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<東京怪談ウェブゲーム アンティークショップ・レン>
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+ 異世界の玉〜赤ずきんちゃん?〜 +
見た目は占い師がよく使っている水晶玉に似ているが、これは人を呼び寄せ、前触れもなく中に吸い込むという代物であった。そして吸い込まれた者は必ず帰ってきて、様々な感想を漏らした。
ある者は「なんていい所だったのだ」といい、ある者は「二度と行きたくない」と言った。さらに問うと、着いた場所はおとぎ話のストーリーで進行したり、外国の城で王様になっていたり、様々だ。このような感想を聞いた者たちは挙って水晶玉の所へ行ったが、既に姿を消していた。持ち主に聞いてみると、突然無くなっていたのだという。
今の持ち主はアンティークショップ・レンの店長、碧摩・蓮。彼女はとある経路でこれを手に入れたらしいが、使うかどうか迷っていた。幸福をもたらすか、不幸をもたらすか、これは運次第だと聞く。
とりあえず机の上で水晶玉を転がしていると、入口の扉が開き、扉に付けられている鈴が鳴った。
「いいところに来たね」
蓮は事情を説明し、了承した貴方は、水晶玉に吸い込まれていくのであった。
――来たわね。あら? 二回目の方ね。うふふ。
『赤ずきんちゃん』に擬えたストーリー。気に入ってもらえるかしら?――
「いってきます」
昨日買ったばかりのアタッシュケースには、出来立てのケーキにぶどう酒。その他、身を守るためのもの。真っ赤なずきんをかぶり、白のワンピースに黒のカーディガンを着た少女の名は『ササキビ・クミノ』
いつも赤ずきんをかぶっているので、みんなから一方的に『赤ずきんちゃん』と呼ばれている。
今日は、病気のお婆さんの家へお見舞いに行く日なので、舗装もされていないデコボコ道を歩いているのだが、クミノは一つ気になる点があった。
それは今朝、母が言っていた、
「最近、脱獄した殺人鬼、通称『狼』がこの辺をうろついているらしいのよねぇ」
母は道中「狼に襲われてしまえば良い」なんて思っているのだろうか。
「気をつけて」の一言もなかった。
「……まぁ、そんな奴に殺されるほど弱くはないが」
「どうしたの、赤ずきんちゃん?」
出た。
髪を茶色に染めた二十〜二十代後半の男。馴れ馴れしく話しかけてきたが、今まで見たこともない男だ。
「いいえ、なんでもない。先を急ぐので道をあけてほしい」
もしもこの男が狼だった場合のため、銃の確認をする。袖に隠しておいて正解だった。
「そんなこと言わないでよ。ねぇねぇ、どこに行くの?」
「お婆さんの家に行くの。そこをどいて」
「えっ、お婆さんの家に行くんだぁ、良い子だね〜、ねぇねぇお兄ちゃんも一緒に行ってもいいかい?」
笑顔で話しかけてくるが、腹に一物ありげな顔つきだ。
「いやよ。第一、私は貴方を知らない」
「えぇー!」
なんとも芝居じみたな反応である。
「僕を知らないの、この僕を?? ホントに? マジで? ありえな〜い!! なんで君が知らないんだよ。僕は……君の伯父だよ! ほらお母さんのお兄さんさ! さぁ、お婆さんの家へ行こう!」
そんな人、見た事も聞いた事もない。
「えっ、ちょっと」
強引に手をつかまれ、ひっぱりながら自称、伯父はデコボコ道を進み始めた。
途中話しかけてくるが適当にしか答えない。隙を見せたら、やられるかもしれない。
だって、狼の可能性があるから。
いつでも撃てるようにつかまれていない手に銃を用意した。
■□■□■
私たちを見た小鳥も野兎もみな一目散に逃げて行き、異様な静けさ漂う森を歩き続けて、あともう少しでお婆さんの家という時、急に伯父は立ち止まりって指差した。
「あっ! あんな所にお花畑があるよ〜!! ねぇねぇ、つんで行こうよ♪ お婆さん、絶対に喜ぶからさ!」
異常なテンションのまま、スキップでお花畑に行こうとする伯父は、クミノをまた強引にひっぱり連れて行こうとする。
「もう離してください。私は早くお婆さんの家に行きたいのです」
「えーー。このまま行くよりお花を沢山持っていったほうが喜ぶのにー!! 行こう!
