルスは深いため息をつきつつ、がっくりと肩を落とした。
あの後、物は試しにとシリューナの分のケーキまで食べさせられたのだ。
やはりファルスの予想していた味とは真逆の嫌いな味に、つい涙が浮かんでしまった。
何故こんな事になったのかファルスにはサッパリで――。
(折角、お姉さまと一緒に食べるケーキだったのに…)
ファルスは心底落ち込んでいた。
「ティレ、そう落ち込むな。今日の晩、ティレの好きなものを作ってやろう」
「ほ、本当ですか!?」
突如かけられたシリューナの優しい言葉に、本気で感動するファルス。
そんなファルスに優しく微笑むシリューナ――どこか黒いものを感じさせる笑顔なのは気のせいだろうか。
「それじゃ、お姉さま。私、食べたいものが――♪」
「あぁ、分かった分かった」
自分が今食べたいと思った物を素直にシリューナへと伝えるファルスの顔はとても幸せそうに笑みを浮かべていた――。

その晩、またもや奇声が響いたのは言うまでもなく――。
ファルスがシリューナに原因はあの腕輪のせいであった事を教えられたは、そのまた翌日であった。


【END】