行こう!!」
伯父は後ろをむいたまま話す。クミノは銃をかまえ、引き金に指をかけた。
途端、伯父が振り返った。
「赤ずきんちゃん、大人しくしましょうね」
目が笑っていない、腹黒い笑顔だった。
道から外れ、少し高台にあるお花畑に着くと、花々の甘い香りが一気に漂ってきて、一緒に蝶もやってきたが、伯父を見るなり、どこかへ飛んでいってしまった。
ここも、私たち二人だけ。
「やっぱり来たほうがよかったよね〜!」
のびをしながら伯父は言ったが、クミノは返事をしないで、黙々と花をつんでいる。
「ねぇねぇ、この辺ってお婆さんの家の他に家があったっけ?」
「もうここまで来るとお婆さんの家だけよ」
うっとうしく感じるも答えてみたが、伯父は見下ろすようにしてお婆さんの家を見ている。
クミノは伯父とは反対側を向いて、また花をつみはじめた。
しばらく二人とも喋らず小鳥もさえずらない、花をつむ音しか聞こえない時間が流れた。
もうそろそろいいだろう、とクミノが立ち上がったとき、
「そう、ありがとう」
耳元でそう聞こえ、おもわず耳を押さえた。後ろを振り返ると、伯父も、誰もいない。
クミノはアタッシュケースと花束を抱きかかえ、走り出した。
■□■□■
木製の真っ赤なトンガリ屋根の家。それは赤ずきんちゃんのお婆さんの家の特徴であった。
そしてドアの前には茶色い髪の男。
コンコンコン。
「おや、誰だい?」
「郵便でーす。サインをお願いしたいのですが」
ドア越しに聞こえる若い男の声はいつもの郵便屋さんとは違う声。
最近、風邪がはやっているので、それだからなのだろうか? それとも担当がかわったのだろうか?
お婆さんは色々考えたが、
「お入り。私は足も悪くて、そっちへ行けないんだ」
「わかりました」
キィー…と開いた扉の向こうにいたのは郵便屋ではない、男。
「あなたは」
「こんにちは」
男はお婆さんに銃口をむけ、
パンッ
「な、なんで……」
バンッ
二発はどちらも急所を貫き、有色の液体がベッドに染みこんでいった。
「あああ、あ……」
「お婆さん、大丈夫?」
入り口に立つのは赤ずきん。手には銃がにぎられている。
撃たれたのはお婆さんではなく、
「こいつ、やっぱり伯父じゃなかった」
伯父、郵便屋と偽った男。
「よかったわ。狼が脱獄したでしょ、だから心配だったの。狙われるかと思っててね」
お婆さんは目の前に死体があっても、気にもせずニコっと笑った。
「なんで狙われるって思ったの?」
「だって、狼って私みたいなお婆さんばっかり狙っていたのだもの。この辺りじゃ私しかいないわ」
おほほ、と笑うお婆さんだが、さすがに死体の臭いはきついようで鼻をおさえた。
「人を呼んでくる。それから持ってきたケーキを食べましょう」
クミノはアタッシュケースを置き、ここに来るまでに数が半分になってしまった花束を渡した。
「まぁ、綺麗。それに赤ずきんちゃんのケーキはとっても美味しいから楽しみだわ! いってらっしゃい」
ニコニコしながら送るお婆さんを背に、
「いってきます」
クミノは走り出した――
「おかえりなさい、どうだった?」
「えっ」
クミノは周りを見たが、そこはアンティークショップ・レン。
「その様子じゃ、途中で戻されたって感じか…」
少し落ち込んだように蓮はパイプ見つめた。
「実は…クミノが水晶玉の中にいるときに、水晶玉が動き出してね。なんとか止めてたんだけど、どっかに行っちまったよ」
「…そう」
水晶玉が見せた幻。
決して平凡なものではなかったけれど、幸福か、不幸か、それは貴方のとらえ方次第――
■その後■
「うわっ。なんだ、この玉? えっ、ええ! す、吸い込まれっ!!」
「ご主人様ぁ!」
――来たわね。はじめまして。うふふ――
東京のどこか、この玉は存在し続ける。
(終)
■□登場人物〜この物語に登場した人物の一覧〜□■
1166/ササキビ・クミノ/女性/13殺し屋じゃない、殺し屋では断じてない。
■□ライター通信□■
こんばんは、ライターの田村鈴楼です。
クミノさんの個性と、プレイングを生かそうと私なりに書いてみたのですが、どうでしたでしょうか?
少しでも、よかった、と感じていただけたら幸いです。
ご参加ありがとう御座いました!
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